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18.僕はルシア、射撃士の冒険者です

「なるほど……L-6ダンジョンについて前回探索許可を出したアライアンス『ストーム・ブレード』は壊滅、唯一の生き残りである射撃士ルシアを発見し保護したと言うことだな?」


「はい。ストーム・ブレードの探索から日数があまり経っていなかったこと、ルシア氏の生命力が高かったことが幸いしました。同様のケースは滅多に無いことのように思います」



 ダンジョン探索を切り上げた後、ロノムは一人、冒険者ギルドに対して今回ダンジョン探索の報告を行っていた。


 大体の場合は報告書を提出するだけで済ませているが、今回は事情が事情だけにギルドの職員に対して詳報を口頭で説明している。



「やはり、リザードマンは危険だな……。ストーム・ブレードも少数のアライアンスとは言え半数がBランク以上故にL-6ダンジョン探索の許可が出たものと思うが、少し基準を厳しくしなければならないかもな」



 歴戦の冒険者と言った風な報告窓口の男性が、ロノムと会話しながら暗い表情で報告書を読み続ける。


 彼もまた元冒険者であり、白兵士のAランクまで昇りつめた実力者でもあった。



 この街では冒険者ランクが高ければ引退後もギルドの職員や街の役人として第二の人生を歩むことができる。


 勿論そんな職を得るためには、ある程度の識字能力は必要だが。



「彼等も大手から独立してアライアンスを結成したばかりのようですので、功を焦っていたのでしょう。結構な無茶をしていたようです」


「いずれにせよ、貴君等シルバー・ゲイルには感謝する。冒険者は我々ギルドにとってもかけがえのない財産だからな、一人でも生還できたことはありがたい。貴君等も無謀なことはせず、長く冒険者を続けてくれ」


「肝に銘じます。それでは、今回の報告はこれで終わります」



 ロノムが挨拶をして窓口から離れようとしたところで、職員から一言声をかけられた。



「ああ、それと、シルバー・ゲイルはギルドでも噂に上っているよ、今売り出し中の新星アライアンスだってな。俺も個人的に応援してるから、頑張れよ」


「ありがとうございます。オーガ連続二十体斬りのクラウルさんに応援されるとは光栄です、精進します」


「なんだ、俺の事も知っているのか。流石データマニアのロノムだな」





*****************************





「と、言うことがあったんですよー。ほんとーに辛かったと思います」


「そっか……。アライアンスのみんなは……残念だったけど……、ルシア……あなたは……生き残れて……よかったと思う……」


「ええ、私もそう思います。それにダンジョンに置き去りにされた恐怖の中、生存なされたのは立派なことです」



 ロノムがギルドに報告している時間、アイリスとメルティラはこの間の「ロノムVSエクスエル」の際に友人となったネシュレム、そして今回ダンジョンから連れ帰ってきたルシアと共に、喫茶店のオープンテラスでお茶会をしていた。



 ギルド近くにあるどこか洒落た喫茶店である。



「今ここで僕が生きているのはロノム隊長とアイリスさん、メルティラさんのお陰です。本当にありがとうございます」


「ふふーん、困った時はお互い様ですよ! 我々に何かあった時は駆けつけてくださいね!」


「それはもう、何を置いても駆けつけます……!」


 そんな話をしていると、四人の前にこの店名物のクレープ包みとコーヒーがそれぞれ給仕された。




「ここのチーズクレープは本当に美味なのですよ。皆様にも是非食べて頂きたかったのです」


 そう言いながら運ばれてきたクレープをメルティラが優雅に切り分ける。



「うおおーこれが噂のヒバリ亭名物チーズクレープ! 初めて食べると言う感動です!!」


 アイリスはクレープ包みをフォークでつつきながらその感触を確かめていた。



「コーヒーも……美味しい……。この深煎り……只者ではない……」


 コーヒーに対しては並々ならぬ拘りのあるネシュレムもこの味にはご満悦である。



「あの、あの、僕なんかがこんな贅沢してしまっていいのでしょうか……」


 若干ネガティブな気質のあるルシアはコーヒーの注がれたカップを両手で持ちながら縮こまっていた。




 ヒバリ亭は少し値は張るがメルティラ推薦の美味しい店である。


 四人はクレープ包みを堪能しながら、女子会を続けていた。



「それでルシア……あなたは……これからどうするの……? Bランクだし……冒険者を続けるなら……引く手数多(あまた)だと……思うのだけど……」


 食べる速度が遅めのネシュレムが小さくクレープを切り分けながら、ルシアに問いかけた。



「どうしたらいいのかはまだ整理がつきません……。前に所属していたアライアンスに戻ることも考えましたけど、一緒にパーティを組んでいたゾルー隊長達はもういませんので、あまり戻る理由がありません」


「ただ、僕には冒険者しか取り柄がないので続けたいとは思います」


 コーヒーカップを抱えながら、ルシアが答える。



「だったら、我々シルバー・ゲイルに入団しませんか? ルシアちゃんなら大歓迎ですよ! 完っっっ全に人手不足なアライアンスなのが申し訳ないですけど!!」


 既にクレープを食べ終えたアイリスが元気よくルシアを勧誘した。



「え、ええ? 命の大恩人の方々にこれ以上のご迷惑をかけてもいいのでしょうか?」


「私も歓迎いたします。必要であれば団長であるロノム様と出資者である養父に対して、私達から口添えいたします」


 優雅にコーヒーカップをソーサーに置き微笑みながら、メルティラも同意する。



「それが……いいと思う……。ロノムの真面目さと……人当たりの良さは……私も保証する……。それに……ロノムをパーティから追放した私を受け入れてくれた……アイリスとメルティラの暖かさも……」


「ネシュちゃんいい子ですしエクっさんもただの求道者なだけで悪い人じゃないですもん。でも馬顔隊長は嫌いです! あいつもーほんとあいつなんなの!!」


 変わらぬ歯に衣着せぬ物言いでアイリスは自分の意見を表明した。


「それは……話を聞く限り……ボルマン隊長が悪いと……私も思う……。その節は……ごめんなさい……」





*****************************





「お待たせ、ギルドに報告書を提出をしてきたよ。あれ、ネシュレムさんもいるの?」


 ネシュレムが謝り違うよ悪いのはボルマンだよと言ったような話をしていたところで、ギルドからロノムが戻ってくる。



「ロッさんは気を悪くしてしまうかもしれませんが、我々とネシュちゃんはこの間からお茶飲み友達となったのです。あ、仲良くしてるのはネシュちゃんだけですよ。あの馬顔隊長と腰巾着は大嫌い!」


 アイリスが一回会っただけのボルマンとホリドノンに対する敵意を表明しながら、ロノムを迎えた。



「別に構わないよ、大丈夫。前のアライアンスとパーティには未練とかないしね。ネシュレムさんがいると言うことはエクスエルさんも近くに?」


「エクスは……今日は街の外で……走り込みをしてる……。この間……誰かさんに負けたのが……よっぽど……悔しかったみたい……」


 ロノムの問いに対して控えめに笑いながら、ネシュレムがロノムに言う。


「あ、うん、それはごめん」



 ロノムが頭を搔きながら苦笑いを浮かべていると、アイリスがロノムに向き直った。



「それで、ルシアさんからロッさんに改めてお話があります」


「話?」


 アイリスがルシアに促す。



「は、はい……! えっと、あの、その……!」


 ルシアは緊張しながら立ち上がり、ロノムに正対して話し始めた。



「改めまして、自己紹介から入ります……! 僕はルシア、射撃士の冒険者です。旧文明の射撃武器を使っています!」


「少し後ろ向きな性格が短所と言えますが、射撃士Bランクとしての実力はお役に立てると思います。アライアンス『シルバー・ゲイル』への入団を希望します……!」



「私達二人とネシュレム様からも、ルシア様の入団を推薦いたします。実力も性格も問題ありません、必ずやシルバー・ゲイルの戦力となって頂けるでしょう」



 メルティラがルシアに対して助け舟を出す。


 ロノムは腰に手を当てて少し考えてから決断を述べた。



「アライアンス『シルバー・ゲイル』の団長として、ルシアの入団を歓迎する。すぐにでもダンジョンへ行けるように、今から皆で一緒にギルドへメンバー登録をしに行こう」



「これから宜しく、ルシアさん」


 そう言ってロノムは笑顔をルシアに向け、握手をするための手を差し伸べる。



「はい! 宜しくお願いします!!」

ここまで読んで頂きありがとうございます。


少しでも面白いと感じて頂けましたら、評価・ブックマークをして頂けると大変嬉しいです。

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