49.足を引っ張っていた無能な仲間に別れを告げたパーティリーダーは足枷がなくなり成り上がり街道を駆け上がる~今更自分の無能さに気付いたようだがもう遅い。土下座してきても知りません~(6)
「全くよぉ、なんでオレ様がダンジョン攻略に出かけなくちゃならないのよ……。大手アライアンスの団長よ? オレ様……」
ダンジョンが密集している山岳地帯へと続く平原を歩きながら、パーティーリーダーの馬顔の男であるボルマンが何やらぶつくさと呟いている。
「仕方ないじゃないですか……最近全然ダンジョン行ってないですよね僕達。実績を積んでおかないと、Bランクから降格しちゃいますよ?」
野営地を設営するための大量の荷物を持ちながら、金髪碧眼の少年ティーリがリーダーのボルマンに対して毒づいた。
「はー、めんどくせぇシステムしてんなぁ冒険者ギルドは。大手アライアンスの団長であるオレ様が言いに行ったら、そういうのも変わっかなぁ。なあ、ホリよぉ」
「さあ。変わるかもしれないし、変わらないかもしれないッスね」
ボルマンの問い掛けに、相も変わらずホリドノンは適当に答える。
(大手アライアンスって……。あの事件の後半分もメンバー出て行かれて、今やその辺のアライアンスと変わらないじゃないですか……Aクラスだった冒険者の人達は誰もいなくなっちゃったし……)
ボルマンの言葉にティーリは心の中で毒づいた。
……リーダーである射撃士のボルマン、攻撃の要の白兵士であるホリドノン、支援術師と治癒術師を兼任するティーリ、そして防衛士のカリエル。
今日はその四人が揃って、久し振りのダンジョン探索へと出かけている。
アライアンス「レッド・ドラグーン」のエースパーティであるボルマンパーティだが、前回のゴタゴタの時に破壊術師のエクスエルと治癒術師のネシュレムが抜けてしまった。
だが、アライアンス内の他パーティから人員の補充もせず、現在のメンバーは四人しかいない。
いや、正確には「補充もせず」と言うよりは「補充できず」と言うべきか。
ボルマンパーティはレッド・ドラグーンのエースパーティであり、人事権を握っている団長のボルマンがリーダーである。
しかし団長直々のお声がけにも拘らず、何故かアライアンスの他のメンバー全員からパーティ所属を丁重にお断りされてしまった。
ティーリはこの事実に対して心の底から危機感を覚えているが、ボルマンやホリドノンはいい加減な性格なので気にしてすらいない。
(はぁ……。こんな状況じゃあ、今残っている人達もいつ辞めてしまうかどうかも分からないしなぁ……。僕が頑張ってレッド・ドラグーンを立て直そうとする意味ってあるのかな……)
先頭を歩くボルマンとホリドノンの背中を追いかけながら、大荷物を背負ったティーリは将来に対して途轍もない不安を抱えていた。
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「お? あれなんだ? なんか光ってねぇ? おいホリ、行ってみようぜ?」
「うッス」
平原地帯をしばらく歩いた所であろうか、ボルマンが燦々と降り注ぐ太陽に照らされた、何やらキラキラした大きな物を発見した。
「お? お?? おおー??? これ、金じゃね? 金の山じゃねえ!?」
そのキラキラした物は高く成長した草の茂みに隠れるように存在していた。
どうやらうず高く積まれた黄金のようである。
「なんだよー、ダンジョン探索なんかしなくてもお宝が転がってんじゃん」
ボルマンは茂みに鎮座するその物体を山のように積まれた黄金だと確信し、満面の笑みを浮かべながら近づいて行った。
「どうしたんですか道を外れて。……て、何ですかこれ?」
ボルマンに追いついたティーリが訝しげに言う。
「ばっか、ティーリ、これを見ろよ。ダンジョンなんて行かなくても黄金は手に入んだよー」
「ええ……待って下さいよ……。おかしいと思わないんですか? こんなところに黄金の山なんて……」
多少茂みに隠されているとは言え、黄金が平原のど真ん中に積まれているわけがない。
よしんば積まれていたとしても、盛大な罠か途方もない厄介事の種にしかならないだろう。
ティーリからしてみれば、どう考えても手を出してはいけないものである。
「頑張ってるオレ様に対して金運の女神様が微笑んだって事だろー。いやー参っちゃうよなあ、神様にまでモテる男ってのはー」
もちろんボルマンはそれが罠とか厄介事とは露とも思わない。
遠巻きに見守るティーリの事などお構いなしにニマニマと笑みを浮かべながら、ボルマンが黄金の山に手を伸ばしたその刹那だった。
『ガアアアァァァ!!』
鼓膜を突き破るような竜の咆哮が平原に響き渡る。
黄金は二足歩行で立ち上がり、顎を大きく開けながらボルマン達を威嚇した。
うず高く積まれた黄金の山……それはお宝でもなんでもなく、全身黄金色の鱗で覆われた巨体のドラゴン。
……ダンジョンで出現したならば、一線級のボスである。
「はあぁ!? なんでこんなところにドラゴンがいるんだよ!?」
「わ、分かりませんよぉ!? 何かの拍子にダンジョンから外に出てきちゃったんでしょうか……! と、とにかく、ヤバいってことは確かです!!」
ボルマンの必死の声にティーリが答える。
「あー。逃げるッスか? 戦うッスか?」
「に……逃げるに決まってんだろこんなもん!! ……て、どわっちゃああああ! あっちい!!」
ティーリとホリドノン、カリエル、そしてドラゴンが吐いた火炎の息に尻を焼かれたボルマンは、這う這うの体でもと来た道を戻りアンサスランへと逃げ出して行った。





