第八話:後日譚――黒髪の騎士様と侯爵令嬢の新婚生活
王都で最も堅固な騎士団長の邸宅、その奥の主寝室。
リリアーナは身に纏っていた深紅の華やかなドレスを脱ぎ、絹の薄いネグリジェ姿になった。華やかな美しさを隠すことをやめた彼女の姿は、月明かりの下でまばゆく輝いていた。
「……私のものだ」
レイヴンはすぐに背後から彼女の腰を抱き寄せた。その声は低く、喉の奥から絞り出されたような、渇望に満ちた響きを持っていた。
リリアーナは微かに震えたが、逃げなかった。彼女の背に押し付けられたレイヴンの体温は、冷たい銀の鎧の下で燃える、彼の孤独と執着の熱だ。
「知っていますよ、レイヴン。もう逃げません」
リリアーナは観念したように息をつき、彼の腕の中で身を委ねた。かつて望んだ「平凡」は打ち砕かれたが、この鎖こそが彼女の最高の安寧だと知っている。
レイヴンは彼女の髪を深く吸い込むと、耳元で誓うように囁いた。
「君の匂い、君の体温、君のすべてが、私を正気に繋ぎ止める命綱だ。これを手放すくらいなら、私は……」
「わかっています。あなたは王国を闇に沈めるでしょう」リリアーナは優しく遮った。
彼女はレイヴンの方へ振り返り、彼の冷たい頬に手を添えた。彼の銀灰色の瞳は、いつも彼女を監視する鋭い光を放っているが、今は深い安堵と、微かな畏れに満ちていた。
「私はあなたの剣を信じる。そして、あなたの鎖を愛する。だから、もう怯えないで」
リリアーナは、自ら目を閉じ、レイヴンに口づけを求めた。
レイヴンは、その許可を得たかのように、熱烈に彼女の唇を受け止めた。それは、力任せの独占ではなく、彼女の全身の存在を魂ごと刻みつけようとする、深くて重いキスだった。
彼は、彼女の全身を抱きしめながら、その重い独占愛を、彼女の魂に深く深く刻みつけた。
(私の新婚生活は、きっと、永遠の「監視」と「所有」なのだろう)
リリアーナはそう思いながらも、彼の腕の中で微かな安堵を感じ、愛する騎士の存在の重さを、心ごと受け入れたのだった。その夜、二人は互いの存在を確認し合うように、深い愛に落ちていった。
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平凡を望んでいた令嬢リリアーナと非凡な騎士団長レイヴンの溺愛ロマンスいかがでしたでしょうか?
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次の連載は【12月8日(月)22:40】より開始します。
タイトル【お飾りにされた方、お飾りの婚約者をお待ちしております】です。
URLはこちら→https://book1.adouzi.eu.org/n8335lh/
「お飾り」太陽の聖女セレネアと「お飾り」婚約者、月の騎士アルティスが愛し合えば破滅するという予言を打ち破り、真実の愛を貫く物語になっております。
是非またお付き合いくださいませ!




