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41.ダンジョン探索(1)―頼みたい仕事があるんだが、聞いてくれないか?

「アライアンス『シルバー・ゲイル』です。ダンジョン探索許可を頂きに参りました」


 冒険者ギルドの一画にある「ダンジョン探索の受付窓口」で、アイリス一人を連れ立ってロノムは冒険者ギルドの職員に声をかけた。



「はーい、シルバー・ゲイルさんですねー。アライアンス照会をしますのでしばらくお待ちくださーい」


 年若い女性のギルド職員が分厚い帳簿を引っ張り出してページをめくる。


「はい、見つかりましたー。シルバー・ゲイルさんですとー、今ご紹介できるのはこちらのダンジョンになりますねー」


 そう言いながらギルド職員は数冊のファイルを棚からピックアップして、ロノムの前に置いた。



 と、同時に女性の後方に座って書き物をしていた中年男性の職員が声をかけてくる。



「シルバー・ゲイル? アイリスとメルティラのAランクが二人いるところだろ? ダンジョン探索の件で頼みたい仕事があるんだが、聞いてくれないか?」


 女性の頭越しに声をかけてきた中年男性の職員は、ダンジョン関連と思われる書類束を手に持ちながらカウンター越しにロノムと相対した。



「頼みたい仕事……ですか?」


「ああ。K-6ダンジョン、通称『リトルワイバーンズ・ネスト』だ。名前の通り小型ワイバーンが徘徊するダンジョンなんだがな、つい先日厄介なことが起きた」


 そう言うと中年男性の職員が書類の束をパラパラとめくる。



「二層でボス級の魔物『ヴィーヴル』が確認された」



「ヴィーヴル?」


 アイリスがロノムに聞く。



「上半身が人間の女性で、下半身が蛇のような姿をした魔物だよ。高位の魔法を操り、数体の眷属を連れていると聞く」


 ロノムがアイリスに対してそう答えた。



「現在こいつにやられた冒険者の数は九人。最初にBランク二人とCランク四人のパーティが全滅した。次にBランク四人のパーティがダンジョンに挑んだが、報告者の一人を除いて三人が命を落とした」


 中年男性の職員が該当ページを開きながら続ける。



「ギルドとしては一旦ダンジョンを封鎖し対策を議論していたのだが、つい先日の会議で『Aランクメンバーを保有するアライアンスにヴィーヴル討伐を依頼する』という方向で話がまとまった」


 中年男性の職員は該当ページを指さして更に続けた。


「と、いうわけでだ、ヴィーヴル討伐を君達シルバー・ゲイルにお願いしたい。引き受けてくれる場合は討伐報酬を冒険者ギルドから出すし、無論の事ながら断って通常のダンジョン探索に行っても何ら咎めはない、別のアライアンスに依頼を出すだけだ」



 その言葉を聞いてロノムは一旦アイリスの方を見る。


「私はどちらでも構いませんよ。ロッさんに任せます」



「分かりました。シルバー・ゲイル団長として、そのご依頼、引き受けましょう」


 ロノムは中年男性の職員に向き直ると、そう答えた。



「有難い、ギルドの方でも討伐に関しては全面的にバックアップする。加えて、ギルドから調査員兼見届け人として職員を一人、パーティに同行させて貰っても構わないか?」



 ダンジョンは人数が増えればトラップや魔物の数が激化するという性質がある。


 その閾値(しきいち)が大体六人から七人の間であり、それ故にアンサスランの冒険者パーティは六人がフルパーティとされている。



 しかし、現在ロノムのパーティはロノム、アイリス、メルティラ、ルシアの四人だけだ。


 仮にギルドの見届け人を入れて五人になったところで大した違いはないだろう。


 その事も加味した上でロノムは首を縦に振った。



「ええ、大丈夫です。ダンジョンに向かうのは明日の朝とパーティメンバーに伝えていますのでそのつもりですが、宜しいですか?」


「了解した。では、明日一緒に同行するギルド職員を調整しておく」


 そう言いながら中年男性の職員がダンジョンの資料を閉じたところで、後ろからロノムにとって聞き覚えのある声がかけられる。



「ああ、それには及ばん。彼等と共に行くのは私だ」


 そんな言葉と共に窓口の奥から出てきたのは、冒険者ギルドの常設役員の制服に身を包んだダンディズム溢れる初老の男性。



「な……フィスケルさん!?」


 中年男性の職員は振り返るとその人物に対して目を丸くした。



 元Sランク破壊術師「瞬詠(しゅんえい)のフィスケル」


 現在は年齢もあって第一線からは退きギルドの常設役員という重職を担っているが、その実力は未だ冒険者の中でも最高ではないかと言われ続けている。


 ロノムにとっては、ダンジョン新層発見の際の立会人であったり、メルティラとルシアを助けて貰ったりと、何かと縁のある人であった。



「よいな? シルバー・ゲイル団長」


 その様子を横目で流し見ただけで、初老の男性……フィスケルはロノムの方へと向き直り問いかける。



「は、はい。我々としても、フィスケルさんの同行に異を唱えることはありません」


「よし。では明朝、日が昇る時刻にアンサスラン正門前で落ち合うとしよう」



 そう言うとフィスケルは挨拶もそこそこに、奥へと引っ込んでいった。


 ロノムとアイリス、そして冒険者ギルドの中年男性職員は互いに顔を見合わせながら、しばらく呆然としていた。





*****************************





「おはよう諸君、良く晴れた清々しい朝だな。野歩きにはもってこいだ」


 翌朝のことである。


 フィスケルはギルドの荷運び役五人を連れ立って、ロノム達一行と合流した。



「おはようございますフィスケルさん。遅くなりましたが、過日におきましてはパーティメンバーであるメルティラとルシアを助けて頂きありがとうございました」


「あの時フィスケル様が来られなかったらどうなっていたか……。感謝いたします」


「ええと、ええと、元Sランク冒険者の実力、しっかりと見させて頂きました。勉強になりました」



 ロノムを先頭にメルティラとルシアが頭を下げながら挨拶する。



「なに、構わん構わん。ゲンの娘も射撃士のお嬢さんも、先日は装備の整わない中での襲撃で不運だったな。今日はお手並み拝見といくぞ」


 笑みを浮かべながらフィスケルがそれに答えた。



「お眼鏡に適うほどの力量かは分かりませんが、精一杯の力を発揮したく存じます」


「はい! がんばります!」



 メルティラとルシアの言葉に目を細めながら、フィスケルは荷運び役に指示を出す。



「では、早速向かおうか。お前達、宜しく頼むぞ」


 その言葉に五人の荷運び役達は手際よくロノム達の荷物を担ぎ上げた。



「に……荷運び役……! これが噂の……!!」


 アイリスが若干の感動を覚えながら言う。



「うちのような小さいところでは雇えないからね……。アイリスさん達には苦労をかける……」


 ロノムが若干縮こまりながら頭を掻いた。





*****************************





 ダンジョンの入口である山岳の裾野に到着すると、荷運び人達は素早く野営地を設営し始めた。


 荷運び人達が野営地の準備をしている様子を後ろ目に、簡易的に設置された椅子に掛けながら、ロノムはメンバーに対してダンジョンの概要を説明する。



「今回のダンジョンはK-6ダンジョン、通称『リトルワイバーンズ・ネスト』だ。あらかじめ伝えている通り、今回はダンジョンの探索が目的じゃない、ボス級の魔物『ヴィーヴル』の討伐が目的となる」


「はい」



「ヴィーヴルは数体の眷属を連れながらダンジョンを徘徊する魔物だ。見つけたら大部屋に誘い込み、そこで撃破しようと思う。相手の攻撃手段は多彩な魔法なので、アイリスさんは魔法に対する防御を中心に。メルティラさんはヴィーヴルを抑え込みながら、序盤は耐えて欲しい。ルシアさんと俺は眷属を片付けてから、ヴィーヴル本体に向かう」



「りょーかいです」


「承知しました」


「分かりました」



 三者三様の返事を聞いた後で、ロノムはフィスケルの方へと目を向けた。



「あー、私は今回は見届け人なのでな。既に引退した身でもあるし、余程の事がない限りは手出しせんでおこう。パーティの連携もあるだろうからな」


「はい、大丈夫です。やむなく撤退する場合だけ、援護をお願いします」


「承知した」


 フィスケルの言葉を聞いてロノムはアイリスたち三人へと向き直る。



「では、ダンジョンに向かおう。いつもとは勝手が違うけど大丈夫、きっとうまくやれるよ」


「「「はい!」」」



 その言葉と共にロノム達一行は立ち上がり、ダンジョンの入口へと向かっていった。

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