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ネビーから私というか我が家への結納お申し込みを受けなかったら気が狂っていると思うし、逆に頭を下げ続けて頼む立場。
父が不貞腐れ気味なので祖父がいてくれて良かった。しかし気になるネビーの反応というか様子。
ジエムの存在を知ってもお申し込みをやめないでくれたのに、あんまり嬉しくないのかな。
ルルやレイの顔を見たらジエムにもしかしたら何かされるのではとか不安になったのかな。それとも父の態度に怒った?
怒り顔ではなくて無なのがまた分からない。
「妹さん達にはそちらがお話すると思いますが、既にご存知の通り厄災払いの為に孫娘ウィオラはこの家と半縁切り状態。それは今後も続く予定でした。それをお2人がほぼ解決。まことにありがとうございます」
「ガイさんとネビーさんはあまりにも格好良かったです。ルルさん、レイさん、ありがとうございます」
祖父と共に頭を下げた。
きっとガイがルルやレイというかご家族親戚に簡単に説明するだろうから私はその後にガイの格好良さをしっかり伝えるつもり。
ネビーの権力は秘密が良さそうだから本人に確認してから。
「ガイさんはなにやら色々考えたり書類を作ったり急にご友人のところへ出掛けていました。何があったかは必要な分だけ説明されると思っています。尊敬する父の努力が実ったとはこの上なく嬉しいです。教えて下さりありがとうございます」
ルルはにこやかに告げて会釈をした。レイは何も言わずに笑顔で会釈。ルルはさらにガイに破顔。ガイの表情が崩れてデレデレなお顔。
ルルって凄いな。ネビーと同じ本心がこうなのかそれとも計算なのか不明。蛙布団事件を考えると機転がきくのは知っているからネビーと違って後者な気がする。
「重ね重ねありがとうございます。卿家相手に常識要求は失礼な話ですので致しません。今回の縁談は孫娘ウィオラの希望を全て尊重致します。家族や家業関係の要求は一才致しません」
つまり私が全て決めていくの?
それならもう殆ど終わっている。あとは事実が分かって家族と過ごしたいから帰るギリギリまで実家で過ごしたいとかそういう話くらい。
「この場で半結納させていただきたいです。結納は話し合いをしてからお願いしたいです。書面半結納でも構いません。こちらは今回の縁談が破談になるまで他の縁談は全て断ります。逆はそちらがお決め下さい。結納まで他の縁も探したいという希望があればその希望は飲みます」
……私はその希望は飲みたくない。ネビーは……変化無し。無表情で祖父を見据えている。
「この場で口頭半結納で構いません。こちらも今回の縁談が破談になるまで他の縁談は全て断ります。ただし条件があります」
それは安堵。でもガイの要求はなにかな。彼の立場からしたら言いたい放題出来る。
「条件はなんでしょうか」
「家族や家業関係の要求をしていただきたいです。ウィオラお嬢様の性格ですと思い込みや自己犠牲で暴走しそうです。ラルスさんに彼女へ助言やご家族の意見取りまとめ役をお願いしたいです」
祖父が穏やかな微笑みを浮かべた。ガイも笑っている。ルルとレイはにこにこ笑っている。
家族は泣きっ面状態の父以外そうだけどネビーはお地蔵様や彫刻みたいに変化無し。むしろ瞬きもしていない気がする。
「お気遣いありがとうございます。多くは要求致しません」
「皆さんに書類を全て読んでいただければ息子は南地区というより家族優先です。次は我が家ですが我が家関係は仕事振りと跡取り認定で十分です。同居でなくても長男になにかあった時に私の孫の教育関係を助けてもらえるからです。存在してくれていることが大切で南地区にいて欲しいとか孫と必ず同居をではありません。たよれる親戚友人達が他にもいます」
「私は読みましたので把握しております」
「息子は私の我儘の為に視察業務を行えるようになっていますし第三部推薦兵官で非常に信頼が分厚いです。凖官中に仕込刀の常時帯刀許可を得るというのは少々異例で現在その信用信頼は積み重なっています。その辺りの説明も書類にしてお待ちしています」
それ関係はまだ渡していなかったようでガイは背負い鞄から書類を出して祖父の前へ差し出した。
今回の件でガイは書類作成の山だけど縁談用のものは以前から用意してあったものだ。
「通退勤も仕事と認められるくらいなので南地区と東地区の行き来は他の男性よりもかなり融通がききます。休みを取らずに仕事をしながらお嬢様と東地区。これまでの仕事振りでわりと奪い合いの存在なので半年間東地区で暮らして半年間南地区なども可能です」
「そのような事が可能なのですか。……仕込み刀? そちらの木刀は仕込み刀なのですか? 業務外に仕込み刀や真剣の帯刀は私の狭い兵官関係者との話では聞いたことがありません。凖官? 凖官からですか?」
「それが第三推薦兵官です。息子は主に教育指導者として地元に縛り付けられています。この地区の俺達の兵官は彼、みたいな者は大抵第三推薦兵官てす。お心当たりないですか?」
いる。同じ兵官ならあの人に頼みたいという兵官は私でさえ知っている。
「あります。出戻り出世と書いてありましたが、国としてそういう区民に国を信頼信用出来るという気持ちを植え付けてくれる者が欲しいからですね」
「息子はそこにそれなりの実力もあるので他の第三部推薦兵官よりも目立ちます。仕込み刀は害獣退治や草刈りなどを良くするからお前は業務中は仕込み刀を持っておけみたいな感じで始まっています。そこに真剣で暴れる者を休日に素手で相手にしたりが続いてという流れです」
「はぁ……。まあ経歴からして異色でレアンさんが戻ってきた際に聞いた仕事振りも大変ご立派。なのに謙虚。衝撃的な男性を連れてきたなと思いましたがそれはまた……」
祖父は書類2枚を読み終わったようで父に渡したけど父が動かないので母が受け取った。
しっかりして欲しいけど迷惑を沢山守ってもらっていたようなので何も言えないしむしろ文句なんて言いたくない。
「このような方がこの年齢までご結婚されていなかったなんておかしいです。父上、半結納の判断は早いです」
祖父しか話さないような場面なのに父が口を挟んだ。さっき自分で「反対する者は気が狂ってる」と言ったのに。
「色々理由がありますのでまとめてきました。裁判関係の書類はまた別途」
「裁判? 裁判とはどういうことですか!」
父の態度は失礼だけど私が心配だからで情報がなければネビーが未婚なのはおかしいと思うのは当然なので黙っていよう。
ガイはまた書類を祖父へ渡した。質問されそうなことはあらかじめまとめてあるのは知っている。
伝えました、話しましたという証拠にもなる。私達もそこに母印なり押せば読みました、理解しましたという返事になる。難癖回避にはもってこいの手段。
レアンとガイが書類に判子を押し合っていたのでこういうことを考えることが出来る。
「父上、この数日で新しい理由が発覚したので口頭ですがお伝えしたいです」
「そうか。どうぞ」
「単に選り好みしていただけです。理性より本能が勝ってこの方と思ったら行動が早かったのが証拠です。妹2人が良く知っています」
もう聞いた話だけどこの大宣言はかなり恥ずかしい。嬉しいけど恥ずかし過ぎる。
ネビーは相変わらず能面みたいなお顔。表情豊かな方なのにどうしたのだろう。
「ルルさん何かあればどうぞ」
「あれこれ理由をつけて私とウィオラさんと3人でお出掛けをしてニヤニヤしながら世話焼きをしている時点で袖にされたら引きこもりそうと思ったので後押ししました。逆だと氷のように酷いです。言葉も態度も優しいけど絶対に近寄らせないみたいに女性から離れます。大勢泣いています」
「レイさんどうぞ」
「家族優先だからだと思っていたらお嬢様を次々袖にしていたと今日聞いたのでお嬢様狙いどころかお嬢様を選り好んでいたみたいです。ウィオラさんを無自覚に口説いたようにわりと無自覚に選り好みです。お見合いをしたことがあると知らなかったので仰天でしたけど実に兄の性格らしいです」
「娘達は他にも私の知らない話を知っていますのでご自由にご確認下さい」
祖父は熱心に書類を読んでいるけど父はさらに機嫌を悪くしたように見える。
「山のように女性と交流されてきたのですね」
本当に失礼だからやめて欲しい。出会った夜のことやその他も祖父に話したように父も含めた家族にもう話してあるのに。
「皆さん少々失礼致します。我が家の実情や兄や私達の姿をご確認出来ると思って下さい」
ルルは品の良いお辞儀と美しい微笑みの後に急に呆れ顔になった。それでルルはガイとネビーの間に割り込んだ。
「兄ちゃん嬉しさが限界に達したのかロイさんみたいになってるよ。ニヤニヤ笑った方がマシだからどうにかしな。ねぇ、レイ」
「うん。私もそれを言いたかった。そうか。猫被りしたって親戚付き合いの練習をするなら見抜かれるよね。先に見せておかないと。この兄ちゃんの姿を見続けるのはもう無理だったし」
2人がネビーの腕を掴んで揺らし始めた。ルルとレイのペラペラお喋りが始まる予感。私としては和みそうなのでこの方が良いな。
「兄ちゃんしっかりして! いつものバカな感じの方が良い人さが伝わるから表情筋を動かして!」
「ウィオラさんはもう兄ちゃんのしょうもないところを沢山知っているから次はご家族だよ! さすがに眠くなった? ずっとあまり寝てないよね? あくびが多いからそうでしょ! あくびもだけど試験前みたいになってるよ! 隈があんまり出来ないけど私達なら分かるよ!」
「ヘラヘラ笑った方がええと思うから頑張れ!」
「どうせペラペラお喋りだって知られるから言い方と単語選びだけは気をつけて8割くらいは喋った方がええよ!」
2人は半立ちでネビーの耳元で割と大きめの声を出している。しかも次は頬をペチペチ叩いたりつねり出した。
無表情みたいなお顔は嬉し過ぎて固まった結果らしい。覚えておこう。
「み、耳が壊れる! 半分くらい何を言っていたか聞こえてなかったけど笑えと喋ろは聞こえた」
うわぁ、やめろみたいな顔をした後にネビーは苦笑しながら2人のおでこに手を当てて2人の体を押した。
「それは半分以上聞こえてないよ!」
「義兄弟なのにたまにロイさんと似てるよね。すぐお申し込みなのもさっさと結納要求も」
「ジオが生まれた後もこんな感じだったよね」
「ルカ姉ちゃん難産だったからね。難産っていうか陣痛が長くて皆ヒヤヒヤしてお父さん以上に兄ちゃんの動揺が酷かった」
「兄ちゃんさっきまでジオが生まれた時と同じ感じだったよ」
「出張から帰ってきてレイスとユリアが生まれたって聞いた時にルーベル家に行くって言ってトト川に突っ込んで溺れかけたしね。兄ちゃん泳ぐの得意だし全然転ばないのにすっ転んで」
「話が進まないから君達はしばらく口を閉じていなさい。助けてくれてありがとう」
ネビーは屈託の無い笑顔を浮かべて2人の頭を軽く撫でた。羨ましい。
……早く結納になって欲しい。
この年齢なのに面倒な初心さを持つ私に付き合ってくれそうなのは分かっている。
だから逆に私はソワソワ次は何かな? 丁寧な扱いだから恥ずかしくても耐えられそうだと思ってしまう。
ルルとレイは元の位置へ戻ってまた品の良い正座姿になった。
「我が家はこのようにお喋りばかりです。下街育ちの平家で長屋住まいですので」
「あの、ずっと気になっていたのでお尋ねしたいです。卿家拝命予定なので豪家にはなりませんと言えて合法的脱税状態なら引っ越せます。今はやめた駆け落ち計画の際に住処を少々確認したので長屋の雰囲気や値段が少しは分かります」
ルルとレイが話に参加したからかウェイスが口を開いた。父はネビーを睨んでいて母が何やら耳打ちしている。
本当にやめて欲しいけどガイもネビーも気にしないでくれている。内心腹を立てていたりしないかな。その父にネビーは苦笑いを向けた。
「縁談という意味では付き添い付きで食事をした事があります。数回……確か5回です。全員1度で断られたというかこちらが断られるような条件を提示しました。他は勝手に寄ってくる方と恨まれない程度にお喋りなので数えられません。生活の一部です。難癖祝言は断固拒否なのでとにかく恨まれないように上手く避けて友人知人へこう、どうぞと回したり。疲れで気遣い出来なくて邪険にすることも」
父の疑問に先に返事をということみたい。父が口を開く前にネビーはウェイスの方を向いて言葉を発した。
「ウェイスさん。両親は生まれた時からずっと今の長屋住まいです。部屋は移動していますけど。自分もですけど新しい地域よりも気楽です。川の近くなので井戸の取り合いはないし古株だから大きな顔が出来ます。生活にも慣れていてそんなに不満はないです。家を建てる資金を増やした方が自由がききます。中途半端な家より長屋の高い部屋を複数借りて長屋富豪でいこうと」
「私達はかつて2間の部屋で8人で暮らしていました。次は姉2人が結婚して6人です。次女姉が出産して私がお世話係でしばらくルーベル家に住み込みをしたり隣のレイが旅館で住み込み勉強をするようになって人が減りました」
「末の妹が小等校に編入した後に長屋住まいをバカにされて言い返すだけでは可哀想かもという話をしてそれなら長屋富豪をしようとなりました」
「母は今暮らしている長屋で3番目のお山の大将なので大家さんに私達が出て行くと人が減るぞとか兄がいるとこの長屋は人気だぞと家賃交渉をして買ってあった部屋を含めて4部屋です」
「貧乏から脱出しているので1人暮らしがよかだけど家事は苦手で仕事や勉強中心が良いし賑やかなのが好きなので部屋は隣で家事はほぼ丸投げの脛かじりです。3間を4部屋で1部屋は主に末っ子の勉強部屋ならバカにされにくいです」
かまどと厠なし6畳2間からかまどと厠ありで4畳3間。部屋の大きさは変わらないけど台所部分が増えてかまどありで便利になったことや、このように4部屋に増加したのはエルから聞いている。
私は値切ったのとお金は道芸でまた稼げるぞという気持ちから琴や舞の稽古をしやすい広さがある方が良くて見学の時に気に入った。
街中は便利そうだし女学校に近いところも考えたけどあの長屋なら遠くない。
蛇や蛙に草むらに虫や時の鐘の音が聞こえないという欠点があったし確かに水害は心配。でもあそこにはたんぽぽ畑とか河原という楽しい景色がある。
「川の近くで水害が怖いとか蛇とか虫とか蛙などで人気がない土地なので他の長屋より広めです」
ネビー、ルル、レイの会話はここで終了。ウェイスの返事を待ちますという意味だろう。
これはその通りで賑やかな街中の町屋に囲まれた長屋のはもっと狭かったし広い部屋もなく一律同じとかだった。
長屋富豪とはその通りかもしれない。1人暮らしでもかまどと厠無しの4畳2間が1番小さい部屋。押し入れがあるし共同物置も存在。それで高いかというと高くない。
「長屋富豪……見ていないけどその通りな気がします。長屋も町屋に囲まれている1人暮らしや夫婦のみくらいを想定した狭いところから街中から離れていて治安が少し心配だけど広めみたいに種類がありました。町屋も狭いところは狭いです」
「治安は兄がいるのと住人達で防犯に力を入れています」
「ウェイス、数日暮らしましたが朝目が覚めて少し歩けば川を眺められたりたんぽぽ畑があるのは素敵です」
「ウィオラさんはあそこを観光地って言いましたからね。あの雑草群をたんぽぽ畑ですし」
ルルは肩を揺らしてクスクス笑った。ウェイスは少し照れ気味に見える。義兄なんて少しデレっとした顔をしたから姉に睨まれた。
「ああ、それで提案なのですが書類のどこかに以前の縁談条件が書いてありますが格上お嬢さん狙いだったので生活や価値観にかなりズレがあるだろうから半年ずつお互いの生活環境で暮らすという条件をつけていました。まあ断られたくて提示していた条件なんですけど。先程の父上の言葉を聞いてウィオラさんはせっかくご実家に帰れそうなのでその条件で交流はどうかと思いました」
先程ガイの話を聞いていたしネビーからこの話を聞いたことがあるのにその発想はなかった。
それは私としては素晴らしい提案に思える。家族と過ごしたいけどあの長屋で新生活やネビーの家族やルーベル家に彼等の友人知人達と交流してみたい。
見知らぬ世界にわくわくしているしネビーのことをもっと知る事が出来る。でも家族とも過ごしたい。
この縁がしっかり結ばれて祝言になったら南地区で生活を選ぶかもしれないから尚更。
でも女学校の講師の件がある。12月末で契約は終わりだけど次の採用を断ったらまた難関採用の予感。
「そう思ったので先程の話をしました。女学校の講師を勤務前に断ると南地区の区立女学校では2度と採用されない可能性があります。採用の際に臨時講師は試験期間なのでしっかり勤めて下さいみたいな話があったかと思います。突然辞めるのは後任探しなどで上が疲れるから嫌がられます」
私は小さく頷いた。ガイの言う通り。妊娠出産しても良いけど休みの融通がきかないこともあるので気をつけてなど色々言われた。
遠回しではあるけど正式採用になるまでは妊娠出産その他介護や病気などにかなり気をつけなさい。という感じだった。
「ただ勤務して期間を短くするのは可能です。あらかじめ穴埋め探しが出来るからです。勤務状況を気に入られれば穴埋め予備候補になるので自由自在ではなくてもまた働けます。町内会や友人などツテがあります」
卿家は全方向にツテがあるのを忘れていた。しかも同じ公務員。しれっと町内会や友人でツテと言えるのは凄い。
「半年あればジエムさん関係の事件調査や関係者逮捕などがわりと進んで安全性が増しそうです。今だと関係者がジエムさんの扱いを知って勝手に逆恨みが気になります」
「先程の輝き屋との縁結びや事件調査などが進んでウィオラお嬢様が大手を振って帰れるようになってからが良いのではと私と息子はそう提案します。息子も半年後から事件調査に横入りして手柄を横取りです」
にやり、とガイは不敵な笑顔を浮かべた。仕事用の表情なのだろうな。初めてのお顔だ。ルルとレイも驚いたような顔をガイに向けている。
「おお、その考えは無かったです。暴れ組の怪しい売買とかを調べた後の強制捜査から参加。殴り込みだと目立てます。東地区で南地区本部の隊服は派手です。父上が俺の息子は東地区でも活躍していると言えます」
ネビーは俺は凄いぜ、とは言わないんだろうな。
「情報漏洩してもらって視察に合わせて参加してもらおうかとか少しそういう考えもある」
名誉欲だ。ガイはネビーを手に入れたことで名誉欲に取り憑かれてそう。婿に出すなんて却下で絶対に離さないだろう。
「南西農村地区でのあれやこれやと同じですね。俺は東地区でも成り上がったと自慢します。事実は自慢ではないですが自慢と言われそうです。あはは」
「兄ちゃんはその自慢屋を早く直しな」
「格好悪いからウィオラさんに嫌われるよ」
「ええっ。それなら黙る。なるべく事実を言わない」
「それは嘘つきみたいになるからダメだよ。嫌われるか誤解されて逃げられるよ」
「ルルの言う通りだよ」
「俺はどうしたらよかなんだよ⁈」
俺は凄いぜ、とは言わないんだろうなという感想は間違いだったみたい。
「事実ならそのまま受け取ります。隠し事はルルさんの言う通り誤解の元です」
「バカ正直なので余計なことを言わないようにだけ気をつけます。あと単語選び」
ネビーとようやく笑い合えた。これだけでうんと嬉しい。
「半年間双方の世界で暮らさせてくれる。その間も気楽に帰宅させてくれる。1年間でどちらの世界で生きたいか話し合えますし孫娘は南地区で女学校の講師という新たな道も出来る。このような方は滅多に居ません。ウィオラ、どう思う?」
「おじい様。私はこの案にとても前向きです。数日で下街世界に惹かれています。でも家の事情が分かり家族の想いが分かった今、家族とまた暮らしたいです。私は欲張りです。彼はそれを叶えてくれようとしてくれています」
「1年後にいつ祝言するかとどちらの地区で暮らすか決めるというお約束を交わすのはいかがでしょうか」
祖父のこの発言にネビーは目を丸くした。何に驚いたの?
嬉しさが強いと無表情気味になるのは先程知ったけど嬉しいとは別の感情なのかな?
「いえ。先程口にしたように東地区でも活躍すると父が喜びますし両親には長女夫婦がくっついていますので祝言後も半年ごとで構いません。1年ごとでも」
えっ?
「ウィオラさんは芸妓仕事もしたいと言うていたので家族がより輝かせる輝き屋で働きたいと思うかもしれません。もう譲れないとか子どもが学校に通学するなどでどちらかに決めないとならなくなったら話し合いです。俺は貧乏育ちなのと人見知りしないのと動ける仕事なのでどこでも暮らせます。彼女や彼女を大事にするご家族の為なら。他の方なら家族優先で拒否ですけど」
……その発想は無かった。その発想は無かった!
それから胸がいっぱい。長年この条件は絶対だと動かなかったお地蔵さん話は結構聞いているのに私となら譲り合ってくれる。
こんなの譲り合いではなくて単に与えられているばかりだ。私も常にそうしたい。遠慮はしないけどしっかり譲るのは難しいけど2人で生きるとはきっとそういうことだ。




