12.かくして、かつてのパーティメンバーに対するロノムの復讐劇が今、幕を開けるのであった
「アライアンス『シルバー・ゲイル』に通達いたします。貴アライアンスが発見したT-15ダンジョンの二層について、当ギルド調査班による調査の結果、正式に確定されました。よって、その功績は当ギルドの管理するダンジョン史にて記録されることとなりました」
「この決定に不服なき場合は、この場にて口頭で、同意の意思表示を願います」
「シルバー・ゲイルの団長として、決定に同意いたします」
調度品や装飾が整った偉く立派な一室で、ロノムは冒険者ギルドの常設役員三人と対峙している。
三人が三人ともかつてSランクに在位していた経験のある元冒険者であり、現在Dランクのロノムからしてみれば雲の上の存在であった。
「アライアンスの代表より同意を受理いたしました。冒険者ギルドとしても嬉しく思います。これからも冒険者としての矜持を胸に、未踏世界の開拓に邁進してください。……以上です」
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「おー、ロッさんお疲れ様です。なんだかフラフラですねぇ」
部屋から出るとアイリスが廊下においてあるソファに腰かけながら待っていた。
「き……緊張した……疲れた……」
倒れこむようにロノムもソファに腰を下ろす。
先日のダンジョン探索の結果についてギルドからの出頭要請に応え、ロノムとアイリスは冒険者ギルドに来ていた。
「通知が来るだけだと思っていたから、まさかギルドに出頭して、しかも元S級三人に会わなければいけないだなんて知らなかったよ。この間アイリスさんと服を買っていなければボロ雑巾のまま行くところだった……」
「ふふーん、このアイリスのファインプレーに感謝するところですねぇ。しかしS級ともなれば、引退後は冒険者ギルドのお偉いさんになれるんですなぁ」
通常、アンサスランの冒険者ギルドは白兵士・防衛士・射撃士・破壊術師・治癒術師・支援術師の六系統に対してAからFまでのランクを与えているが、そのランクとは別に年に一度、六系統それぞれの頂点となるに相応しい冒険者一人に、Sランクが与えられるのである。
六人しか選ばれないSランクは全冒険者の憧れであり、トップクラスの冒険者にとっては目標でもあった。
「今日お会いしたのは、あそこに貼られている『瞬詠のフィスケル』さんと『雷光のシーリア』さん、それと向こうに貼られている『蛮斧のドーン』さんだよ」
ロノム達がいる廊下には引退したSランク冒険者の戦歴が貼りだされていた。どれも冒険者の戦歴として輝かしいものばかりであり、憧憬の対象に相応しい記録が残されている。
「おー。この『剛盾のゲンディアス』って人は凄いですねえ。十三年連続で防衛士のSランクだー」
「うん、『剛盾のゲンディアス』は凄いよ。次の階層を見つけた数も歴代最多だし、ゲンディアスのパーティは危険なダンジョンに挑みながらも誰一人死ぬことがなかったって言われてる」
歴代Sランク冒険者達の戦歴が貼りだされている中に、一際目立つ形でその戦歴表は貼りだされていた。
「不思議なのは十三年の間連続でSクラスに在位した後、突然引退を宣言して表舞台からいなくなってしまったんだ。今もアンサスランに住んでいるのか、それともどこかに移住してしまったのかも分からないけど、この人を目標にしている冒険者は多いと思う」
「なるほどなるほど。ひょっとしたら、突然引退したのはお金を稼ぎ過ぎてもういいやってなったのかもしれませんね」
「あー、案外そういう理由だったりするのかもね。よし、メルティラさんもそろそろ冒険者ギルドに来てるだろうし、エントランスに戻ろうか」
「はい!」
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「遅れてしまい申し訳ありません。養父の手伝いが思いのほか長引いてしまいまして」
「ゲンさんの手伝いなら仕方ないよ。さあ、次に探索するダンジョンを決めに行こう」
冒険者ギルドのエントランスでメルティラと合流したロノムとアイリスは、ダンジョン探索許可の受付をしようとダンジョン担当部門の方へ歩き出そうとした。
しかしそこで、ロノムは見知った顔が前から歩いてくることに気付く。
「あ……。エクスさん……と、ネシュさん……」
銀髪痩身の男性とその後ろに隠れるように歩く背の低い黒髪眼鏡の女性の二人組。
以前パーティを組んでいた破壊術師と治癒術師だ。
「ふん、こんなところで会うとはな……。ボルマン隊長から聞いた話だが、冒険者はまだ続けているらしいな」
銀髪痩身の男エクスエルが、見下すようにロノムに声をかけた。
「ロッさんのお知合いですか?」
「あー。いや……知り合いと言うか、前のパーティメンバー……」
「なるほど。この方たちも前回お会いした方に続き、ロノム様を追放されたパーティメンバーなのですね」
そう言うとアイリスとメルティラは少しばかり敵意の表情を、エクスエルとその後ろに隠れるネシュレムに向けた。
「ふ……。向上心もなくDランクに落ちたやつ如きが組織を構えたところで、何ができるか。せいぜい仲間を路頭に迷わせないよう、足掻く位はすることだ」
「なにおー!? ロッさんを追放したことを後悔するのはお前達の方だぞー! それに、ロッさんはお前達なんかよりもよっぽど強いんだからなー!! 今からロッさん本人がそれを証明してやるから、覚悟しろよー!!!」
エクスエルがロノムに対して面罵しその横を通り過ぎようとしたところで、わりかし解れ気味の堪忍袋の緒が切れたのか、アイリスがエクスエルに対して啖呵を切った。
「え、いや、アイリスさん!? 別に俺はそこまで強くないし何言ってるの!?」
「むしろ殿方様パーティには同情いたします。ロノム様を手放したことによってこれから凋落の一途を辿ってしまうと言うのに……」
「メルティラさんまでやめて!?」
オロオロしながらアイリスを嗜めようとロノムは奮戦したが、無情にもメルティラがアイリスに乗っかってきてしまう。
「いいだろう、ロノム。そうまで言うのならば今から相手をしてやる。場所はギルドの地下鍛錬場だ」
エクスエルが鋭い眼光でもって振り向きながらロノムを睨みつけると、すぐさま決闘の段取りを決めてしまった。
「いや、エクスエルさんもなに乗り気になっちゃってるの!? 無益な争いはやめよう!? ネシュレムさんもエクスエルさんのことを止めて!? ね!!??」
「エクスがやりたいこと……私に止める理由はない……」
「ちょっとーーー!?」
アイリスとメルティラはエクスエルと火花を散らしながら睨み合っていた。
ネシュレムは眼鏡の奥でどこを見ているのか分からないがあまり興味はなさそうである。
肝心のロノムは置いてきぼりだ。
「かくして、かつてのパーティメンバーに対するロノムの復讐劇が今、幕を開けるのであった!」
「どうして開けてしまったの!?」





