47.ダンジョン探索(3)―お姉さんにまっかせなさーい
「メルティラさん、いつもの通り大型の奴を任せた! 俺達は先に小さい方を殲滅する!」
「了解です!」
メルティラに大型のドラゴンを任せ、ロノムとルシアは二人で小型のドラゴンの一匹に向かって行く。
小型と言ってもロノム達人間の身長の倍はあり、軽く相手取るというわけにはいかない。
いつものように一撃必殺の戦法を取ろうとするも、その硬い鱗に弾かれて倒すどころか傷をつけるのすら至らなかった。
「だめですロノム隊長! 僕の武器ではドラゴン達に対してまともなダメージは与えられません!」
「奇遇だなルシアさん、俺のハンドアックスもだ……。攻撃手二人がこの体たらくだとすると頼りになるのは……」
ルシアと会話しながら、ロノムはシャンティーアの方へと目を向ける。
「お、何ですか私の出番ですか!? お姉さんにまっかせなさーい!」
シャンティーアが手をわきわきさせながら妙に輝いた眼でロノムの方を見た。
「先程よりも弱くそれでいてドラゴン達はギリギリで倒せるくらいで周りにできるだけ影響が出ないように慎重かつ大胆な付与術を頼む!!」
随分無茶な指令をしたものだと自分で思いながら、ロノムはシャンティーアに指示を出す。
「おっけーおっけー。風性付与術展開、深度4レベル。対象指定ロノム氏。纏え! ガスト・ブレード!」
緩やかな承諾の声と共にシャンティーアの詠唱と共にロノムのハンドアックスに翠風が舞い踊る。
「うおお!」
その術に感謝の言葉を述べる間もなくロノムは小型のドラゴンに向かって駆け寄り、首筋に狙いを定める。
そしてハンドアックスを振り抜いて一撃でドラゴンの首を刎ね飛ばした。
ハンドアックスを振る度に多少突風のような風は巻き起こるが、それでも先程と比べれば随分と大人しいものである。
「いける……! シャンティーアさん、すまない!」
「いいよいいよー。お代は先程のイケメンドラゴンの彫刻で結構」
「もうちょっと持ち運びやすいやつで頼む!」
シャンティーアに対してそんな返しをしながら、ロノムは小型のドラゴンを次々と倒していった。
「残りは大物だけだ! メルティラさん、行くぞ!」
戦局は佳境へと向かっていく。
小型のドラゴン五匹全てを倒したところで、ロノムは大物へと目を向けた……まさにその時だった。
「ロノム隊長、小型のドラゴンが追加されました! 五体です!」
自身の武器が効かず攪乱と状況把握に徹していたルシアが、大部屋に繋がる通路の方を見ながら大声を出す。
「な、なんだって!?」
ロノムがルシアの指し示す方を見ると、そこには確かに小型のドラゴンが五体、列をなして大部屋に入場してくるのが見えた。
「ロノム様! あちらからも三体ドラゴンが!」
「向こうからもか……!」
メルティラの正面、大ドラゴンが戦っている向こう側の通路からも色とりどりのドラゴンがやってくるのが見える。
「ロッさん! 上からもドラゴンが降ってきます! もはやてんやわんやです!」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれぇ!」
アイリスも上空から飛翔型のドラゴンが飛来することに気が付いた。
都合十体以上のドラゴンがロノム達に襲い掛かる。
「みんな、先程の延長戦だ! 同じような動きをしながら一体一体減らしていくぞ!」
ロノムの号令と共にルシアが逃げながら攪乱し、隙が出来たドラゴンをロノムが倒しにかかった。
そしてメルティラはアイリスの助けを借りながら大型ドラゴンの気を引き続ける。
だがしかし、戦線の崩壊は時間の問題だろう。
いかにロノム達が優れていようと、多勢に無勢、しかも全てが上級の魔物であるドラゴン相手では如何ともしがたい。
「あーららー。流石のロノム氏達もこれは厳しいかもねー厳しいですねー」
その状況を遠巻きに見ながら、シャンティーアはのほほんと見物していた。
「しょーがない。お姉さんがいっちょ本気出してやりますか!」
そう言うとシャンティーアは精神を集中させながら気合いを入れる。
そして得体の知れない紺碧のオーラを纏うと、身体の表皮に鱗が浮き上がり翼の生えた大型の爬虫類へと姿を変えていった。
「ロノム様……! これまでなのでしょうか……!」
「まだだ……まだなんとか……!」
「ロッさん! 不肖このアイリス、今こそ禁を破り『インカーネーション』の魔法を再び使う時!」
「だ、ダメだアイリスさん! それにそもそもこの状況、インカーネーションでもどうしようもない!」
「ロノム隊長! かくなる上は僕が囮に……!」
「そういうこと言わない! 全員で何とかする道を今考えてる!」
ロノム達一行が大量のドラゴンに襲われ絶体絶命の危機に立たされたその時だった。
栗色のような、濃い亜麻色のような色をした巨体のドラゴンが一匹、ロノムに襲い掛かろうとした別種のドラゴンに体当たりを食らわす。
栗色のドラゴンは尚もドラゴン達を威嚇し、甲高い咆哮を上げた。
「な、なんだ? 仲間割れか!?」
『やっほーロノム氏ー。私だよ私―、シャンティーアお姉さんだよー』
「え? は……?」
よく見るとそのドラゴンはシャンティーアのトレードマークたる銀縁眼鏡をちょこんと顔に乗せている。
そう言えばロノムは聞いたことがあった。
支援術師Sランク冒険者「竜術のシャンティーア」が何故「竜術」の二つ名を戴いているのか、そして、彼女の切り札が何であるかを。
『これぞ私の奥義。ドラゴン変化の竜術よ! さあさあロノム氏達、これで一気に逆転反撃と行くよー……と言いたいところだけどね。流石にドラゴン沢山を全滅させるほどの力はないんだなーこれが』
ドラゴンに囲まれ緊張感たっぷりの中で相変わらずの緊張感のなさを全身で表しながら、シャンティーアはロノムに続ける。
『と、いうわけでお姉さんがしっかりかっちり殿を務めちゃうので、みんなで頑張って撤退しましょーい。あ、大丈夫よ私は。いざとなったらピュンピュン飛んで逃げるからさー!』
「分かった……。みんな、撤退するぞ! 出口まで全力でダッシュだ!」
そう言うとロノムは近くにいたルシアを小脇に抱え込み、ダンジョンの出口方面へと続く通路の方へと走って行く。
「承知しました!」
そしてメルティラもアイリスを肩に担ぎ、ロノムの後へ続く。
『さあて、私も頑張って逃げましょうかねぇー。嵐性付与術展開、深度6レベル。対象指定私氏。護れ! トルネード・アーマー!』
最後にドラゴンの姿となったシャンティーアが自身に竜巻を纏わせて、襲い来るダンジョンのドラゴン達を蹴散らしながら飛んで行った。
……その後、ロノム達一行は何とかM-4ダンジョン、『ホール・オブ・インフェルノ』を全員無事に突破することが出来た。
お宝の殆どはダンジョンに置き去りにしてしまったわけだが、命あっての物種である。
この日の事を教訓にしながら、ロノムは無茶はやめて身の丈に合った探索をしようと心に決めた。
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ロノム達によるホール・オブ・インフェルノ探索から数日経った曇りの日の事である。
ロノムは図書館の前で、一人の女性を待っていた。
「お、ロノム氏じゃーん! どうしたどうした?」
ここ数日は空振りに終わったが、この日はロノムの目的である女性が目の前に現れたようである。
ロノムはシャンティーアに軽く挨拶をすると、言葉を切り出した。
「一つだけ……疑問に思っていることがあるのでシャンティーアさんに聞こうと思ってね」
「何かな? ドラゴン族に関することならお姉さんに何でも聞いてみなさい」
ふんぞり返りながら腰に手を当てるシャンティーアに対して、ロノムは真面目な顔で問いかける。
「シャンティーアさんに関する事だ」





