55.足を引っ張っていた無能な仲間に別れを告げたパーティリーダーは足枷がなくなり成り上がり街道を駆け上がる~今更自分の無能さに気付いたようだがもう遅い。土下座してきても知りません~(7)
「はぁ……近頃酷い目にあってばかりだなあ……」
良く晴れた日の午前中、アンサスランの商店街をひとりトボトボと歩きながら、ティーリは思わず心の内を表に出した。
話はロノム達一行が王都へと出立する日の前日へと遡る。
ボルマン率いるレッド・ドラグーンは黄金のドラゴンに追いかけられたあの日、申請していたダンジョンへは行けず、そして道中ドラゴンと遭遇したことも報告せずで、それがバレたことによって冒険者ギルドからこってりと絞られた後であった。
無論ボルマン自身はそんなこと露とも気にしていない。
「細かい性格のギルド職員が重箱の隅をつついてきてうるせえな」程度にしか思っていなかった。
「そりゃあ、申請したダンジョン行かなかったのもこちらの不備だし、道中ドラゴンに襲われたことを報告しなかったのも悪いと思ってますよ……。でも、仕方がないじゃないか……。まさかアンサスラン中がひっくり返るような事件になるなんて、そんなの想定できるわけないじゃないか……」
ティーリが聞くところによれば、あの後黄金のドラゴンは最大手アライアンスのエースパーティが追い払ったとの事だった。
事実としてはロノム率いるシルバー・ゲイルが撃ち払ったのだが、ティーリの、ひいてはレッド・ドラグーンの情報アンテナの感度は際限なく低下しており、巷間で話題に上っているシルバー・ゲイルやロノムの情報すらほとんど入ってこなくなっている。
「それにしても、はぁ……レッド・ドラグーンも最近赤字続きだって言うのに、こんな雑に買い物していいのかなぁ……」
ティーリは今日、ボルマンに命じられてレッド・ドラグーン備品の買い出しに来ていた。
備品と言っても何のことはない、酒や嗜好品と言った娯楽のための物である。
そんな無駄遣いなどできない財政のはずだが、ボルマンに反抗したら反抗したで今度は自分の給金が無くなりかねない。
できるだけ安い酒や食料を買い求めながら、ティーリは商店街をさまよい歩いていた。
「おう兄ちゃん、チケット十枚溜まったようだな。今、商店街で福引きやってるからよ、運試しに行ってきなよ」
いくつか買い物をして商店街の謎のチケットを受け取ったところで、ティーリは店のおじさんにそんな言葉をかけられる。
「福引き……ですか?」
「ああ。この商店街の発足五十周年キャンペーンでな、みんなでいくらか金を出し合って、福引きをやってんだ。お客様還元ってやつだな。一等はすげぇぞ? なんと、王都旅行の馬車券と船券がセットで貰えちまうんだ」
「王都……王都かぁ……」
ティーリも王都に興味が無いわけではなく、むしろ一度は行ってみたいと思っている。
アンサスランを超える規模の大図書館、今もなお新たな魔法の構成を生み出し続けている魔法学院、そしてこの国で最も古い歴史を持つと言う伝統的な街並み……。
勉強好きなティーリにとって、王都は非常に魅力的な都市であることは間違いない。
「どうせ当たらないだろうけど、折角だしやってくるかなぁ」
そう言いながら、ティーリは福引きをやっていると言う商店街の会場へと向かって行った。
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「さあさあお立合い! 本日福引き最終日だよー! なんと一等、王都への旅行券がまだ残っています! 誰がこの幸運を引き当てるのか!? 寄っていった寄っていったー!」
福引きの会場は商店街役員や買い物客、そして冷やかしの野次馬でごった返していた。
ティーリは人波をかき分けて進み、福引きブースへと辿り着く。
そして持っていたチケット十枚を受付の鉢巻きを巻いたおじさんに見せると、何やら手廻しのハンドルがついた八角形の筐体を用意された。
「こいつを回して玉を出すんだ。赤が外れ、青が出れば四等の香草セット、そして金色が出たら一等の王都旅行券だ。二等三等はもう出ちまったよ」
ティーリはでかでかと貼りだされている賞品一覧を見てみる。
棒線で消されている三等の文具セットが欲しかったところであるが、もうなくなっているなら仕方がない。
香草セットでも貰えればと八角形の筐体のハンドルを掴んで回してみた。
ころん。
「え……これ、黄色? え……金……?」
思わずティーリは口に出してしまった。
「お……おお……大当たりーーー!! 一等! 王都への旅行券ーー!!!」
大きな鈴のようなものを振り回し、ガラガラと音を立てる鉢巻きを巻いたおじさん。
そして商店街の役員達は万雷の拍手をし、野次馬も大きくどよめいている。
「おめでとうございます! 金髪のかわいい兄ちゃん、王都旅行へご招待ーーー!」
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「ゆ……夢じゃないだろうか……」
でかでかと「一等賞」と書かれた封書を手に持ちながら、ティーリは一人商店街を離れて呆然としている。
あの後商店街の役員や野次馬達にもみくちゃにされた後、一等の商品を手にして何とかその場を後にしたところだった。
「王都……。王都旅行かぁ……」
初めての旅行、それも念願であった王都への旅行である。
ティーリは期待に胸を膨らませながら歩き出そうとした。
「ティーリくーん。帰りが遅いと思っていたら、あんなところで油を売っているとはなあ。見ていたぞー、お前の雄姿の一部始終をな」
しかし、突然ティーリの方から首にかけて回される男の腕。
「な……ボルマン隊長……ホリドノンさん!?」
ティーリが後ろを振り返ると、そこにはいつからいたのかボルマンがにやけ顔で、ホリドノンがいつもの無表情で立っていた。
「それは置いといてよくやったぞ。オレ様もかねがね王都には行きたいと思ってたんだ」
「な……! この旅行券は僕のですよ!? 僕が引き当てたんですよ……!?」
ティーリが怯えた小動物のようにボルマンに対して叫ぶ。
「チケットは二人分だろ? オレ様とホリでそいつを使って、まあ、殊勲者であるお前の分はアライアンスから出してやるからよ」
「そんな……そんな無駄遣いできるお金なんてどこにもないのに……!?」
「じゃ、お前が留守番するか?」
「う……うう……王都には……行きたい……です……」
観念したように、ティーリはうなだれながらボルマンの意見に同意した。
「よし、決まりだな! 明後日には出発すっからよ、準備しとけ! あ、オレ様の荷物の荷造りもお前の仕事だからなー!」
そう言うと、ボルマンとホリドノンは意気揚々とその場から立ち去っていった。
恐らくこれからまた飲みにでも行くのだろう。
「運がいいのか……それとも最悪なのか……はぁ……」
そんな詮無い呟きをしながら、ティーリも俯きながらその場を後にした。





