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お見合い結婚します「紫電一閃乙女物語」  作者: あやぺん
おまけ「結納中編」

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友人2

 お互い無言のまま帰宅して、二日連続ネビーが帰ったので彼は家族に迎えられてロカに誘われて彼女の勉強部屋へ去り私は琴の音がする自分の部屋へ入った。


「ウィオラ、昼間お前に客が来たそうだ」

「私にですか?」

「ああ。ユラさんだ。エルさんがお前は今日の夜帰宅予定だと言ったら来たことのない街だから時間を潰してまた来ますって」


 私は息を飲んだ。ユラはどこかへ出掛けたって私のところ。


「すれ違いだけど会えるようだな。エルさんがユラさんの分も夕食を作ってくれる。少し遅めにすると言ってくれてまだ呼ばれてないからまだだろう。エルさんに帰宅したことを告げたか?」

「はい。食事が出来たら呼ぶからゆっくりして下さいと言ってくれました」


 そうなのか。待っていたらまた来てくれるのだろうか。困って私に助けを求めにきたのなら何も出来なくても話くらい聞きたい。


「合間椅子で三味線の基礎練習をしながら待つことにします」

「頼まれた演奏の練習中だから一人でしなさい」


 それは朗報。祖父は日に日にうるさくなっていく。


「はい」


 部屋を出たら井戸より少し遠いところにユラが立っていて目が合った瞬間、彼女はまわれ右をしたから慌てて追いかけた。


「お待ちになって! ユラ!」

「ちょっと! なんなのよあんたは! 何がお待ちになってよ!」


 階段を駆け上がっていたら振り返ったユラに睨まれた。

 何に対して怒ったの⁈

 驚いたのと止まってくれた安堵のせいか階段を一段上がろうとして足を滑らせて転んでしまった。


「ちょっと、何してるのよ! たまに鈍臭いわよね」

「す、すみません」


 手をついた時に振り向いたのと膝を打ったのでそこが痛む。久しぶりに転んだ。ユラに手を差し出されたので遠慮なく手を重ねる。


「菊屋に会いに行ったら居なかったので来てくれて嬉しいです」

「……ふーん。金を貸しなってたかりに来た。観光地で暮らし始めましたってどこが観光地なのよ。街外れの寂れ長屋じゃない。建物は悪くなさそうだけど」


 心外!


「何をおっしゃっているのですか。よくご覧下さい。小さな小さな小さな大河があって、あちらにはちび畑や林です。向こう側の河原には花菖蒲畑があるのですよ」

「小さな小さな小さな大河……ってつまり川でしょう。なんなのその表現。まあ、手紙に生まれ育ちは東地区ですって書いてあったわね。質問に返事をしない変な手紙を寄越して訳が分からないわよ」

「返事をくれたのですか? 届いていないです」

「えっ。こうして住所でここへ辿り着いたわよ」


 手紙が行方不明!

 手を洗いたいし着物の汚れも気になるし、顔色の悪いユラを休ませたいので部屋へ案内。

 郵便係がサボったのかもしれないので郵便受けの確認は後回し。

 何かを察した祖父は合間机で三味線を弾くと言って私達を二人きりにしてくれた。

 ユラは手前の居間にしているところではなくて奥へ進んだ。興味深そうに観察しているので一番奥の私の部屋部分の襖を開けて中を見せる。


「手前はおじい様の領域でこちらは私の領域です。稽古などで襖を外すこともあります」

「長屋部屋とは思えないわね。押し入れにも襖前にも御簾(みす)に壁に掛け軸。小洒落た棚付き机に飾り物。さすがお嬢様」

「そのうちネビーさんが上られるかもしれないので殺風景なのは、と乙女心です」

「ふーん。まだ部屋には上がってないの」


 一番手前の部屋へ戻って座布団に座ってもらった。


「手紙にも書いた通り兵官さん達は皆さん激務続きでほとんど帰ってきません」

「店にも毎日のように本部兵官や花官が来る。それで暇めだから休んでみた」

「顔色が悪いですがどうされました?」

「梅雨にやられたのよ。この季節は苦手でそこにここ一年で一番重い月のものがきて最悪。欲強い馴染みが来たいって言うから来週沢山ねって手紙を出して逃げてきた」


 子どもが出来た説は違うようだ。これも本当かは分からないけどお互い疑ってばかりでは深い仲の友人にはなれない。


「私は明日から仕事ですがおじい様やネビーさんのお母様がいますしこの通り一人泊まるのに十分な広さがあるので何泊でもどうぞ。三食可能ですが食費はいただきます」


 以前エルに日割りだと提示された額をユラに伝えた。


「ふーん。相変わらずの守銭奴ね。お嬢様のくせに。でも安いわね。忌み部屋はないの?」

「少し離れたところにあります。私は鬼など信じていなくて、夜をさせないためとか家にいると休めないからだと思っていますので忌み部屋へどうぞとは言いません」


 忌み、だと子どもが産める女性に対して失礼だと祓い離れや祓い屋と呼ぶこともあるし血は鬼や病を運ぶから血は忌むものだからやはり忌み部屋ともいう。


「ふーん。まあ店にもないしね。ド変態が喜ぶから仕事の時も多いし」

「……。そうらしいですね。気分が悪そうで痛そうです」


 月のものの時なんてやめて欲しいのに喜ぶ男性もいるのは理解不能な色欲。


「軽い日や日にち的にこっちの色欲が出てくる時もあるわよ」

「そうですか」

「相変わらず真っ赤。お茶ぐらい出しなさいよ」

「はい。尋ねようと思ってつい雑談してしまいました。梅昆布茶、ほうじ茶、緑茶、たんぽぽ茶とありますけど何が良いですか?」

「この部屋暮らしで贅沢してるのね。たんぽぽ茶? それは貧乏茶だわ」

「これまでと同じようにやり繰りしています。お金は使い方です」

「懐かしいからたんぽぽ茶」

「はい」


 お湯はエル達の部屋にあるだろうからユラに声を掛けて部屋を出た。レオ達の部屋へ行くと移動したようでネビーが家族に労われていてルカが野菜を切っていた。一先ず全員に挨拶。


「ルカさん。友人が会いに来てくれました。お茶を淹れるのでお湯をいただきます。部屋で出来るお手伝いや一品二品作ることはします」

「ウィオラさん。その手はどうしたんですか?」

「先程階段で転んで洗いました。久しぶりです」

「すり傷だから大丈夫ならええけど。その手だし、友達が来たんだから何もしなくてもええですよ。そもそももうすぐなんで」

「ありがとうございます。エルさんに後で食費を渡します。ではお茶分のお湯をいただきます」

「はーい。どうぞどうぞ」


 会話は聞こえていただろうけどユラが来たと伝えようと思ってネビーの方を見たら彼は疲れた顔で俯いていた。それかまだ不機嫌継続中。


「あの。ネビーさん。ユラが来てくれました。帰るまではその、屯所へは行きませんのでご家族とお過ごし下さい。作りたいから料理はします」

「えっ。彼女が来たんですか?」

「はい。来てくれました。この時期は具合が悪いから仕事を休んだそうです。手紙の返事もくれていたそうです。悲しいことに行方不明なので後で探します。皆さん、失礼致します」


 レオ達の部屋を出て自分の部屋へ戻ってたんぽぽ茶を準備。私と祖父の部屋にはレオ達の部屋と違って小さめの食卓用机を常に置いている。

 彼らは机は邪魔だから畳にお膳で生活している。昔は直置きだったらしい。

 ユラにお茶を淹れて「ユラの分の夕食もあるのでお茶請けはないです」と湯呑みを差し出した。


「それはどうも。っていうかあんたは料理しないの? してるって手紙に書いてあったけど」

「今日は朝早めにおじい様と家を出て一区へ行って先程帰って来たので私は上げ膳据え膳です。昨日まで海辺街へ行っていたのでユラにお土産があります」


 忘れないうちに、と部屋へ荷物を取りに行ってお土産を持って戻った。

 私の煌物語と龍歌の基礎教科書に貝殻の耳飾り。


「私の本だと書き込みがあるので役に立つかなと思って実家から持ってきました。写本を頼んで私の書き込みまで写してもらいました」

「これ……」

「ユラは私の講義も買っていましたから覚えています。小さい頃に売られていたら勉強出来たのにって。私と友人で居続けても良いですし花街外の特別寺子屋でも勉強出来ますよ」


 煌物語は教養の基本のき、ではなくて若干文学玄人系の読み物で基礎知識があった方が良いから単に自分で買って読書ではない方が良い。


「あの街はなんでも高いしそもそも一区が高いわ。今日寺子屋や特別寺子屋、物価や家賃なんかを調べてそう思った」

「魚屋や八百屋は値切れて米屋は無理です。私は下街についてどんどん覚えていま……っ痛」


 前髪があるのにおでこをデコピンされた。


「子どもは家を借りないし学も与えられなかったから教育関係は知らないけど下街貧乏育ちの私に値切れるってバカなの? 残飯漁りはどことか色々知っているわよ」

「ユラも長屋でした?」

「ええ。南上地区のどこかの街外れの山に近いところでボロくてカビ臭くいけど広さはこんな。男と暮らした長屋は二区幸せ番地の街中で綺麗めだったけど狭かった。幸せ番地って皮肉よね」

「菊屋も知っていて長屋も知っているとは私達は似ていますね」

「似てるってふざけるんじゃないわよ。観光地の意味が分からないから案内して説明して」


 ユラに頬を軽くつねられた。海蛇対策で私も軽くやり返したら目を丸くされた。

 こういうジャレ合いをしたこともされたこともないから私達は前よりも親しくなったような気になる。

 お茶を飲み終わるとユラは懐から鏡を出して貝殻の耳飾りをつけた。ユラを連れて灯りと共に蛇棒を手にして部屋の外へ出る。


「何その棒。暴漢対策?」

「蛇対策です」

「ふーん。蛇がいるの。たまに鈍臭いあんたは噛まれそう」

「わらわらいます。赤と白のしましま蛇は死にますので注意して下さい。あっ。私は修行中の身ですので一人で河原へ近寄るのは禁止と言われています」


 エルにどなたかお願いしたいと声を掛けたらぶすくれ顔のネビーが「俺が行く」と部屋から出てきた。


「激務で疲弊している顔じゃなくて明らかに不機嫌でなんか怒ってそうだけどどうしたの? 私?」


 ユラに小声で尋ねられて「ユラではなくて私です。あとで相談したいです」と返事をした。


「ネビーさん、ありがとうございます。せっかく来てくれたユラにこの長屋を案内します」

「ええ。聞こえていました。しましま蛇ですよね。草がだいぶ伸びてきたから危険です。後ろで見ています」


 声が低いし小さくて目も合わないのでわりと怖い。そんなに怒ることを言った記憶はない。

 むしろ拗ねたいのは私の方だ。こういう態度だと逆にムカムカしてくる。


「まずは河原です。たまにちび海老さんがいます。魚も愛くるしいです。夜なので見えないですね」


 トト川の上流からこの辺りは野菜を冷やすところ、水汲み場所、たにし郡が楽しいところ、ちび海老が多いところと見せて下っていく。その間に蛇を一匹棒で投げた。


「皆さんと勝負するのですが負けてばかりです。全然飛びません」

「そりゃあへっぴり腰でお上品に投げたら飛ぶものも飛ばないわよ。貸してみな」

「ユラは蛇投げをして育ったのですか?」

「見たから出来そうってだけ。山の近くだったからお腹が減ると探して食べてた」


 蛇は副神様の遣いなのに食べるしお酒漬けにされるし退治されるとは下街文化には驚いたけどもう慣れた。

 ユラは少し戻って草むらを棒で探って蛇を発見してすくって川へ向かってヒューンと投げた。


「まあ。優勝者みたいです。私は今のように上から投げようとしたら蛇が足元に落ちて怖くて大変でした」


 海蛇は愛くるしいと思うから平気だけど普通の蛇はまだまだ苦手。


「ひゃあ、蛇です! きゃあ! とか言ってるんでしょどうせ」

「はい。それで戦うので見守って下さいと頼んでいます」

「お願いします、じゃなくて戦うの」

「蛙や他の虫とも格闘しています。菊屋で助けを求めたら怒られました。なので前からです」


 ユラに笑われながら下流へ行って花菖蒲畑を見せてここは石投げ競争を楽しめると説明。


「昔したわ。こうでしょ」

「六回も跳ねました!」

「やってみせて」

「はい」


 私の投げた石はぽちゃぽちゃぽちゃで終了。


「どういう育ち方をしたらそういう動きになるの。郷に従えっていうから真似しなさいよ」

「真似したつもりですが違いますか?」

「観光地の意味が分かってきたわ。私達にとって当たり前のことがなんでも楽しいってこと。花菖蒲畑って雑草郡に咲いてるだけじゃない」

「はい。知らないことだらけで楽しいです。雑草郡ってこんなに沢山で美しいです」


 洗濯場を見せて次は林。戻ってきて洗濯物干し場やものを乾燥させる台にちび畑も案内。

 私は最近早起きしてレオ家の畑の虫退治と雑草抜きを張り切っている。


「にんにく唐辛子水を塗ったり、ヘラで虫をとったり、雑草を抜いたり大事に育てています。オクラの花はこのように綺麗です」

「へえ。知らなかった。こうして案内されるとカビ長屋と違ってしっかりした人達が中心になって暮らしてるって伝わってくる」

「はい。ハキハキしていて嫌味や悪口も飛び交いますがサッパリしています。ネチネチしていません。長屋の裏にはトゲを置いたり防犯をしているので怪我をしないように気をつけて下さい」

「これが観光地ねえ。ウィオラの立場になったらそうなのね。はしゃぎっぷりで理解した。まっ、愉快だったわ」


 ユラは逆に私の実家へきたら観光地みたいってはしゃぐのかな。そもそも東地区へ行くのが観光か。私達は部屋へ戻りネビーは「じゃあ」と家族の部屋へ去った。


「なんなのあれ。ずっとしかめっ面で無言。何かしたの?」


 着席するとユラに問いかけられた。屯所であった話とその後のことを説明。


「接客してないから男あしらいが下手ってこと」

「私の何がいけなかったですか? 拗ねたいのは私の方で怒らせるようなことは言っていません。いえ、嫌味は言いました」

「あの怒っているような不機嫌顔とその会話はイマイチ繋がらないから聞いてあげようか。隣の部屋で盗み聞きしてたら?」

「えっ?」

「あいつに話もあるし」


 ほらほら、と隣の部屋へ促されて襖を閉められた。

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