59.この奥に黄金のドラゴンが飛び込んだことは確かです。我々はこのダンジョンを探索しようと思っています
「どこに向かっているんだ? あのドラゴン……!」
先頭を走りながら、ロノムは叫んだ。
雲一つない晴天の空を、金色のドラゴンが滑空する。
ロノム達一行と後方から大きく遅れてついて来ているシルヴィルの五人は、上空を睨みながらドラゴンを追い続けていた。
ドラゴンは尚もロノム達を導くように、飛び続けている。
「ロノム様! 周囲にドラゴン等の魔物の気配はありますか!?」
「すまない、分からない! 探索魔法を展開する余裕もなかった!」
「承知いたしました! 私も可能な限り周囲を警戒いたします!」
流石のロノムも、ほぼ全力疾走をしながら索敵の魔法を展開する余裕はない。
周辺に魔物がいる可能性もあるが、今は仕方がない。
ロノム達はドラゴンを追い走りながら街道と平原を越え森林地帯へと至る。
そして疎らに雑木の茂る林を駆けていると、少し拓けた場所に出た。
ど同時に、色の濃い小型のドラゴン三匹が林の隙間から現れ、ロノム達に向かって襲い掛かってくる。
「く……しまった! 待ち伏せだ! やはり罠か!?」
「泉の女神様は善き勇者に祝福を授ける。その抱擁は冷たくも温かい水の羽衣。展開せよ! ハイドロヴェール!」
三匹のドラゴンは一斉にその顎を開き、ロノム達に炎のブレスをお見舞いしようとする。
しかし、いち早く危険を察知したアイリスの防衛魔法によってその火炎は間一髪届かなかった。
「ロノム様! 私は二匹を受け持ちます! 順次殲滅いたしましょう!」
「……ああ、分かった! ルシアさんは俺の援護を頼む!」
「了解しました!」
半ば奇襲気味のブレス攻撃に若干面食らったロノムであるが、アイリスとメルティラ両名の即座の判断によって自分を取り戻した。
ロノムとルシアはメルティラの受け持たないドラゴンに向かって行く。
対峙してしばらくロノムがドラゴンの一匹相手と立ち回りを演じていると、乾いた二発の銃声と共にそのドラゴンは頭部から血を噴きその場に倒れ込んだ。
「ナイスだ! ルシアさん!」
ルシアの倒したドラゴンはその尾から砂へと還っていく。
それを見届ける間もなく、ロノムとルシアは次のドラゴンへと向かって行った。
「は!」
ロノムのハンドアックスがメルティラと相対するドラゴンの一匹を横合いから斬り付ける。
その一撃は完全にドラゴンの虚を突き頸動脈を捉え、断末魔を上げる暇もなく絶命した。
「お見事ですロノム様! 私も!」
最後の一匹のドラゴンはメルティラの片手剣が仕留める。
優美な剣の一閃はドラゴンの胸部にある急所を正確に貫き、奇襲を受けながらも僅かな時間でドラゴン三匹を沈黙させた。
……そしてドラゴン三匹を砂に還したところで、ロノムはすぐに上空を見上げる。
黄金のドラゴンは遥か上を悠々旋回しながらロノム達の勝負の行方を確認すると、更に森林地帯の奥へと飛んでいった。
「何だってんだ……あいつ……!」
眷属のドラゴンに加勢するでもなく、かと言ってロノム達に助力するでもない。
ロノム達は黄金のドラゴンを見失わないように、その上で体力を使い切らないようにしながら飛び行くドラゴンを再び追いかけ続けた。
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「はぁ……はぁ……少し……少し休まんか……」
何とかロノム達について来ているシルヴィルが息も絶え絶えで声をかけた。
シルヴィルのみならず、現役冒険者であるロノム達一行も体力が息が上がり体力が尽きかけてきたところである。
今ロノム達がいる場所は周囲を深い森に覆われた場所。
その前方には岩壁が並ぶ山々がそびえ、目視が可能なその頂からは大量の水が滝となって流れ落ちていた。
黄金のドラゴンはロノム達の上と大きな滝の間の空を緩やかに旋回している。
そしてしばらく上空を旋回すると、突如滝の真ん中に飛び込んで行きその姿を消した。
「……なんだ? あの滝の裏に何かあるのか……?」
「ロノム隊長、行ってみますか?」
ロノムの言葉に息を整えながらルシアが声をかける。
「ああ、行ってみよう。ということで宜しいですか? シルヴィルさん」
「走らなければな……よかろう……」
シルヴィルも息を切らしながら、更なる追跡の許可を出した。
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森を分け入り滝壺へと辿り着く。
そして滝の横手から木々や岩山をしばらく登ったところだろうか、草木に覆われながらも平坦な道が現れ、それは滝の裏手へと続いている。
ロノム達がその道をつたい滝の裏手へと回ると、瀑布に隠されたダンジョンの入口がぽっかりと口を開けて待っていた。
「……こんなところにダンジョンが? シルヴィルさん、王都にこのダンジョンの記録があったりしますか?」
「知らん知らん。冒険者ギルドに行けば記録の一つもあるかも知れないが、少なくとも吾輩はこんなところ聞いた事がない」
ロノムの言葉にシルヴィルが首を振る。
「そうですか……しかし、この奥に黄金のドラゴンが飛び込んだことは確かです。我々はこのダンジョンを探索しようと思っています」
ロノムがパーティメンバーの顔をひとりひとり見ながら、シルヴィルに言った。
アイリス、メルティラ、ルシアの三人も決意の表情を浮かべ、無言で相槌のようなものをロノムに投げかける。
「特に王都の前哨地である砦もドラゴンの襲撃にあい、事態は一刻を争う状況だと存じます。何かしらの手掛かりでも掴めれば、王都防衛の布石にもなると思います。王都のギルドとして、許可を頂けますか?」
ロノムの言葉にシルヴィルは少し躊躇った。
自分は王都冒険者ギルド所属の御目付け役であり曲がりなりにも貴族とは言え、実際に冒険者ギルドに対して何がしかの指揮権を持っているわけではない。
ギルドを統括しているのは自分よりも更に位が上の貴族であるし、一市民であるはずの冒険者ギルドマスターの方が自分よりも立場は上だ。
だがしかし。
「ここまで来てしまったのだからやむを得まい……事態が一刻を争うと言うのも同意だ。念のため言っておくが、吾輩の下す許可は王都の為のものであって、お前達アンサスランの為のものではない。その事を理解してくれよ?」
「感謝いたします。王都の為に、我等アライアンス『シルバー・ゲイル』は全力を尽くします」
シルヴィルの許可の元、ロノム達一行は封印がなされていないダンジョンの入口に向かい進んでいった。





