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後日談 私の知らない15年 その3

東京のある建物。

復興によって近未来的な都市へと様変わりした東京の中心から外れた場所にある旧来の建物に、変装をしてかずちゃんの力を受けた状態で訪れた。

身バレ対策はしっかりしないといけない場所らしく、なんでこんな所なんだろうと思いつつもその建物のある部屋の扉を開ける。

そして中に入ると…中では気配を消した女性が二人待っていた。


「こんにちは。お久しぶりですね」

「久しぶりだね。生き返ってからは初めてかな?」

「そうですね。あなたとはそう会う機会がありませんでしたから、『菊』さん」


その片割れは、『花冠』大幹部の一人である『菊』。

二つのスキルの併用によってこちらの認識を歪ませ、女性に見せかけている男性。

けれど心は女性であり、いわゆるトランスジェンダーというやつだ。


「『向日葵』ちゃんは少し前に会ったよね。もうお酒で失敗してない?」

「うぅ…いじらないでくださいよ…」


もう片方は出世して大幹部となり、今は『向日葵』を名乗っている町田愛ちゃん。

一応、この世に居なかった期間を年齢にカウントしないなら彼女は私よりも年上だけど…そういう考え方はしていないらしい。

だから、以前のような接し方でいいと思う。


それはともかく、私はこの2人に突然呼び出されて一人でここに来たわけだけど…おおよその要件は何となく知っている。

かずちゃんが何を言われるか予想して、教えてくれたからね。


「多分、『黒百合』から話は聞いてると思うけど…その通りの内容なの」

「資金援助をお願いしたいんです。旧知の仲ということで、お願いできませんか?『白百合』さん」

「まあ…そんな事だろうとは思ってたわ。かずちゃんから聞いてたし」


この2人が私を呼びだした理由。

それは、『花冠』が海外で活動する上での資金調達。

かずちゃんからこれでもかというほどお金を巻き上げて、まだ足りないと申す『向日葵』。

一体何にいくら使っているのやら…


「…出資してもいいけど、何に使っているのか教えてくれる?」

「ええ、もちろんです。まずは賄賂ですね」

「うん、聞いた私が馬鹿だった。所詮犯罪組織だもんね、『花冠』って」


まず最初に上がるのが賄賂って時点でもう駄目。

やっぱり『花冠』はそういう組織だったよ…


「そんなこと言いますけど、他国での証拠隠滅の処理とかめっちゃ大変なんですよ?手が足りなくて、いわゆる闇バイト的な方法で外注することもありますし、費用が馬鹿にならないんです」

「うん、ダメ。もう駄目だわ」


闇バイトて…私が死んでる間に問題になったやつじゃん。

私知ってるよ。

そういうことしてた連中は大抵『花冠』が潰したって聞いたけど…その『花冠』がよその国で似たようなことしてたのか。

う~ん、この…


「部下への給料の支払いもありますし、拠点を作るにも設備投資に結構お金が必要なんです」

「まあ、それはまともかも…」

「あとはまあ、電波ジャックとかハッキングとか爆破テロとか、教育や設備や物品の用意が必要なので」

「う~ん…どう足掻いても犯罪利用されるしかないの…?」

「まあ、暗殺組織ですから」


元々暗殺組織だから、人殺しのためにお金が使われるは仕方ないとはいえ…いざこうして聞くと、何と言うか…


「分かっていただけましたか?」

「分かりたくないけど、わかったわ。元から支援はするつもりだったし、こっちで用意できるだけの用意する」

「具体的にいくらですか…?」

「そうね…どうせかずちゃんの稼ぎで私は一切お金に困ってないし、全額あげてもいいかな」

「…マジですか?」

「マジか…『白百合』さん、太っ腹~!」


どうせ私はお金に困ってない。

そして、これから先自分のお金を使い切るビジョンが見えない。

だったら、使わない私が持っておくより、誰かに使ってもらった方がいいだろう。

どうせ数十億くらい、かずちゃんが本気を出せば半年もあればその倍くらい稼げるし。


私はすっと立ち上がり、帰りながら話す。


「んじゃ、私は口座を動かすのが面倒だからそっちで何とかしておいて。そのくらいできるでしょ」

「ホントに全額使わせてもらっていいんですか?」

「いいよ。どうせ私使わないし」


女に二言はない。

あげると言ったらあげるんだ。

そんな態度を貫き通し、この頭が痛くなりそうな話から逃れるために、そそくさと建物を出た。







少し歩くとかずちゃんが待っていて、かずちゃんと合流した後は転移で家に帰る。

家に帰っていた私は、今日あったこと、話したことをかずちゃんに伝えたんだけど…


「マジですか…?それ本気で言ってます?」

「え?ダメだった?」

「いや、ダメって言うか……もしかして、今の神林さんの総資産をご存じでない?」

「……え?もしかして減ってる?」

「いや、増えてます」


え?増えてるの?

私別に資産運用した覚えはないんだけど…


「えっとですね…私が神林さん用にお金を少しずつ貯蓄していってたので、すごい額になってますよ。多分」

「そうなの?」

「15年間溜まっていく一方だったので、普通に100億超えてると思いますけど…」

「…ん?」


100億?

私の貯蓄が…?

い、いやまさかそんな…


「これですね。神林さんの口座」

「……えっと、695億円?これは…695万円の見間違いかな?」

「間違ってないですね。まあ、『フェニクス』とかの最上級ポーションを売った時のお金なんかも入れてるので」


…これが全部『花冠』の運営に流れるの?

え、普通に国滅びない?

てかこれだけの額の預金、使い切れるの?


「もって2年ですかねぇ…今年中に使い切りそうな可能性がありますけど」

「今年中に使い切るって…この額を?」

「『花冠』は超が付く金食い虫ですよ?この15年間でいくら喰われてきたと思ってるんですか?」

「…この口座がある銀行破産しない?」

「まあ、大丈夫だと思いますよ。多少赤字は出るかもしれませんが」

「銀行ってすごいね…」


なんか…すごいことになってるけど、意外と何とかなりそうってことは分かった。

――ってか、約700億の預金があったことが普通に驚きなんだけど…

どうやったら使いきれるわけ…?

会社を丸ごと変えそう。


「…700億って、さ。どのくらいなの?」

「う~ん…経営不振の中小企業を買い取れるくらいですかね?」

「凄いね、それ…」

「いやいや、700億程度なら大したことないですよ。世界経済に影響を与えようと思うと、その数十倍は必要ですよ」

「…世界経済ってすごいね」


これで世界経済には影響がないレベルなのか…逆にどのくらいあったら世界経済に影響を与えられるの?


「逆にさ、私たちって世界経済に影響を与えることはないの?」

「う~ん…日夜影響を与えているので、そういうわけではありませんけど…私たちのお金の移動で世界経済を動かそうと思うと、700億じゃ足りません。世界一の資産家は、今や総資産が100兆円越えなんですよ?」

「100兆、えん…?」


えっと、桁が違いすぎるんだけど?


「その規模にならないと、個人で経済を動かすなんて無理です。せめて1兆はないと…」

「……かずちゃんは1兆円稼げる?」

「楽勝で稼げますよ?『強欲』を使って世界中から金運を吸い上げれば、10兆でも100兆でも稼げます」

「…もしかしなくても『強欲』ってやばい?」


100兆円の資産家もヤバいけど、『強欲』のほうがその百倍はやばかった。

なに?世界中から金運を吸い上げるって。

そういう能力あるの?


「まあ、世界を容易く滅ぼせる力ですから。一応言っておくと、蝶の神の邪魔が入らない想定なら、私は4時間でこの星を滅ぼせます」

「4時間で滅ぼすって…そんな大げさな…」

「大げさでもないですよ。大体この星の全エネルギーを吸い上げるのに3時間半かかって、そのエネルギーを攻撃に変えて星をぶっ壊すのに30分かかります。ね?簡単でしょ?」

「簡単とは…」


…うん、やっぱ神格は規模が違うや。

蝶の神といい、かずちゃんといい…深く考えない方がいいね。

私のレベル300のカミとか…その二人から見ればその辺のアリと変わらないだろうし。


…うん、このままじゃダメだね。


「…かずちゃん。ダンジョン行かない?私今より強くなりたい」

「いいですよ。行きましょう」


かずちゃんに守られてるだけじゃダメだ。

蝶の神が居て、かずちゃんがいるのに他に神が居ないなんてことはないだろう。

もし私の知らない神がこの世界に来てかずちゃんを殺そうとしたら…私は何の役にも立てない。

かずちゃんを守れるように、強くならないと。

そのためにも…雀の涙のような成長だったとしても強くなるんだ。

塵も積もればなんとやら。

いつかかずちゃんを守れるようになるその日まで…!!


その意気でダンジョンに潜り、カミとしての力を遺憾なく発揮してモンスターを蹂躙して回った。

それでもレベルは3しか上がらなかったけど…いつかはかずちゃんくらい強くなってやる!

絶対、絶対にね!!






ちなみにその日のダンジョン攻略だけでかずちゃんは88本の最上級ポーションを見つけた。

世界中の人から一人ずつからほんのごくわずかに幸運を奪った結果らしいけど…『強欲』という能力がいかにやばいかを知るには十分すぎた。


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