49
私は家出。父が近くの屯所で私兵を頼んだけど見つからなくて今度は地区本部へ行ってまた私兵雇用。ジエムは常にくっついていたらしい。
祖父と両親も姉も義兄もジエムもそのように慌てて家出した私の行方探し。
祖父がふと思って旅行手形発行や関所通過記録を役所で確認。私の行き先が南地区だと分かったので別の私兵を雇って捜索。
ジエムに発見されたくないけど私は見つけたい。祖父は別行動をして父とカラザは役所で調べることを思いつかなそうなジエムにさらにそういう発想が出ないように誘導。
地区内ではなくて地区外へ出たと分かれば三味線を持った身なりの良い旅装束の若い女性を探すのはわりと簡単で私が最初に宿泊した宿で私を発見。
私は「自由よ!」とわりと呑気に観光していたので見つけ易かっただろう。
「見に行ったら楽しそうに観光しているので一先ず見張りをつけて旅行させておこうかと」
「その通りで楽しんでいました」
祖父がふふっと微笑んだ。
「ジエムさんがどう動くか分からないけどお前を隠す場所を確保するのが優先だと考えた」
「門下生の華族や卿家を辿れば他地区に隠せるかもしれない。もう元服したし家出準備をして実行する度胸や全てを捨てる覚悟があるなら事情を説明しようと思った」
祖父と父の後にカラザが口を開いた。
「お嬢様の性格だと被害者が何人もいるなら大人しく息子の嫁になりますと言いそうな気がしました」
「短期間しか交流していない俺でもそう思います。年々嫌いになっていったと聞いていましたけど家のためだから歩み寄ると勉強を教えていたなんて知りませんでした」
ネビーは目を細めて私を少し見た後に目を閉じた。それでゆっくりと瞼を開いた。それで彼は祖父を見据えた。
やはりネビーは時々何を考えているのか分からなくなる。
人と人は通じ合うなんて出来ないので当たり前。でもわりと分かりやすい人が分かりにくくなるとかなり困惑する。
「私は家なんて知らない。門下生の生活も知らない。もう全部捨てると思った時に婚約破棄になって内心大踊りです。婚約破棄がなければ単に自分のために家出していました」
「しなかっただろう。私だけではなくて家族全員がそう思っている。その我慢や自身を大事にしないところは直して欲しい」
私は私のことを優先しているつもりだけどこの場にいる人達は誰もそう思わないみたい。ガイまで頷いている。
「隠居の身で仕事はあるけど孫より勝るものはないのでそのまま一緒に観光した」
「おじい様は私のあとをつけていらしたのですか⁈」
「当たり前だろう。私兵は成人が本人の意志で手続きをして旅行していることを止められない」
「権力にもよります。基本は無理ですが息子のようなお節介に個人的な感想や意見を述べてもらうみたいな方法もあります。ツテやコネやあらかじめ準備が必要です」
ガイはさすが煌護省本庁勤務。
「父上、もしかして俺はそのような理由で派遣されたことがありますか?」
「家出しそうな息子がいるとか学校で虐められているとかまあそういうのばかりだ」
「旅行私兵は役得だと思っていたけど意味があったんですね。いつも南西農村区で……それはそこら辺で名を売ると農家から野菜とかでそこから縁結びとか色々だからですよね。それは分かっています」
「自覚されたら使いにくくなる。表向きそういう事は禁止だ。忘れっぽいから忘れてくれ。まあ世話焼きだけど一線引くから自覚して働いてくれても構わない」
「はい。いつもの話しても話さなくても君は同じみたいなことですね。それでどうされたのですか? ウィオラさんは花街へ乗り込みました」
「詳しくなかったので調べたら私兵派遣の規定や抜け道など色々ありました。あと我が家の家柄だと許さないとか縛りがあったり複雑な制度ですね。知らない者も多いですし。旅行手形の目的地が南地区だったので海だろう。1度しか見たことのない大海をウィオラと見られるとはいっそそこで少し話をしようと考えました。なのに乗り込んだのは花街です」
中央区の海は湖。南地区と西地区の海も異国からすると巨大湖らしいけど煌国では海。中央区は小海で残り2つは大海と呼んでいる。
祖父は確か若い頃に1度見たきりだ。孫の私と見たいと思うのは当然の考えだと思う。
「客引きに合って目が離れて心配して探し回ったら道芸をしていました。あれは孫ながら見惚れてしまいました。大金を稼いで人に囲まれて花官とその他の人達と屯所。花官を雇って住み込み先を交渉して身分証明書を見せずに契約書を作って花官を連れて役所。箱入りのはずが強か過ぎて唖然で下手に横入りするより無事に過ごすか? と悩みました」
「その契約書は見ましたか? 元服したばかりで家出で初奉公だから心配だとかゴネてお金を積めば書類を見るくらいは出来たりしますけど」
ガイは手を止めている。これは記録しなくて良いことなのかな。
「見ました。何もかもとにかく自分有利な内容です。どう考えてもその場の思いつきではないなと」
その通り家出準備はかなりしていた。あの高飛車契約書を見たんだ。
「例えば男性従業員を5歩以内に近寄らせるなでしたっけ?」
ネビーの問いかけに私は頷いた。
「はい。契約しなかった相手に住み込み男性がいるなら追い出して下さいとも言いました。信用したら考えますと」
「最初に稼いだお金を全て払って1ヶ月間試用期間。以後1ヶ月更新。いつでも引き抜き可能。翌日にまた道芸。ほらほら私が欲しいだろうみたいにな。あれは脅しだ」
私の隣でネビーがクスクス笑い始めた。呆れ顔の祖父以外は皆わりと険しめのお顔なので彼だけが浮いている。
「ウィオラさんは芸の事だとかなり自信家ですから想像出来ます。漁師に戦いを挑んで魚を売って毛むじゃらカニその他を全て無料で獲得。旅館には無料で良い宿泊を2泊寄越せ。あはは」
「わ、笑わないで下さい。必死でした。漁師さん達との戦いもそうです」
「構いたいけど構わなくても平気そうなところがまたよかなんだと思います。あの音とか演奏で自分を発見させてその後はかなり心配になる性格や箱入りお嬢様感で惹きつけ。そこに逞しくて強かさに自信家など。そりゃあチグハグだから目が離せなくなりますよ。ウィオラさん目当てで熱心に通っていた客は俺と似たような感じで罠に嵌められたのでしょう」
そんなの無自覚だから罠に嵌めてなんていない。
ネビーは笑い続けるし「俺はウィオラさんのそういうところを好んでいます」という意味なので恥ずかしくてならない。
ジエム付きの私は嫌だと投げ捨てられなさそうなのは嬉しくて安堵。自然と笑みが溢れた。
「それを言ったらネビーさんがそうです。荒々しい下街男性さんかと思えば雅に枝文とか卿家の男性らしい言動に兵官さんとしての凛々しいところや子どもっぽかったりチグハグです。ですから多くの女性に好まれて時に……ネビーさんも私に対するジエムさんみたいな女性にまとわりつかれています! 同じというか似ています!」
「今後もいるかもしれないけど俺はウィオラさんと違って男で力もあるし今は権力も増えています。背後に卿家と地区兵官達がついているので火の粉は避けられます。しっかり気をつけていれば」
「2度と仕事でも遊楼には入らないとか追い剥ぎ疑惑にすぐ気がついて対応とか行動や判断が素早いですしね」
「代わりにせっかち。急がば回れが苦手だし過剰だったり困ったものです。ウィオラさんはきょとんって顔をして海老で遊ばれたりぼんやり気味です。俺にもすぐ連れ出されて」
「誰でもついて行く訳ではありません。5年間男性と2人きりで歩くことは一度もあり……」
オホン、オホン、オホンとガイの咳払いで私とネビーはお喋りを中止した。
「まあそのように1年間は近くで見ていました。仕事を得て軽く働きつつ見張りです。店の宣伝以外出てこないのでお店の従業員をお金で買収して様子見と情報漏洩と手助けを頼みました。事情や素性は言わずにです」
花官は遣り手として潜入ではなかったのか。
つまり私と親しくしてくれたり良く声を掛けてくれたり……定期訪問ですと花官が菊屋に来ていた方が私兵依頼?
ほぼ毎日誰かが来ていたけど実はあれは他のお店ではない行動?
「おじい様は近くにいらしたのですか」
「ジエムさんは昔から私の存在を忘れているから不在でも怪しまれないかなと。手紙で様子見していたけどそうだった。彼はカラザさんとプライルドにまとわりつきだ」
「おじい様がそばで見守ってくれていたなんて。ありがとうございます」
「大事な孫娘だから当然だ。お前らがウィオラを探せと酷いので北東農村区の観光地で見かけたけど仕事があって中々いけない。人を使ったけど別人だった。そんな風にまあ色々とプライルドやカラザさんにジエムさんに気に入られ気味のファーゴが踏ん張ってくれた」
義兄が軽く会釈をした。気に入られ気味ってもしや密偵?
「擦り寄って尻尾手前はなんとか。その辺りはあれこれご報告出来ます」
「孫娘に素晴らしい夫でとても頼もしいです。ジエムさんはウィオラを見たという場所で地方公演を何度か敢行した。それがまたジエムさんに輝き屋での居場所を作るし新しいコネに金も入るから増長。代わりに時間稼ぎにもなった」
私は花街で地蔵化。祖父は日に日に私の芸が変わっていくからこのまま人生や芸の糧にどうかと考えた。菊屋内での生活はある意味箱入り。
それとなく「西地区のお嬢様で捨て奉公人らしい」みたいな話を流してみたり「天の花街に売られて育てられた北地区のお嬢様は借金減らしが早くて海が見たいと菊屋に乗り込み」みたいな噂を撒いたそうだ。
「おじい様の意見には反対したけど女学校の講師になったら出て行くのならどうにか出来ないかと考えたが南地区にツテなど中々無理でな。女学校の講師枠は取り合いだ。そのうち菊屋にいて嘘の噂で隠せるのは下手に下街に出られるより安心な気がしてな」
「そういえば祖父はどうしたみたいになったので慌てて帰宅。見張りもつけたし花官にも頼んであるのでお金さえあればと思うけどそのお金もお前が仕送りしてくるから我が家はお金を全然使っていない」
「そうしたらもう5年ということですね。増長しているジエムさんをどうしようとか、私と離れていれば看板役者として輝くとか、私に話すと帰ってきそうとか色々」
「八つ当たりみたいな犯罪があるし、息子の執着心は深くなっていくし、南地区の方から逆にウィオラお嬢様の真みたいな噂が入ってきたのでこれは危ないとまた会議です」
八つ当たり犯罪……。家族には何もなさそうだけど何かあったかもしれない。
「私はウィオラを武者修行させている気持ちもあるなんて誰にも話したことはないのにそういう噂も出来ていた。人の想像力はわりと現実的なのかなんなのか。別の噂もしっかり出ていた。ウィオラは菊屋内で自分がどう言われていたか知っているか?」
クララが知っていた話は真実を聞いた誰かが漏らしたのではなくて色々な嘘や真の噂の集まりでかなり真実に近づいていたということかな。
しかし実際はジエムという私に付きまとう黒い影があるのが問題で、そこはクララの話に出てきていないので嘘が集まった結果かもしれない。
「どこかのかなりの家のお嬢様。信憑性は私の言動や仕草です。皇居入内に失敗して要らないけど磨いた才覚で稼げと捨てられた娘。中央区の天の花街にいそうな娘が菊屋にいるぞと楼主と内儀がそういうでっち上げ宣伝をしていたらしいです。昨日知りました」
「色春売りをさせられない契約でどう誘導してもしてくれないし見張りもいる。それならお嬢様売りや純情売りだと遊女に揶揄わせたり犬や猫やハムスターと戯れさせたりして客からお金をむしり取っていたみたいです。気に入られたら相手をしてくれるみたいですよと恋営業でしょう。色が無理なら恋売り。ウィオラさんは気がついていないから取り分無し」
「それは私も知らなかった。危険がないことだからこちらに報告しない。店には協力してこちらの情報を売って店に流して金だろう。出自や家などはかなり隠したけど雰囲気やなにか隠せないものはあっただろう」
つまり遣り手ハオラは私が「実家に帰る」と告げてお店を出たので何かを察して逃げた?
女学校講師になる話は誰にもしていないのに太夫達は知っていたけど菊屋内部で色々派閥や隠し事などあるのでハオラの知らない話もあるだろう。
「恋営業は危険です。第2のジエムさんみたいなのが出てきたり……ウィオラさん、居ませんでしたか?」
「そういう関係ではかなりぼんやりおバカさんだと自覚しました。今のところ思い出してみても分かりません。太夫さん達が私達が抱いたみたいに言っていたので助けてくれていたのかと」
「ついでに客を横取り。女にのめり込む相手だから貢がせようですね。純情系の男だと普段と違う男で楽しいとかいっそ一緒に街を出ようかとか思惑は様々でしょう」
つまり私は薄氷の上で歌って踊って演奏していたみたい。1人の力ではなくて多くの力に守られていた。守られているけど利用されている。
「今日も彼は何か話をしに乗り込んできたんですね」
「ええ。南地区のどこかの花街でウィオラみたいな女がいるらしいと聞いたから探しに行けと。南地区で巡業するとかまあ。彼は仕事はするんです。まあカラザさんが輝けばウィオラが帰ってくるとかそういう風に仕事をさせてくれていたんですが。先日稽古途中にウェイスの首を演技の一環で絞めて」
「……ウェイス! 私のせいでそのような恐ろしい目に合わせて……」
頭を下げようとしてまたガイに「ウィオラさん」と低い声を出されて停止。話の途中でもう何度目だろう。
「またうやむやにされようと訴えてやると準備中でした。姉上は何も悪くないのですから気にしないで下さい」
「その通りだウィオラ。お前は彼に何をした。必死に歩み寄ろうとしてくれた」
そう言われるとどう返して良いか分からない。
「姉上、自分も事情を途中まで知らずにどうやら輝き屋と我が家は縁切りしようとしているとずっとそう思っていました。それでカンチャーナとは結ばれないと思って自分も家出準備です。家出というか駆け落ちですけど」
「……カンチャーナお嬢様? そうなの? ウェイスってそうなの?」
この5年で男の子から男性みたいに変化したウェイスにまさかの色恋話で動揺。
「発見されて事情を説明されて逆に音家の話と絡められる。ジエムさんと姉上の縁結び理由をさらに無くせるから万々歳だと言われて拍子抜けです」
3つ歳下のウェイスとカラザの長女は同い年で幼馴染。嫌い合っていた気がするけどそうなの? いや、そうなったの?
「両家ともジエムさん関係や孫や家業に目を奪われていて大人しめで素直で真面目なウェイスとカンチャーナお嬢様のことを気にかけなさ過ぎだった。家のために仲が悪いフリをしていたそうだ」
「最初は普通に仲が悪かったです。ネビーさんが口にした男の子は気になる女性に悪い意味で絡みたくなる感じです。振り返るとそんなです」
「バカ息子と違って拗らせなくて良かったというかこれが普通な気がしますがジエムは自分の息子なのに訳が分かりません。こうすればウィオラお嬢様と上手くいくと教えても全く聞く耳持たないどころか真逆で」
「カラザさん。ですから生来4欲を強く持って生まれてしまって誰にもどうにも出来ない人喰い鬼です。良いところもあるからまた難しいですけど。特にあの芸」
祖父は婚約破棄後の公演時のジエムを褒めたけどやはりそこは認めているみたい。
カラザもそうだから捨てるに捨てられなくてどうにか真っ直ぐな男性にさせたいと格闘?
捨てようにも証拠が集まらなかったみたいな話は何度も出ている。
我が家はきっと私優先。それでも祖父や父はジエムの仕事やその芸は褒めている。それなら当然父親のカラザにはやはりジエム寄りの気持ちもあるだろう。父親で長所を認めているから。
両家でなにを犠牲にしてどう何を守るのか話し合って折り合いをつけていたのだろう。
父とカラザがここまで結びついていたら音家の話はそれだけで決まっているかもしれない。
「ジエムの才能に拗ねて裏方に逃げた長男ヴィシュヌを私と同じとはいかなくても奮起させました。6代目はお前しか居ないと。子が時に重いけど親子で輝けます。育てる力が誰よりも勝っていたという話にも出来ます。アサブはジエム似の鬼才。出自や家庭環境の複雑さがまた味を出しています。8歳半元服で大々的にお披露目が目標でした」
ジエムの追い出し計画という訳だ。一座の中で派閥争いとかありそう。
「自分は大看板で輝き屋をさらに輝かせていると増長しているジエムさんの引きずり落とし。支援者や信奉者を6代目と7代目に引き込む準備中で隠れ稽古を我が家でかなり。地下通路まで作った。それに合わせて音家拝命に向けてその公演を怪演にする準備中でもある」
やはり我が家は音家拝命なのか。
「姉上、そこに自分とカンチャーナさんの縁結びです。結納を密かに交わして黙秘しています。6代目襲名公演で我が家の音家拝命と自分達の祝言披露です」
「それまでに削っては増えるジエムの味方をとにかく削る。東地区から追い払う縁切りが出来るような理由探し。本人に中央区に乗り込んで初代になって隣にウィオラお嬢様はどうかとそれとなく乗せたらわりと前向きです」
つまり仕事は真面目に励むジエムを仕事を理由で追い払ってなるべく大人しくさせる。輝き屋内のジエム派も消して我が家を一座に迎える。これはそういう話だ。
微妙におバカだからそういう話には乗っかるんだ。
「彼が人らしいというか真面目に励んで認められているのは役者道なので奪うとそれこそウィオラにさらに粘着して破滅へ向かいそうなのでな」
「話を聞いていたらそう感じます」
「今日南地区のどこかの花街にウィオラらしき女と口にしたので天の花街にいると言おうかと。騙されて売られてあの才覚だから売れっ子。お人好しの世間知らずで借金漬けで出られないとかな」
天の花街は中央区にある国で最も高級と言われる花街。他の花街とは違って誰でも気軽には入れない唯一の花街。
「お店が分からないと言えば稼いで天の花街中のお店に貢いで探すかなと。稼ぐということは役者として励む」
祖父の話を聞いているうちに私は段々自分が両家にとってどのような存在になっていったのか理解してきた。
「色も売りそうだけどとりあえず婚約破棄時のように子持ちは嫌われるだろうと何度も釘を刺しています。今のところ花街外で色売りの証拠は無いです。目立つ役者なので見せしめ死罪になるからしないのはまあ当然です」
「ウィオラが花街から出るタイミングだったので南地区の花街を探しても見つからないと思った。そろそろウィオラに話をしてジエムさんの嫁にならなくてもどうにかするから自分で築いた世界で暮らしていて欲しいと話すつもりだった」
私はゆっくりと深呼吸をしてから家族全員とカラザを順番に見据えた。この話の結末はやはりこれだ。
「私は一生ジエムさんから逃げるような生活になるからこの家に帰ってくるのは中々難しい。両家や周りへの被害はその方が少なくて私もジエムさんが嫌なので実家や家族を諦めるしかない。だからいつも帰ってくるなという手紙。私の気持ちが家族から離れるように下準備でした?」
祖父だけがゆっくり首を縦に振った。両親は首を横に振っているし他の皆は俯いている。
「そうだ。お前が家の為だと家出し続けてくれたのを良いことに捨てることにした」
言われなくても分かるから祖父にそうはっきり言われた方がスッキリする。
「帰宅する際は必ず連絡をしてもらってこちらで私兵もつける。隠し地下通路を作ったし地下室もだ。裏切られたらジエムさんに捕まってどうなるか分からないから友人知人には会いにくい。特に結婚後。こんなのもう生まれた地を自由には歩けない」
「……けれども他の地でならわりと自由です。小賢しくて粘着質で厄介だけどわりとおバカさんをなるべく遠くに追い払って仕事という時間にも縛り付け。彼の人生も破滅させないように。見捨てないように。きっと納得しました。5年もこの地から離れていて家族から気持ちも少々離れ気味で……それも誘導で……」
私は隣に座るネビーとガイを順番に見つめた。私は捨てられるところで家族は辛い選択をした。カラザも胸を痛めてくれただろう。今の場の雰囲気がそれを物語っている。
しかしネビーとガイが現れた。彼等は壊れかけている私達の繋がりを結ぼうとしてくれている。
この場で語られていない犯罪や関係者も一網打尽かもしれない。
2人とも凛と背筋を伸ばして真剣な眼差しであまりにも格好良いし光って見える。
「それが紫電一閃。中々大きな権力を背負った立派で誠実そうな方がジエムさんを追い払ってくれた」
「この件で一座を団結させられます。長男と孫に家族やこの家と共に新たな輝きを必ずや。守りたいものを全て守れそうです」
「姉上、自分は待たずにカンチャーナさんと祝言出来ます。我が家も音家拝命で事業拡大や門下生達に新しい道です」
「落ち着けばウィオラは我が家でもこの地域でも自由に過ごせるわ。1人娘なら家など捨ててしまって側にいたかったけど……」
「捜査祭りになれば泣き寝入りした者達が救われるし今後の被害者も減ります。何も悪くない妹を捨てる手紙を書いているのかといつも……」
ずっと涙目だったけどさらに泣き出した母を涙を流す姉が軽く抱きしめた。息子を抱いた義兄がその姉の背中を軽くさする。
「実の両親は立派になれよと金食い虫長男を苦労して兵官にしてくれて、後から増えた両親は家族や大切な人を守れる道を作ってくれました。バカなので1人では何も出来なかったです。ガイさん、俺の我儘を聞いて色々な予測を立てて下準備をして遠い地に来てくれてありがとうございます」
私も含めてこの場の全員がネビーとガイに深々と頭を下げたのにネビーまで頭を下げた。まるで自分は何もしていませんと言うように。




