24.シルバー・ゲイルの代表者もしくはそのパーティメンバーを大至急出頭させよ
「あの、どう言う事です? 詳しく教えて頂かないと何も分からないのですが」
いつもの街着姿のロノムは、早足で歩く冒険者ギルドの職員二人の後ろにつけながら疑問を投げかける。
「すみません、僕達も何も伝えられていないんです。上層部の方から『シルバー・ゲイルの代表者もしくはそのパーティメンバーを大至急出頭させよ』と言う命令しか受け取っていなくて……」
「急な出頭要請となると不安になりますね……。何か粗相でもしてしまったでしょうか……」
絹と亜麻糸で織られた召し物を身に纏ったメルティラは、不安そうに言う。
「何があったんでしょうかねえ? 我々基本的には品行方正に生きておりますよ??」
毛糸で編まれた暖かそうな服を着こんだアイリスも首をかしげながら、冒険者ギルドの職員にそれとなく聞いた。
「分かりませんけど、上層部の様子を見るにシルバー・ゲイルの皆様に力を貸して欲しいと言った雰囲気だったような……」
「ロノム隊長達はともかく、僕がお役に立てることは無いと思うので留守番をしていた方がいいのではないでしょうか……」
皮の長ズボンと白い絹製のブラウスを身につけ、いつものキャスケットを被ったルシアがおずおずと声をかける。
そんな会話をしながらロノム達一行は、冒険者ギルドへと足早に向かっていった。
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冒険者ギルドに到着するとまず真っ先に四人ともギルド併設の浴場へ突っ込まれ、その後ギルドが用意した立派な服に着替えさせられた。
そして豪奢な一室で待機するよう命じられるとすぐに、髭を蓄えたダンディズム溢れる冒険者ギルド役員が現れ説明を始める。
「まず、突然の出頭要請を容赦願いたい。君達シルバー・ゲイルに出頭要請を出したのは、これからある御方に会って頂きたいからだ」
「本来であれば君達……いや、我々ですらお目通りも叶わん人物であるが、その御方たっての希望もあり君達に出頭を願った。くれぐれも、粗相無きようお願いしたい」
ロノム達四人はまだ状況が掴めずにいるが、冒険者ギルドの役員は簡単な説明を終えると、ロノム達についてくるよう促した。
部屋を出て廊下をしばらく行くと奥には冒険者の集うギルドには不釣り合いとも言うべき華美な作りの扉があり、その前で役員は立ち止まる。
「執行役員フィスケルだ。シルバー・ゲイルの代表者及びそのパーティメンバー三名を連れて参った」
「よい、入れ」
扉が開くと脇には物々しい武装の騎士団と、華々しい戦歴を持つギルドの役員達が左右に控えている。
そして部屋の奥には、国王軍将官の制服である煌びやかなジュストコールを身に纏った、美しいブロンドの年若く凛々しい女性が一人。
ロノムはその人物を見て息を飲む。
アイリス、メルティラ、ルシアの三人はその人物のことを知らなかったが、雰囲気でただ者ではないことを察した。
「アライアンス『シルバー・ゲイル』の一同、この度は突然の出頭要請に応えて頂き感謝する。この御方は我が国の第二王女にして国軍中将、ローレッタ妃である」
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「まず出頭要請の理由について説明させて頂く……」
「よい。私が呼んだのだ。私の口から説明する」
「は……」
傍に控えていた禿頭の従者を遮ると、ローレッタ妃はロノム達に言葉を紡いだ。
「この場に馳せ参じてくれたこと、礼を言う。私がそなた達を呼び立てたのは、ある物の行方を追っているからだ」
「その物の名は『紫紺の宝珠』。そなた達が苦難に溢れる冒険の末に手に入れたと聞く。相違はないか?」
「このような機会に恵まれなかったため不調法があれば、お許し下さい。確かに我等シルバー・ゲイルが、ダンジョン探索の末に紫紺の宝珠を見つけ出しました」
ロノムは直立の姿勢のまま答える。
「その言葉を信じよう。現在我が父である国王陛下はある事情により……」
「いや、包み隠さず話そう。陛下は辺境での活躍目覚ましいクリストファー伯に下賜すべく、紫紺の宝珠を探している。クリストファー伯との関係を強固にするものであると同時に、対立国家を牽制するためでもある」
「故に、早急に紫紺の宝珠を入手したいところで今回の発見の報を聞きつけ、我々はアンサスランの市場やその流通経路を当たった。しかし、何処を探そうとも紫紺の宝珠は見つけることが出来なんだ」
優雅な仕草でかぶりを振りながら、ローレッタ妃は話を続ける。
「そなた達には紫紺の宝珠発見の感謝を述べると同時に、次に手渡した先を聞く目的でこの場に呼んだ。どの者に渡したか、教えて欲しい」
威厳があり、それでいて高圧さは感じられない口調と声色でローレッタ妃はロノムに問うた。
「恐れながら我等が発見した紫紺の宝珠ですが、市場には売らずまだ手許に保持しております。お許し頂ければ直ちにシルバー・ゲイル本部に立ち戻り、紫紺の宝珠を持参いたします」
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「確かに紫紺の宝珠であることを確認した。申し訳ないが今はそなた達から譲り受けた紫紺の宝珠を早急に陛下へと届けなければならぬ。褒美については後日必ず取らす故、今は容赦願いたい」
紫紺の宝珠がローレッタ妃及びその従者達によってよく吟味された後、夜遅くになってロノム達は解放された。
「なななな何かすごいことになってしまいましましたね」
「わ、私、今も緊張で震えております……。本当にこのようなことがあるのでしょうか……」
「あの、あの、紫紺の宝珠を見つけていたとは聞いていましたが、まさかこのような事態を予見しての事なのでしょうか……? ロノム隊長は神か何かですか……??」
アイリスとメルティラ、そしてルシアがスイートルームの隅っこでふるふるしながら会話していた。
ロノムは会話には参加せず、立派なソファで腕を組みながら座っている。
ローレッタ妃の逗留する部屋を辞した後、四人は冒険者ギルドが用意してくれた部屋でそれぞれ宿泊することとなった。
急な出頭に対応したロノム達に対するギルドからのねぎらいと同時に、もし王女から緊急の要請があればいつでも出頭できるようにするためであった。
現在は四人同じ部屋で今日の出来事をまとめている。
シルバー・ゲイル本部に紫紺の宝珠を取りに戻る段も非常に物々しかった。
王国の騎士団とギルドの役員数名が帯同し、何事かと思われるような大人数で紫紺の宝珠をアライアンスの金庫まで取りに行った。
ロノムは実際に金庫を開けて紫紺の宝珠を取り出すまで、生きた心地がしなかった。
「それにしてもロノム様は流石ですね……。あのようなことがあったばかりなのに、今も落ち着いて座ってらっしゃいます」
「やはりロノム隊長はこのことを予見してたんですね……。すごい……すごいです」
「いやー……本当にロッさんがいなかったらどうなっていたか分かりませんよ、感謝です。……て、ロッさん? ロッ……気絶してるゥーーー!!!」
翌朝ロノムは開口一番こう言った。「王女様に謁見すると言う不遜な夢を見てしまった」と。





