50.何か運命に導かれているのだろうか?
「何だか前回ドラゴンやらなんやらと戦ったのを考えると、今回の場所はちょっと物足りない感じがしますねぇ」
「ははは、今回のダンジョンは一番強い魔物でもワーウルフだからね。でも、危険な魔物とばかり戦って綱渡りをするのもどうかなと思うし、今回のダンジョンも簡単なところではないよ。油断せずに行こう」
「はぁい。分かっておりますですよー」
そう言いながら荷物の最終確認をするアイリスに対して、ロノムが答える。
ロノム達一行はダンジョン探索へと向かうため、現在はアンサスランの正門近くで持ち物の最終確認をしていた。
今日の探索は前回のようにドラゴン族が跋扈するような危険なダンジョンではなく、ごく普通のダンジョンである。
「ドラゴン……か」
ロノムは先日のシャンティーアとの会話の内容を思い出し、考えを巡らせていた。
魔物ではなく生物としてのドラゴン……実はこの世界に遍在しているのだろうか。
少なくとも、今までアンサスランの周辺に出たドラゴンは討伐されれば砂へと還ることから、ダンジョンの魔物が外に漏れ出たものであることが確定的であった。
そして遠く王都や別の都市の話題にもロノムはアンテナを張っているつもりではあったが、「ドラゴンが出現した」と言うニュース自体聞いたことがない。
しかし、シャンティーアの話を聞きそして彼女の竜術……いや、竜術と言うよりも「正体を現した」といった方が正しいのだろう。
それをロノムは先のダンジョン探索で実際に目の当たりにしている。
生物としてのドラゴンは確かに存在しているのだ。
ニュース収集やデータ集めを趣味にしているとは言え、ロノムはアンサスラン周辺から外に向かって足を伸ばした事すら滅多にない。
自分の世界の狭さを痛感しながら、ダンジョン探索へと向かう準備を続けていた。
「あら? 何やら向こうの方が騒がしいですね」
メルティラが荷物をまとめながら、正門の方を見上げる。
「およ? ギルドの職員の方や衛兵の方がわちゃわちゃしているように見えますが」
「確かに……何か事件でしょうか?」
アイリスとルシアも騒がしさに気付いたようである。
ロノム達四人がアンサスラン正門の方を見ると、冒険者ギルドの職員や衛兵達が何やら右往左往しているようだった。
「何があったか聞いてこようか」
ロノムは立ち上がり、指揮系統のトップと思われる禿頭のギルド職員に対して事情を聞きにいった。
「ドラゴンがダンジョンから出てきたらしい。アンサスランの街に向かっているとの事だ」
「ドラゴン……ドラゴンですか?」
昨日の今日でドラゴン騒ぎである。
何か運命に導かれているのだろうか?
そんな事を思いながら、ロノムは更に詳しく事情を聞きだそうとした。
「まだ調査中なので詳細は分からないが、ドラゴンが漏れ出たとなれば野放しにはできない。ギルド所属の冒険者と見受けるが、君達は?」
「はい、『シルバー・ゲイル』です。丁度ダンジョンへの探索準備中でしたので、討伐するのであれば向かう事が可能です」
「おお! アライアンス『シルバー・ゲイル』か! ありがたい!」
ギルド職員は若干の高揚を声に浮かべながら、ロノムに対して答えた。
「現在最高ランクがCの六人パーティが対処に当たっているが、恐らく厳しいだろう。ドラゴン発見場所は、ここ、アンサスラン北側の正門とM-4ダンジョンを結ぶ小街道の途中だ。魔法印を結んであるので辿ってくれ」
「分かりました、向かいます」
「対象は黄金色のドラゴンだ。他に動ける冒険者も搔き集めて応援に向かう、くれぐれも無理はするなよ!」
そう言うと禿頭の職員は再び指揮へと向かって行った。
「聞いての通りだ。アンサスランへとドラゴンが向かってきているので、その対処に向かおうと思う。みんな、いいか?」
ロノムは後ろで会話を聞いていたアイリス達三人に振り向き確認をする。
「おっけーですよ!」
「はい、準備は万端です」
「大丈夫です、行けます!」
「よし、急いで向かおう。対象は黄金色のドラゴンだ!」
そして四人はギルド職員が結んだ魔法印を辿りながら、ドラゴンがいると思しき方向へと歩を進めた。
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アンサスランから速足で歩いて十数分の場所であろうか。
そこは小さな街道が通っているだけの平原であった。
煌めく陽光を反射しながら、遠目からでも分かる程の美しい鱗を持つ黄金色のドラゴンがそこにいた。
「いたぞ……! 目標はあいつだ! まだ何人か戦っている、シルバー・ゲイル、援護に向かう!」
ロノムがドラゴンを目視すると二人の冒険者が逃げながら戦っているように見える。
恰好から見て治癒術師と弓使いの射撃士のようであった。
その奥には白兵士二人と防衛士、そして破壊術師が倒れている。
「ロノム様、ひとまず私がドラゴンを引き付けます! その間に作戦立案をお願いいたします!」
ロノムの後ろで走っていたメルティラが速度を上げ、黄金色をしたドラゴンの方へと向かっていく。
「メルティラさん、了解だ! アイリスさんは一旦ドラゴンの後方で倒れている冒険者達の生死の確認と治癒を! ルシアさんはアイリスさんに攻撃が向かないよう援護してくれ!」
「りょーかいです!」
「任されました!」
走りながらの指示をアイリスとルシアが受け取る。
その間にドラゴンが逃げてきた治癒術師と射撃士に向かって火炎のブレスを放つが、メルティラが間に割り込み大盾でいなした。
「アライアンス『シルバー・ゲイル』だ! ドラゴン討伐に来た! 状況を説明してくれ!」
ロノムがハンドアックスを構えドラゴンの方へと向かいながら、逃げている二人の冒険者に向かって叫ぶ。
「アライアンス『グリーン・ストーン』です……! ダンジョン探索へと向かう途中にドラゴンと遭遇、やむなく応戦しました! 現在防衛士と白兵士二人、そしてリーダーの破壊術師が倒れパーティは壊滅状態です!」
メルティラよりは若干年上だろうか。
白いローブを身に纏った治癒術師の女性がロノムに対して答えた。
「倒れているメンバーの治療はうちの治癒術師が受け持つ! 君達二人のうち一人はアンサスランへと向かい状況の説明を! 一人はここに残って援護してくれ!」
「は……はい! 分かりました!」
二人の声が届くか届かないかのところで、その間にロノムはメルティラの横を抜け、姿勢を低くしながらドラゴンの脇腹を切りつけた。
手応えあり。
ドラゴンは鱗に覆われていない脇腹から血を噴出しながら悲鳴を上げ暴れまわる。
しかし致命傷とは至っていないようだ。
振り回される尾と飛膜を掻い潜りながら、ロノムは再びドラゴンから距離を取る。
ドラゴンに注意を向けながらロノムがアイリス達の方を見ると、何やら治癒魔法の魔法陣が見えた。
「遥かな大森林の彼方には、全てを癒す水が湧き出る。水は泉となりて、英雄達を包み込む。その大いなる力は女神の泉。癒しの場をここに! トータル・リバイタル!!」
アイリスは倒れていた冒険者達を近くに引き摺り集め、大規模な水色の魔法陣と共に治癒魔法を展開した。
周辺にいる傷ついた者達を同時に治癒する空間を作り出す魔法である。
「ロノム隊長! 冒険者の皆さんはまだ息があります! アイリスさんが治癒できるそうです!」
治癒魔法を唱え続け無防備となっているアイリスを守るように身構えながら、ルシアはロノムに対して状況を説明した。
「了解だ! アイリスさん、ルシアさん、そっちは任せた! メルティラさん、行くぞ!」
「承知いたしましたロノム様!」
そしてロノムとメルティラの二人は改めて、黄金色のドラゴンと対峙した。





