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お見合い結婚します「紫電一閃乙女物語」  作者: あやぺん
本編

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46

 ジエムがネビーに連行されて部屋から出て行くと勢い良く祖父が寄ってきて抱きしめられ、同じように近づいてきた父には右手を取られて両手で握りしめられ、足元ではカラザが土下座。


「卿家の名を使うなら嘘は少ないのだろう! どうやってこのような方と繋がって助けを求めた! 両家の状況を知っていたんだな!」

「ウィオラ! いきなり帰ってきてこれとは驚きしかない! 何をどうしてこうなった!」

「ウィオラお嬢様大変申し訳ございませんでした! 私の力が及ばなくて長年この家にもお嬢様にも不遇に辛酸に苦痛に苦悶に……」


 3人とも泣き出してしまって困惑。祖父が味方かもしれないのは予想していたけど父のことは疑っていたしカラザがこれとは衝撃的。


「く、苦しいですお祖父様。嬉しいですが苦しいです。それから両家の状況など分からずに帰って参りました。お見合い結婚しますとお話しに来ました……」

「苦しいかすまない。お見合い結婚しますと話にって……。まさか結納お申し込みは本当なのか?」

「コホン。卿家の名を使うなら嘘は少ないではなくてこの規模になると真実のみを使わなければ卿家に恨みつらみのある家にこれ幸いだと粗探しや難癖をつけられます。本日示した息子の権力は内密にお願い致します。そこそこ人気の地区兵官としがない卿家の方が生き易いです」


 ガイの咳払いで祖父達3人は彼に注目した。祖父と父が勢い良く正座してカラザみたいに土下座。

 私がジエム関係で迷惑をかけ続けていたのは明らかなので父の隣に並んで私も頭を下げようとした。


「ウィオラさん下げるな!」


 ガイに叱責みたいな低い声を出されて頭を下げる途中で停止。

 ほぼ同時に父の手が私の肩を軽く掴んで頭を下げるのを止めたのもある。


「ウィオラさん。貴女は地蔵で多くの者に心配されていた息子を動かしてくれました」


 私はそろそろと体を起こした。多くの者に心配されている……私も少しは知っている。

 彼の家族や親戚から直接耳にしている。漁師も「騙されてるんじゃねえか?」だし長屋では彼を祝おうみたいに大宴会。


「権力にも出世にもさして興味がなくて常に自分は後回しの息子が必要があれば自分が使えるもの全て使って貴女の味方をしたいと私に頭を下げました。支援者が誰か分からないけど全員に頭を下げて回ると」


 ネビー自体もそう言ってくれていた。助けを求めると。彼は昔助けたから助けろなんて絶対に言わない。

 よく分からないけど俺を助けようと思ってくれるならどうか助けて下さいと言って周りそう。


「バカなのでその使えるものが何か分からないし使い方も分からないから助けて下さいと。その頭は是非息子のために下げて欲しいです」


 この件はガイや卿家の格上げに利用出来るけどそうなるかは分からなかった。ガイはいくつか予想を立ててその場合どうするのか計画を立ててくれたのだろう。

 仕事を急に早退したり農林水省へ行ったり書類を作成したりと手間暇掛けてくれた。

 私の為ではなくてネビーの為なのは理解していたけどそうだ。そのネビーは私の為にそうしてくれた。

 使えるものが分からない……分からなそう。なぜ好まれたか分かっていない様子なので誰にどれだけ好まれているかも理解していなそう。

 そうなると私の気持ちは彼にしっかり伝わっているのか気になってくる。


「まさか息子さんはあの漁師達を止めたのではなくて火に油を注ぎましたか?」


 祖父の問いかけにガイは首を横に振った。彼の性格を知っていればそのような事はしないと分かるけど祖父は知らないから仕方ない。


「いえ。止めてまず自分達で調べると言いました。必要があれば頼むのでその時はお力添えをお願いしますと頭を下げました」

「でも漁師達はこのように先回りされたのですね」

「うんと信用されている息子ですので逆にお人好しで騙されそうだし心を鬼に出来ないだろうと信用されず。なので息子の希望は無視されました」


 心を鬼に……出来なそう。確かにしなさそう。


「息子からお嬢様の実家には彼女を帰宅させられない理由がある気がするという話をされました。5年もそうなら深刻かもと。それで下準備を増やしました。それから昨夜新しく知ったお嬢様の性格。己の何もかもで彼女の盾になりたいと頭を下げられたのはその時です。それで寝る前にまた書類を増やしました」


 もしや私にジエムや家のことを尋ねた日の後?

 触らないけど抱きしめても良いですか。あの素敵時間で甘い気分に浸ってしまっていたけどネビーはそういえば「腑に落ちない」みたいな様子だった。

 昨夜のことも知らなかった。私が屯所(とんしょ)の部屋でルルとレイに揶揄(からか)われていていた時だろうか。

 ネビーはガイに「レイのことで少々」と声を掛けて廊下で話をしたり、ガイは「視察の一環だから仕事をしてきます」とどこかへ去った。その間ネビーは出たり消えたり。


「それで南東農村地区で火の油の準備ですか?」


 私は思わず問いかけた。ガイは先程「本日お世話になった南東農村区の農家少々」と口にしたからなにかしてくれた。単に視察仕事をしていた訳でないみたい。


「特に何も考えてなさそうにいつもの調子で好まれているので村長さん達にヒソヒソ相談です。息子を大自慢。追い剥ぎ強姦犯罪を少し大袈裟に報告するとか発煙筒の話など。卿家縛りの中でもそこそこやり方はあります。それで一筆書いてもらいました」

「一筆……」

「南地区の漁師達は東地区大河の川漁師達と日頃から交流していて南東農村区を通ります。その際南西農村区の友人知人から色々預かって彼等に渡したりするものです」


 それは知らない話。そうなんだ。南地区の海は南西農村区へ飛び出ているし最外縁の行交道(ぎょうこうどう)は荷運び通路。

 言われてみれば彼等はそうやっていざという時のために交際しているのは当然というかそうでないといざという時に一致団結出来ない。


『そこらの警兵と違う派手というか格好つけなこの羽織の警兵をたまに見るけどふんぞり返っていたり気に食わん。でもあんただとこの羽織は似合いに見える』


 あの言葉がある上で大狼襲撃事件の話や漁師達が「俺達の卿家兵官」みたいな話をしたら味方に引き込むのは難しくなさそう。

 我が家はあの村かどこかに寄付しているみたいな話もしたし、ルルやレイは「発煙筒とか対策してもらわないと私達が困るからガイさんと兄ちゃんがしっかり仕事をします!」と告げたしその2人もあの家でとても親切なことをしていた。

 

『ネビーさんが漁師さん達に好かれた理由が分かりました』

『何でですか? 何にもしてないと思うんですけど』


 彼はガイが根回ししたことを、先程ガイが「本日お世話になった南東農村区の農家少々」と口にするまで知らないかったかもしれない。

 それで「あの村か。よく分からないけど有り難いな」くらいに思っている可能性もある。ガイ曰くもっと大きい話だ。

 ネビーに足りない強かさはガイが補強ということ。やはりこの組み合わせは強い。ガイだけでは何も出来ない。ネビーもそうだ。彼は自分の能力をガイの力でより発揮しているのだろう。

 ガイが家族のためにネビーが本来する必要も予定もなかった業務をさせた結果助けられた者は沢山いそう。大狼襲撃事件がまさにそれ。


「卿家跡取り認定以外の出世は特に興味がない無欲気味な息子です。歩いているだけで好まれる自慢の息子なのでいざという時の矛と盾を増やそうと自分の力が及ぶ範囲であちこちに派遣してきました」

「出退勤も勤務時間と言われる方ですからね」

「その息子がうんと好んだのが貴女です。仕事上多くの者を見てきた男です。試しに殴られてとりあえず敵を追い払ってもらおう、みたいな態度や考えは今後しないでいただきたい」


 私は大きく目を丸くして少し固まった。告げられた言葉もだけどガイに睨まれたから。


「まあ息子はかなり素早いので貴女が殴られる前に助けたと思います。仕込み刀にもう手を掛けていましたから。帰ってきたらお説教されると思いますよ」

「していません。そのようなことは考えていません。あの場の敵は1人だと思ってお祖父様やお父様、カラザさんに私達には漁師の後ろ盾があると伝えただけです。他にも後ろ盾があるとは知りませんでしたので驚きでした」


 私は優しいネビーに怒られるのか。それは気が重い。ガイは私から祖父へと視線を移動させた。


「お孫さんから家出経緯を聞きました。このような性格なので何も教えずにある意味カゴの中の菊屋に預けていたのでしょうね」

「息子さんが戻られたらお2人にお話と御礼とお願いをさせていただきたいです。息子さん同席の元で孫娘に事情を説明致します」

「あのジエムさんという方と両家にどのような確執があったのかまだ存じておりませんがこのご様子なのでとても役に立ったようで幸いです。息子が戻るまでお嬢様をお母上など他のご家族に会わせて差し上げて欲しいです」


 祖父と父が会釈をしてガイに頭を下げた。祖父が父に「プライルド、ティビア達を」と告げたので父は応接室から去った。カラザは1度も頭を上げていない。


「ラルスさん。塩を撒く。なぜあのカラザさんからの続きを知りたいです」


 ガイがカラザの身体に両腕を伸ばして頭を上げさせようとした。しかし彼は動かない。


「人喰い鬼が生まれたと。生来4欲(しよく)を悪欲のままどころか増やして飲み込み集めて親と真逆に堕ちていくとは父親が気の毒でなりません」  


 祖父はそう告げてカラザの背中に腕を回してガイと同じく頭を上げさせようとしたけどカラザは地蔵みたい。


「長男と娘に孫はしかと彼の善良さや賢さを受け継いでいます。カラザさん、いい加減に頭を上げて下さい。毎度毎度困ります」


 祖父はかなり無理矢理カラザの身体を起こさせた。


「私が不甲斐無いからです」

「貴方がそうなら私も息子もそうで本職の役人達こそそうです。ガイさんの言葉をお借りします。その頭はご自分と長男と娘と孫達の為に下げて下さい。あいつの代わりに謝るのではなくて。貴方は胸を張る側です」


 カラザは片腕を目元に当ててさらに泣いてしまった。祖父がここまで言うのならこの5年間相当苦労してきたのだろう。

 ジエムの話の聞かなさに凶暴な雰囲気に面倒くさいところは今日の短い時間だけで沢山見た。カラザがジエムを上手く宥めてくれているのも目の前で見ていた。


「ジエムさんは人喰い鬼……。お祖父様、私のせいでしょうか? 話を聞かずに家出なんてしたから。隠居だけど輝き屋で働きなさいでした? いえ見張りをつけていただいていたそうですね……。5年間も我が家に何かされていたとか、殺したい程憎まれていた理由が分からなくて……」


 そう、私は色々分からない。ネビーが戻ってきたら一緒にと告げられたけど困惑しているので少しくらい知りたい。


「そうかもな。彼にとっては魔性の女。ウィオラはジエムさんの唯一無二の毒華だ。触れる程傷つけられて膿むのにその一輪しか摘みたくないと離れられない」

「お嬢様は何も悪くありません」


 カラザは目元から腕を離して私に向かって首を横に振った。全員渋い顔で私を見据えている。


「そこまでではなくても言われたり手紙で告げられていました。私の才能で大人気看板役者の花道を後押しや支援をして欲しい。本日もそう口にしていました。でもそれならカラザさんの養子ですとか、そもそも養子は関係なく働くとかあります」

「ウィオラは今日の様子で我が家とお前とジエムさんの関係をどう考えた?」

「無自覚に激怒させてしまい憎まれて殺したいと思われたから隠してくれようとしたのですよね。私を隠したから嫌がらせにこの家に何かし続けてそれをやめさせようとカラザさんにご心労をおかけしたのかと」


 祖父がおもむろに首を横に振ったので続きの言葉が行方不明。苦笑いを浮かべたガイに首を横に振られて困惑。カラザは俯いている。


「本人にそう言われ続ければそうもなるな」

「あの……お祖父様……」

「婚約破棄後に引きこもり。想ひにし死にするものにあらませば千度ぞ我は死に(かへ)らまし。婚約破棄後の最初の公演の即興台詞だ。最前列中央席の招待券が贈られてきた。懇願の文つきの花文だ。ウィオラが家出した日でお前が家を出た少し後に人伝てで届いた」


 ……。

 ……。

 ……えっ?

 もしも想いのために死ぬことがあるなら自分は貴女を想うがゆえに千回も繰り返し死ぬだろうって……。

 恋失いは死ぬほど辛いというけど千回死ぬほどお慕いしていますという龍歌。知らない龍歌だし即興台詞ってことは本人が作ったということになる。

 おバカジエムは龍歌を作れるの?

 しかもこの龍歌。

 ……。

 ……??


「えー……。ジエムさんが私の演奏と声に惚れたのと我が家というかお父様の野心があるので両家繁栄の願いを込めて結納……。その後私が気に食わないのか年々態度が悪化……私が踏みつけたからですか? 私は最初は歩み寄ったと思っていますが無自覚に地雷を踏んでいましたか?」


 こうなると5年前になにかが始まったではなさそう。それより前からの問題の可能性。


「先にお前を傷つけたのは彼の方だ。常にそう。離れていくから追いかける。離れる理由がイマイチ理解出来ていないから腹を立てる。執着心も嫉妬心も強い天邪鬼な照れ屋。直せと言うのにどんどん悪化。絶望してようやく素直になった。花はなんだと思う?」


 執着心も嫉妬心も強い……ネビーはジエムの私への気持ちに恋心があると見抜いたからあの挑発方法だったんだ。

 私に触ったとか子どもとか何か意味あるの? と思ったら意味があった。

 天邪鬼な照れ屋?

 分からない。あのジエムが私に「どうか公演を観に来て下さい」みたいな内容の文を書いた事自体信じられないのにそれを結んだ花なんてなにも思い浮かばない。

 あと知りたくない。なんだか怖い。


「さっぱり分かりません」

「我が家の誰もが衝撃を受けた。黒い薔薇4本だ」


 ……。

 やはり怖い。

 ジエムからは嫌だけどせめて赤とか桃色とか可愛らしい色の薔薇を贈って欲しい。

 文はともかく花に罪はないから受け取って飾るくらいしただろう。


「……なんだか怖いです。見なくて良かったです。黒って……」

「なにものにも染まらない漆黒。決して穢れない色。そうらしい」


 ……。

 白無垢の白、穢れなしの白ではダメなの?


「怖いです。彼からなんて欲しくないですけどせめて普通に赤。私が桜を好むので桃色。穢れていないで白……。えー……」

「薔薇の花言葉は本数で変わるらしい。4本で死ぬまで気持ちは変わりません。4は死に避け幸せ数字だから先程の龍歌で自分を死なせないでくれも掛かっている」


 受け取ってなくて良かった。ルルと薔薇の花は本数で意味が変わる話をしたけどジエムからよりネビーにそれをしてもらいたい。ジエムからの贈り花を回避して未体験とは嬉しい。

 祖父はジエムに解説を聞いたの?


「黒い薔薇は常世(とこよ)だそうだ。同じく死ぬまで気持ちは変わらないみたいな意味だろう」

「本人に聞いたのですか?」

「私だけではないが彼からウィオラへの懇願の文を読んだ。なにか使えないかと思って取ってあるがお前は読まない方が良い」


 ……読みたくない。

 ジエムは8歳の時に私の演奏と声に惚れたではなくて本当の意味で惚れた。それならそこから今日までずっとこの恐ろしい感じ?

 ……ネビーとの落差が激しい。4は死に避け幸せ数字と言うけど死を連想するから4区は存在しなくて幸せ区。

 だから4本をわざわざ選ぶ発想は怖いというか黒い薔薇なのもあって「死ね」みたいな脅迫状ではないかと思いそう。今そう思っている。

 これはつまり5年前どころかもっと前から何かあるという話だ。私が隠されていたのは隠さないと私に何かあるからだ。

 ジエムの養子だけど愛人ってまんまその意味。


「恐ろしいです。中央最前列に私が居ないと知ってどうなりましたか? それでも即興はしたのですね」

「夢中で気がついていなかったようで終わって居なかったと気がついて舞台の上で膝をついてしばらく放心。その後しばらく(うずくま)り。その場面に似合う姿でこの公演はかなり話題になった。なんだかんだ役者命なので最後までやり遂げてそのままの姿で我が家へウィオラを求めて怒鳴り込み。お前が家出した、見つからないと我が家は騒いでいた」


 熱があっても稽古や本番に出る。そういう姿勢だけは尊敬というか認めているところだった。きっと伝説の舞台かも。

 ジエムが心底嫌いで凄まじい恐怖を感じているのに「見つからないように隠れて観てみたかった」と思ってしまう私は芸事の世界に取り憑かれている。

 自分は大看板役者と口にしていたのは単に自慢や思い込みではなさそう。

 普通に優しくしてくれていたらまさに似合いの2人だったのでは?

 お互いを高めあって輝き屋で光り輝く花柳界の伝説の夫婦みたいになったかもしれない。なのにジエムのあの言動の数々。

 あれこれ疑問しか湧いてこない。あの態度は何かとかあの台詞は何とか私に泥を被れと要求も恐らくジエムだからその意図とか……。


「お祖父様……。あとはネビーさんと聞きます……」


 触るんじゃねぇに俺のウィオラってそのままの意味。これはある意味人生で1番の衝撃だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こ、怖い.....笑 幼心の恋で、でもどうしたらいいか分からず拗らせてってやつですかね。 多分もしジエムが何もやらかしてなくて、結婚してても態度は変わらず、寧ろ拗らせすぎてD/Vな人になっ…
[一言] ジエム…(´;ω;`)
[良い点] ジエムが龍歌作れるなんてビックリ!! [一言] 4本の黒薔薇とか拗らせすぎてて怖いわ((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル
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