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捨てられ中年といじめられ少女 - 異端者たちの異世界戦記  作者: 二八乃端月


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第28話 盗賊の噂・加護なしの嘘

 

 トーリは渋い顔で語り始めた。


「道があるところには盗賊が出る。昔からそれは変わらん。程度と頻度の差はあれ、な。下手に抵抗しなけりゃ『通行税』とか称して積荷を二割、三割持ってかれてすぐ解放、ってのが普通だったんだが……」


「そうじゃなくなった、と?」


 クロフトが尋ねると、トーリはテーブルに目を落とした。


「あんたら、『死者の手』って名前を聞いたことは?」


 一同、首を振る。


「そうか。旅商人なら知らないのも無理はない、か。『死者の手』ってのは、最近、この領周辺に出没しては馬車を襲ってまわってる新手の盗賊団の名だ。あまりに凶悪なんで、この辺りじゃ名前を聞くだけでみんな家に引っ込んじまう」


「そんなにひどいんですか?」


「ああ、ひどいな。やつらは二十人近い人数で現れて、積荷はおろか、人間まで連れて行っちまう。抵抗すれば皆殺し。おまけに集落まで襲いやがる。今年に入って小さな集落がいくつか消えた、って話だ」


「それはひどい。領主は対策しないんですか?」


 クロフトの当然な質問に、トーリは苦しそうに首を振った。


「もちろんすぐに手を打ってたさ。冒険者ギルドに討伐依頼と情報提供の依頼を出し、四十人からの警備隊を派遣したりもした。だが、よりにもよって、その警備隊が返り討ちにされちまったんだ。討伐の翌日、警備隊連中の首が領主様の館があるホーサスの街の外に並べてあったって話だよ」


 誠治はその様子を想像して、顔をしかめる。

 旅のメンバーは皆、似たり寄ったりの様子だった。


「今やこの界隈じゃ、村の間を移動することもままならない有様さ。南の森の調査も、警備隊が動ける状態ならすぐにやってくれるだろうが、もう街の治安をかろうじて維持できるくらいの人員しか残ってないらしいし、いつになるかわからんな。あんたらも、北に抜けるなら気をつけていきなよ」


 久しぶりの晩餐は、一行の腹を満たしつつも、どんよりとした雰囲気で終わった。





「さて。現状の整理と、今後の方針を話し合いましょうか。セージには聞きたいこともありますしね」


 夕食後にお湯をもらった後、一行は誠治とクロフトがあてがわれた部屋に集まっていた。クロフトが自主的に進行役を買って出る。


「聞きたいことってのは……やっぱりあの魔法石のことだよな?」


 誠治は、はぁ、とため息をつきながらクロフトの顔を見た。


「もちろんそうです。なんですか、あの威力は? ラーナから渡されてたのは、小型の爆火石じゃなかったんですか?」


 クロフトが詰め寄る。


「いやいやいや。確かに渡された石は小粒だったと思うぞ。なぁ?」


 誠治がラーナに助けを求める。


 振られたラーナは小さく頷いて、ポケットから小粒の爆火石を三つ取り出し、丸テーブルの上に置いた。

 魔法が封じられた石は、静かに炎の色の光を湛えている。


「これがセージに渡したのと同じサイズの爆火石。私は縄を切ったり、鍵を吹き飛ばすのに使ってる。人間の足下に投げつければ、足を吹き飛ばすくらいの威力。間違ってもクレーターを作るようなシロモノじゃない」


「つまり、本来は手榴弾くらいの威力な訳だ。それがなんであんなことに?」


 誠治が皆を見回すと、約二名から白い目で見られた。


「「それを聞きたいのは、こっちの方 (です)!」」


 魔王国の二人の声がハモった。

 が、残りの約一名からは、全く違った反応が返って来る。


「ついに、おじさまの秘められた力が覚醒したんですね? さすがおじさまです!!」


 うっとりとした表情に、潤んだ瞳で見つめられた。


「いやいやいや。お城で鑑定されたの見たでしょ? 僕は加護なしの役立たずだって話だったでしょうよ」


 柄でもない熱い視線を向けられ、慌てて否定する中年男。


「それなんですけどね……」


 クロフトは腕を組み、誠治を見据えた。


「一般的に、加護なしは精霊の加護を受けられなかった無能者、ということになってます。パルミラから五精霊教の話は聞きましたよね?」


 誠治は頷く。


「ああ。確か、この世界で広く信じられている五精霊教では、光・火・水・風・土、が世界に恵を与えてくれる精霊で、星詠みの加護を与える闇の精霊は負の力を集める呪われた精霊。加護なしにいたっては、何かの間違いで生まれてきた、って扱いになってるとか、なんとか」


 故にこの世界では、星詠みは迫害され、加護なしは冷遇される。そういう話だった。


 クロフトが誠治の言葉に話を続ける。


「その通り。加護なしは魔法が使えない。なぜなら魔法の顕現に必要な精霊の加護がないから。故に魔法に関して無能。一般的には、そう言われています」


「……何か引っかかる言い方をするね」


 誠治は苦笑する。


「だけどね。本当は嘘なんですよ。無能ってのは。これは我々が魔王国の人間だから言えることです。星詠みは呪われてなんかいないし、加護なしも無能なんかじゃない。加護なしの人間にも、魔力はあるんですよ」


 クロフトは、異世界から来た異端者たちを前に、言い切った。



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