表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お見合い結婚します「紫電一閃乙女物語」  作者: あやぺん
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/137

38

 南東農村区をネビーの案内で旅行。私はとりあえず疲れるまで歩くことにしたのでガイだけが馬に座っている。

 握り飯屋で購入したおにぎりを食べながら歩いて食べ歩きを初経験。

 女学校時代に北東農村区見学会があって田植え体験をしたけど眼前に広がる田んぼはまだ田植え前。しばらくして菜の花畑を発見。

 するとネビーが近くの農民に声をかけて私に菜の花を贈ってくれた。

 ルルとレイにはなくて2人は怒ったのにそれでもネビーは「お前らにはやるか」と大笑い。


 橋のないかなり浅い川を渡る際にルルとレイはひょいひょい石から石へとうつった。

 私はネビーに馬に乗るか同じように渡ってみるか尋ねられて歩きを希望。

 ネビーは草履と足袋を脱いで袴の股立を取って川に入り石の上を歩く私の手を引いてくれた。

「どうですか?」みたいに手を差し出してくれて無言で優しく微笑まれたので「こんなの断りたくない!」と恥ずかしいよりも手を乗せる方を選択。

 川に木々に青空に菜の花畑もある美しい景色の中で初めて手を握られて照れ照れ。

 見た目通り大きい手で女性と違った肉厚で骨ばった手で温かい。


「兄ちゃん本当に扱いが違う!」

「妹は滑って転んで濡れていいのか!」


 先を進んでいたルルとレイがこちらを見て楽しそうに叫んだ。


「おう! お前らは濡れても構わねえ! 昔から暴れ娘で濡れたり転んだりしてたからな!」


 あはは、とネビーは大笑いでルルとレイも似たように笑い声を出しながら進んでいく。

 途中でレイが「非常食」と雑ガニを捕まえた。

 手くらいある大きさでカニなのにイーゼル海老みたい思ったらネビーが「川イーゼル海老か?」と質問。

 レイ曰く見た目は海老なのにほんのり雑なカニの味がするから雑ガニ。

 生はお腹を壊しやすくて美味しくなくて焼いた身はブリみたいでボソボソしているけど出汁がイソカニみたいなので主に出汁。でも腹減りなら沢山身があるから非常食! らしい。

 それでルルもレイと一緒に「あと3匹」と川を元気に動き回って雑ガニをさらに捕まえてレイが腰に下げているカゴに入れた。

 朝ネビーが背負う鞄の中から出てきて2人が腰に下げたからずっと気になっていたけど2人が腰に下げているカゴは非常食入れだと判明。

 うんと低い確率、万が一野宿になったら食べる物入れ。ネビーも川から出る前に「おりゃあ」と川の水と砂利を蹴って川岸に小さめの魚1匹を確保。


「さすが育ちが育ちだけ逞しいな」

「ガイさんを飢え死にはさせませんよ!」

「小さい竹筒に塩を持ってきたので塩焼き出来ます!」

「そうかそうか。頼りになるな」


 皆楽しげで私も楽しい。行交道(ぎょうこうどう)経由の旅ならこういう事はなかった。

 川からどんどん離れてしばらくして若々しい緑色の垣根みたいな植物を育てている段々畑を登ることになってそこは馬に乗った。

 ネビーが作業中の方に声を掛けたら茶畑で茶摘み中とのこと。これが噂の茶摘み体験の茶摘み!


「ここの畑のものか分かりませんけどお茶はとても好みです。ありがとうございます。妹達は茶道でも使いますし感謝しかないです」

「お茶は大好きです! 淹れたお茶もとっても好きです! ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」


 ルルとレイに続いて私とガイも感謝。3人がこう言わなかったら「ありがとう」という感想を抱けたかな?


「どうせ登るんで上に何か運びますか? 力には自信があります。馬の様子見があるので片手だけですけど。あと馬に乗っている2人に運べそうな物を持ってもらいます」

「それなら私も持ちます!」

「私もです! 軽いものなら持てます!」


 はいはい持ちますよ、みたいな気軽な感じでネビーは詰んだ茶葉の運搬を引き受けた。

 段々畑の上の農家へ皆で荷物を運んで、私達が縁側で休んでいる間にネビーは荷車を引いて2往復後に少し休憩。

 おかげで私達はお茶を飲めて厠も済ませられたし新茶にお餅もいただいてしまった。昨日餅つきをしたらしい。

 丸いお餅をお醤油、みたらし、きな粉と選ばせてくれてルルは本人が確認される前から「みたらし」と鼻歌混じりだったのに「お嬢さんは?」と問われたら「きな粉にします!」という返事。

 その理由はしばらくして判明。レイが醤油餅を食べている時に「レイの好きなきな粉も食べる?」である。

 レイは喜んで小さく丸めてあるお餅を半分くらい食べた。つまりレイはお餅を一個半分食べてルルは半分。

 お餅は餅米が違うのかつき方が違うのかあまり伸びない分溶けるみたいなお餅。

 私は初めて食べるお餅だなと思っていて、ルルも「こんなお餅は初めてでいつものも好きだけど美味しい」と言っていたけどルルは半分。


「握り飯を食い過ぎたから無理だな。美味いのに。ルル、残りを食うか?」

「大きめを3つも食べてたもんね。やった!」


 ルルはネビーからみたらし餅を半分譲られて鼻歌混じりに「みたらし」と楽しげ。レイは「醤油になにか入ってる」と農家の方に質問。

 ルルとレイはペラペラ喋ると農家の方と台所へ去っていった。

 ガイは厠を借りに行ったのでぽかぽか暖かい縁側で目の前には緑豊かな景色に遠くに川や山という状態で2人きり。素敵。


「ルルのやつは昔からああです。レイは当たり前みたいな顔をしていて。帰ったら親父か母ちゃんに叱らせます」

「昔から……ルルさんは優しいお姉さんなんですね」

「そうです。気になったら注意というか気を遣わなくて良いと言ってやって欲しいです。レイはルルよりも頑張り屋だけど気配りというか気になるものに夢中になります」


 そのルルの性格を分かった上で「みたらし」を聞き逃さずにみたらし餅を選んでサラッと譲るネビーも優しい気遣い屋だ。

 ルルはちび親ネビーの背中も見て育っただろうから2人の共通点。レイはルルより頑張り屋なのか。それも覚えておこう。


「ネビーさんは本当はなにを食べたかったのですか?」


 私は彼にまだ残っているきな粉餅を差し出した。


「みたらしです。そこは譲りません。きな粉も食べたいから1つ下さい」

「どうぞ」

「荷運びで腕が疲れました。腕を休めています」


 それはつまりどういうこと?

 悪戯っぽい笑顔を向けられて手元のお皿のきな粉餅と黒文字を見てネビーを見たらニコッと笑われた。

 つまりそういうこと。黒文字を手にして小さい丸いお餅に刺してそうっとネビーの口元へ運ぶ。かぶっと食べられた。


「うん。普通に食うより美味い」

「はい」


 そっぽを向いて照れ笑いしながら食べるならしなければ……なんだか愛くるしいお顔。嬉しそうでこちらも嬉しい。


「……もう1ついかがですか?」

「俺はもう腹がいっぱいなので」


 そう告げるとネビーは私から黒文字をさっと奪った。きな粉餅を刺した黒文字が私の唇の方に運ばれてくる。彼はニコニコして楽しそう。

 目を閉じながらえいっと食べる。そのまま目を閉じて少ししてからゆっくり目を開いた。恥ずかしくて見られないのでネビーは見ない。お皿の上に置かれた黒文字を見つめる。


「若めの男に若い女が3人と思ったらあんたが嫁か。別によすだけど堂々としてるんじゃあな」


 後ろを見たらガイくらいの年代にみえる女性が橙色気味の白菜を抱えて立っていた。見られてた!


「結納お申し込みに行くんですけど袖にされたら困るので口説き続き中です。まあこのくらいならよかかなと。残り2人は妹です」

「洗い物をするって言っちゃのに漬物を見たいとか白菜の色が違うとか騒いではしゃいどる。背が高めの娘子は棚を直してくれて孫の嫁に欲しいよあれは。うんと美人だし」

「それなら本人達に聞いておくので住所を教えて下さい。美人なので取り合いなので期待しないで下さい。あと経路確認をしたいです」


 ネビーは農家の方に地図を見せて経路を確認した。ガイが戻ってきて話に参加。


「東2区に入るならこのあたりからはこの道がよすだ。地図だと遠回りに見えるけど平坦で楽。森は少し変な奴に注意な。逞しそうな体つきに見えるし兵官さんだから近寄ってこないだろう。ここらの猪には目潰しで土を投げろ。姉が嫁いだ米農家はここで目印は青い風車。そこで休んでからまた道を確認して進むとよすだから。書き付けで頼んでやるよ」

「東地区寄りは仕事で来たことがないので誰かに確認しようと思っていました。ありがとうございます。お姉さんに何か持って行きますか? 馬ですから遠慮なくどうぞ」


 ネビーはこの調子でお茶、キャベツなどの野菜を預かった。丘の上はキャベツ畑だったからだ。青豆と玉ねぎは自分達の食事用の畑で採ったもの。橙気味の白菜は貰い物らしく有り難いことに私達への贈り物。荷物カゴは馬に下げられた。

 キャベツ畑を進んで途中から私はまた馬から降りた。少々薄暗い森に入る時に「追い剥ぎとかいるかもしれないんで」とまた私は馬の上。それでガイがレイと交代。

 卿家は最低勤続20年間は王都戦場時に上官として招集義務があるそうだ。王都戦場時は男性は全員兵役義務があるけどその王都が戦場になったのはうんと昔のこと。

 なのでガイは若い頃は毎日鍛錬をしていて仕事として訓練や講義を受けていたこともあるそうだ。今は健康のためにたまに素振りと散歩だけらしい。

 旅行だからと木刀を腰に下げているから気になってはいたけどよく聞く、旅行時に父もしていた見せるだけというか威嚇用だと思っていたら違った。


「ガイさんは強かったですか? 威嚇用ではなくて戦う気だったんですね!」

「肩が上がらなかったりしそうだけど何もしていない奴よりは強いはずだ」

「ルルは一応前に出るなと言うただろう。ほら下がれ。ガイさんも木刀帯刀許可証を取ったから木刀を持っていくと言うた時は驚きまし——……」


 ネビーは突然笛を吹いた。次は発煙筒。踏むと中の材料で沢山煙が出ると教わって1人1本持たされている。ネビーの所有数は不明。


「どうしたネビー君」

「この先に不審な人影がチラッと見えたので念のためです。旅人とか農村区民にしては動きが変でした」

 

 周りを見渡したけど全然分からない。少し前にうさぎが跳ねていて楽しかったけど今はその動物すらいない。

 待機と言われてしばらく待機。私とレイは馬から降ろされた。馬の隣に風呂敷を敷かれてネビー以外は「立ってと言うまで休んでいて下さい」と言われて座った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ