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お見合い結婚します「紫電一閃乙女物語」  作者: あやぺん
おまけ「結納中編」

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友人3

 盗み聞きは良くないけど気になるので逆らわずにそのまま待機。


「あれ、ウィオラさんは?」

「私に豆腐って出掛けた」

「この時間に一人で? とっくに閉店時間ですけど」

「近所から貰うんじゃない? 知らないけど。誰かに声を掛けてた」

「そうですか。話ってウィオラさんと三人かと思ったけど違うなら外で。そこの机と椅子のところ。いくらすぐそこに家主のラルスさんが居てもここは俺の部屋じゃないしウィオラさん以外の女と二人は嫌だ」

「店の話とかそこらでしたくないわよ。扉を開けておいても嫌なの?」

「嫌だけどその話……。ラルスさんに断ってくる」


 私はまだまだネビーのことを知らないけどネビーらしい会話だな、と思いながら耳を傾ける。

 しばらくしてネビーの「俺はラルスさんから見えるこの端にいるからユラさんはこの辺りで」という台詞が聞こえてきた。離れて座る、ということだろう。


「あんたに興味ないのになんなのこの警戒心。気分悪い」

「ウィオラさんが帰ってきて二人でヒソヒソ密会してたなんて嫌って言うたら……言わなそう。ウィオラさんには言いたくないけど兵官の俺には聞きたい何かってことか?」


 ユラの接し方が接し方だからかネビーの口調が砕けている。


「ウィオラはすぐ帰ってくるって言っていて、先に少し話したからここに合流してくれたらと思って。店の話だけど身請け話がきたの」


 そうなんだ。私はまだ聞いてなかったけどユラが私をここへ移動させたからこれは私に対する打ち明け話でもある。


「へえ。身請けって断るとか受け入れるとか自分で決められるんですか? 文学だと身請けされたくないから逃げる。駆け落ちが定番ですけど」


 ネビーの口調が戻った。


「借金ありの遊女相手だと身請けだけど私は借金はもうないからお金は要らない。つまり身請けにならない。でも身請け」

「おお。要らないのに請求して儲けるってこと。いや多分犯罪だなそれ」

「それだと犯罪だから育てた謝礼金と支度金って名目で貰う。なんか契約とか駆け引きとか色々だって」

「ほうほう。俺に話ってことは相手の素行や素性調査をしたいってことか?」


 また口調が砕けた。


「そんなこと出来るの?」

「そりゃあ兵官でさらに卿家だからツテコネでそれなりには。こうしてわざわざ頼ってきた婚約者の友人だからこっちに損のない調査くらいしてもよかかなって思います。そんなこと出来るの? だから別の話か」


 身請けされた先が遠いとか、家が厳しいとか色々あるからその前に会えるうちに会いにきてくれたってことなのかな。


「身寄りなしで少しの財産と偏った学や教養とこの見た目で一人で暮らしていけるもの? ウィオラが手紙に書いてたから花官に聞いたら花街外の屯所ってそういう仕事の紹介とかもしてるって教わった。あんたはそういう仕事はしてない? してなくても兵官だから知識はあるの?」

「身請けよりも街を出てみようってことか?」

「知らないと選べないから。身請け先は商家の三男で後継問題になるし嫌いだから子どもが欲しくないって。商家の三男の嫁を出来るのかも分からない」


 手紙で相談してくれたけど、私は受け取れていなくて返事がおかしいから会いにきたのかもしれない。


「子どもがおそらく出来ないって接客で話したってこと」

「子ども嫌いって話題の時にしたと思う」

「妾じゃなくてお嫁さんなのか」

「一応そう言われた」

「その見た目は商家だと使えるし、間も無く座敷持ちってことは高級店で人気上昇中だから接客力あり。高級店所属だから教養もあり。残りは教えたらよか。そんな感じだと思う」


 これは私も同意。


「嫁はどこの誰って聞かれるわよね」

「花街生まれの遊楼育ちで自力で借金を返した元遊女。どこどこで売り子をしていて惚れた。同情されるし根性があって金銭管理がしっかり出来るって思われるから多分そんなところ。使えるところがあるし嘘は綻ぶから全部は隠さない」

「聞く予定だったけどそういうものなの。元遊女って話すものなの」

「そういうもの。この肩書きだと卿家でも許す家は許すくらいだから。跡取りには論外のようで息子が大暴れしたら調査内容によってはあり。華族は厳しい」

「えっ。卿家も?」

「所詮は庶民だし花街の高級遊楼は国政の要の一つだからな。ここを否定するとあれこれだ。高級店だと客は人数よりも質だし高級遊楼育ちの厳しさも花街内で遊女に金を使わせようって誘惑のことも知られてる」


 卿家でも許す家は許すってそうなんだ。でも確かに花街内の遊女は法の中で働いているだけだから非難しようがない。


「こう言われたら分からない私は騙される。まさか」

「卿家の義父に教えてもらったから合ってる。法の下でも日銭稼ぎの色売りや春売りをしてた、だと世間の印象は悪い」

「結構いるって言うけどね。特に色売り。いいわよね。生活出来る基盤があるってことだから」

「身寄りなしで高級店所属で人気があって自力で借金を返しただと印象は逆。そこらの日銭稼ぎや安店で体が商品と、そうじゃないかは本人の有する能力で証明出来る。店から勤務態度や成績や能力なんかの紹介状も作ってもらえる」

「紹介状なんてあるんだ。そうなんだ。店から教わったことない。まあ、都合の悪いことは教えないわよね。のし上がらないと一発逆転は無理らしいって聞くから借金してでもあれこれ稽古や勉強をしたけどこうなるんだ」

「だから街に出てウィオラさんとか俺関係から紹介されてお見合いで好きに選ぶ方が得だと思う。華族以外はわりと選べる。裕福めな平家以上。特に商家。その男がよかなら別だけど」


 私も花街一区の菊屋の元遊女を欲しいと思う商家はそれなりにあると思う。花柳界なんて特に従業員として欲しがる。そこから同僚のお嫁さん話も出てくるだろう。


「私が選べるの?」

「向こうも選ぶから断られる事もあるけど。特技を活用するよりも過去を隠して生きたければそういう道もある。何をしたか知らないけどウィオラっていうツテを得て地区兵官の俺がいる。放火しに来たわけじゃなさそうだし」

「慣れたから清潔にしてくれれば容姿は気にしないけど変わったド変態だから嫌なのよ。あれを嫁として相手し続けるのはちょっと」


 ……。

 変わったってなんだろう。絵と軽い揶揄(からか)い話題でしか知らない世界なので変わったにさらにド変態って怖い。

 ふざけで絵を見せられたり艶本の朗読を聞かされたから普通のお嬢様よりは知識があるけど。

 これは普通なのって言われたから多分私が知ったことは普通の範囲のことでユラのド変態の内容とは違うだろう。


「断ったら商家の嫁なんて好条件は二度と来ないと思ったってことか?」

「またあるかもしれないって希望に(すが)るのはどうなのかっていうのと、次もまた変なド変態かもしれないし妾話や老人とかそういうこともあるから」

「男にだらしないだっけ。毎回素行調査してやるから身請けは蹴って店も出てこの街で暮らしてみたらどうだ? 日雇いから信用を得て従業員になる。その見た目だからモテるし気持ちが乗った頃にお見合い。難しい平凡人生ってやつ」


 私が気にかけたから毎回素行調査してやる、なのだろうか。それとも誰にでもわりとこうなのかな?


「毎回素行調査してやるってウィオラの知り合いだからよね」

「友人だから、の方。それもかなり気にかけてる」

「……。女と二人になりたくないだから相談なんて普段は乗らないんでしょう? そろそろ帰ってきて同じ話題だから聞くかって判断みたいだし」

「ああ。誰かに任せる。この話題なら福祉班で十分だから福祉班と女性兵官に丸投げ。毎回素行調査はしてもらえないけど相談した時に悪い男か客観的に見てくれたりはある。聞く耳もたねぇのが問題なんだけど、ユラさんはもうそこら辺は乗り越えてそう」

「福祉班なんてあるんだ」

「居なかったか? 母親から引き離して奉公人にさせようとかそういう兵官」

「……あー。人(さら)いが来たから隠れてろとかあった。その時に売られたかったって思っていたけど兵官もいたかもしれないのか」

「俺は福祉班遊撃官で人手不足や厄介そうだと呼ばれるけど家探しして見つけ出して本人と根気強く話し続けても無駄骨になることがある。親子繋がりは難しいから」

「そういう仕事もしてるから私に関心がないっていうか人並みみたいな態度ってこと」

「どこ出身か知らないけど元六番地住まいなら俺ら番隊職員の取りこぼしだから悪いって思う」

「ウィオラにあれこれ聞かなくても知恵がついたからあとは自分で考える。知識ってやっぱり大事だわ」

「そこなんだよな。こういう仕事もしてるって知らせても伝わりきらない。助けを求める人こそ知識不足だったりするから難しい」

「ウィオラってそういう話もしてたのよ。役所とからそういうこと。私は教わっている楽達への話を聞きかじり」

「ウィオラさんはそういうことをしそう」

「個人稽古の時に聞くと教えてくれた。同じ年頃のどこかのお嬢様。苦労知らずで当たり前のように世間のことを知っているなんてズルいって思っていたけど……」


 少し沈黙。思っていたけど、なんだろう。私の顔を見ては言いたくないけど何か伝えたいってこと。


「私もズルい側みたい。他にも親しそうにしていた遊女がいるのになんで私なのかしら。私はむしろ親しくない方よ。来てくれたって何。友人って……。友人なんて居たことない。これは友人なの? ウィオラは異質で黙って座っても人が集まるの」

「まあ、あの性格だと人が集まりそう。来てくれた、がまさにそれ。来ましたじゃなくて笑顔で来てくれました。ウィオラさんが友人っていうなら友人なんだろう」


 まさにそれってどういう意味だろう。わざわざ会いに来てくれたから来てくれました、だ。

 友人も自分がそう思ったらそうだって言うけど。相手が同じように思うかは別だ。


「それにしてもウィオラさん遅いな。ご近所さんに豆腐を分けてもらうだけなのに」

「私の話はもう終わりだけど、あんたとウィオラは何の喧嘩をしてるの? そっちは不機嫌顔を撒き散らしてウィオラは少しビクビクしてた」

「えっ。俺を怖がってるってことか? 何で? 呆れて俺への関心が減ったというか、祝言が遠ざかったというか、そういう感じだと思っていたけど」

「怒らせたって落ち込んでたけど」

「何も怒ってない。落ち込んだのは俺の方だし」

「不機嫌怒り顔で私も怒っていると思ったわよ」

「えっ? あー、居るのか……」


 居るのか、と同時に襖が開いた。私は襖に対して横向きに正座していてネビーと目が合う方向だったので視線が交差。目を背けた彼は髪を掻いた。

 

「怒ってないらしいから話せるでしょう。ウィオラの祖父と話があるから二人でどうぞ。乙女心で飾った部屋へ招いたら? お嬢様だと祖父に見張られるのかしら」

「おじい様は見張る気がまるでないです……。むしろ逆です」

「へえ。その辺りも聞いてみよう」


 ユラが部屋から出て行って少しして祖父が来て「どうぞどうぞ」と告げて部屋の扉を閉めた。怒っていなくてもまた不機嫌顔なので気まずい。尋ねないと分からないので聞くしかない。

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