ボス戦
渋谷ダンジョン第30階層
「着きましたね、ボス部屋」
「えぇ。結構、時間がかかったね。4日も経ってるし」
オチタキシとの激戦から4日。
特殊個体のモンスターすら倒せたんだから、行けるだろうとダンジョン攻略を進めることにした。
そして、4日掛けて第30階層まで進み、ようやくボス部屋の前に辿り着いた。
「さてと…じゃあ、一応最終確認をしておこうか?」
「分かりました。はい、どうぞ」
別に、する必要はないけれど、念の為お互いのステータスを見せ合う。
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名前 神林紫
レベル36
スキル
《鋼の体》
《鋼の心》
《不眠耐性Lv3》
《格闘術Lv2》
《魔闘法Lv1》
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名前 御島一葉
レベル36
スキル
《魔導士Lv2》
《鑑定》
《抜刀術Lv3》
《一撃離脱》
《魔闘法Lv1》
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ここに来るまでの戦闘で、レベルは2人共36になり、私は《魔闘法》を手に入れた。
「…もう4日経ってるのに、まだ複雑な気分になりますね」
「ギューしてほしい?」
「…ほしい」
私のステータスを見たかずちゃんが、複雑な表情をした。
腕を広げると、かずちゃんは飛びつくように私のことを抱きしめてくる。
そんなかずちゃんを、私も抱きしめてあげて、頭を撫でてあげる。
かずちゃんがこんな状態なのは、《魔闘法》のせい。
私が、かずちゃんがオチタキシを倒したその日中に、《魔闘法》のスキルを苦も無く手に入れてしまったせいで、拗ねてしまった。
機嫌を直してもらうのに苦労したし、今でもこうやって甘やかしてあげないと、すぐに拗ねちゃう。
手のかかる子で可愛いけど、ボス戦を前に拗ねられると困る。
「…落ち着いた?」
「はい。相変わらずタバコ臭いです」
「その一言は余計だね」
「あぅ〜…」
余計なことを言ったお仕置きに、髪の毛をワシャワシャとかき回す。
しばらく髪の毛をシェイクした後、私は軽く体を伸ばして準備運動をする。
私にクシャクシャにされた髪の毛を直したかずちゃんも、私の真似をして準備運動をし始めた。
「よし、行くよ?」
「は〜い」
準備運動を終えると、私はかずちゃんの方を振り返り、確認を取ってからボス部屋の扉を開けた。
ちなみに、ボス部屋の扉って言うのは、街の中心にある、大きな屋敷の一番奥の部屋の扉のこと。
その扉を開けると…部屋の中心に一体のアンデッドが居た。
すぐにかずちゃんが《鑑定》を使い、アンデッドのステータスを共有する。
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種族 ノーブルスケルトン(男爵級)
レベル40
スキル
《剣術Lv2》
《威圧Lv1》
《瘴気纏Lv1》
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「弱いわね」
オチタキシを見た後だと、すごく見劣りする。
《剣術》のレベルは2だし、他の2つはレベル1。
そもそものレベルが40と、オチタキシよりも格下だ。
「まあ、貴族ですから。貴族や王自体が強いのは、物語の中だけですよ」
「それもそうか。…まあ、コイツも一応十分に強いけど」
レベル40のモンスターは、今までにオチタキシ以外に見たことがない。
それだけで、このノーブルスケルトンがいかに強いか分かる。
…まあ、それでもオチタキシと比べれば、見劣りするけどね?
「私一人でやってもいいですよ?多分勝てます」
「かずちゃん?そういうのを、『フラグ』って言うんだよ?」
実際、かずちゃん一人で勝てそうなものだけど、慢心はよろしく無い。
だけど、かずちゃんは余裕そうな表情を見せ、話しながら前に出た。
「ふ〜ん?神林さんは、私が負けると思ってるのんですね?」
「可能性はあるでしょ?」
「屁理屈を言えば、どんなに戦力差があっても、理論上は誰だって勝つ可能性を持っていますよ?」
「そういう話はして無くて…」
かずちゃんは、たまに馬鹿になる。
…いや、子供っぽくなるって言ったほうがいいかな?
別に、今はそういう話をしてないのに、別の話題を持ってきて得意げに自慢するとか。
今だって、私に良い所を見せたくて、屁理屈こねてまで一人で戦おうとする。
自意識過剰というか…ギフターであることに、自信を持ってるというか…
「…まあ、どうしてもやりたいなら良いけど」
「本当に!?」
私の方へ振り返り、無邪気な笑みを浮かべて喜ぶかずちゃん。
こういう時は、好きにさせてあげた方がいい。
かずちゃんは、頭はいいけどまだまだ子供だから、元気いっぱい。
時には、周りの事なんて考えず、突っ走らせてあげてもいいじゃない。
「行ってらっしゃい。私はここで見てるわ」
「ふふっ。すぐに終わらせるので、よーく見ておいてくださいね?」
一歩下がってかずちゃんに譲ると、嬉しそうに跳ねながらノーブルスケルトンの前に走っていった。
その様子を、後ろで腕組みをしながら見守る。
(本当なら、打撃による攻撃を基本とする私のほうが、スケルトン系モンスターとは相性が良いんだけど……あれだね。自分より年上の人に、新しく出来るようになったことを見せて、『凄いね〜』って言われたい子供。ふふっ、可愛い)
かずちゃんは、知識と学力は年齢相応だけど、精神年齢に関しては肉体に引きずられてる。
ちんちくりんで、つるぺったんなお子様ボディ。
そんなお子様ボディに精神年齢が引きずられ、まだまだかずちゃんは子供だ。
そのくせ、必死に背伸びして、私と対等であろうとするその姿。
いつ見ても可愛いなぁ〜。
歳の離れた妹を持つって、感じの感覚なのかな?
「せいっ!!」
可愛らしいかずちゃんの後ろ姿を眺め、うっとりしていると、気迫のこもった声が聞こえてくる。
かずちゃん、とノーブルスケルトンの戦いが始まった。
いつでも間に入れるように、一応警戒しながら、体格差がある中優位に立ち回るかずちゃんを見守った。
◇◇◇
後ろに見守ってくれる人がいる。
その安心感は、もうすぐ17歳になる程度の私には、とても心強いものだ。
「あははっ!どうしたの骨太郎?こんなクソガキに押されちゃってさぁ!!」
「カクククッ……!」
4レベルの差はあれど、その程度なら《魔闘法》でどうにでもなる。
それに、《魔闘法》が無くても剣術だけでその程度どうにでも出来る。
私が負けることは、万に1つと無い。
(…骨だけのくせに、《魔闘法》を使ってる私よりも力が強いのは癪だけど…総合的に見れば、私のほうが強い)
私の全方位からの攻撃に、ノーブルスケルトンは対応できず、少しずつだけどその骨が削られていく。
もう少しで右腕を切り落とせる。
コイツは右手で剣を持ち、左手で盾を持っている。
右手を切り落とせば武器を失い、盾で守ることしか出来なくなる。
ノーブルスケルトンを凌駕する速度で、何度も攻撃を行い、少しずつ確実にその体を削っていく。
「右腕、貰ったッ!!」
「カカッ!?」
いい感じに骨が削れ、更にはヒビまで入った右腕に刀を振り下ろし、私はノーブルスケルトンの右腕を破壊する。
ものの10数秒で、右腕を破壊されたノーブルスケルトンは、なんとか打開しようと私から距離を取る。
しかし、私はそれを見てニヤリと笑った。
「残念、逃げても無駄でした」
魔力を、スキルの指示する通りに動かし、肉が一瞬で焼けるような高温の炎を、ノーブルスケルトンに浴びせる。
元々骨だから、これ以上何を燃やすんだって話だけど…どういう訳か、スケルトン系のモンスターには、炎魔法が有効だ。
アンデッドだからかな?
炎から逃れようとするノーブルスケルトンを追いかけ、執拗に炙り続ける。
不愉快な臭いが広まり始めた頃、ノーブルスケルトンは逃げることを諦め、こちらに突っ込んできた。
それが、私の狙いだとも知らずに。
「それだけ炙られたら…これで砕けるくらい、脆くなってるんじゃないのッ!!」
走り、迫ってくるノーブルスケルトンの左腕に刀を振り下ろす。
すると、私の読み通り腕は簡単に砕け、ノーブルスケルトンは両腕を失った。
左手があったらな、盾を捨てて剣を拾うことも出来た。
左手があったなら、盾を構え、突進することも出来た。
両腕を失った今、残された攻撃手段は、蹴りか体当たり。
もしくは頭突きだけ。
私の勝ちは確定した。
「もうちょっと強くなって、出直すことだね」
腕と同様に、脆くなった頭蓋骨に刀を振り下ろせば、その一撃でノーブルスケルトンは崩れ落ちた。
そして、他のモンスターと同じように煙へと変わる。
…ただ、少し違うところがあるとすれば、煙がなかなか消えないところ。
不審に思い、手を伸ばすと、煙はその部分から消えていき、そこには少し大きめの宝箱と魔石があった。
「ドロップ宝箱!!」
コイツは、第30階層のボスモンスター。
間違いない、これはドロップ宝箱だ!
「なにそれ?ドロップ宝箱ってなんなの?」
何も知らない神林さんが、私の横まで歩いてきて、そう問いかけてきた。
「ボスモンスターが、稀に落とす宝箱です!大抵はいいモノが入っていて、これを狙ってボスモンスターを周回する迷惑な人が居るくらいです」
「へぇ〜?」
大きさ的に、雑貨宝箱だ。
ドロップ宝箱で雑貨宝箱となると…ポーションの可能性が高い。
中級ポーションが入っている可能性も……
「ささっ!開けましょうよ、神林さん!」
「分かった分かった。かずちゃんが開けていいよ」
「ホントですか!?わ〜い!!」
神林さんの許可をもらった私は、雑貨宝箱に飛びつき、その蓋を開ける。
すると、中には予想通りポーションが入っていた。
……ただ、どこか様子がおかしい。
とても、ポーションとは思えないほど瓶が豪華で、全体的にオレンジ色だ。
「変わったポーションね?こんなの見たこと無い」
「中級も上級も…こんな見た目はしてませんよ。これってまさか…」
見た目は、私達のよく知る下級ポーションとは全く違う。
そして、ネットで見つけた中級、上級ポーションの見た目とも違う。
となると……残るは最上級ポーションのみ。
そして、この特徴的なオレンジ色に、瓶の蓋にある鳥のマーク。
まさかこれは……
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名前 《フェニクス》
等級 最上級
種類 ポーション
効果 《超回復》
《不老化》
《再生力強化》
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信じられない物を、見つけてしまった……




