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誤算と危機

―――咲島恭子視点―――


「……タイムアップ、か」


私はダンジョンがある方向に顔を向け、そうつぶやく。


ダンジョンから多数のモンスターの気配が溢れ出してきた。


アレは、第三波だ。


早川照がずっと身を潜め、待っていたスタンピードの終幕。


正直、私がここに来ていなければ対応できなかっただろう。


「最低でもレベル90。レベル100のモンスターが、数百の群れを成して襲い掛かってくるなんて、ダンジョンが出現して以来初めての大災害ね」


纏う魔力の量を最大まで増やし、第三波が出て来ているダンジョンの入口へ向かう。


それに合わせるように、私に匹敵する実力を持つ2つの気配が、同じ方向へ動き出した。


「あの子達も動いたわね。少なくとも、スタンピードの殲滅は出来そう」


音を置き去りにした走りでダンジョンの入口までやって来ると、魔力の出力を最大まで引き上げる。


そして、アイテムボックスから《ゼロノツルギ》を抜き、迫りくるモンスターの群れへ向かって振るう。


すると、私の足元から大量の氷が生まれ、あっという間にモンスターを飲み込んでいく。


もちろん、飲み込まれるのはモンスターだけじゃない。


氷が広がっていく範囲内の全て物は、大質量の氷に飲み込まれ、押し潰されるのだ。


瓦礫や車はもちろん、もし家があれば、家が丸々飲み込まれただろう。


私が持つ広範囲殲滅攻撃の1つで、周囲への影響が大きいことから、町中ではあまり使わないようにしていた。


しかし、今は使える。


「ここには誰もいないし、壊れかけのゲートウェイしか残ってない。被害を気にせず攻撃出来る」


壊れた建物は、モンスターが壊したって事にしておけばいい。


別に誰も見てないし、見られていたとしても私の行為を批難する人はいないだろう。


「『青薔薇』御身の前に」

「『牡丹』御身の前に……ふっ」

「なんだ?モンスターの前に切られたいか?」


……またこいつ等は喧嘩してるのか。


少し遅れてきた『青薔薇』と『牡丹』がまた喧嘩を始めた。


モンスターの目の前だったのに……危機感のない子達ね、ホント。


「『椿』がいればどれだけ楽だったか……さて、殲滅を始めるわよ。武器を構えなさい」


いつも二人の仲裁をしていた、今は亡き『椿』の事を想うが、すぐに気持ちを切り替える。


二人に武器を構えるよう指示すると、すぐに大量の氷が砕かれ、モンスターが溢れ出してきた。


「行くぞ。ヤツの計画を潰す!」

「「はっ!!」」


迫りくるモンスターの群れを、人類最高峰の力を持って迎え討つ。


私達の勝ちは、戦う前から決まっているのだ。





            ☆ ★ ☆




――早川照視点――


「釣れたな」

「釣れましたな」


監視カメラの映像を眺めながら、そう呟く。


咲島恭子という最大の敵は、スタンピード第三波の対応へ向かった。


それが、僕の仕掛けた罠だと知らずに。


「目の前に落とされた餌に、針がついているとも知らずに喰い付くのは、魚も人も同じらしい。僕達も行こうか」

「かしこまりました」

「予定通り、君達は有象無象の『花冠』の対応を頼む。咲島恭子、『青薔薇』、『牡丹』は僕でも手に余る。君達が戦える相手じゃないよ」


アレは僕の獲物だ。


というか、油断すると僕が獲物になりかねない。


そんな咲島恭子を始めとする、『花冠』を終わらせる。


僕には秘策もあるんだ。


今のところ、一つを除いて計画は予定通り進んでいる。


「あの二人の様子がおかしい事を除けば、僕の計画通り。モンスターでも送って足止めをすればいいだろうね」


ある意味運命的な出会いをしたあの二人。


異次元の成長速度であっという間に僕達の領域に片足を突っ込んだあの子達は、多少の不安材料ではあるが……『花冠』を潰す事に変わりはない。


足止めが出来ればそれでいいんだ。


「君にはあの二人の監視を任せようかな?何かあったら怖い、し………うん?」


一番戦闘能力の低い駒に監視を任せようとモニターを見て、思わず首を傾げてしまった。


「……なんだ、この戦闘力は?」


モニターには、たった一人で100をゆうに超えるモンスターを殲滅していく、御島一葉の姿が映し出されている。


他の3人がなにかしているのかとカメラを動かしてみるが、何もしていない。


むしろ、『花冠』の二人に関しては遊んでいるまである。



「あんなの…レベル100超えの領域だぞ?あの子のレベルはまだ90にも達していないはず。…僕の情報が古いのか?」


あの二人の成長速度は異次元だ。


知らないうちに、たった1日でレベルが100になっていてもおかしくない。


となると、神林紫もレベル100くらいまで成長していると想定したほうがいいか?


「神林紫。彼女の防御スキルは、僕が知る限り最強だ。耐性スキルはあくまで“耐性”でしか無いのに対し、彼女の防御スキルは本当に体を守ってくれる防御。同格にまで並ばれると、その守りを突破できるかどうか……」


レベル差が数十もある状態で、僕の魔法を防げていた。


そんな彼女が同格にまで上り詰めてきていると考えると……ある意味、咲島恭子や『青薔薇』よりも厄介だ。


油断さえしなければどうとでもなるとはいえ、こちらは決定打に欠ける。


どうしたものか……


「若様。そろそろお時間が―――」

「わかっているさ。だが、これは完全に計算外。―――いや、誤算と言うべきかな?」

「レベル100であれば、対応できる戦力は他にもおります。その者に任せれば良いかと…」


元山の一族を使う、か…


一族最強の男が僕を裏切っている以上、あまり信頼できないが……使わない手はないだろう。


彼らも、挽回のチャンスを探っているはずだからな。


……だが、あの二人に勝てるかどうか。


「人員の手配はしておけ。あの一族に挽回のチャンスを与えるんだ」

「かしこまりました」

「少しお喋りをし過ぎたね。ちょっと急ぐよ」

「ご健闘をお祈りします、若様」


人員の手配は部下に任せ、僕は咲島恭子のところへ向かう。


……元山の一族にあの二人を止められるかは不安でしか無いが、任せる他無い。


胸にモヤモヤを残したまま、僕は僕の戦場へ向かうのだった。





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