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お見合い結婚します「紫電一閃乙女物語」  作者: あやぺん
おまけ「結納中編」

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海1

 五月は一度も休日がないどころか一日も家に帰れなかった。それで六月はもう一週間以上過ぎた。

 南三区六番隊は大人しく従うのはそろそろ終わりで業績や区民を味方につけて反抗期に入る、休みを勝手に作って回していく、という話が出た時に海辺街への出張話を告げられた。


「休みの無いお前に同情した漁師達からの意見書がきっかけだ。それで休みが付加される」


 休みというか休憩である。しかしとんでもなく長い休みだ!

 十六時退勤で翌朝九時から開始。一週間の出張中は過密勤務のままだけど長い休みがある!

 この出張の出発日は俺が決められると書いてある。

 出張終わりも十六時退勤で翌朝九時から番隊勤務へ戻るので長い休憩が二回!


「はい。そういう内容ですねこれ。ガイさんが上手く何かしてくれた気がします」


 監察官、視察官が機能しないからサボったり横柄な役立たずがのさばっていて真面目に働く兵官が忙殺されている。

 卿家兵官の俺や推薦兵官などいつもの何名かを寄越して改善しろ。バラバラに来て良い。雑にいうとそういう内容。

 バラバラに来て良い、で出発日を個人個人が決められるのが意見書による報奨疑惑。好きな日に長めの休憩を与えるって意味である。


「ガイさんらしい。ここの休み付加が早そうな気配なのも漁師達や農村区区民からの圧だ。お前のおかげもあるけどお前の義父は頼りになるな」


 勝手に休みを作る、は正式に許可の降りた休日付与になるという。その代わりまだ少し先だそうだ。

 反抗しないで休みが現れるのは幸先良しなのでそのくらいは耐える。職員にそういうお知らせを出すという。


「ガイさんはいつも頼りになります」

「災実系から左遷されて遅れを取ったのに平均少し上まで登った方らしいな。金を積んで頭を下げたって卿家の養子になるのは無理なのに運がええ男だよな。しかも実子扱い。まっ、その息子でまた上へ登った訳だが」

「はい。立派な両親が立派になれよと立派な師匠を探して稼いでくれて俺を励まし続けてくれました。もうその実子扱いです。跡取り認定の恩恵も狙っています」


 言いふらしてないけど親しい幹部は知っている話だ。ガイが俺を利用して昇進したり自分の権力を増やしたことは本人から聞いている。

 俺は俺も家族も助けてくれて嫁に迎えたリルを娘と呼ぶガイが好きなのでどうそどうぞだし、色々おんぶに抱っこ。


「まあ、日頃の行いや大狼襲撃事件の功績が大きい。気が乗らないとか得がないとか面倒だと思うと何もしてくれないのにいざとなると凄いな、ガイさんは」

「ガイさんの息子、俺の兄はそっくりです。爪を隠して平凡、平均、楽狙い。したいことには全力で困ると鋭い爪が出てきます」

「お前だな。義父、義兄なのに似てるとは」

「そうですか?」


 そう言われればそうか?

 デオンにロイと俺はどんどん似ていくと言われる。ロイはガイに似ているところがあるから、俺はガイに似ていっている可能性あり。


「お前、監察官と視察官と凖警兵の事を全然言わないから一部で左遷させたい上に嫌がらせされているとか雑用媚びで出世したとか伝言係って言われてるぞ。お前が便利屋って言うせいだ。あはは」

「肩書きが多過ぎて説明が面倒です。雑用媚びで出世してみたらよかなのに。まあ、俺はしたいからしていますし雑用ではないですけど。いよっしゃあ! 海辺街の北部屯所の俺らの足を引っ張る兵官を先輩達と潰したり育ててきます!」


 便利屋は雑用係ではないのに俺を悪く言いたい奴はそういう風に邪推する。お好きにどうぞ。そもそも雑用係は大切な仕事なのでそこから間違っている。

 しょうもないやつはどんな場所にもいるから相手にしないし過剰にサボるなら働かせる。

 頼られたからにはバシバシ働くぞ!

 俺はこういう仕事がとても好きで成せたら誇らしいからうんと励む。


「ついでに誰か引き抜きする下準備をしてこい。海辺街に住みたくて転属を希望する者が一定数いるから入れ替えだ。取られて終わりは困る。特に使えるやつは」


 このように俺は番隊お遣い係。こいつなら出来そうだ、と任されるのは嬉しい。


「はい!」


 そういう訳で直近土曜から出張にしてラルスの許可を取ってウィオラと過ごす時間を確保。帰路の日、俺はついに家に帰る!

 

 この日の夜は初めて食べたもちちに感激し、翌日夕方はウィオラのもちち音頭を堪能。職員が喜んで婚約者を褒められて上機嫌の後に熱いうどんとは幸せ過ぎる。

 激務なのに幸運続き!

 ちび助のもちちは何者だ! とあちこちでゲシゲシ蹴られたり殴られたり叩かれたり髪をぐしゃぐしゃにされたり笑われた。


 土曜日、急な勤務で出張が遅れると困るから——漁師達から意見書が来たら面倒——十一時には屯所を出て向こうで働いて十六時退勤残業厳禁の予定。

 出張して海辺街の北部屯所の空気はヤバいと感じた。六番隊内に毎日いて感じなかった疲弊感や悲壮感に怒りなど外から見たらこうなっているのかと慄き。

 今日から七日間主に幹部や区民から聞き取りという楽そうな仕事の予定で少々罪悪感。

 しかしこれが元の勤務へ戻ったり屯所改善に繋がるので自分なりに精一杯励む。あとどうせ今の状況だと何か仕事が降ってくる。


 昼過ぎに昔から世話になっている船着場へ顔を出して意見書関係の聞き取りのはずが漁師達にもみくちゃにされた。

 豊漁姫がいない、結婚指輪をしているから結婚したのか、顔色が酷い、やつれた、いつ釣りにくるなど雑談系の質問を四方八方から浴びせられて仕事にならないから仕事後にウィオラとまた来ると告げて逃亡。

 そうして十六時を迎える前に担当隊長補佐官に退勤と言われて一緒に来た先輩と帰宅準備。

 先輩も今夜は自腹で家族と宿に泊まるという。俺達は屯所宿泊にもううんざりしている。


「ルーベル! 残業禁止って素晴らしいな!」

「いや、先輩。そもそもです。起きたのは四時前でそこから働いて今です。準夜勤って考えると残業しています。残業禁止ってなんでしょうか」

「俺は五時に起きた。つまり俺も準夜勤で残業だ。頭がおかしくなっている」

「そうです。その通りです。俺、五月からまだ一回も家に帰ってないです。先輩は連れ戻されましたね。家に着いたくらいだったって。あれはかなり切なかったです」


 門へ向かいながら話していて俺達の会話を聞いていた兵官達の頬が引きつった。気の毒そうな目を向けられる。彼らは帰れているのかもしれない。

 北部屯所はそこまでではないのは今日知ったけどその分通常勤務に戻るのが後になりそうな気配。なにせ区民から兵官への不満の方が多かった。

 先輩とそそくさと退勤処理をして馬を預けて屯所を後にした。

 

「うわあああ! 自由です! 休みだー!」

「いや休みではない。頭がイカれてるぞ」

「そうなんですけど、そうですけど休みです! 明日の朝まで仕事がないです!」

「まあ、俺も休みだと思った。じゃあまた明日」

「はい! お疲れ様でした!」


 俺は自由だ! と思いながら宿へ向かった。ウィオラからの手紙を昼過ぎに受け取ったけど読んだのは今。

 宿に到着したらこじんまりしているけど門構えは安くなさそうな宿だった。貧乏旅館ではないけど金持ち用の旅館でもない絶妙な宿。

 宿に入ったら従業員に声を掛けられたけどそれよりも受付部屋で行われている演奏の方が気になった。人が結構集まっている。

 百合柄の訪問着に顔が全て隠れるうさぎのお面。どちらも見覚えはまるでないけど美しい演奏と左手薬指に朱色の指輪なのでウィオラな気がする。

 

「お客様、予約を確認致しますのでこちらでごゆっくりどうぞ」

「はい」


 座敷へ上がって示された席であぐらになって演奏に耳を傾ける。これは全く知らない曲だ。


(終わってしまった)


 全然聴けてないうちに終了してしまった。拍手が起こったので手を叩いたけどかなり不満。これはタイミングが悪過ぎる。


「ご観劇、ご拝聴、ありがとうございました」


 この声はやはりウィオラ。観劇?

 舞も披露したのか。


(それは観たかった)


 ウィオラは琴をそのまま放置して会釈しながら俺の方へ近寄ってきてゆっくりとお面を外した。


「お疲れ様ですネビーさん。つい遊んでいました」

「遊びですか? 仕事ではなくて」

「軽い仕事ですがとても気楽なので遊びです」


 ウィオラはお面を机の上に置くと俺に笑いかけて目の前に腰を下ろした。軽い仕事発言が気になるけどもっと気になることがある。


「ラルスさんはどちらですか?」

「おじい様は……」


 従業員が戻ってきて会話が途中になり部屋へ案内された。ルーベル家の書斎を狭くしたような部屋で机も座椅子もない。

 館内案内図で食事処、厠、宿が提携している風呂屋や洗濯屋の場所、手拭いや貸切個人風呂は別料金、宿から海へ続く通路などなど説明された。

 通路の後は階段で浜辺へ降りられる。朝食を八時に頼んで鍵を受け取って終了。他の従業員が来てお盆でお水と塩昆布を出してくれた。

 備え付けのものはほとんど何もないお茶も出てこない安宿。いやこの宿の造りや門構えからして安い部屋、の方だろう。


「それでですね、ネビーさん」

「はい」

「おじい様が一部屋しか借りませんでした」


 家計を知っていてもこの部屋でさらには一部屋で節約とは倹約家で助かる。俺はなんだかんだ貧乏性。しかしウィオラもこうなのか。


「三人で川の字ですか。節約ですが……。あー、まあ俺達は一回川の字で寝ていますね」


 五人で川の字で寝たのはもう半年前くらいな気がしてくる。実際は四月のことで今は六月だ。


「それがその、おじい様は帰りました」

「ん? 帰りました?」


 真っ赤になったウィオラを眺めながら、嫁に出したと思っていると言われているなと思い出す。

 東地区から南地区へ帰ってくる時からラルスはこの調子。


「正確には漁師のバレルさんの家に泊まります」

「なにがどうそうなったのですか?」

「卿家兵官がくるのだから豊漁姫も一緒には当たり前、と農林水省から学校へ通達が来て私は明日から神社で奉納演奏をしてその後は指定された区立女学校で臨時講師などの予定です」

「いつ決まりました?」

「昨日退勤時に学校長に言われました。あちこちの役所が多忙で連絡が遅くなったそうです」


 農林水省の役人に言われたそうだがそもそも豊漁姫をなぜ沢山呼ばないと騒がれたらしい。

 役所に言わないで様子見していきなり激怒。正論のように捲し立てて役所を責める。それは漁師達の特徴なのに担当者はなにをしているんだか。

 ウィオラを呼ばないことではなくて担当者に何か不満があるのだろう。ウィオラは理由にされただけに違いない。リルを使われることがあるらしくて、以前ガイにそういう解説を受けた。


「急過ぎですが俺が出張日を決めたのがつい最近なのでその後バタバタ何かでしょう。他の不満についての憤りをウィオラさんを使って八つ当たり疑惑。担当者が気の毒です」


 卿家兵官が来るのだから豊漁姫も一緒なのは当たり前なのに手配していないとはなんだと漁師達が怒って担当役人達が振り回された、だなこれは。ウィオラも苦笑いしている。


「ええ。私どうこうではなくて多分何かに対する八つ当たりでしょう。ガイさんに漁師さん達の傾向を色々教わっています」

「普段は気のええ人達なのに時々面倒なんですよねあの人達」

「ご挨拶に行きましたらおじい様はもう顔馴染みですのであれやこれやです。今夜私達は来なくて良いそうです」

「来なくて……。来るな、でした? 来なくて良いではなくて。正確な台詞を覚えていますか?」

「私とは明日神社で会うしネビーさんは仕事でまた来るから来るな、と言っていました」

「それなら本当に行かなくてよかです。ウィオラさんは明日からバレルさんの家ですか?」

「いえ。おじい様と神社宿泊です」


 この北部海辺街最大のオケアヌス神社だそうだ。海の大副神を祀る神社である。

 明日から毎日豊漁になったら騒がれそうだけど俺にもウィオラにも何も出来ない。


「少し広めなのは端と端で寝ると良いからです」

「ああ。一人なのに六畳なのはなんなのかと思っていました」


 若干拗ね。襲ったりしないから隣だって構わないのに。付き合いが浅いので信用がないのは当たり前だけど俺には嫌と言えてそれで安心ならそんなに警戒しなくても。

 俺の部屋だと襖があるけどここにはない。かめ屋に泊まった時も二部屋ある部屋だったけど今夜は一間。


「部屋はまだ空いているそうです。満室ではなかったです。他の宿も軽く調べたので大丈夫です」

「ああ。はい。えっ。ウィオラさんはどちらが……。俺は……。あー。えー。ラルスさんは本当に見張る気がないですね」


 これにはさらに拗ね。信用ならないと思ったら逃げます宣言。


「この状況で何も出来てなさそうだから練習しなさい、だそうです」

「何も出来ないと思われているんですね」

「はい。私は何も言いません」


 ラルスは俺に早くひ孫だひ孫、ジジイなので明日死ぬかもしれないから孫娘の照れ屋をどんどん直せと連絡帳に書く。

 その冗談を書いた後に当主総会で横槍が入ると面倒、と真面目な話が書いてあった。結納お申し込みと結納契約で安心した俺にはまだ壁があった話。

 でも総当主のプライルド任せと言われていて今の勤務状況で俺は動けないから任せて何もしていない。娘の相手は誰でも嫌な父親が俺の味方中。ありがたい。


「私は着替えに困るのでその間は散歩か受付部屋にいていただきたいです」

「ああ、はい」

「逆の時は私がそうします」

「はい」


 拗ねたけど着替えか。二部屋必要だった。


「私は狭い一人部屋を借りておいて挑戦が良いです。困ったら移動です」

「俺もそれがよかです。着替え問題も解決します。行ってきます」


 こういうことなら、かめ屋の時みたいになぜ二間ある部屋ではないのか疑問。


「いえ、お着替えされますよね? その間に私が行きます」

「はい。お願いします」


 ウィオラに任せてその間に着替え。荷物を減らそうと思ったけど海で散歩デート! と思ったので着流しにしないで羽織りも持ってきた。

 

(疲れたーってゴロゴロしてよかなのか? いいや。俺はだらける。格好つけるけどそればっかりだと続かない)


 卿家の実子扱いになるからロイ風を目指してリルに聞いてきてある程度は真似た。なので幼馴染よりは上品になったけどそうでもない部分も多い。仰向けになって思いっきり伸びながら気がついた。


(ゴロゴロ寝ていたら抱きしめたり出来ない)


 座って水と塩昆布を口にしながら宿から海へ行けるのがここの売りだろうな、と館内案内図を再確認。


(金を出しそうな客用によかな部屋もあるってことだろう。相部屋雑魚寝もありそう)


 館内案内図では客室と一まとめにされているから不明。


(っていうか受付部屋へ行ってそのまま出掛けるか。夕焼けの海を一緒に見たいし早いけど腹も減ってる)


 ウィオラは手提げを持っていったからそのまま出掛けられそうなので部屋を出て鍵を閉めた。受付部屋へ行くと丁度話が終わったところ、みたいなウィオラと合流。


「散歩はどうかと思って迎えに来ました。部屋は空いていました?」

「はい。相部屋が空いていました。女性三人までの部屋に今のところお二人でしたので私も入れました」


 俺が広い部屋で一人で気ままに宿泊になってしまった。これは失敗。着替えますよね? に騙された。でももう後の祭り。


「かめ屋の時みたいになるべく何もしないのでそちらからお願いします。なるべく同じ部屋がよかなので」


 理性を総動員する。俺は寝る、と念じ続ける。

 疲れが酷くてかえって眠れない時にひたすらそう念じていると海蛇にチクッと噛まれて寝れて目覚めはスッキリという謎現象が起こる。

 ウィオラとかめ屋へ泊まった時も眠れるか心配していたら噛まれた後に睡魔に襲われて爆睡。

 海蛇はそのように寝かしてくれたり、人がいない場所だとちょろちょろ動いて愉快だし面白い。


「えっ?」

「練習と言われたならそうです」

「あの……」


 頬と耳を軽く染めてかわゆい。自分から手を出して理性がぶち壊れたら困るので我慢、と言い聞かせる。向こうからならこのすこぶる照れ屋は袖を引っ張るからいしか出来ないので安全。


(おお。御帳台がないから先に起きたら寝顔が見られる。相部屋へ逃げられないようにしてそれだ! 控えめでいることに燃えてきた!)


 こうして俺はウィオラと宿を出て散歩することにした。

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