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19.足を引っ張っていた無能な仲間に別れを告げたパーティリーダーは足枷がなくなり成り上がり街道を駆け上がる~今更自分の無能さに気付いたようだがもう遅い。土下座してきても知りません~(2)

「どうしていつもこんな目に……」


 金髪碧眼の美少年、支援術師のティーリは深くため息をつきながら、大きな荷物を抱えて歩いていた。



 その日はアライアンス「レッド・ドラグーン」のエース、ボルマンパーティのメンバー六人全員に休日が与えられていた。


 メンバーの一人であるティーリも休日を利用して図書館に入り浸り読書三昧の一日を送る予定であったが、朝からパーティリーダーのボルマンに叩き起こされて買い物の荷物持ちと言う大任を仰せつかったところである。



「おい、遅えぞティーリ。キリキリ歩けってんだ」


 前方にいる、癖の強い茶髪を長々と伸ばした馬顔の男がティーリに対して声をかけた。ボルマンパーティのリーダー、ボルマンその人である。


 荷物は何も持っておらずほぼ手ぶらだ。


 その隣には大柄な黒髪短髪の男。ボルマンの腰巾着、ホリドノンである。



「そう言やよ、他のメンバーは休日何してんだ? エクスエルとかネシュレムとかよ」


「さあ、知らないッスね。ああ、エクスエルは今日、体力づくりの為に走り込みに行くとか言ってたッスね」


「はっ、休みの日にご苦労なこって。さっすが、求道者様は違いますなァ!」



 小馬鹿にしたような感じでボルマンが言った。


 エクスエルのストイックさはレッド・ドラグーン内で有名な話である。



「お、あっちの服もいいじゃねえか。ホリ、見てこうぜ」


 そう言うとボルマンは大通りにある仕立て屋の方に目を向け歩いて行った。



「いい服を着るのは顔のいいオレ様の義務だ。オレ様がみすぼらしい格好をしていたら、ご婦人方の損失だからな」


 そう言っていつも見てくれに散財するのがボルマンである。


 遅れて歩きながらティーリはため息をついた。



「この服だって、着るのかどうかも分からないのになぁ……」


 ティーリが抱えている荷物の大部分は、ボルマンが今日買った衣服である。



 レッド・ドラグーンの給金はそれ程高いわけではないが、エースパーティのリーダーであるボルマンはある程度羽振りがいい。


 にも拘らずボルマンは貯金がないどころか、借金までしているのだ。


 ほとんどが酒代と衣服代に消えているとのもっぱらの噂である。



「おい見ろよホリ、この服はオレ様に着られたがっている。オレ様には分るんだ、服の声が聞こえんだよ」


「はあ。まあ、そう言うこともあるかもしれないッスね」



 ボルマンがご自慢の馬顔の顎に手をやりながら、仕立て屋の一画に飾られた上等な衣服を見ている。


 値段は中々張るものであり、十日ごとの給金一回分に相当する額であった。




「おい、ティーリ。持ち合わせが足りねえから、ちょっとばっかし貸してくれよ」


 大荷物を抱えヨロヨロと歩いてきたティーリがボルマン達に追いつくと、そんなことを言われる。



「ええ……この間お貸ししたお金もまだ返して貰ってないですよね? それに、借金までして散財しても大丈夫なんですか?」



「こまけーなぁ……今度まとめて返してやるから安心しろ。値切っちまった手前、買ってやらねえとわりぃんだよ」


 そう言うとボルマンはティーリの懐から財布をふんだくり、店の主人に服の代金を払ってしまった。





*****************************





「もうやだ……このリーダー……」



 ティーリは再び荷物持ちをしながら、少し距離を開けてボルマン達の後を歩いている。


 アライアンス内の人事異動があった日、レッド・ドラグーンのエースであるボルマンパーティに配置換えを言い渡された時は大層喜んだ。



 大手アライアンスのエースパーティに身を置く名誉。


 好奇心旺盛で飲み込みが早く、加えて勉強熱心なティーリにとっては偉大な先輩に教えを乞える最高の環境だと信じていた。



 しかし蓋を開けてみれば、リーダーであるボルマンはいい加減で傍若無人、ホリドノンは何も考えていない。


 ネシュレムは口数が少ないのでコミュニケーションが取れず、エクスエルは職人気質で教え下手、二言目には「目で盗め」。


 一番よくしてくれたロノムは先日アライアンスから解雇されてしまった。




(団長に掛け合って、配置換えして貰おうかな……)


 そんなことを考えながら歩いていると、突然前の方が騒がしくなった。




「見つけたよボルマン! 今日と言う今日は、今までツケにしてた分払って貰うからね!!」


「げ! 飯屋の女将さんじゃねえか!」



 前方を見ると、ボルマンが物凄い形相をしたおばさんに追い回されている。



「オレのところが先だぜ! 半年も前の酒代がまだ残ってんだぞ!」


「ぎゃあ! バーのマスターまで!?」



 おばさんだけではない。元冒険者と思われる、筋骨隆々のおっさんからもだ。



「ボルマンじゃと!? わしの貸した金もまだ返して貰っておらんのじゃ!」



 それどころかお爺さんも参戦してきた。



「な……こっちからも……! どうなってんだ今日は!! おい、ホリ! 逃げんぞ!!」


「うッス、了解ッス」



 その後も借金取りの群れは膨れ上がり、かなりの人数になっていた。


 ボルマンとホリドノンは借金取りに追われながら、ティーリの方に一目散に駆け込んでくる。



「ど、どうして僕の方に逃げてくるんですかぁ!? 関係ないですよおおぉぉ!?」


「うるせえ! お前はオレ様の部下だろうが!! 何とかしやがれ!!!」



 大荷物を抱えながら、ティーリはボルマン、ホリドノンと一緒に走り出す。



「うわあああん! これ、ボルマン隊長の買った服ですー! 持ってっていいので見逃して下さあああい!」


 そしてティーリはボルマンの買った服を放り投げ、泣きながら全力で駆け抜けた。



「てめぇ! ティーリ!! オレ様の服をーーー!」


「不可抗力ですよーーー! 大体ボルマン隊長が悪いんじゃないですかーーー!」


 服を手放したティーリ。それでも尚ボルマン達三人を追いかけ続ける借金取り達。



「こんなんでツケが払えるなんて思うんじゃないよー!」


「この際誰でもいい! あいつの酒代、きっちり連帯責任で払って貰おうか!」


「逃げようったって、そうはいかんぞ!!」




 正直言って、ティーリにとってはダンジョンの魔物達よりも今この場にいる借金取りの方が余程怖い。



 ボルマンの借金取りに追われ街を駆け抜けながら、ティーリは思った。


「いつか絶対こんな隊長のパーティ辞めてやる!」と。

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