表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/93

83.この手の作戦行動は成功するビジョンが浮かばん

「いやー、一度登った道とはいえ、やはり山登りは結構大変ですなぁ」


 小さい手足を岩場にかけながら、アイリスは誰にともなくぼやいた。



「私も……山登りは……苦手……。できれば……平地の探索が……いいけど……仕方ない……か……」


 アイリスの隣を行くネシュレムも岩だらけの山道に難儀しながら歩を進めている。



 ロノム達一行は小規模の集団で山岳地帯を登っていた。


 メンバーはロノム達アンサスランの冒険者六人に加えてクリストファー伯の兵士十数人と民間人が二人。


 民間人二人は元冒険者であり、理由があって今回の行軍に同行している。



「伯爵率いる本隊は、そろそろメインの山岳道を登り始めた頃だろうか」


「はい。時間的には既に山岳民族の居住地へと侵攻を始めている頃ではないかと思います」


 ロノムの問いにクリストファー伯の兵団を率いる兵長が答えた。



 ロノム達が所属する小規模部隊とは別にクリストファー伯が率いる主戦力部隊が山岳街道を進んでおり、相手の主力とぶつかる、あるいは睨み合う予定である。


 エクスエルの話では近々大規模な侵攻があるとのことなので迎え撃つ方向でも考えたが、相手の土俵に立つというデメリットよりもセリンヴェイル周辺を戦場にするデメリットの方が大きいと判断して、クリストファー伯は打って出るという判断を下した。



「確認ですがロノム様、クリストファー伯が相手の主力を抑えている間に、私達は魔物を操る男『マクスウェル』を捕縛するということで宜しいのですよね」


 メルティラが小声でロノムに聞く。



「ああ。クリストファー伯の話によれば、こうして山岳道を進んでいれば俺達の目の前に必ずその男は現れるそうだ。俺達はそれを信じてここを登っている」


 クリストファー伯が言うには、自身が率いる大規模部隊は陽動であり作戦遂行の根幹はロノム達小規模部隊であるとのことである。


 陽動作戦を展開しているうちに小規模部隊でひっそりと裏山を登り、マクスウェルを何とかするという作戦であった。



「要するに、魔物を操る男の捕縛あるいは暗殺計画だろう。やること自体は単純極まりないな」


「そうそううまくいくかな?」


「知らんな、どうせ無駄に登山をして終わりだろう。伯爵は随分と自信があるようだが、この手の作戦行動は成功するビジョンが浮かばん」



 エクスエルが前後を歩くクリストファー伯麾下の兵士達には聞こえないようにロノムに対して言う。


 クリストファー伯はエクスエルの話を聞くまでは魔物を操る者の存在について把握していなかったのにも関わらず、このような作戦を遂行することは無謀なように見えた。



「それにしても変ですよね。『隠密行動をせよ』という割には堂々と山岳地帯を登っていますし、元冒険者とはいえ民間人を二人連れていますし……」


 ルシアがちらりと後ろを見ながらロノムとエクスエルに言う。


 元冒険者の男二人は一応の武器を背負いながら、兵士数名に守られるようにロノム達の後ろをついてきていた。



「それも分からんな、特に道案内というわけでもなさそうだが……。それはそれとしてロノム、先程から妙な視線を感じるがお前の感知魔法に何か引っかかっているか?」


「正解。山岳民族の斥候と思われる連中に監視されてるよ。ただ、今のところどちらも手出しできるような距離じゃないし、相手の数も少なく襲ってくる気配もないみたいだ。何かを待っているような感じだな」


 ルシアを間に挟みながら、ロノムがエクスエルに対して小声で続ける。



「仮にその、魔物を操る男……マクスウェルって奴の持っている道具が本当にダンジョンコアなら、強力な魔力反応があるはずなので近くに来ているならすぐ分かると思う。もちろん広さに限界があるから、セリンヴェイルから山岳民族の拠点含めた全域とかは無理だけどさ」


「了解した。索敵はお前に任せる」


 そう言うとエクスエルは再び無言で歩き出した。



 ……どれくらい山道を登った頃であろうか。


 ロノムの感知魔法に他に類を見ない程の力が引っかかる。



「みんな、巨大な魔力反応が索敵範囲に入った。同時に、魔物と思われる集団も近付いてきている。警戒態勢を」


 その言葉にアンサスランの冒険者五人を含め、クリストファー伯の兵士達にも緊張が走る。



「ロノム、魔物を操る男マクスウェルで間違いないか?」


「ああ。若干の差異はあれど、ダンジョンコアを感知した時の反応とほとんど同じだ。ダンジョンコアが外を自由に動き回るはずがないので、魔物を操る男で間違いないだろう」


「まさか……本当に現れるとはな……!」



 エクスエルがクリストファー伯に対して多少の畏怖を覚えながら、銀製の錫杖を構える。


 そして場にいる面々全員が周囲を警戒していると、兵士の一人が黒山のような集団が土埃を舞わせながら山岳地帯を駆け降りてきている姿を見つけた。



「兵士長、魔物の群れを目視しました! 左前方から近付いてきています!」


「総員、戦闘態勢につけ! 鷲翼(しゅうよく)戦術で臨む!」



 兵長の掛け声とともに十数人の兵士達は左右に散開しながら陣を展開していく。


 一方のロノム達一行は兵士達の構える陣の前に張り出しながら、警戒を続けた。



「ロノム! マクスウェルの位置はどこだ!?」


「地上じゃない、俺達の位置よりも上の方だ! 高台か、岩場の上か!? いや、それにしては移動速度が速すぎる……!」


 しかしロノムが周囲にある岩の上や高台を見回すが、それらしき影は見えない。



「空だ! 上空を見ろ!」


 エクスエルの声と共にロノム達一行が前方に広がる空を見ると、そこには人間を一人乗せた鳥型の魔物が空中を旋回していた。


「どれどれ……ほほう、ちゃんといるじゃないか。オレの復讐対象がさ!」


 そう言いながら魔物を操る男マクスウェルはひとしきり上空を旋回した後、ロノム達が陣を敷いた場所近くの高台へと降り立った。





*****************************





 その頃、クリストファー伯は自ら軍勢を率いながら山岳街道の中腹で相手の勢力と睨み合いを続けていた。


 クリストファー伯の主力部隊は山岳街道の拓けた場所に陣取りながら、対面にいる相手の出方を(うかが)っている。


 相手勢力を見るにつけ、大半が人型種族であり魔物の数は少ないようだった。



「さて、そろそろ戦闘が起こっていてもおかしくない頃合いですが、小規模部隊の方はうまくいっておりますかね」


 相手の勢力を眺めながら、副官ゼフィトが床几に座るクリストファー伯に聞く。



「まー向こうには此方(こなた)が誇る精鋭中の精鋭が一緒だし問題ないっしょふっふふー。アンサスランから借りてきた冒険者もかなりの手練れみたいだしねー。何だったら問題解決後にみんなスカウトしっちゃおっかなー」


 ゼフィトの言葉に、いつもどおりの口調とのほほんとした態度でクリストファー伯が答えた。



「助っ人の皆様を根こそぎ引き抜くなどというアンサスランを敵に回すような発言は大概にしておいてください伯爵。それとも、アンサスランを向こうに回して勝算がおありで?」


「んっふっふー冗談よ冗談。いやーそれにしても、前にマクスウェルと一緒にダンジョン探索に出た元冒険者二人をよく見つけてくれたよー。あの二人が見つかんなかったら、もー少し作戦開始に時間がかかってたからねー。相変わらず、失せもの探しは得意だねぇ」


「できれば、パーティメンバー全員を揃えたかったのですけどね。最後の一人は別の場所でまだ冒険者を続けているようでして、流石にこの短期間では召集するに至りませんでした」


 ゼフィトは腕組みをしたまま微動だにせず、クリストファー伯に言う。



「上等上等、二人もいれば充分。ま、なんだろねー。あの手の自己顕示欲が高いタイプは、自分の力を誇示しつつ復讐しないと気が済まないからさー。自分を追放して死にそうな目にあわせたっていう連中がいるって聞けば、間違いなくスタンドプレーであっちの数が揃う前に襲ってくるだろーねー。敵の核さえ引き釣り出してしまえばこっちのもんってやっつよー」


「伝令によれば、山岳の裏道を隠密で動いている小規模部隊は予定通り山岳民族に監視されているようです。まさか彼等も自分達が汗を流して秘密裡に仕入れた情報が手渡されたものであることなど、思いもよらないでしょうね」


 クリストファー伯とゼフィトは互いを見合わせもせず前方の山岳民族の陣を見ながら、会話を続ける。



 大規模な主力部隊の影で小規模部隊が裏道を侵攻。


 小規模部隊の中には、魔物を操る男マクスウェルにとって旧知の仲が同行している。


 彼等はマクスウェルの人定役であり、マクスウェルを確認後に暗殺あるいは捕縛する。



 それらの作戦は山岳民族の間者によって全て読まれていた……。


 わけではなく、その実態は都合のいい情報を手渡され、クリストファー伯の真の作戦通りに踊らされているだけであった。



「さて、充分お見合いもしたことだし、此方(こなた)達もちょっとずつ撤退しますかねー。そいじゃゼフィト、宜しく頼んだよー」


「かしこまりました。伯爵も傲慢のままに過信して思わぬところで討ち取られぬようにご注意願います」


 二人はそう言い合うと隊を二つに分けながら、敵を目の前にしながら戦いもせずそれぞれ引き揚げ始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「探索魔法は最強です」一巻発売中!

探索魔法は最強です書報
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ