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46.ダンジョン探索(2)―肝に銘じまぁす

「と、言うわけで、シャンティーアさんは防御魔法だけに徹するように。俺が指示しない限りは間違っても攻撃補助をしないこと」


「はぁい、肝に銘じまぁす」



 ロノム達一行は火竜を倒した広場を後にし、更に奥へと進んでいる。


 このSランク支援術師の力はあまりにも強力であり、危険であった。


 先程の攻撃にしても、ロノムがその刃先を一歩間違えていたら、メルティラやアイリスを巻き込んでいた可能性だってある。



「それにしても、シャンティーア様はあれ程の実力をお持ちでありながら、少人数のアライアンスに所属しているのですね。大手のアライアンスから好待遇でのお話が山ほどありそうですけれども」


 メルティラがシャンティーアに聞いた。



「来たよー、それこそわんさか。でもさ、何だかんだ言って弟が心配だったからねー。だから、弟達と一緒にのんびりやってるよ」


 聞けばシャンティーアの所属するアライアンス「アズール・ドレイク」は、Cランク白兵士の弟とその友人達が一緒になってやっている、総勢五人にも満たないアライアンスということである。


 Sランク冒険者は大手アライアンスか高ランクのメンバーを集めた少数精鋭でやっている場合が多いが、シャンティーアのケースは珍しかった。



「でも、『定期的にドラゴン族がいるダンジョン探索を行う』なんて事を条件に入れれば他のアライアンスに所属してしまいそうですけど、そうでもなかったのですか?」


 ルシアもシャンティーアに疑問をぶつけた。



「そういった提案をしてくるとこはなかったなー。なに? ロノム氏の所はそういう条件出してくれる? それだと迷っちゃうなー」


「いや……ドラゴン族のいるダンジョンは今回限りということで……」


 くねくねしながらにへら笑いを顔に浮かべるシャンティーアに対して、ロノムは「もうお腹いっぱい」というジェスチャーをしながら答えた。



 Sランク冒険者となるには、本人の実力に加えて英雄的な活躍も必要となる。


 シャンティーアがSランク支援術師に選ばれたのは、弟達と共に半ば無理矢理ドラゴン族の生息するダンジョン探索に多く出向いていたのも要因の一つであるのだろう。


 彼女さえいればCランク程度の白兵士でも、余裕でドラゴンを狩れてしまうのだ。



「いやーでも、メルティラ氏達もすごいね。支援魔法なしにあのサイズのドラゴンを止められる防衛士は初めて見たし、アイリス氏も連携バッチリだよ」


「まー連携こそが我々の肝と言えますからね。支援魔法についてはオマケですよオマケ」


 シャンティーアのお褒めの言葉に、やや不貞腐れた感じでアイリスが答える。



「それより何よりロノム氏だよ。私も客観的に見て現役の支援術師トップだって自負はあるけど、探索魔法の重ね掛けと維持ってやつ? そういうのはできないわー」


「いや……正直支援魔法の格の違いを見せつけられたよ……。あれこそまさにSランクといった感じだ」


 あれこそがまさに特級の支援魔法であった。


 ロノムは当然のことながら、治癒魔法に加えて支援魔法も戦術の柱としているアイリスにとっても格の違いを見せつけられた感じである。


 若干不貞腐れるのも仕方がない事だろう。



 それはそれとしてさておいて、その後もハイクラスダンジョンにあるまじき緊張感のない会話を続けながら、ロノム達は探索を続けた。





*****************************





「流石ドラゴン族がうろつくダンジョンだけあって、貴重なお宝がまだまだ沢山ありますね」


 アイリスが小部屋の棚の上に無造作に置いてあるような宝飾品や貴金属を手に取りながら言った。



「まだほとんど探索されていないようなダンジョンだからね。価値的にも美味しいものが沢山期待できるよ」


 ロノムも戦利品を見極め鑑定しながら、鞄の中に詰め込んでいる。



「それよりも見て! 見て!! このイケメンドラゴンの彫刻! これ持って帰らない!?」


 対してシャンティーアと言えば、自身の倍はある金属製の彫刻に抱き着きながらロノムにお伺いを立てた。



「どうやって持って帰るんですかそんなものを……ほら、この部屋の調査は終わったから行きますよ!」


 なぜか丁寧語になりながら、ロノムはシャンティーアに早くついてくるよう促す。


「ちぇー、分かりましたよロノム先生。いいなあ……今度来た時、絶対あれ持って帰ろう」



 ロノムは昨日会った、栗色の髪を短く切った眼鏡の青年……シャンティーアの弟であるルーオの顔を思い浮かべながら、その苦労の程を慮りため息をついた。





*****************************





 時たま現れる小型のドラゴンを倒したり宝物庫のような部屋を探したりしながらダンジョンを探索していると、ロノム達一行は岩壁が整えられ神殿のような作りの大部屋へと行きつく。



「これは……巨大な石碑……でしょうか?」


 メルティラが大部屋の岩壁傍にそそり立つ、得体の知れない文字の刻まれた黒色の壁を見ながら呟いた。



「旧文明の文字でも現代の文字でもない……。これは……」


「これはドラゴン族がかつて使っていた文字だね。それこそ旧文明よりも前、ずっと前」


ロノムの言葉に対してシャンティーアが前に出ながら答えた。



「旧文明よりも前ですか……?」


 メルティラと並び立ちながらルシアがシャンティーアに向かって問う。



「そ。冒険者ギルドや魔法学院の研究者達、そして国のお偉いさん達は認めたがらないんだけどね、ドラゴン達は旧文明よりも遥か前から存在し、独自の生活サイクルを築いていたのさ」


 いつになく真面目なトーンで、シャンティーアは言葉を続けた。



「ドラゴン達は旧文明を恨んでいる。以前は大地の支配者でありあらゆる種族の頂点に立っていたんだけど、いつの間にか『旧文明の人』に対して頭を垂れる存在に成り下がった。それ故に、魔物と呼ばれるようになった今でも、ドラゴンは全てを滅ぼそうとしている……」


「なーんて。そんなこと言っても誰も信じちゃくれないし、私自身も本当の所なんて知らないけどさ。でも、現在でも魔物として恐れられているドラゴンは、他の魔物達と違って『生物としての行動』を取ろうとしてるのも事実だよ」


 そして少し悲しげな、それでいておどけた様な調子でロノム達に対して向き直る。



「ふむふむ……。それで、この石碑は何て書いてあるのですか?」


 パーティの中では学のあるアイリスでも知らない文字であった。


 アイリスがシャンティーアを上目遣いで見ながら聞く。



「さあ……? 何語で書いてあるかは分かるんだけど、何が書いてあるかは分からないんだよねー、残念ながら」


 アイリスの言葉に対して、シャンティーアは不自然な一呼吸を置いた。



「ひとまずお宝も手に入ったし、今回の探索はここまでにしておこう。探知魔法には何も引っかかってないけど、嫌な予感がする。みんな、それでいいかな」


 そんなシャンティーアの方を横目で見ながら、ロノムはパーティにダンジョン探索終了を告げる。



「おっけーです。帰りましょー」


「了解いたしました」


「分かりました」


「はいよー」


 そして四人の同意が取れたところで、ロノム達一行がダンジョンの出入り口がる通路の方へと向かって歩き出したその時だった。



「いや……待った! 近くに大型の魔物の接近を感知した!」


「……!」



 ロノムの言葉に他の四人が警戒する。


「上からくるぞ! みんな、戦闘準備を!!」



 その時だった。


 ダンジョン大部屋の上に小規模の爆発が起こり、同時に大型の赤いドラゴンとその眷属である小型のドラゴンが五匹、ロノム達の上に降ってくる。


 自由落下によるその攻撃を間一髪躱したところで、ロノム達は改めて戦闘準備に入った。

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