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お見合い結婚します「紫電一閃乙女物語」  作者: あやぺん
おまけ「結納中編」

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デート4

 何にそんなに照れたのか、それがなぜ続いているか分からないけど満天屋に到着して並んで他愛のない会話をしているうちにネビーはいつも通りになった。

 店内に案内された後も似たように雑談をして季節のあんみつと抹茶あんみつを半分こして両方堪能。

 なぜ様子が変化したのかはお店を出た後になんとなく察した。

 去年よりも今年の方が圧倒的に兵官が多くて、私と二人でお出掛けしていることを同僚に見られるから照れると推測。

 先輩らしき兵官が私達とすれ違う時に「あのちび助がようやく女とお出掛けか」とネビーの肩を叩いた時に彼がとても照れたような表情をしたので確信に近くなった。

 そうして本日最大の目的である買い物をするお店に到着。


「……。しれっとしていようとか取り繕おうと思いましたが、情けないけど先に言います。俺、こういう店に仕事以外で入ったことがないから気後れします。心の準備や予習を忘れていました」


 彼の経歴と貧乏性な性格を考えたらそれもそうか。このお店はお店を探したり見て回る時間のない私達の為に祖父とジンが選んでくれた少し敷居の高いお店で今後彩屋が営業をかけたいお店である。


「誰でも初めてのことは気後れします。接客される側ですから他のお店と同じで失礼なことを言ったりしなければ大丈夫です」

「まあ、そうですし今日は身なりも整っていますけど……」


 嫌かもしれない、と少し迷ったけどネビーに入店したら一番近い店員にこう伝えて下さいと伝えたら「見栄はあまり無いつもりでしたけど格好つけたかったからありがとうございます」という言葉と共に優しい笑顔。

 彼は私に言われた通り店員に声を掛けて、私は説明していないけど彼は身分証明書を見せてから「臨時で働くことがあるので常時帯刀しています」と伝えた。

 それで私達は広間の一角に案内されたので挨拶や軽い接待の後はしばし二人きり。


「広間とか小間で接客される人ってこういう流れなんですね」

「私としてはかめ屋と同じです。私が何も考えなかった帯刀のことをサラッと説明していたり、他のこともすらすら会話していたので越し苦労でしたね」

「ええ、初めてかめ屋に入った時と同じく杞憂だと思いましたけど……バカにしないでくれたから気が楽になりました」


 今の言葉には少し引っかかって、彼は過去に似たようなことで誰かにバカにされたことがあるのだろうかと気になった。

 笑い合っていたら店員変更のようで若い男性店員が来て挨拶後に商品を並べてくれた。それなりの質の八種類の扇子が広げた状態で並べられたので壮観。


「ありがとうございます。二人で決めるのでまた声を掛けます」

「何かあれば遠慮なくお申し付け下さい」


 店員が去ったら二人で意見を出して話し合いと思ったけど自分で選びたいとか、一方的に選んで欲しいとかあるのだろうか。

 私としては文学で読んだ場面のように感想を述べてこれが良い、みたいに決めてみたい。


「ウィオラさん。なぜ蒔絵(まきえ)なんでしたっけ。あっ。話題提供です。俺は新参者かつ挨拶をされる側だから相手がお世辞を言いやすいようにってラルスさんに教わりました」


 扇子は挨拶その他で必ず使うものなので結納祝いの(かんざし)のお礼品は扇子に決定した。

 自分のお金でお揃いにしようと考えたら祖父がお揃い分も結婚に必要な経費、と言ってくれてこの費用は全額私の家持ち。


「ええ。そうです」

「骨が黒と店員さんに言ったのはなぜですか? そこは聞いた記憶が無いです」

「格の関係で総宗家は黒塗り物を使うことが多いです」

「言われたら教わった気がします。銀箔もそうでしたっけ」

「……。ネビーさんがおじい様に私と会った日に白銀の髪飾りが光苔と動きでキラキラしていたから桜柄みたいな季節柄が却下なら銀色が良いと言ってくださったので金箔ではなくて銀箔です」


 これを又聞きした私はときめいたのにネビーは忘れたんだ。


蒔絵(まきえ)付きで黒骨で金箔か銀箔を使っている季節柄ではない縁起柄。それは覚えていて俺としてはその理由で銀箔と思ったけどお揃いだから好みを聞こうと思っていました。もう知っていて賛成ならよかです」

「宴席の日に髪飾りが光っていたって最後の会話の時ですか?」

「いえ、入室した時によかな演奏だなって思って姿を見てその時が最初です。その後もちょこちょこ見ていました。演奏係はお喋りにもお酌にも来ないんだなって」

「そうでしたか」

「もうご存知のように俺はキチッとしているお嬢さん風が好みなのであの場だとウィオラさんに目がいきます」


 お嬢さん、お嬢様好きなのは彼の幼馴染から確認済みで好みだと女性を眺めることもある。でもなぜ私だけに文通お申し込みしようと思ったのだろう。


「ネビーさんって文通お申し込みをしたことはありますか? 私にはその、考えていたって」

「話してみたいから考えたっていうことはあります。指輪に気がついていなくて二回目に会ったら既婚者だと知ったから中止とか、チラッて調べたら結納中だったり。まあ、二、三人は」

「……そうですか」


 自分で質問したし、彼の年齢的にそのぐらいのことは無い方がおかしいのに少々拗ね。


「おお。もちちだ。妬きもちちさんですね、この顔は」

「いえ、そんな。好みの方を見つけて接してみたいと考えるくらい当たり前のことです」

「ふーん。そうです、の方が嬉しいしかわゆいですけどそうですか。残念。ちなみにそういう理性を忘れて手紙を書き始めたのはウィオラさんだけです」


 つんつん、指で頬をつつかれた。


「まあ、文通お申し込みの自覚ゼロでしたけど。あの演奏がうんと気になって。春だなぁって曲って言いましたけどムズムズしたっていうかなんていうか。髪飾りでやたら光っていましたし。好みどうこうよりも曲がやたら気になって」


 ネビーの好みは私のような地味系で色白で見た感じ大人しそうなお嬢さんというのは彼の同僚や友人達が教えてくれたのでやはり一目惚れなのだなぁと再認識。

 その後はお嬢様らしさとお嬢様らしくないところに惹かれてくれたのは本人から聞いている。


(一目惚れと演奏と変なお嬢様だから……。それでいそうでいなかった。女性運が悪かったのではなくて女性運が良かったから私を待っていろってことだったって言ってくれたのは嬉しかったな……)


 誰かが恋に狂って菊屋の遊女を檻の中から出してくれないかなという気持ちを込めた演奏がまさか自分に対するものになるとは不思議。

 私はあの夜、ネビーを他の新人さんとは異なる客くらいにしか認識していなかったし少し会話をした時にようやく姿形に興味を抱いた。

 その際も見た目が好みみたいな気持ちは湧いていなかった。なので私は自分は彼に二目惚れだと思っている。


「それはありがとうございます」

「あっ。こういう感じです」


 ネビーが手にしたのは漆黒の下地に大小の四角い銀箔が散らされている扇子。

 銀鏡乱華(ぎんきょうらんげ)や火樹銀花というような意匠で下地には薄い雪華(せっか)文様。これは縁起柄だけどどちらかというと冬物なので 季節柄は外してもらったのになぜここに並んでいるのか謎だ。


「これ、白銀の桜吹雪みたいですね。春だし桜柄の着物だから桜の曲だと思ったんです。そうしたら違いました」

積恋歌(つのるこいうた)は季節の曲ではなくてさらって、連れ出してという曲ですのであの街ではわりと定番曲です。物語の舞台もあの街ですから」

「まだ調べられていないです。こう思ったらこれがよかだな。これ以外はあまり。ウィオラさんが他が良いのなら他のお店で探したいです」

「ネビーさん。こちらを見た方はおそらく慈雨京雪華(じうきょうせっか)関係の意匠だと考えます。ご存知ですか?」


 多少なりとも知っていて話し合えるなら検討するけどネビーは知らないだろう、と思ったら彼は少し目を丸くして顔をしかめた。


「えっ。読んだことはないですけど冬の悲恋物ですよね。春は万年桜、夏は背くらべ、秋は紅葉草子、冬は慈雨京雪華(じうきょうせっか)って言います。簡単なあらすじやオチくらいは知っています。知っての通り実際の中身や関連曲はサッパリですけど」

「ではご存知でしょうか。慈雨京雪華(じうきょうせっか)の終わりは悲恋とは少し異なります」

「万年桜とは逆で全てを捨てて雪の精と同じになるんですよね。別名は万年雪。あー。慈って字はその通りだし雨もウィオラさんらしいし俺の雪の華も合っているけどそのオチは……」


 東地区で働くので婿になります、みたいな意味に受け取られる可能性もある。

 しれっと「俺の雪の華」と言われたから照れる。


「雪は桜と違ってどんなに遠い地でも降りますから、雪の精になっても二人で村に行ったりしますよね?」

「ああ。そうですね。その辺りは特に何もないです。それに触れれば溶けてしまって命の長さが異なるので共には暮らせないという語から同じ存在になる終わりですので悲恋物とは少し違います。出会いと別れ、住む世界の変化をどう考えるかという話です」

「触れれば溶ける……雪だからですか。家族に触れなくなるってことです。でもそれなら別に会えます。触れないのと会えないのは違います」

「言われてみればそうです。物語では男性主人公が悲観的に苦悩しますがその通りです。風の大副神様は雪の精になったら人の世界に近寄るな、という規則は提示していません」


 なんだか目から鱗。これだから先に解説しないでどう思ったか感想を聞くのは好きだ。

 有名解釈に引っ張られたり思い込みや自己感想だけに凝り固まらないから。


「あまりにも異なる世界の方と縁結びをして両方の世界で住める予定なので果報者です。こうだとよかな意味ではないですか? というかピッタリな気がしてきました。半々になるけど倍にもなる。それが俺達の新しい世界です」

「……。ええ。どのような話も捉え方次第です。そう言って下さるなら私はこちらが良いです。先程の言葉も嬉しかったです」


 雨は私らしい、だけは分からないけど他は全部しっくりきた。半々になるけど倍になるのが自分達の新しい世界というのはとても嬉しい考え方だ。

 出会いと別れ、住む世界の変化をどう考えるかという話と自分で口にした時に前向きな気持ちが湧いたけど更にそうなった。


「前ならそうは思わなかったです。ウィオラさん風の考え方。半分こしたら倍になってお得で幸せ。うんとよかな考えです。値段……。おお。予算内ですし……この中では安めです。ウィオラさんは舞用としてどうですか? 大きさとか持ちやすさとか」


 私がそんな風に話したことってあったっけ?


「物を選ぶなと怒られてしまいますが手に馴染むとか使ってみてしっくりくるという事はあります。少々試してみます」


 店員を呼んで他の扇を片付けてもらって軽く舞う許可を得て扇子を試用。

 せっかくなので慈雨京雪華(じうきょうせっか)の火樹銀花ノ章より太夫風の銀鏡乱華(ぎんきょうらんげ)を披露。

 ジエムの古典的かつ彼自身の鮮烈な舞は嫌だから他の役者や遊女の舞を仕入れて研究して独自の振りにした私の十八番の一つ。

 今後、私は東地区へ滞在中に輝き屋に出入りしてかつての師匠と共に十八番を改善したいと思っている。要望があって我が家の役に立つなら舞台にも立ちたい。


「……」

「こちらの意匠に決めた理由は嬉しかったですし使い易くて手に馴染むので賛成します。今の舞、軽くでしたがどうでしょうか」

「……すこぶるよかでした」


 ネビーはぼんやりしていて、これは自惚れではなくて見惚れてくれていると分かる。

 なにせ他のお客や従業員も私に注目しているし拍手も始まったから芸妓として心を奪ったぞという自信。会釈をして従業員に声を掛けて座って扇子を閉じて二本購入しますと伝えた。


「お祝い用に包んでいただけますか?」

「かしこまりました」


 次のお店へ向かう間、ネビーはまたしても少々挙動不審になったのでやはり同僚が気になるのだなと感じた。

 

「こんなに高い扇子を見たのも触ったのも初めてです。使うのが怖い怖い」

「来月、正式にお父様からお渡しします」

「分かりました」

「コホン。ウィオラさん。いつも持ち歩いているお菓子はなんですか?」


 わざわざわざとらしい咳払いをしてこの問いかけとはなんだろう。


「まさかお腹が減りました? 落雁(らくがん)です。お待ち下さい」

「いえ。他にも持って無かったですか?」

「ネビーさん、梅昆布もあります」

「いや、他もありましたよね?」

「すみません。喉がいがいがするのですね。絵飴(えあめ)があります」

「あの。出さなくてよかです。そう。絵飴(えあめ)です。飴です飴」


 出さなくて良くて飴って突然なんだろう。


「その、まあ、いやあ。意匠。気に入る意匠で意味もすこぶるよかな扇子が見つかって嬉しいです」

「ええ。あっさり決まりましたね。私達は好みが似ているのでしょうか。対立しなそうで嬉しいです」

「雨は降らなそうですね。かんかん照りです。いい天気出す。雨ではなくていい天気」

「はい。良いお天気ですね」

「飴も雨もあで……」


 ネビーは俯いて何か言いたげな顔になった後に髪を掻いてそっぽを向いた。


(お耳が赤い。なにに照れたの?)


 周りを見たらまた見回り兵官を前方に発見して向こうもこちらを見たからそういうこと、と納得。


「あですあ。それで……」

「あっ。しりとりですね。飴のあ。め、ではなくてですか? 赤にします。か、ですよ」

「えっ? あっ、はい。亀」

「めだか」

「カニ」

「に……」


 ネビーは指をハサミにして私の耳を挟んだ。


「カニだぞカニだぞ。おちびカニさんお待ちになってってまた見たいのでまた海に行きたいです」

「あの。あちらに同僚の方がいらっしゃいますけどよろしいのでしょうか……」

「……おお。気がついてなかったです。なんかつい、家の中とか屯所で二人きりだった時のようなノリで話してしまいます」


 それなら先程のネビーは何に照れていたの?

 

「もちちだしカニだし忙しいですね、ウィオラさんは」


 いや、意味が分からない。でもこのような変な中身の無い会話でもとても楽しい。

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