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70/93

70.足を引っ張っていた無能な仲間に別れを告げたパーティリーダーは足枷がなくなり成り上がり街道を駆け上がる~今更自分の無能さに気付いたようだがもう遅い。土下座してきても知りません~(9)

「どうもどうも。アライアンスの団長様はおられますかな?」


「オレ様がその団長ボルマン様だが、なんだ? アンタは」


 よく晴れた日の昼下がり、不幸にも団員全員が所用やダンジョン探索で出払ってしまいボルマン一人しかいないレッド・ドラグーンのアライアンス本部に、やけに胡散臭い笑みを浮かべた老紳士とその従者が訪ねてきた。



「おお、これはこれはボルマン様でございますか。実はあなた様に朗報がございましてな」


「朗報?」


 レッド・ドラグーン本拠地の玄関で、老紳士がボルマンの耳に手を当て囁く。



「私、冒険者ギルドの役員を務めておる者なのですが、実はあなた様が次期Sランク冒険者として選ばれました。その件でちょっとお話をしたいのですが、宜しいですかな?」


「Sランク……Sランクだって!? 勿論だとも、さあ、中に入って詳しく聞かせてくれたまえ」


 そう言ってボルマンは老紳士と従者をアライアンス本部の建物の中へと引き入れた。





*****************************





「ええと、それで、ボルマン様は白兵士でしたかな」


「いやいや、射撃士射撃士。オレ様射撃士だよ」


 団長室に置いてある机を挟みながら、ボルマンと老紳士が会話をしている。



「おお、そうでした射撃士でした、失敬失敬。それで、射撃士の次期Sランク候補にボルマン様の名前が挙がりましてな。アライアンス団長としての名声、そして実力も申し分のないあなた様ですので是非にと役員である私も推薦したわけであります」


「そうだろうそうだろう!? オレ様もいつ声がかかるのかずっと待っていたところよ。アライアンス団長としての統率力とカリスマ! 冒険者としての実力! そしてこの美貌とファッションセンス!! どれをとっても英雄って感じだろぉーオレ様!」


 ボルマンが老紳士と従者に向かって肉体美を誇るようなポーズをとりながら、歯をきらめかせにやけ笑いを見せた。


 ちなみにこのボルマン、団長になってからは鍛えることをやめてしまいダンジョン探索にも滅多に出ていないので、筋肉は衰え体はダルダルになり始めている。



「ええ、ええ。勿論でございます。それ故に私もあなた様をSランク冒険者として推薦したのです。ただ……」


「ただ?」


「ここに来て難関にぶつかってしまった次第でございましてなあ……」


「難関だとぉ?」


 ボルマンの言葉に老紳士は顔を曇らせながら続けた。



「我々はボルマン様こそSランク冒険者に相応しいと思っているのですが、実はもう一人候補がいるのです。その候補を支援している輩は裏金や賄賂を使ってSランクに押し上げようとしておりましてなぁ……。なんとも汚い手を使っておるのです」


「なるほど賄賂に裏金か。そいつはひどい奴等だな!!」


 老紳士の言葉を聞いて、ボルマンが憤る。



「はい。それでボルマン様がSランクとなるために、我々の力だけではもう一押しが足りないのです。それで、ボルマン様ご自身のためにも我々に協力をして頂きたいと思い、この度はお伺いさせて頂きました」


「おう、なんなりと言ってくれ。そんな卑怯な奴等に、オレ様のSランク称号を取られてたまるかよ!」


 ボルマンは語気を強めながら、老紳士に対して言った。


 その胸のうちには邪な欲望と正義感で満ち溢れている。



「はい。我々が勝つためには奴等に負けぬ資金が必要不可欠です。ボルマン様がSランクとなるために、そして最後に正義が勝つということを見せつけてやるためにも、王国金貨十枚……いえ、金貨ではなく同量の銀貨でも構いません。とにかく資金をお預かり願いたいのです」


「勿論だとも!」


 ボルマンは二つ返事で老紳士に答え、アライアンスの倉庫へと向かって行った。



 ちなみに王国金貨十枚とは、概算ではあるが上等な馬車と馬がセットで買えるだけの金銭的価値がある。


 たとえ大手アライアンスと言えども、おいそれと動かしていい額ではない。



「そういや金どこに置いてたっけな。いつもティーリに管理を任せてたからなあ」


 老紳士を団長室に待たせながら、ボルマンは金庫の置いてある薄暗い倉庫の中を物色していた。


「お、あるじゃーんここにー」


 そして金庫を見つけて中から金貨を数枚取り出すと、団長室へと戻っていく。



「ご老人、これを軍資金として使ってくれたまえ。十枚とはいかないまでもとりあえず五枚見つけたので、それで宜しいかな?」


「ええ、構いません。必ずやボルマン様をSランクへと押し上げ、後日記念のトロフィーとボルマン様の名前入りの賞状をお送りいたします。近日中にまたご連絡いたしますのでそれまでお待ちください」


 その言葉にボルマンは有頂天となり、金を受け取った後はいやにそそくさとレッド・ドラグーン本部を後にする老紳士とその従者をにこやかな顔で見送った。





*****************************





「ボルマン団長、団のことでご報告があります。金庫の鍵が開いていて中の金貨がなくなっていました。何か心当たりはありませんか?」


 団長室に入ってきたティーリが今にも死にそうな顔をしながら、暗く虚ろな目でボルマンのことを問い質す。



 その日の夕方、冒険者ギルドから帰ってきたティーリが倉庫を開けたところ金庫の扉が開いており、中にしまっていた王国金貨がすっかりなくなっていた。


 日中にはボルマンしかアライアンス本部にいなかったため、金貨が無くなるとすればボルマン本人による着服かボルマンの目を盗んで忍び込んだ泥棒以外は考えられないということになる。



「おう、その金貨はオレ様がSランク冒険者になるために使わせてもらったぞ」


「はぁ? Sランク冒険者ぁ?」


 ティーリが思わず聞き返すと、ボルマンはご機嫌な様子で昼間あったことを語り始めた。



「い……いや……ちょっと待ってください。Sランク冒険者がそんな感じで決まるわけないでしょ!? そんなの絶対詐欺じゃないですか!!」


「詐欺なわけあるかよティーリ君。オレ様がSランク冒険者になるのは必然なの、実力的にもカリスマ的にもな! つーか、遅いのよ。本来ならオレ様がレッド・ドラグーンの団長になった時くらいに三顧の礼でSランクに上げとけって話でさ、全く、冒険者ギルドの連中も見る目ないっつーか? そんな感じ??」


 ボルマンは人差し指を振りながらドヤ顔でティーリに言う。



「そ……それで、その人達の服装とか背格好、年齢とかはどのような出で立ちでしたか……? いえ、冒険者ギルドの役員がどのような方なのか知りたいと思いましてね……。教えて頂きませんか……?」


 ボルマンの話を聞いたティーリは全ての力が抜け落ちるかのような感覚に襲われながらも、極力冷静に何とかボルマンから状況を聞き出そうとした。



「あーん? そうだなぁ……ギルド役員の方はスーツに身を包んだ紳士って感じだったぞ? 年齢は老人だったかなあ……。もう一人の方は覚えてねーや」


 ボルマンの言葉を聞いてティーリは近くの棚に置いてある冒険者ギルドの会報を手に取りパラパラとめくり出す。


 そして会報の後ろの方にあるページを開いて止めると、勢いよくボルマンに見せつけた。



「ほら、ここ! これ! 見て下さいよぉー! ギルド役員を騙った詐欺に注意って出てるじゃないですかぁーーー! 服装とかもまさにボルマン団長が言ってた姿そのものですし、間違いなく詐欺ですってーーー!!」


「ああん? いやいや大丈夫だって。オレ様がそんな詐欺見抜けないわけないだろ? 絶対後でオレ様がSランクになるってトロフィーが来るから、楽しみに待っててくれよ」


 泣き叫び続けるティーリとは対照的に上機嫌なボルマンが、笑いながら彼の肩をバンバン叩く。



「Sランクのトロフィーってなんですか!? 大体あの金貨だって何とか必死にやりくりしてようやく赤字を脱して作り上げたアライアンスの貯蓄財なんですよおおぉぉ!? ギルドの銀行に預けに行こうと思っていた矢先にこんなことになるなんてーーーやだああああぁぁぁぁ!!」



 ……後日、老人と若者二人組の詐欺師が逮捕され、アンサスランの新聞を賑わせることとなる。


 しかし逮捕時の彼等の所持金は既にゼロであったためレッド・ドラグーンに王国金貨が返ってくることはなく、また、当たり前の話だがSランク昇格の記念トロフィーと賞状がボルマン宛に届くこともなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここまでわかりやすい詐欺が出てくるとは! ティーリ君、そろそろ、潮時ってやつじゃないのかい?
[一言] まあバカが大きな組織のワンマンなトップやってりゃみんな食い物にするよね
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