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捨てられ中年といじめられ少女 - 異端者たちの異世界戦記  作者: 二八乃端月


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第75話 一騎討ち

 

「さっき射撃した時、黒竜が弾を避けたように見えた」


 左側に立ったラーナが言った。


「僕にもそう見えたな。しかも、こちらが発砲する前に、着弾位置を把握して回避行動に入っていたように見えた。そんなことってあり得るかな?」


 考え込む三人。


「ひょっとして…………」


 僅かな逡巡のあと呟いたのは、右側に立つ詩乃だった。


「何か気づいたことある?」


 誠治の問いかけに、小さく首を傾げるように頷く詩乃。


「あの時、黒竜が近づいていた時、少し変な感じがしたんです」


「変な感じ?」


「はい。一瞬だけ、メンタルリンクに干渉されたような……」


「「それ(だ)!!」」


 誠治とラーナが同時に叫んだ。


「あいつ、相手の精神に干渉できるのか! それで発砲のタイミングやら、着弾位置まで正確に把握できたんだ」


 誠治はノルシュタットの町を襲う黒竜を睨みつけた。


「そっちがそういうことなら、こっちにもやりようがあるさ。……ラーナ、頼みがある」


「なに?」


 顔を寄せるポニテ少女。


「あいつは左旋回で飛ぶことが多い。だから左目を抉ってやる。直撃しなくてもいい。未来視で左目周辺を重点的に狙ってくれ」


「わかった」


 ラーナは頷くと、誠治の左頬に一瞬だけキスして、すぐに身を引いた。


「ら、ラーナ?!」


 色めき立つ詩乃。


 ラーナはそ知らぬ顔で空を見上げた。


「次に詩乃ちゃん」


「う……なんですか、おじさま?」


 詩乃が眉を寄せた顔を誠治に近づけた。


「合図したら、すぐに正面にバリアを張れるようにして欲しい。魔力を分けるから、その時はすぐに僕の肩に掴まって」


「は、はいっ!!」


 返事を返した詩乃は、一瞬だけ躊躇ったあと、ラーナに張り合うように誠治の右頬にキスして、元の位置に戻った。


「さて。あの化け物に死ぬほどキッツいのをぶちかましてやろうか」


 三人の心は、一つになった。





 誠治がグリップを握る手から魔力を注ぎ込むと、高射機関砲の銃身が、回転座が、青白く光り始める。


 魔法金属ミストリールは強大な無属性魔力を通されることで、その光を強めていった。


 誠治は足元のペダルで銃座を回転させ、銃身を空にいる黒竜に向ける。


「詩乃ちゃん、メンタルリンクと指向性探知を」


「はい。メンタルリンク……OK。指向性探知、開始します」


 すぐに頭の中に、探査イメージが浮かび上がり、黒竜を捉える。


「ラーナ、未来視を」


「わかった。……照準開始」


 黒竜の姿が二重に分かれ、その左目にズームアップする。


「それじゃ、いくぞ!」


 傍らの二人の少女が頷く。


 誠治はラーナの照準に従い、めいっぱいの魔力を込めながら引き金を引いた。




 ダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!


 青く光る銃身から、白く輝く弾丸が高速で連射される。


 二十ミリ……小銃弾の倍以上の径の弾丸は、光の筋となり黒色のドラゴンを襲った。


 油断していた黒竜は寸前で気づき避けようとするも、間に合わず横面を殴られたように頭を跳ね飛ばされる。


 ギャアオオオオオオオオオ!!!!


 悲鳴のような叫び声をあげ、右旋回で逃げる黒竜。

 その背中に向かい、誠治は銃弾を浴びせ続けた。


「おらぁああああああ!!」


 喚きながら引き金を引き続けていると、わずか十秒ほどで弾倉が空になる。


 弾丸は黒竜の背に連続着弾し、その鋼より硬い鱗を何枚か剥ぎ取っていた。


 誠治は急いで立ち上がり、機関砲の機関部上部に差し込まれていた弾倉を取り外して投げ捨てながら叫ぶ。


タマを!!」


 控えていた弾倉交換手の青年が駆け寄り、新たな弾倉を差し込む。


 銃身ごしに、遠くの空で向きを変え、こちらを睨む黒いドラゴンが見えた。


 照準しようとしたラーナがその異常に気づき、誠治に報告する。


「今の攻撃で左目を潰した。次は右目を狙う」


「頼む!!」


 誠治は黒竜の翼を狙い、指切りで引き金を引いて数発叩き込むと、こちらに高速で近づく敵を待ち構えた。





 黒竜は激しい怒りに燃えていた。


 矮小な人間ごときが、一人では何もできない下等なサルの群れが、空の支配者たる自分を傷つけたのだ。

 左目の横を傷つけられ、自慢の美しい鱗を剥がされ、翼に穴をあけられた。


 生を受けて約千年。

 こんな屈辱は初めてだった。


 身の程を分からせてくれる!!

 竜は翼を羽ばたかせ、猛然と自らに矢を引く愚か者に向かって飛び始めた。





 漆黒の竜が、凄まじい勢いで突っ込んで来る。


 誠治はその右目を狙い、短く指切りで引き金を引き、数発ずつ叩き込む。


 だが先ほどの攻撃でドラゴンに油断はなくなり、僅かな動作で躱されてしまう。


「当たらないっ。やっぱりこっちの狙いが読まれてる?」


 ラーナが焦ったように呟く。


「読まれるのは承知の上! 右目を狙い続けろ、ラーナ!!」


「わ、わかった!!」


 ラーナが再び集中した次の瞬間、こちらに向けた竜の口から、小さな……黒竜にしては小さな炎の光が煌めき、高速で立て続けに打ち出される。


「詩乃ちゃん、バリアー!!」


「はいっ!!」


 誠治の魔力を借り、一瞬で目前に空間障壁が展開される。


 迫り来る三つの火球は、そのまま障壁に突っ込んだ。


 ドドドン!!!


 間近で立て続けに火球が爆発する。


「くっ!!」


 眩い閃光に目を細める誠治。


 だがそれは、目くらまし。




 炎の向こう。

 猛烈な勢いで滑空し迫ってくる黒竜は、口を僅かに開き、その奥に新たな火球を作っていた。


 先ほどより眩い光を放つ火球が生まれ、みるみる巨大化してゆく。


「詩乃っ! バリアー解除!!」


「は、はいっ!!」


 竜と誠治たちを遮っていた見えない壁がなくなる。


 その瞬間、誠治はラーナの照準に従いドラゴンの右目に向かって短く引き金を引いた。


 ダダダダッ!!


 メンタルリンクで照準に気づいた黒竜は、僅かに早く、右目をかばうように頭を上にあげる。



 刹那、竜の光る口が、誠治たちに向かって大きく開かれた。




 それこそが、誠治が待ち望んだ一瞬。


 わざとラーナに目を狙わせ続けた理由。




「くらえ!!」


 誠治は狙いを黒竜の口内に移し、あらん限りの魔力を注ぎ、狂ったように喉奥の火球に向かって銃弾を叩き込む。




「うるぁあああああああああああ!!!!」


 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!




 強大な無属性魔力によって蒼く輝く高射機関砲の銃身から、眩い光の帯が伸び、黒き古竜の喉奥に殺到した。




 輝く鉛玉の群れが一直線に伸び、そして突き破る。


 その更に奥にある竜の脳をも貫いて。




 黒竜の頭部は、機関砲の連射によって激しく震えーーーー次の瞬間、制御を失った自らの火球とともに吹き飛んだ。



 ドォン!!!!



 ごう、と吹き抜ける爆風。


 誠治の横に立つ二人の少女はその爆風によろめき、誠治は慌てて二人の手を掴んで引き寄せる。


 黒竜は即死した。


 だが、頭部を失った漆黒の巨体は、そのままの勢いで突っ込んでくる。




「詩乃ちゃんっ! バリアーを!! 全力展開!!!」


「はいっ!!!」


 誠治が掴んだ詩乃の左腕にありったけの魔力を注ぎ込む。


「はぁあああああ!!」


 詩乃が右手を空にむけて叫ぶ。

 かざされた手のひらの先の空間がぐにゃりと歪んだ。


 黒竜の巨体が突っ込んでくる。



 ドォン!!



 凄まじい衝撃波があたりに広がる。


 空間の絶壁にぶつかった竜の体は、透明なガラスに衝突したカラスのようにグシャ、とひしゃげ、そのまま地面に落下した。



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