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捨てられ中年といじめられ少女 - 異端者たちの異世界戦記  作者: 二八乃端月


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第88話 国立魔導科学博物館

 

 カランカラン、と鐘をならしながら、ミニSLがホームにすべり込んでくる。


 キィイイイーーーー

 シュウ、シュウ、シュウゥーー…………


 停車する機関車。

 運転室から顔を出す機関士。


「さあ、乗ったのった。間もなく発車するぞい!!」


 そう叫んだのは、ゆったりとした制服を着こなし、目深に制帽を被ったおサル……もとい猿人族の陽気なおじさんだった。


(おお……)


 ちょっと感動する誠治。


 誠治たち四人を含め、小さな子を連れた家族や恋人と思しき若い男女らが客車に乗り込むと、ミニSLは鐘を鳴らして発車した。




 ☆




「登り坂は、とてもゆっくりなんですね」


 左隣の詩乃の言葉に頷く誠治。


「電気で動くモーター式の機関車ならそこまでスピードを落ちとさずに走れるんだろうけど、ミニSLだと差がはっきりでるよね」


 列車はなだらかな坂を上ってゆく。


「たしか昔の大きなSLでも、急な坂が続く山とかを越える時には、機関車を2台つなげて走ってたんじゃなかったかな」


「汽車をつなげて走るんですか?」


「そうそう。前に写真で見た気がするよ」


 そんな話をしていると、今度は右側のラーナが口を開いた。


「うちの国でも、山の方に行くとそんな感じ。多分、今回の派遣軍も一部区間では重連運転のSLで移動するはず」


「そうなの?」


 振り返った誠治に、頷くラーナ。


「この前も言ったけど、ノートバルトに地上から行く場合、両国の境目までは鉄道で移動することになる。国境はノルベルト山脈を越えた向こう、深淵の森の北の淵にあるから、山を抜けるのにそれなりの急こう配を走破できる必要がある。ちなみに半年前に私がヴァンダルクに潜入した時も、重連のSLに乗って国境まで行った」


「それは……ちょっと羨ましいな」


「そう?」


「ああ。僕らがいた世界では、電気モーターで動く電車や、ディーゼルエンジンで動く機関車に置き換わっちゃったから、SLは一部の観光路線を除いて走ってないんだ。重連運転なんてなかなか乗る機会がなかったよ」


 まさか、剣と魔法の異世界でSLの重連運転の話をすることになるなんて。


 誠治は思わず苦笑した。


「…………。ライラナスカとの戦いが終われば、気軽に旅ができるような日もくると思う」


 流れる景色を見ながら、どこか優しげに呟くラーナ。


「その時は、三人で色んなところに行きたいですね!」


 微笑む詩乃。


「そうだな」


 誠治は三人で旅をしている光景を一瞬思い浮かべ、『二人の笑顔を守りたい』と、強くそう思ったのだった。




 ☆




「さあ、着いた。ここが国立魔導科学博物館だ」


 ガリウルの指示に従い三つ目の駅でミニSLを降りると、石造りの重厚な建物が目の前にあった。


 ざっと見る限り、複数の建屋からなるかなり大規模な博物館だ。


「ここには、建国以来わが国が開発してきたあらゆる魔導具が陳列されていてね。この世界の魔導科学の歴史と歩みが一日で学べるようになっている」


「これは、すごい規模ですね。技術開発局うちの展示館なんて、ここに比べたら子供だましだ」


 誠治の呟きに、ガリウルが答える。


「おいおい。うちの展示も質では負けてないんだぞ? ……だがまあ、そうだな。規模の面では確かに比較にならない。全部見てまわるとそれこそ一日がかりになるしな」


 ガリウルは三人を引き連れて入口から館内に入ると、受付で四人分の観覧チケットを購入し、三人に渡した。


「さっきも言ったように、今から展示を全部見てまわったら日が暮れる。今日は目的の『乗り物』のカテゴリーにしぼって早足でまわるから、ちゃんとついてくるように」


「「「はいっ」」」


 同時に返事を返した三人に、この人狼族の局長は、にやりと笑った。


「今回の件が落ち着いたらあらためてゆっくりまわってみるといい。静かだし、博識にもなれるし、個人的にはデートにもおすすめだぞ」


「おじさま、また来ましょう!」


「私も、またセージと来たい」


 食い気味に主張する少女たち。


「わ、わかったよ。また三人で来よう」


 ふたまわり近く離れた少女たちにタジタジになる誠治だった。




 ☆




「なんですか、これ?」


 やや引き気味にガリウルを振り返る誠治。

 部下の質問に、上司は腕を組み笑った。


「聞いて驚くがいい。それは我が国で作られた、世界初の魔導飛行実験機だ」


「いや、どう見ても椅子でしょ、これ?」


 四人の目の前にあるのは、文字通り『椅子』だった。

 見ようによっては、ソリのように見えなくはない。


 二本のスキー板を履き、二本の操作レバーが座席の下から延びる、背もたれの長い不恰好な椅子。


「偉大な発明は、どれも原始的な試作品から始まるものだよ。そんな見かけでもちゃんと飛ぶぞ? どうだ、誰か乗ってみないか?」


「ヤダ」


「遠慮します」


「右に同じ」


 記念すべき世界初の魔導飛行実験機の評判は、散々だった。




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