26.ダンジョン探索(1)―はい。その節は大変ご迷惑をお掛けいたしました
「王女様と謁見しようが、俺達冒険者のやることは変わらない。俺達冒険者の仕事はダンジョンを探索し、旧文明の遺産を見つけてくることだ」
ロノムがダンジョンの薄暗い通路を先頭で歩きながら、そう言った。
「と言うロッさんでありましたが、朝からハンドアックスと間違えて吊るしておいた干し野菜を鞄に入れたり、水筒に入れた飲料水を全部ひっくり返してしまったりと、随分舞い上がっておりましたとさ」
「はい。その節は大変ご迷惑をお掛けいたしました」
他にも靴を履き忘れて出ようとしたり、ギルドから受け取った地図を野営地の焚火にくべようともした。
「でも、でも、仕方ないですよ。僕がロノム隊長の立場でしたら、間違いなく王女様から声をかけられた時点で倒れていた自信があります」
「私も同じです。恐らく言葉にならないような声を発してしまっていたと思います」
「うん、フォローありがとう……。と言っている間に前方通路から魔物が来るよ。小型種族……恐らくゴブリンが四体だ」
その言葉にアイリス、メルティラ、ルシアの三人も身構える。
王女様と謁見した日から二日後、冒険者ギルドから解放されたロノム達はその足で許可を貰い、ダンジョン探索に来ていた。
J-11ダンジョン、通称「ユニティ・ホード」と呼ばれるダンジョンであり、オーガやゴブリン、そしてワーウルフと言った様々な魔物達が守りを固めているダンジョンである。
ゴブリン四体を難なく撃退したロノム達一行は更にダンジョンの奥へと足を向けた。
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「横の小部屋に小型種族二体の待ち伏せ、そして後方からは大型の魔物一体だ。恐らくオーガだな」
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「後ろから近づいてくる……。魔法能力を持つ中型の魔物二体だ。多分メイガスじゃないかな。あと、前方から近接武器を持った中型の魔物。これはリザードマンか……?」
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「横方向から中型の魔物一体! 高速で接近してきている、ワーウルフだ! それと、後方からも小型の魔物二体! ゴブリンじゃないな!? と言うことはコボルトか!?」
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「色々な魔物が混在して襲ってくるとは聞きましたが、混在しすぎではありませんか……!?」
魔物との戦いを終え小休憩を取りながら、アイリスが半ばキレ気味に言った。
「少なくともリザードマンとコボルトはギルドから貰ったダンジョン概要には無かったな……。新たに生産されているのか、それとも前回パーティが攻略した時にトラップを作動して気付かなかったとかか……?」
「いずれにしても、おかしなことになっているようですね。どういたしますか? 一度攻略を打ち切りますか?」
メルティラがロノムへと問いかける。
「いや、対処できるレベルの魔物ではあるし、このまま探索しよう。原因が分かれば幸いだ」
「りょーかいです。お宝もそうですがダンジョンがおかしなことになってる原因も見つけたいところではありますね」
そんな会話をしながら小休憩を終え、ロノム達一行は更に奥へと向かっていった。
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「むむ? 向こうの壁ですが、大穴が空いておりますね」
アイリスが通路の奥にある壁に大きな穴があるのを見つけた。
「なんだろうか……。どこかに繋がっているかもしれない、行ってみよう」
トラップに注意しながらロノムが壁にできた大穴を覗き込む。
大穴の先はロノムの身長の倍はあるであろう高さの段差と共に大きめの部屋があり、コボルトやリザードマンと言った魔物が徘徊するようにウロウロしていた。
「どうも……こっちの部屋は俺達がいる方のダンジョンとは別のダンジョンみたいだ……」
「どう言う事ですか……?」
ロノムの言った言葉にルシアが聞き返した。
「まず内装の趣が違う。我々がいる方のダンジョンは石造りと言うか土造りと言うかそんな感じだが、向こうの部屋の内壁は金属製と言った感じだった」
「そして魔物の種類もだ。恐らくだが……何らかの原因でこっちのダンジョンと別のダンジョンが繋がってしまって、魔物の混在が起きてしまっているんだと思う」
「なるほどなるほど。魔物が変に入り混じっていた要因は分かりましたが、何が原因なんでしょうかねえ?」
「それを調べるために向こうの部屋に飛び降りてみよう。まずは魔物の排除からだ」
そう言うとロノムは登攀用のロープをセットして、大穴の先にある段差を飛び降りた。
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「コボルトは弱い! まずはコボルトの数を減らしてから、リザードマンに取り掛かるぞ!!」
「はい!」
ロノム達一行が大部屋に降りると、部屋を徘徊していたコボルトやリザードマンが一斉に襲い掛かってくる。
コボルトは小さいながらも刃物のような武器を持ち奇声を上げながら突貫してきた。
しかし、あるものはロノムによって蹴り飛ばされ、あるものはルシアの銃撃によって倒される。
対してリザードマンはそれぞれ連携を取りながら波状攻撃を仕掛けてきた。
それをメルティラが近くにいるアイリスとルシアをかばいながら大盾でいなし続ける。
同時に後方から火の玉が飛んできた。
先程までは見えなかったが、魔法を使う魔物「メイガス」が参戦してきたらしい。
「魔女に目を付けられたお姫様。困った王様は賢者を訪ね、おまじないを教わった。防げ! プロテクション!!」
アイリスが魔法に対する防衛魔法を展開しながら応戦する。
メイガスの放った火の玉はアイリスの展開した障壁にぶつかると、火に水を掛けたような音を立てて消え失せた。
「はああぁ!!」
その間にロノムがコボルトやリザードマンの間を割って駆け抜け、メイガスをハンドアックスの一撃で葬っていった。
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「オオオオォォ!!」
魔物の数も減ってきたころだろうか、ロノム達が戦っていると突如何者かの咆哮が轟いた。
「なにごと!?」
「い……今のは!?」
更に何かが近づいてくるような地響き。ロノム達のみならず魔物達の動作も止まる。
そして魔物達……特にリザードマンが騒ぎ出し、大部屋から逃げ出そうとした。
しかし、逃げ出したリザードマンを蹴散らしながら大部屋から続く通路に現れる巨大な影。
何匹かのリザードマンはその一撃だけで砂へと還り、残りの魔物も退散する。
「ロ……ロノム様……! あれはいったい……!?」
通路の奥から現れたのは、全長で言えば人間の数倍はある獣。
その獣は獅子の身体と頭をベースにして、右肩とも言える前脚の付け根付近からは長く伸びた山羊の頭、そして左側からは蛇の頭が突き出ていた。
背には蝙蝠を思わせるような飛膜が二対生えており、その尾は蠍のような無機質な外骨格と先端には針のような突起がついている。
獣は突撃の咆哮をあげると、その巨体からは考えられない速度で一直線にロノム達へと向かってきた。
「話には聞いたことがある……獅子と山羊と蛇が一体となったその姿……キマイラだ!!」





