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7-17.町娘スタイル(前編)

挿絵(By みてみん)


エスティアが「私、服は貰えない」と言って項垂れた。

皆深刻な顔をしている。


俺だけが状況を理解できていないようだ。


エスティアに、日頃のお礼に、”普通の町娘の服を買ってあげたい”と言ったら大変な騒ぎになってしまったのだ。


……………………


俺はよく興奮しすぎて倒れる。


何故か”偶然パンツ一丁の女の子がウロウロしてたり”とか、”部屋に入ると着替え中”だったりとか、”体拭いてる”とか、そんなのが多いが、俺が興奮しすぎて倒れると、興奮する原因になった子が、なんか喜んで介抱してくれる。


これは、たぶん、この世界の女の子の本能的なものなんじゃないかと思うのだが、俺はがっかりしすぎても倒れる。

このときは、皆あんまり介抱してくれないのだ。


ガッカリして倒れたときこそ助けてほしいのに、他の子はあまり助けてくれないことが多くて、結局エスティアが介抱してくれることが多い。


エスティアは、俺が困ってるときに助けてくれるのだ。

だから、いつもエスティアはいい子だな、いつかお礼をしたいと思ってた。



エスティアは外出着は冒険者のやつしか持って無い。

なので、冒険仕事以外で町に行くとできも同じ格好なのだ。

冒険者ってのは、だいたいそんなもので、オシャレしてる余裕なんて無いのだ。


でも、せっかくかわいいのに、いつも冒険者スタイルばかりじゃ、かわいそうだと思っていたのだ。

冒険者は見下されるし、貧乏で服持って無いとか思われる。


実際、それしか服持って無いわけだし。


俺は、いつか金が貯まったら、エスティアに”普通の町娘的な服”を買ってあげたいと思っていた。

いつも冒険者スタイルで不憫に思っていたのだ。

”すまねぇ、俺が貧乏なために……お父つぁん、それは言わない約束でしょ”

的な意味で、不憫に感じていたのだ。



だから、小遣いが貯まったら、いつか”普通の町娘っぽい服”を買ってあげようと思ってたので、そのことを話したら、服は貰えない……ってなんだ?


「俺は、この世界の暗黙のルールとか知らないからな。服あげると何かあるのか?」

聞くが歯切れの悪い返事しか返ってこない。


「そういうわけでは無い……のだが」

「トルテラが自分で選んだらって、決まりがあるんだよ」


もしかして、服をあげる = プロポーズになったりとか考えたが、話を聞くと、そう言う風習はないが、結果的にそうなってしまったようだ。


女達の間で、俺がエスティアを選んだと大騒ぎになっていた。


「エスティアを選んだのか?」とアイスとリナに詰め寄られた。

テーラは既に暗黒面顔をしている。


「いや、いつも冒険者スタイルだから、かわいい服とか有ったら良いなって思ったんだけど」

と言うと、俺の意図が伝わったようで、「ふう、そうか」とリナが安心していた。

「なんだ」アイスはもう興味なくなったようだ。


そして、当のエスティアは、安心だかがっかりだか微妙な表情になった。

そのあと、なんかちょっと悶絶した後、やっぱり再度項垂れた。


エスティアは、なんかいろいろと難しいお年頃なのだなと思った。


なんで大騒ぎしてたかと言うと、俺の知らぬ間に、女たちの間でいろいろあったらしい。


そこで出た答えが、

町娘の服が必要 = 冒険者引退 = エスティアが子供生む

だった。


大鎧の書には、勇者が鎧を持つとは書かれていない。

神が勇者を選ぶだけ。

エスティアはウグムの聖人で俺が選んだことになっているので、そういう話になったようだが……


お前ら全員知ってるだろ! 俺が選んだのは、エスティアじゃ無くてトート森のかわいい子だよ!

”大人の事情でエスティアが選ばれた”ことになっただけだ!!



「俺は町娘姿のエスティアを見たいんだよ!」……と言ったら珍しく信じてもらえた。


ああ、そうか!みたいな顔で、

「冒険者と爺さん一緒に歩いてると、貧乏人と産廃扱いされるからだ!」と誰かが言った。

おい、誰だ、今”爺さん”言ったやつ。


※アイスさんです。おっさんも気付いてます。


つまり、保護者が冒険者スタイルでは、俺が産廃扱いされるから嫌なんだと思われた。

いいよ、理由はもうそれで!!


俺はトート森周辺では守り神、ダルガンイストでは先代勇者、拠点では恥ずかしがり屋のトイレの神様認定されてるが、他の場所では相変わらず、産廃扱いなのだ。

どこに行っても冒険者は貧乏人扱いなのだ。


疑惑が晴れると、なんかあっさり服を買いに出られた。


「トルテラと2人で出かけるのって、珍しいね」とエスティアが言った。


そうなのだ。

いつもだいたいエスティアと一緒なのだが2人きりで遠出というのはけっこう珍しい。

特にリーディアが来てからは、減った気がする。


あいつは暇なので、四六時中俺を見張ってるのだ。


「そう言えば、お姉さんに”アリエス”って呼ばれてたけど、元の名前?」と聞いてみた。


「うん。そう。私、アレスティアなの。

 冒険者がそんなに長い名だと目立つからと思って」


ああ、確かに、少なくとも連合領内は名前が長い方が格上の傾向がある。


文字で書くと確かに、アル - エスティアって感じになるから、文字的には、少し削るとエスティアなのか。と思って納得した。でも、”エスティア”は冒険者にしては、長いと思う。


むしろ削っても大差無いようにも思えるが、俺にはそのあたりの感覚はよくわからない。

「そうか」とだけ答える。


名前が長いと目立つから削る。

地位によって、名前の長さまで合わせないといけない世界なのだ。


「お姉さんは、なんだって?」と聞くと、

「長い間、連絡が取れないから心配してたって。怒られちゃった」


「勝手に出てきたのか?」

「そうじゃないけど、家には頼れないから。連絡はしてなくて」


「お姉さんは大丈夫なのか?」

「うん。元気、商売がうまくいったから戻ってきても大丈夫だって」


その先は聞かなかったが、だいたいわかる。

エスティアは家には帰らない。

そして、俺が死ぬまできっと俺の傍を離れない。

だから俺がいると婚期を逃してしまう。


……しかし、俺が子を作れるとしたらどうだろう?

どうせ男はすぐ死ぬ世界なのだ。

俺が何歳であろうと、子供を残せれば婚期を逃したことにはならないから問題ないのだろうか?


ところが、その後の話題は、

「あれが美味しいんだけど、ダルガノードじゃないと手に入らないから、次行くとき買ってきて」

……で、話の多くはお菓子の話だ。そんなのは女同士でやってくれと思った。


馬車に乗ってるのだが、なんか、エスティアが馬車にタダで乗れるやつ貰って、経済的な負担なしで馬車が自由に使えるようになったのだ。


マイト候からもらったので、マイト候の領内に限った話だけど。


なんでエスティアがそんなもの貰ったかと言うと、ウグムの聖人だからだ。

あのよくわからない踊るだけの聖人だ。

ビフェット山周辺では、あの謎の踊る聖人がやたら人気あるのだ。


俺は、あの謎の踊る聖人の人気の秘密がさっぱりわからない。


「なんでエスティアがウグムの聖人になんだ?」と聞いてみた。

すると、ちょっとモジモジして「神が、トルテラが選んでくれたから」と言った。


……なんだ? 俺が選んだのはトート森のかわいい踊り子だ。

却下されて、無理やりエスティアを選んだことにされたことをエスティアも知ってるはずだ。

なのに、なぜ俺がエスティア選んだことになってるんだ?


……でも”俺はエスティア選んで無い!”とは言えなかった。

言えるわけないだろ!!



実は、トルテラが他の子を選んだことは、(この時点では)エスティアは本当に知らず、トルテラが”誰も選べないから、エスティアを指名した”と聞いていたのだ。

城下町の人たちによって。

※城下町の人たちが犯人です。おっさんも、エスティアさんも悪くないです。


城下町の住民は、エスティアの機嫌が悪くなることをとても恐れていた。

そのために起きてしまった事故だったのだ。


そして、その直後に、服を買うと言ったので、エスティアが勘違いしてしまった。

ちょうど、タイミング的に、そう思える状況になってしまったということだった。


========


……で、やっと着いた。遥々服を買いに来たのだ。

北のマイト候領の首都コラータまで。

いつも行くコロノトの町と比べて人口が3倍も多く、店も品数も豊富なのだ。


「ふっ。通常の3倍と聞くと心が躍ると思わないか?」

「え? 誰に言ってるの? 通常の3倍?」


俺は誰に言っているのだろう?

俺は、何かの物語の説明要員になった気持ちになることが度々ある。


人口はどうでも良いのだ。

ここには、町娘用の普通の服を売ってる店が何件もある。

そう。この世界の町は規模が小さい。

人口1000人でもちょっとした大都市になってしまうのだ。


エスティアが「こういうやつ?」と言って、膨らんだスカートを指さした。


「いや、もっと普通のこういうやつ」と言って、普通の町娘風の服を指す。


エスティアは、俺がテーラの膨らんだスカートが好きなことは知ってたので、膨らんだスカートを買いに来たと思っていたようだが、俺はルルが着ているような、もっと、”ただの街娘”っぽいやつが欲しかったのだ。


「膨らんだやつはかわいいけど、もっと普通のやつが良い。

 そういう服着てるとこを見てみたい」と言った。


すると、エスティアが真っ赤になった。

こんな顔ははじめて見た気が……いや、あるな、引き取ってもらうとき。


何度も無いようなことだ。

何かツボにはまったのだろうか?


----


エスティアは、家を出てから、もう奇麗な服を着ることは無いと思っていた。

着たいとも思っていなかった。人に見てもらうことなど、すっかり頭になかった。

踊りの衣装は、元からああいうものなので、それに従っただけだった。


ところが、トルテラが町娘風の服を着ているところを見てみたいと言ったのだ。

てっきり、服がなくて可哀そうだから、或いは、冒険者服だとトルテラまで貧乏人扱いされるから買うと言ってるのだとばかり思っていたのだ。


”見てみたい”。着てる姿を見たいと言ってるのだ。

よく考えたら、恥ずかしくなってしまった。


----


俺から見ると、エスティアが町娘の恰好をしてると、俺の思う町娘になるのだが、話によると実際の街娘はこんなに上品ではないようだ。


俺がエスティアくらいの娘と話すと、誰かの機嫌が悪くなったりして、かなりまずいのでお年頃の街娘と話す機会がない。

なので、聞いた話になるが、エスティアはかなり上品で、一般的にはもっと下品だという。

エスティアは元々良いとこのお嬢ちゃんだから、そこらの町娘とはやはり違うのだろう。


普通の町娘はもっとアイスに近いのかもしれない。


俺は、冒険者の若い女の子と話す機会は実は結構ある。

というか、人口の増減が少なくて病気や怪我で簡単に人が死ぬ世界だからお婆さんになるまで生き残る人は、そんなに多くない。それに比べると若い子の方が数が多い。

特に冒険者は何だかんだで死亡率が高いので、若い子が多い。


冒険者同士なので、街中でも、いきなり「大きいな」とか言って話しかけてくることもあるし、野営で一緒になることはとても多い。

野営の合流は情報収集的にも暇つぶし的にも、盗賊や野生動物に対する安全性からも、あと薪とかの都合でも合理的だから。


俺っ子はそんなに多くないが、話をすると少なからずアイスっぽい感じはある。


ただ、冒険者は遠慮が無い娘が多いので、だいたい俺がスカウトされる……といっても、お菓子あげるからうちの子にならない?的な話なのだが、うちの女たちは嫌がっている。


俺はエスティア達を娘のように思っているので、食い物につられてホイホイ他の女に付いていくことは無いので問題ないと思うのだが。


正直、食べ物の方にも興味はある。

でも俺は分別の付く立派な大人なのだ!!!


カステラみたいなのがあるというので、ちょっとだけ遊びに行ってみようかななんて思うのだが、冒険者からそんなの貰ったら、食ったんだから責任とれみたいな雰囲気になってしまうと思うのだ。


今ではリーディアがお菓子いっぱい持ってるので、お菓子に釣られることも無いのだが。

よく考えると、リーディアでも、少しは役に立ってるんだなと思った。

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