87.足を引っ張っていた無能な仲間に別れを告げたパーティリーダーは足枷がなくなり成り上がり街道を駆け上がる~今更自分の無能さに気付いたようだがもう遅い。土下座してきても知りません~(11)
「はぁーあ……。なんでオレ様がこんなことしなきゃならねーんだよ……」
薄暗いダンジョンの中を歩きながら、ボルマンが不満げに言った。
「仕方ないじゃないですか……。僕達もう一年近くもダンジョンに行ってないんですよ? 今のままだと次のランク試験で大幅ダウンは避けられない状況なんですから……」
ボルマンの後ろを歩きながら、何だか前にもこんなことがあったような気がするなと思いつつもティーリが呆れた声で説明する。
アンサスランではいかに高ランクの冒険者と言えども、ダンジョン探索の実績がまるでなければ最低ランクのFまで落とされてしまう。
一応アライアンスの経営者であったり事務方であったり大きな故障をしていてダンジョン探索ができなかった、と言ったような事情も考慮はされるのだが、それにしても限度がありボルマン達はその瀬戸際の真っただ中にあった。
「いいですか、Fですよ!? F! ランクフリーとか不真面目冒険者とかふにゃふにゃ野郎とか揶揄されるFランクまで落ちてしまったら、どう考えてもやっていけないじゃないですか!! アライアンスのみんなにも示しがつきませんよ!?」
「わ……わーったよ……。たく……大手アライアンスの団長でSランク冒険者のオレ様がなんでこんなこと……」
ティーリの迫力に圧されつつも、ボルマンが何やら毒づきながら渋々一行の前衛職である防衛士カリエルと白兵士ホリドノンに続いて歩く。
ティーリ自身もボルマンのSランクネタにはもうつっこむ気にもなれなかった。
「それと、ついでに言っておきますが、このダンジョンはゴブリンとかそういう弱い魔物しか出ないところなので未踏破の層まで行ってお宝を取ってこないとダメです。野営地に戻りながら数日がかりでもいいのでどんどん進んでいきますよ!」
「わかりましたよ、やりゃあいいんでしょ全く……」
いつになくやる気に満ち溢れているティーリに辟易しながら、ボルマン以下ホリドノン、カリエルの四人はゴブリンやダンジョンラットといった低級の魔物を倒しながら、ダンジョンの奥へと進んでいった。
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「お、この宝石、綺麗じゃん。かなりレアなお宝なんじゃねえの? もうこれ持って帰って終わりにしねぇ?」
「何言ってるんですか……。そんなどこにでもあるような石コロ、お宝なわけないでしょ……。ホリさんからも言ってやってくださいよ、そんな石コロ、全然価値がないって」
「まあ、そんな気もするッスね」
「はぁ? いや、絶対高価なお宝だって。ホリ、お前だってそう思うだろ?」
「そうッスかね。そう言うなら、そうなんじゃないッスかね」
特にお宝ですらないダンジョン内に転がっていた形のいい石に対して議論を交わしながら、ボルマンパーティは更に奥へと進んでいく。
(まずいなあ……。随分と勘が鈍ってしまってるみたいだ……)
ダンジョンを進みながら、ティーリは危機感を覚えていた。
先程から数体ほどゴブリンを倒してきたのだが、ボルマンパーティの四人はしばらくダンジョン探索に出ていなかったため、格段に戦闘能力が落ちていた。
特にホリドノンとボルマンの緩みっぷりは凄まじく、Bランク冒険者にとっては相当な格下の魔物であるはずのゴブリンですら難儀する有様である。
ロノムやエクスエルが在籍していた頃に比べると考えられないほどの凋落具合であった。
「お、何これ。今度こそすっげぇお宝じゃねえ? な、そう思うだろ? ホリ」
「まあ、そんな気はしないでもないッスね」
「いやいやいや待って下さいよ、そんなの誰も欲しがらないでしょ!? 価値があるわけ……いや……どうだろうなぁ……」
加えて戦利品に対するセンサーが驚くほど低くなっている。
アンサスランの商人から喜ばれるような流行からは完全に乗り遅れてしまっているのはもちろんのこと、何に価値があって何を拾って帰ればいいのかティーリにもさっぱり見当がついていない。
ティーリですらこの体たらくであるのだから、ボルマン、ホリドノンは言うまでもなかった。
「はー、それにしても出てくるのはゴブリン、ゴブリン、ゴブリンばっか! 全く刺激が足りなさ過ぎて嫌になってくるわ。なあティーリ、近くにオレ様のお眼鏡に適う魔物はいねーわけ? こんなんじゃ腕が鈍っちまうよ」
「もう充分過ぎるほどに鈍ってるじゃないですか……。ゴブリンを倒すのに相当苦労してますよ……? それに、このダンジョンはゴブリンくらいしか出ませんよ。よくて統率者能力を持ったホブゴブリンが出てくるくらいです。大体、安全なのが一番ですよ」
ボルマンにそう返しながら、ティーリは念のため生物知覚の魔法を展開する。
「!?」
ロノムのそれほど広くはなく展開時間も短い知覚魔法であるが、それでもティーリの魔法は確実に強大な何かを捉えた。
「あの……隣の部屋にゴブリンではない何か大物がいるみたいです。ちょっとなにがいるのかは分かりませんが、確実にヤバいやつだと思います……」
声を震わせながらティーリがボルマン達に対して言う。
「ああ? ヤバいやつぅ?」
一方のボルマンは一瞬怪訝そうな顔をしながらも、隣の部屋へと歩いていった。
「ややややめましょうよ! 絶対ヤバいですってここで引き返した方がいいですって!!」
「大丈夫だって。オレ様Sランク射撃士のボルマン様よ? 大体ゴブリンばっかで飽き飽きしてたところなんだよ。ボスとかだったら倒せば実績になるんだから、お前も願ったり叶ったりだろ? 行こうぜ、ホリ」
「うッス、了解ッス」
そう言いながらボルマンとホリドノンはティーリの制止も聞かずにズカズカと隣の部屋に入っていった。
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「あ、やべーわ……。これ、無理だわ……」
部屋に入ったボルマンが開口一番そう言った。
部屋の入口で立ちすくむボルマンの視線の先には、巨人の魔物であるヘカトンケイルが冒険者四人のことをじっと見降ろしている。
「だだだ……だから言ったじゃないですか……ヤバいって……ヤバすぎるって……!!」
ヘカトンケイルの存在にティーリは腰を抜かして崩れ落ちカリエルも恐ろしさのあまりに体が震えている。
ボルマンも流石にヤバさを感じ取ってはいるが、ホリドノンについてはどういった感情でいるのか分からない。
「て……撤収! 撤収ゥー!」
ボルマンの掛け声とともに、ティーリ、カリエル、ホリドノン、そしてヘカトンケイルが動き出す。
ボルマン達四人は大部屋を後にし全速力でダンジョンの通路を駆けているが、ヘカトンケイルは壁を破壊しながら自身の体よりも狭い通路を恐るべきスピードで追いかけてきている。
「うっそだろオイィ!? あいつ、まだ追いかけてきてんぞ!?」
「知ってますかボルマン隊長ヘカトンケイルはダンジョンの壁とか関係なく冒険者を追い回して最後には捕食されるらしいですよどうしてこうなったんですか何が悪いんですか僕またなんかやっちゃいましたかもおおおおボルマン隊長Sランク冒険者でしょなんとかして下さいよおおおお」
「いや、Sランク冒険者のオレ様っつったって、限度があるだろ!? おい、ホリ! あいつ止めらんねえか!? 何とかならねえ!?」
「いや、無理ッスね」
ヘカトンケイルに追いかけられながら辛くもダンジョンを脱出した四人は、這う這うの体でアンサスランへと逃げ帰ることとなった。
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後日、ボルマン達が探索したダンジョンは冒険者ギルドから派遣された職員によって封印され、二十四時間体制で監視されることとなる。
アンサスランの冒険者ギルドとしても、十年に一匹見つかるかどうかというヘカトンケイルの存在は想定外であった。
ヘカトンケイルは危険である。
過去の話ではあるが、ダンジョンの壁を壊し外に出てきたという記録もアンサスランの冒険者ギルドに残っていた。
早急に倒さなければ、恐らく周辺の村々やアンサスランにまで危害が及ぶであろう。
しかしアンサスランとしても被害が大きくなる前に何とか対処したいが、対ヘカトンケイルの肝であるSランク防衛士と治癒術師の二人が現在出払ってしまっているため、有効な手立てを打てない。
冒険者ギルドは早馬を出して、アイリスとメルティラ両名に対し一刻も早くアンサスランに戻ってくるように伝える手紙を送ることとなった。





