16.ダンジョン探索(2)―その決断と責任は、パーティリーダーである俺が取る
「傷の治癒と身体の活性化は何とかなりましたけど、危険な状態であることは変わらないです。水筒の水もからっぽな上に何か食べた形跡もないみたいですし、まずは起きて貰わないと」
治癒魔法をかけ終えたアイリスが、ロノムとメルティラに言う。
「そうか……」
「ひとまずこの子を抱えて野営地に戻りませんか? 野営地でしたら、食料も置いてありますし」
「ああ、その意見には賛成だ。だが……」
メルティラの意見を聞き入れるも、ロノムは少し低めのトーンで言葉を返した。
「まず俺達が覚悟を決めよう。厳しいことを言うけど、俺達三人の生存が最優先だ。リザードマンに囲まれてどうしようもなくなったら、この子を捨ててでも三人で生還する……それがルールだ。その決断と責任は、パーティリーダーである俺が取る」
「異論はありません。私はロッさんの決定に従います」
「私も同じく。ロノム様がどんな決断をしようとも異議は唱えません」
アイリスもメルティラもやや緊張した面持ちでロノムに宣言した。
「よし、それじゃあ戻ろう。大丈夫、きっとうまくいく」
そう言って少し微笑んだ後、ロノムは倒れていた冒険者を抱えてもと来た道を戻り始め、アイリスとメルティラの二人もそれに続く。
幸いにも道中リザードマン数匹を追い返した程度で事は済み、ロノム達三人ともう一人の冒険者は無事に野営地まで戻ることができた。
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「ん……ここ……は……?」
ロノム達三人が平原の野営地で休んでいると、倒れていた冒険者が目を覚ます。
「よかった、気付かれましたか。……ロノム様! アイリス様! 冒険者の方が目を覚ましました!」
冒険者を看病していたメルティラは少し離れたところで作業しているロノムとアイリスを呼んだ。
「おー、よかったです! 傷は大丈夫と思いますが、まだあまり大きく動くのはやめておいた方がいいと思います!」
「色々と聞きたいことはあるだろうが、まずは水を飲み食事を摂って欲しい。スープを作っているから、慌てず、ゆっくりとね」
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「遅ればせながら、助けて頂いたことに感謝します。僕の名はルシア、射撃士をしています」
美形の少年と言われればそのまま受け入れてしまいそうな容貌をした、少女とも乙女ともとれる年恰好の冒険者はロノム達に礼を述べた。
小柄なアイリスよりは少し背が高い程度のスレンダーな女性であり、白い絹製のブラウスとサスペンダーで留めた革の半ズボンを身に纏っている。
短めで癖のある黒髪とキャスケットの帽子が良く似合っていた。
「ルシアさん、ええと、十日から十五日程前に、リザードマン・ポストを探検していたパーティの一人と言うことで間違いないかな?」
持参した干し野菜と現地で捕まえた野鳥を具材にしたスープを四人で平らげた後、ロノム達はダンジョンで倒れていた冒険者に対して聞き込みを行っていた。
「どれくらい経っているかは分かりませんが、確かにリザードマン・ポストを探索していました」
「まだ探索の途中なので何とも言えないけど、ダンジョンの中で見つかったのは君だけだ。他のパーティメンバーの消息についてはまだ把握していない」
ロノムのその言葉に対して、ルシアは目を伏せながら俯く。
「パーティメンバーですが……あの、僕は……ダンジョン探索の途中でリーダーから追放されました」
「追放された?」
ロノム達三人は一様に首を傾げる。
「はい……。正確には囮にされたと言う方が正しいのでしょうか。リザードマン達との連戦の中、僕の武器の弾が尽きました。射撃士としてあってはならないことですが、仲間を護るために仕方がありませんでした。言い訳になりますけど、リーダーの判断による無謀な進軍が原因でしたし」
「だけど、リーダーと他のメンバーは攻撃手段の切れた僕に対して役立たずと罵りました。そして『何もできないなら、せめてここで俺達が撤退するだけの時間を稼げ』とリザードマン達の只中で僕を蹴り飛ばし、パーティからの追放宣言をして逃げ出しました」
「そこから先は死ぬような思いをしながら何とか扉のある小部屋へ逃げ込み、リザードマンに怯えながらいつ来るかもわからない救助の到来を待っていました……」
ルシアは落ち着きながらも若干震えた声で、事の経緯を話した。
「ええと、我々は今回のダンジョン探索について、冒険者ギルドから『前回探索許可を出したアライアンスから探索の報告を受けていない』と言う話を貰っているんだ。ルシアさん達のアライアンスは四人で、パーティ一つだけの少人数アライアンスと言うことになるけど、アライアンスから冒険者ギルドに何の報告もない……と言うことはつまり、探索に出た他のメンバーも街に戻っていない可能性が高い」
「ギルドも報告書の提出にはうるさいですからねー。何もしないと冒険者個人に罰則がいったりアライアンス解散命令も出ちゃったりしますので、リーダーやパーティメンバーが街に戻っているなら報告だけは怠らないと思います」
ロノムは鍋からスープの残りを掬いながら説明し、アイリスはマグカップの白湯を飲みながら言う。
「それじゃあ、僕のいたパーティメンバーはまだダンジョンにいるってことですか……?」
「ダンジョン探索の途中だったし、我々もそれを今から確かめに行こうと思っている。状況から考えて、恐らくつらい結果にはなる可能性が高いだろうけど」
「でしたら、僕もついて行きます。僕達パーティの野営地が残されているなら弾の補充もできますし、足手まといにはならないつもりです」





