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25.足を引っ張っていた無能な仲間に別れを告げたパーティリーダーは足枷がなくなり成り上がり街道を駆け上がる~今更自分の無能さに気付いたようだがもう遅い。土下座してきても知りません~(3)

「今日のダンジョン攻略は気合入りまくりだなぁ! 絶対に『紫紺(しこん)宝珠(ほうじゅ)』を見つけてやろうぜ! なあ!?」


 パーティリーダーにしてBランク射撃士のボルマン隊長が山岳地帯の中腹に設営された野営地でそう叫んだ。



「まあ、見つかるといいッスね」


 ボルマンの腰巾着である白兵士のホリドノンがいつもの適当な感じで相槌を打つ。



 ボルマン達六人のパーティは山岳地帯の中腹にあるダンジョン、通称オーガズ・クレイドルの探索に来ていた。



 目標は現在話題沸騰中のお宝「紫紺(しこん)宝珠(ほうじゅ)」。



 国王が中将である第二王女を自由都市アンサスランに派遣してまで入手したいと言う代物であるが、発見の報告はあっても現物を手に入れるまでには至っておらず、未だ王女率いる捜索隊がアンサスラン中を探し求めていると言う噂である。


 発見した冒険者パーティの勘違いだったのか、はたまた既に手の届かないところへと渡ってしまったのか……。



 と言う訳で、紫紺(しこん)宝珠(ほうじゅ)発見の報告があったオーガズ・クレイドルは二匹目のドジョウを求めて大変な人気ダンジョンとなっているのだが、見事ドディウス率いるアライアンス「レッド・ドラグーン」が今回探索隊の座を射止め、エースパーティであるボルマン隊が派遣されたのである。



「なんてったって紫紺(しこん)宝珠(ほうじゅ)を見つけて国王様に献上できれば報酬もたんまり……いや、オレ様くらいの美男子ともなれば王女様から求婚されてもおかしくないからなあ。そうなったらお前達もちゃんと引き立ててやるから、安心しろな!」


 ボルマンはいつもの馬顔に隠し切れないにやけ顔を浮かべながら、心は既にロイヤルファミリーの一員となっている。


 ……勿論のことながら、いち庶民が王族から求婚されることはないし、そもそもローレッタ妃は既に現国王の弟の子と姻戚関係にある。


 しかしボルマンにとってはそんな事は知らないしどうでもいいことらしい。



 そうそううまくいく事は無いと分かっているが、パーティメンバー達も今回のダンジョン探索は目的がはっきりしているため気合が入れやすい。


 他の五人もボルマン程ではないが気力充分と言った感じである。



 射撃士ボルマンを筆頭に白兵士ホリドノン、防衛士カリエル、破壊術師エクスエル、治癒術師ネシュレム、支援術師ティーリの六人は、ダンジョンの奥へと足を踏み入れて行った。





*****************************





「ボルマン隊長、ケツに火が付いてるッスよ。いや、比喩じゃなくて文字通りに」


「ん? え? ……どわっちゃああああ! あっちい!!!」


「気をつけろ! あの巨大オーガ、魔法を使うぞ!! ティーリ、魔法防御を中心に組み立てろ! カリエル、魔法攻撃自体の威力は大したことはない、魔法はティーリとネシュレムの支援に任せて打撃に集中しろ!!」


 後ろでゴロゴロ転がりながら火を消すボルマンを尻目に、五人はエクスエルの指示で即座に大型のオーガと対峙した。



 ボルマンパーティは防衛士のカリエル以外がBランクと言うこともあり、戦闘に関して言えば優秀なパーティである。


 パーティメンバーが六人と言うこともありロノム達が苦戦した大型オーガも難なく撃退することに成功した。



「よっしゃー! いい感じじゃねえか。つーか今の大型オーガよお、ボスっぽくねえ? と言うことは、もしかしたらこの部屋に紫紺の宝珠、あるんじゃねえの!?」


 尻についた火を消すことに必死でほとんど戦闘に参加していなかったボルマンが先頭に立ちながら、今まで戦っていた大きな部屋を見渡す。


 ダンジョンにもよるが、他の場所よりも強力な魔物が配置されているような部屋には希少なお宝が隠されている事が通例なのだ。



「ええと、でもこの部屋は前の探索で踏破済みのようです。紫紺(しこん)宝珠(ほうじゅ)もこの部屋で発見されたみたいですよ」


 冒険者ギルドから貸与されたダンジョンの地図を見ながら、ティーリがボルマンに言った。



「つっても、前の奴等が探しきれなかった紫紺(しこん)宝珠(ほうじゅ)もあるかもしれねーぞ? おい、ホリ。探してみようぜ」


「うッス」



 そう言うとボルマンとホリドノンは部屋の中を探索し始める。


 念のためティーリは探査の魔法を展開し、罠の有無を調査した。



 魔法を展開し終わったところで、ティーリは何かを感知する。


「えっと、ボルマン隊長、その辺り気を付けてください」


「あん? なんだって?」


 ボルマンは振り向くと同時に大部屋の一画で何か動く固いものを踏み込んだ。



「ええと、スイッチ式のトラップが床の方にあるみたいで」


 ボルマンが固いものを踏み込むのと時を同じくして、大部屋全体が「ゴ」とも「ガ」ともつかない音で鳴動し、金属とも石ともつかない材質で覆われた壁の一部が開き始める。



「そ、そのトラップを作動してしまうと、ええと、その……」


 開かれた壁の先には巨大オーガが十数体、ボルマンパーティを睨みつけていた。



「撤退だ!! 数が違い過ぎる!!!」


 エクスエルはそう叫ぶと近くにいたネシュレムを小脇に抱えダンジョンの出口に向かって走り出した。


 その言葉にカリエルとティーリ、そしてホリドノンも即座に続く。



「えーと……? え……?」


 一人取り残されたボルマンに巨大オーガ達は視線を注ぎ、火炎の魔法の詠唱を始めた。



「どわっちゃああああ! あっちい!! 本日二度目ぇ!?」


 からくもオーガ達による魔法の直撃は避けたもののボルマンの尻は再び点火する。


 ボルマンは普段の脚力では考えられないスピードを出しながら、文字通り尻に火が付いた勢いでダンジョンを駆け抜けた。





*****************************





 何とか全員無事にダンジョンを脱出し翌日の再突入に備えようと野営地を整えていたボルマンパーティであったが、レッド・ドラグーンの連絡担当員から「王女様が紫紺(しこん)宝珠(ほうじゅ)を手に入れアンサスランから引き揚げたらしい」と言う話を聞いたのはその日の夜だった。



 失意のボルマンパーティは翌日の再突入を取りやめにし、日が昇ると同時にすごすごとアンサスランに戻ることにした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ボルマンの適度な三枚目っぷり。 ざまぁものは多いけれど、やりすぎたりあっさりしすぎたりと、匙加減が難しく適切解に至ったものはなかなかない。 そういう意味で今作のボルマンは読者の溜飲を下げつ…
[気になる点] 妃ってことは結婚してるんじゃないの? 王女から求婚ってどういうこと?
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