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捨てられ中年といじめられ少女 - 異端者たちの異世界戦記  作者: 二八乃端月


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第27話 はじめての民泊


 簡単な堀と柵で囲まれた村に入ると、松明を持った村人たちが道端に出て噂話をしており、彼らの注目を集めることになった。


 先ほどの爆発は村の人々にとってもかなりの衝撃だったようで、一行を畏怖の目で見る者もいたが、感情視を使った詩乃は、


「ほとんどの人は、どちらかと言うと好奇心の方が勝ってるみたいですけど」


と笑った。



 トーリと一緒にやって来た二人のうち、片方の馬には、先ほどクロフトがトドメを刺した化け物の死体が括り付けてあり、そちらも馬車同様に人目を集めているようだった。


 トーリたちの馬に先導されて村のメインストリートと思しき道を真っ直ぐ進んで行くと、間もなくちょっとした広場に出る。

おそらく、この広場が村の中心なのだろう。


 ロミ村はざっと見て三十戸ほどの家屋が集まる、そこそこの規模の集落だった。


「馬車はそこの馬小屋に置いてくれ」


 トーリの家は広場に面しており、村で一番大きな建物だった。

といっても、屋敷と言える規模でもなく、精々が『大きな民家』というレベルではあるのだが。


村の中心から離れた農家らしき家々の敷地はそれなりに広かったが、トーリの家は村の中心にありながら、かなりの広さがあるようだった。



「ひょっとして、トーリの家は名主か何かですか?」


 馬車を馬丁に預けて御者台から降りて来たクロフトは、同じく馬から降りたトーリに尋ねる。


「ああ、うちは代々この村で名主をやってるんだ。ミゼット子爵領でもかなりの古株らしいぞ。俺はよく知らんが」


いやいや、あんた名主の家系なんだよね。いいのか、それで?! ……っと叫びたくなる誠治。それをぐっ、と我慢する。


「今は俺の親父が領主のハインツ・ミゼット様から名主の任を預かってるよ。まぁ村の中では『村長』で通ってるし、ようするに村のなんでも屋、兼、悩み相談所だな」


 トーリは苦笑いすると、誠治たちを家の中に案内した。





 トーリの父親、ロミ村の村長は、小柄で温和そうな初老の男だった。


「そうですか。南の森に化け物が…………」


 トーリとクロフトから話を聞いた村長は、心底困ったように視線を床に落とす。


「村の皆と相談して対策を考えないといかんな。領主様が警備隊を派遣してくださればいいんだが……」


 村長は大いに頭をかかえていたが、トーリの取りなしで「とりあえず詳しい話は夕食の時に」ということになり、誠治たちはその日泊まる部屋に案内してもらうことになったのだった。




 ところが、


「なんで、私がおじさまと同じ部屋じゃダメなんですか?」


 案内された部屋の前で、詩乃が、ぷぅ、と頰を膨らませた。


「いや、あのね。詩乃ちゃん女の子だし。僕は男だしさ」


 誠治がしどろもどろになりながら、同郷の少女の説得を試みる。


「私はおじさまとなら、全く、全然、さっぱり構わないですよ?」


 何が構わないのか。

 と、思わずツッコミそうになり、「いや待て、これはひょっとして地雷なんじゃないか」と危ないところで踏みとどまる誠治。


「いやいやいや。二部屋しかないし、男女で部屋割りしないとお互い気を使うからさ。 ……ねぇ?」


 困った誠治がクロフトとラーナに助けを求める。


「な、なんでそこで僕に振るんです? 僕はまだ馬に蹴られてあの世行きはごめんなんですけど」


 急に振られ、あたふたするクロフト。

 一方のラーナは、いつものポーカーフェイスで誠治の振りに応じた。


「私もどっちでもいい。クロフトに襲われても返り討ちにするだけだから」


「それは心外ですね。僕も凹凸おうとつなしのお子様には興味な……ぃててててて!!」


 ラーナの踵がクロフトの足の甲に食い込む。

 そんなやりとりをしていると、


「…………あんたら。うちは連れ込み宿じゃないんだぞ。さっさと男と女で分かれてくれ!」


 ついにトーリの雷が落ちた。





 夕食の席には、サラダとパンとシチューが並んでいた。村長の奥さんと、トーリの奥さんの合作である。


 やや質素ではあるが、それまでが干し肉とハードビスケットの繰り返しだったので、一行は久しぶりの温かい食事に舌鼓を打つことになった。


「それじゃあ、あの爆発は魔法石のものだったのか。俺はてっきり、あんたらの中に凄腕の魔法使いがいるもんだと思ってたんだが」


 トーリが腕を組んでうなる。


「あの魔法石は、僕らにとっても奥の手だったんですけどね。森を飛び出して追いかけてきた化け物の数があまりに多かったんで、仕方なく使ったんです。色々あってたまたま入手することができましたけど、あんなに強力な魔法石は普通はお目にかかることもできないんですよ」


 クロフトはしれっと嘘をついた。

 誠治は「本当は小粒もいいところだったのに、よく言うわ」と呆れてその様子を見守る。



「それであの化け物ですけど、アレは元々あの森に生息してるものなんですか?」


 クロフトの問いに、トーリはかぶりを振った。


「いや、あんな化け物は今まで見たことがないな。俺はこの村で生まれ育って、南の森にもガキの頃から出入りしてるが、あんなのは初めて見た」


 トーリの話の区切りを見計らって、村長が口を開く。


「元々南の森は 、魔物や肉食獣のいない比較的安全な森だったんです。見かける動物も、ウサギやリス、鳥、サル、イノシシくらいで……」


「え、昔からサルもいたんですか?」


 誠治が思わず前のめりになって尋ねた。


「ええ。ただ、本当に普通の小さなサルですよ。森の南の方に群れがあって、こちら側には滅多に姿を見せません。皆さんが戦ったような、あんなに大きくて腕の太い化け物は、見たこともないです」


 村長の言葉に、トーリが眉を顰めて腕組みをする。


「実は一年ほど前から、南の森を抜けてやって来る行商の数が減ってる印象はあったんだ。この三ヶ月ほどはただの一人も姿を見せないから、おかしいおかしいとは思っていたが。まさか森の中にあんな連中が巣食ってたとはな……。先月、狩りに出た村の者が二人ほど行方不明になってるが、あいつらにやられたのかもしれん」


 村長は頭を抱えた。


「どうすればいいんじゃ……。南に化け物、北と西に盗賊団では、村が立ち行かなくなってしまう……」


「え、この先、盗賊も出るんですか?」


 聞き返したクロフトに、村長とトーリは揃って頷いた。




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