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お見合い結婚します「紫電一閃乙女物語」  作者: あやぺん
おまけ「新婚旅行編」

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異国旅行1

 私達は結納前日に奇妙奇天烈な体験をしたけど、それに続いて新婚早々世界の裏側を見てしまった。

 祝言日の翌朝にヴィトニル達に拉致に近い状態で国外へ連れ出されてあれこれお手伝いをして、もう必要ないと言われた。

 従者のニールが祖国でやることがあるから一緒に行って、ヴィトニル達に連れ戻されなければ煌国へ送ると言われている。


 ここは北西の地、アシタバ半島というところで半島全体は大蛇の国。

 大蛇の国の知識は少しある。大国のドメキア王国と三十近い属国から成る連合国で祖父が生まれた頃から若い頃くらいまで煌国と戦争をしていた。

 正確には煌国と大陸中央の国がわりと団結して西からの進軍を返り討ち。

 ロストテクノロジーの飛行船や飛行機も使った激戦。前皇帝陛下と兵士と兵官達は見事に煌国の民を守ってくれた。

 その後から大陸中央にある国同士はまた敵対し合っているのは悲しい話。

 

 今いるのはここへ行く、と言われた流星国の近くだと思われる森の中。

 私とネビーとニールを乗せてくれた大きな蜂みたいな鉛色の生物のアピスが着陸して地面に降りたところ。

 まさか人生で空を飛ぶことがあるなんて思わなかったし、噂の死の森に住む化け物は巨大生物達なんてことを知る日が来るとは思わなかった。

 私が花嫁衣装に使用した髪飾りについていた蜂のような形の宝飾はアピスだったと判明。

 アピスはうんと大きな羽が沢山ある針のない灰色の三つ目蜂。

 海蛇と同じく話せる者とは話せるとても賢い草食生物らしい。

 何も知らなかったら食べられると怯えるけど教わったし草もあげたし、アピスの子はふわふわした毛が気持ち良いから愛くるしい気がしてきて慣れた。


「改めて説明しますけど、俺は薬剤や包帯調達があるのでお二人をホテルに預けたら城へ行きます。明日の午前中に顔を出せるようにするのでホテルから出ないようにして下さい」


 ほてる、は宿のこと。


「はい。分かりました」とネビーが返事をした。


「何かしたいって言っていたので包帯の材料をホテルの部屋へ届けさせるので作ってのんびりしていて下さい。作り方はアピスの背中で聞いた通りで良いです。あれば良いので」

「はい。分かりました」

「国王陛下通達で大勢に作ってもらうと思うので張り切らなくて良いです。一人数個でも大勢が作ると沢山になるので」

「他に手伝えることはないですか?」

「そう言いそうだからエリニス王子にこう言われました。ネビーさんは近衛兵なので前に言われた事を守るように。ウィオラさんは安心安全が仕事です。でないとあの国みたいなことが起こります」


 去年の煌国の春から夏も雷雨続きで災害が起きて大変だった。

 災害からの火事に内戦に病とは恐ろしいけど、国の大半の人がその原因を知らない。

 昨年、煌国王都で雷雨が多かった原因が私だということを知らないように。


「去年の煌国のこともあるし軽く説明されたから大人しく忠告に従います」

「明日の午後から迎えに来るまでの数日間は観光です。役に立ちたいと言いそうで、その場合は騎士団関係と異国文化提供とエリニス王子達に言われているので自分が国王陛下と相談して明日お二人に伝えます」


 早いと明後日、遅くても五日以内に私達は煌国へ帰れるらしい。

 一緒にあれこれした他の人みたいにとんでも人物なら帰さないで国に残して色々してもらいたいけど、私達はもう使い道がないと言われた。

 人助けは出来るだけしたいけど煌国から小さい姫が消えた、と海蛇達に騒がれて迷惑になるから帰国することが私に出来る人助け。

 去年の忠告を守って平凡生活を送ることが大切だと改めて言われたので私達は何か頼まれない限りは庶民生活を全うする。


「畏れ多いし恐ろしいから偉い人達に会うようなことはなしでお願いします。人助けになるならしますけど」

「エリニス王子に言われています。よりによってお二人は煌国人ですからね。しかも庶民。城には招かないので安心して下さい」


 流星国の国王陛下はフィズ様で私達の皇帝陛下の弟なので会うのはネビーの言う通り畏れ多い。


「まず年に一回会っていた人達が王子とか王子妃だったことに衝撃を受けていて、次に会ったらあれこれ聞くはずが今回の突然の連れ出しで、とんでも人物ととんでも生物達との遭遇で気持ちが置いてきぼりです」


 でしょうね、とニールに笑われて「行きましょう」と告げられた。

 昨年お引っ越しをしたらお隣さんと婚約。婚約前のデートがきっかけで謎の生物達の「姫もどき」として発見されて、私がきっかけで昨年の煌国は大事件。

 その後はわりと普通の生活を送っていけど祝言翌日の早朝に国外へ連れ出された。

 理由は祝言で浮かれに浮かれていた私が歌ったら激怒て話せない海蛇達とサングリアル達が話せるきっかけになるかもしれないし、恵の聖女青薔薇姫のように今回だけ恵みの雨か何か降るかもしれないから。

 説明されないで知らない森で琴と三味線を使って歌わされて後からなぜこうなったのかと「少し役に立った」と教わった。

 その後はヴィトニルに頼まれて指示された事で手助け。

 去年の煌国の大事件時は砂漠の国の聖雨姫を連れてきて手助けしてもらったことを今回知った。

 セレヌによれば「今回と同じでヴィトニル達が拉致して強制労働させた」だそうだ。

 

「色々説明してくれましたけど、ニールさんは何者なんですか? それは聞いてもよかですか?」

「ああ。自己紹介とかなぁなぁでしたね」


 ニールはヴィトニルことエリニス王子とレージングことレクス王子の幼馴染。

 母親が流屋国の王妃の第一秘書で太陽国王太子の側近ルミエール。長男なので後継で母親の元である程度大きく育ったら太陽国で育てられるはずだったけど、太陽国へ連れて行くたびに失踪して流星国城のレクス王子の部屋にいるから流星国で育ったそうだ。

 下の弟と妹は同じように三才まで流星国にいて、その後は太陽国育ちになったけど失踪しなかったという。

 王子達の情操教育のために城で王子達と生活して大きくなり八才からはレクス王子の側近——目付け監視役——に任官。

 レクス王子が医学を学ぶからニールも医者に弟子入りしたので医者のたまご。レクス王子が家出したのでついて行ったという。


「待って。待って下さい。自分は普通の人ですって、ニールさんもとんでも人物じゃないですか⁈ 太陽国から失踪ってなんですか⁈」

「国を出た後にエリニス王子が教えてくれて、レクスが寂しそうだからエリニス王子がセルペンスとアングイスに頼んで連れ戻していたそうです」


 セルペンスは(わし)顔みたいな去年から私達と一緒にいる海蛇。アングイスは角が沢山ある海蛇のこと。


「そういうことですか」

「その頃のエリニス王子はアピスとは喋れなかったし今聞いても覚えていないか話さないから真相は不明だけど多分セルペンスとアングイス経由でアピスが俺を運んでいたんだろうって。ほら、セルペンスは噛んで眠らせたり色々器用です」

「弟想いの結果、失踪事件とはびっくりです」

「表向き旅医者になったレクスについていって知らない世界を知りまくって今日です。俺には何の能力もないからちょこちょこ別行動で歴史や医療調査やこういう雑用係とか愉快な日々です。今回みたいに事件がなければですけど」

「あのアピスに乗ってあちこち行っているってことですね」

「馬や赤鹿の時もあります」

「赤鹿に乗れるんですか⁈」

「ええ。かなり練習させられました」

「俺も訓練中です。コツはありますか? 最近ようやく走ってくれるんです。言うことは聞かないですけど」


 やたら懐いてくれている若い赤鹿がいてその子だけは走ってくれて、出張から帰ろうとするとネビーについていこうとするから今年完成予定の新居で飼えるかもしれないらしい。


「親子や友人のつもりで接しろって言われて練習しました」

「教えてくれる赤鹿使いと同じ助言です」

「使いって言う時点でイマイチですよ。親友や相棒は赤鹿という気持ちが大切です。昔レクスにそう怒られました。いかなる生物も道具ではないって。高度知能を持つ生物が人使いって言ったりこき使おうとしたら嫌だろうって」

「おお。とても大切な話を聞けた気がします」

「そのレクスが人使いですけどね。俺は自らついて行って自分の意志で使われているから赤鹿も同じです。賢いから好き嫌いするんです」


 海蛇達もそうやって好き嫌いをしているな、と私は肩に乗る海蛇の頭を軽く撫でた。もう目は赤くなくていつものように深い青。

 森を抜けると畑と草原の丘で左手側に石造りの大きな大きな壁が現れた。

 行交道(ぎょうこうどう)の塀は白っぽいけどこちらは灰色の石で隙間を埋めている土が赤い。


「この内側が王都です。門を通ってホテルに案内します。あの砦のようなところが流星国城です」

「ベ、なんとかの泉ってこの国にあるんですよね? 妹がセレヌさんに絵はがきを貰ったから見たことがあります」

「セレーネが海とベネボランスの泉を案内してと言っていたから行く予定です」

「おお。まさか本物を見られる日が来るとは」

「セレヌさんからリルさんへの絵を去年の秋に見せていただきました。色々な国の珍しい景色があって楽しかったです」


 きっとニールもあの全ての景色を見ているのだろう。ネビーがその話題を出したので私達は砦門に到着するまでニールが見た珍しい景色についてあれこれ教えてもらった。

 砦門に到着すると行商みたいに荷運びをしている者や、煌国とは形や馬の異なる馬車や牛車や旅人らしき者が沢山並んでいた。

 

「賑やかな国なんですね」

「街の建物の形が煌国と全然違います。花の飾りが沢山あって美しい景色ですね」

「来春の祝祭の時期でこういう飾り付けになっています」


 ニールは列を無視して進んでいく。それで歩いている若い兵——騎士と呼ぶ——に声を掛けた。


「ニール・ベネットです。分からなければ上司にそう告げて下さい。こちらの二人は私の従者。関所を優先的に通る手配をお願いしたいです」


 彼は似顔絵入りの身分証明書みたいなものと私達がつけている首飾りと同じものを若い騎士に見せた。


「こち、こちら、こちらへどうぞお越し下さいませ!」


 騎士は胸に十の字を書いた。横に三人並んでいたけどニールが前出たのでネビーと二人で並んで後ろに続く。


「兵官と騎士は似たような組織って聞きましたけどあの感じは下っ端です。いきなり偉い人が屯所に来て俺に話しかけたらああなりそうです」

「新年の龍神嘗祭(りゅうかんなめさい)大宝漁ノ儀で本斎宮(ほんいつきのみや)様と皇居華族と演奏練習前のご挨拶時にあのようになりそうでした」

「そう考えるとウィオラさんもちょいちょいとんでも人物ですね。皇居女官吏の話もあったお嬢様で次は高級店の珍しい芸妓で今は奉巫女(ほうみこ)ですから」

「中身はご存知の通り普通です。お嬢様育ちだけど家出して貧乏性になりましたし」

「ヴィトニル達も旅医者と用心棒は特殊だけど中身は普通と思っていたら、とんでも人物でしたし、世界は広くて色々な人がいますね」

「ええ。ネビーさんも少しとんでも人物ですよ。あの大狼襲撃事件で本来新聞に載る方だったんですから」

「今は豊漁姫の近衛兵ですしね」

「はい」


 緊張しているからか、つい喋っていたけど砦門の中へ入ったのでどちらともなく自然と口を閉じた。ニールに何人もの騎士が集まってくる。

 眺めていたら招かれて移動して馬車に乗ることになりとても緊張。どう見ても庶民の乗り物ではない。

 車輪は大きめでかまぼこを逆さにしたような形の黒塗りの箱に黄金色の装飾。細身の茶色い馬二頭に操者は一人で馬車内は四人しか乗れなそう。

 先に乗ったニールに「奥様どうぞ」と手を差し出された。私が先なんだ。


「あの。一人で乗れそうです。掴む場所も見ていました」

「えっ。ああ。文化の違いです。女性には常に手を貸したりドアを開けたり椅子を動かしたりするのが大蛇の国の礼儀です」

「礼儀作法ですか。失礼致しました」


 親しい男性以外はあまり触りたくないけど礼儀作法なら仕方がない。


「国を知っているのにすみません。ネビーさんに代わります。そもそも先に男性の国でしたね。ネビーさんどうぞ」

「はい」


 ニールは笑顔を返してくれて体を引っ込めた。それでネビーが先に馬車に乗って同じように手を差し出してくれた。

 二人で並んで座って内装をとても見たいけど大人しく我慢。馬車が動き出してドキドキ感は増した。


「王都の中央にある広場沿いにあるホテルにします。来春の祝祭中でも一部屋くらい空いていると思いますので。全て満室なら城にします」

「えっ。城なんて恐ろしいのでやめて下さい。この街中の宿のどこかの一部屋くらい空いていますよね?」

「そこらのホテルにしたら後でエリニス王子達に怒られます」

「いやそこらの宿にして下さい」

「俺が決めたことに従わないと二人共この国で働かせて祖国に帰り辛くしますからね。エリニス王子は面倒くさいから友人を言われた通りに、それなりにもてなさないと俺が大変なことになります」

「あー。はい。あいつは面倒です。従います」

「窓の外を眺めて楽しんで下さい。見えるものを説明するのでなんでも質問して下さい」


 その時、カランカラーン、カランカラーンと聴いたことのない鐘の音が響いてきたので私達はまずそれについて問いかけた。

 これはきっと一生に一度の異国旅行な気がするのであらゆるものを目に焼き付けたいし、とてもワクワクする。

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― 新着の感想 ―
[一言] 色々ありすぎて異国旅行もワクワクで、因果の話もだけど、レイ! レイに全てを持っていかれた!レイ!
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