7-16.神の居ぬ間に(後編)
2日間、兵士を盾で放り投げまくる仕事で荒稼ぎした。
1人あたりは安いものだが、100人くらい投げるとけっこう金額になる。
こんな何の生産性も無いような仕事は好きでは無いのだが、
俺の現金収入は少ないので、正直有り難かった。
この世界には、男の老人向けの仕事は存在しないのだ。
それはそうと、この町で何故か大流行だったカラーパンツだが、兵士たちにも何故か大人気だった。
町に来るパンツ売りの商人から、色付きパンツ買うから、凄い勢いで売れる。
でも、元々そんなに売れるものじゃないので生産量が少ない。
この世界、女ばっかり多いので、そんなにお洒落しない。
女ばっかりだとお洒落なものが売れまくりそうだが、逆に売れない。
特にパンツに色付いてたって、意味無い。色付きパンツ見せる相手が居ないのだ。
なので売れないのが普通だ。
だから売れると供給が追い付かない。
たちまち材料が底をついた。染料が足りなくなってしまったのだ。
生産の都合で、材料が1年経たないと手に入らないとかで、凄い高級品になった。
ある日、民家から色付きパンツが盗まれたとかで騒ぎが起きた。
”色付きパンツが盗まれると神が怒るに違いない”とか噂になってて、やっぱ俺は色パンの神様なのかよ!と思うと、気力が萎えてきた。
俺が萎えてると、町の人が騒ぎ出して、エスティアが怒ってないのを確認すると、パンツの件で神が怒っているので、是非とも踊りをと言う。
すると、4軍も乗ってきて、大おっぱい祭りで勝負することになった。
だから、俺は、”パンツが盗まれた件で怒ってなんか、いねぇよ!!!”
お前らが居るせいで、余計な心配してるのに、何で俺がさらに被害受けるんだよ!と思って、俺はとっても悲しくなった。
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軍はとりあえず出てきたもので、俺があんまりにも急に戻ってきたので、帰るタイミングを逸していた。
行軍と俺の帰りが重なってしまって、来たら俺が居た。
他の軍が退かないことには、自軍も退けない。
皆帰りたいのに帰るタイミングか掴めなかっただけなのだ。
結局、何かやらないと収まりがつかない。
だったら、祭りより、放水路作ってくれと言ったら、何故か放水路貫通したら、祭りやって良いことになってた。
なんでそういう解釈になるんだよ!!!
※リーディアさんが決めました。
……………………
4軍の偉い人たちが集まって話をするので、俺もその場で見ていた。
だが、やはり、偉い人はちょっと違うのだ。俺は感心した。
「ここは、その”なんとか祭り”というので勝負しましょう」
「勝ち負けに関係なく、勝負後は、この町の扱いはこれまで通りということで」
「そうですな、我々は軍。本来の勝負は戦いだ。その”なんとか祭り”は形だけ」
「異存はない」
俺は横で聞いてたが、偉い人は誰も”おっぱい祭り”とは言わなかった。
まあ、ふつう、そういう名前付けないし呼びたくないし、案外この人たちはまともな人なのかもしれないと思った。
この世界にもまともな人は存在するのだ。
そうだよ! まともな人はおっぱい祭りとか言い出さない。
マジンガーZに出てくる女ロボのミサイルだって、
なんでおっぱいがミサイルになってるんだっていう突っ込みはあるけど、
アレ、本当は”光子力ミサイル”っていう名前で、作中ではちゃんと
”光子力ミサイル”って呼ばれてるのに、なのに、誰もが必ず
”おっぱいミサイル”って呼んでるだけだ。
偉い人はそんな名前で呼ばない。
※関連話 おっぱいミサイル <<https://book1.adouzi.eu.org/n7742ey/>>
で、この偉い人たちは、兵を安全に戻す責任があるので、テキトーに踊りやって撤退しようと考えていた。
踊りで決めると言うのは、実にばかばかしいが、退くきっかけさえあれば良いのだろう。
戦争と言うのは、命の無駄遣いみたいに思うものだが、実行している人たちは、命の無駄遣いにならないように最大限の努力をしているのだ。
軍人たちは、ちゃんと死なない選択をすることが多い。
なので、”なんで踊りなんだよ!!”とは思いつつも、俺は我慢した。
皆踊りなんかやりたくない。だけど、命を懸けることと比べたら、ずっとマシだ。
皆で被害を分散して負うわけだ。
ところが、各陣営に戻って兵士に伝えると、兵士の方がノリノリで、本国から踊りの達人集めたり、踊りの練習したりで大変なことになった。
工事してから祭りやる理由は、本国から踊りの達人呼び寄せたり、衣装や練習する時間稼ぎだった。
まあ、放水路ができるのは有り難い。
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このあたりはほとんど平地だが、大雨で一帯が水溜まりになってしまう。
それほど遠くないところに大きな川がある。
そこまで水を流したいのだが、微妙に逆勾配になっていてその川と逆方向に水が流れる。
一応、現在も放水路は作ってあるのだが、勾配が逆なので、かなり水位が上がると川に向かって流れていく。なので、ある程度以上は溜まりにくいのだが、水位が下がると、あとは地面に浸み込むか、蒸発するのを待つことになる。
大雨で水たまりになってしまうために、このあたり一帯の利用価値が低く、人があまり住んでいないのだ。それが、一山超えて逆勾配を吸収できる深さの放水路ができれば、一気に改善するかもしれないのだ。
俺がいるところで目撃される巨大な竜のグラディオスが手伝ってくれれば、半日でできそうなレベルなのだが。何しろ噂によれば50mもある巨大な竜らしいから一発だ。
ここは人力での工事が全然捗らない。なにしろ俺が巨人扱いの世界だ。
しかも働いてるのは女。俺から見ると小学生くらいに見える身長しか無いので体重も30kgとか40kgくらいしかない。
体重が大きい方が、土を掘るのに便利だし、非力なので重いものが運べない。
俺も手伝うかと思って手伝うと、見物人が集まってきて作業進まねぇ。
「先代勇者様だ。凄いな」「大きいな」「さすが、人間業ではない」
俺は元々ここでは巨人な上に、接地の魔法みたいなのが使えて、重いものも動かせる。
でも、俺が5人分働いても、俺が働くと見物人で10人の手が止まる。
作業の手伝いはやめた。
怪我人出ても俺は治療禁止。理由はファンが増えるから。
老人は産廃の世界なのに、ある特定の地域では俺にはやたら需要があるのだ。
何の手伝いもできないと思っていると、リーディアが変な背の高い椅子持ってきた。
プールの監視人かよ!って感じの奴だ。
これに座れと言うので、座ると、
「先代勇者がここで見ていてくれるぞ」と言うので、俺はずっと椅子に座っていなければならなくなった。
余計なこと言いやがって。
ただ、作業は捗った。
俺が見てるとすげーよく働くのだ。
正直俺は神より現場監督の方が向いてると思う。誰か、神様代わってくれないだろうか?
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作業は夕方までで、夜は踊りの練習になる。
キャーキャー言われながら各陣営見て回る。
俺のために練習してるのだから見るのは俺の義務なのだそうだ。
見に行かないとリーディアがうるさいのだ。
絶対コイツは何か悪いことを企んでるのだ。
凄い頑張ってやってた。
昼間あんなに働いて、夜は踊りの練習って、ちょっとハードすぎるだろと思う。
踊りの本番は選抜メンバーだと言うので、
「皆がんばってるのに、踊りが選抜だと本番でれない子がかわいそうだ」と言ったら、入場は全員で踊りながらになった。
そして、次の日になったら、兵たちの俺に対する信仰心が凄く上がった気がした。
たぶん、今戦争起こっても、誰も俺に向かってこない気がする。
なんか、何しても、どんどん信仰心が上がる気がして怖い。
俺は、各陣営の兵に引いて欲しいだけなのだ。
余計な信仰心は要らない。
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放水路はとりあえず貫通して水は流れた。
後半になると、土砂搬出用の道具とかも揃ってきて、効率が上がってきたのだ。
こんな、道具自体が重すぎて無駄に人力が消費されていそうな非効率的な道具でも効率が上がるのだ。
あの川よりこっちの方が標高低かったらどうしようかと思っていたが、これなら排水できる。
あとは日々のメンテと、台風の時に俺が様子見に来て死亡フラグが立てば安心だ。
他の子が見に来ると、本当に死亡フラグが立って死んでしまう危険がある。
どうせ俺は、死亡フラグ立っても死なないのだ。
俺は神だから、自分の意志とか、何をするかとか関係ないのだ。
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そして、遂におっぱい祭りの日が来た。
ちなみに、俺は踊りを見るだけでおっぱいは関係ない。
なぜか名前が”おっぱい祭り”のままなのだ。
4陣営の踊りを見て、どれが一番か俺が決める祭りだ。
例の全員の入場を見る。
1陣営30人から50人くらいの間で、なんか、四つ巴のころよりだいぶ人数が増えている。
踊れる女だけでこの人数なので、応援やら手伝いメンバー入れると1陣営あたり100人くらいになってるのではないだろうか?
かなり大きなお祭りになってしまった。
目的は兵が退くことなので、既に目的は達成されているので、このイベント不要なような気がしてならない。
4陣営以外の観客も多い。アイスは、踊りより屋台に夢中だ。
キタキタ踊りとナンナン踊りは、ほぼ同じでウグムの踊り、どちらが本物なのか競い合っている。
競争してるので連度が高い。踊りの本場だけあって、バリエーション豊富。
北が基本の踊り自体に力を入れていて、南は少しわかりやすく色付きって感じだ。
ダルガンイストは乳揺らし系。タンガレアのと似ている。ドンドコ、ドンドコ太鼓鳴らして揺れまくる。ただ、全員参加だと控えめの子とかはあんまり揺れないので、胸に何か入れてて、それが揺れる。
いろいろばらつきが激しく、まだ、他陣営に追いついていない感じだ。
トート森は3人組を幾つか組み合わせたやつ。うまい人が踊るとかなり綺麗だ。
竜に因んだ踊りなのだろう。
確かに洗練されたウグムの踊りはレベル高い。
ダルガンイストはボヨンボヨン。集団で踊る今回のルールにはイマイチ合わないが、個々では良い子がいっぱいいた。
予想外にトート森のが良かった。
たぶん、竜が回るのを再現した踊りなんだと思うが、回る感じが良い。
しかも、踊ってる子かわいいのだ。
キミに決めた!とか言って、モンスターボール投げてお持ち帰りしちゃおうかと思った。
もう、その子にしちゃおうかなと思ったら、エスティアの戦闘力が上がってしまった。
わかります。まだ変身を2回残しているのですね……
エスティアが怖いので、ちょっと自重する。
だが、この祭りは出来レースではない。本当に俺が選んで良い祭りなのだ。
俺はさっきのかわいい子を選んだ。
しかし、却下された。
エスティアの機嫌が悪くなると困るからと、城下町の住人からNGが出たのだ。
俺はトート森のかわいい子選んだのに、エスティアが優勝した。
ウグムの踊りが勝たないと駄目らしい。だったら俺居なくて良くね?
どこが勝っても、結果は変わらず。
翌日には休戦協定。これで一安心だ。
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何故か、今回の騒動に便乗して、ウグムの町は南北で合併した(地理的には分かれているが、2つ合わせて1つの町(旧ウグムの町)という扱いになる)。
南北のマイト候の間で、王子が交換で婿入りしたので良いらしい。
まあ、いい加減な世界だから。
そして、城下町がウグムの町になった。エスティアがウグムの聖人なのだと言う。
これは、ゼンゼン、意味が分からねぇ。
俺は未だに、この世界のルールが良くわからないまま暮らしているのだ。
ルールがわからないと言えば、停戦協定も、すごく形だけって感じだった。
まあ、戦ってないから、それで済むんだろうが。
俺は、あんまり興味無かったが、休戦協定に立ち会った。
見届ける義務があるという。
これはまあ、仕方ないかもしれないと思っている。
元々何もなかったところに俺が住んでたら町ができたらしい。
俺が長老とか、そんな感じだと思うのだ。
規模が小さいので、結構楽だった。読み上げてサインして終わり。
何日以内に、どのくらいの距離以上離れること、とか、非戦闘要員は置いて行っても良いけど、以前と同じ。何も無かったのと同じなので、簡単な内容だった。
「そういや、協定って、破った場合のペナルティーとか決めないんだな」
「誰も破らないわよ」
そういう世界なのか。平和だな。
戦争回避に、踊りで勝負だし、バカげてるけど悪くは無い。
俺は、この世界のそんなところは好きだ。
でも、100%約束が守られることなんて無いとも思う。
契約に入れてなくて良いのだろうか?
「そういや、協定破ったらどうなるんだ?」
「破るわけないでしょ」
「なんでだ?」
「だって、トルテラが同席してたでしょ」
ああ、なるほど。俺が好印象持つように、約束を守る可能性が高いのか。
あまり納得できないが、そんなものなのかもしれないと思う。
「そんなんで効き目あるのか」
これで話は終わりかと思った。ところが、続きがあった。
「近日中にトルテラがまた不在になったら、わからないけれど……」
なんか含みのある言い方で気に入らない。
「俺が不在だと関係あるのか?」
「ああ、やっぱり、その気は無かったんだな」 リナが横から口をはさむ。
「なんだ?」
「だから、約束破ったら、トルテラが罰を下すって意味でしょ」
なんで俺が? そんなこと書かれてなかったはずだ。
「そんなこと書いてなかっただろ」
「あの協定は、はじめから何もなかったことにする。
問題があれば、あなたが裁くことに合意したという内容だ。
だから、あの内容で済むのだ」
リーディアだ。”済むのだ”じゃねぇよ!!
「そんな文言無かったぞ」
「だが、あなたはあの場に居た。あの場に同席したと言うサインも残した」
俺のサインは、同席者としてのものだ。居ただけ。
「俺が裁くなんて、どこにも無いだろ」
「書く必要が無いからだ」
リーディアが変なポーズをとるのでますます萎える。
「そんな契約があってたまるか!!」
俺は、この世界のそんなところが嫌いだ。
俺はそのうち、この世界から離脱してやろうと思った。
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それから何日か後、停戦イベントも終わったので、のんびりと家に居ると知らない人が訪ねてきた。
「あ、おねえさま?」とエスティアが言い、
「アリエス、おめでとう。あなたがウグムの聖人だったのね」とエスティアのお姉さんらしき人が言った。
そういや、エスティアは南のウグムの町出身だったか。
アリエスって、エスティアは通称か。
なんで皆、本名、名乗ってないんだよ。
「リーディア、お前は本名なんだよな」とリーディアに聞く
「ふふふ、よく聞いてくれました」ババッ、「私は……」
う、うぜぇ。めんどくさくなって、聞くのやめた。
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エスティアはウグムの聖人らしい。ただ踊るだけの意味不明の聖人だ。
リーディアは残念勇者、エスティアは謎のただ踊る聖人。
両方俺が選んだことになっている。
勇者は神が選ぶ。
たぶん、俺の周りの女は、恥ずかしい伝説級の勇者なのだ。
もしかしたら、助手は恥ずかしい襟巻き妖怪、ルルは恥ずかしいち〇こ見る女とか謎の聖人なのかもしれない。もう絶望しかない。
ただ、一つ希望が出てきた。
もしかしたら、エスティアとの間に子供が生まれるのかもしれない。
俺がリーディアと子を作って幸せに死ぬと、最初に引き取ってくれたエスティアに申し訳ないと思っていたのだ。
エスティアが有名人になる前に、噂が広まる前に、服を買ってあげなければ。
兵士を盾で投げる簡単な仕事でちょっと稼げたはずだが、資金は足りるのか?
とにかく服を見に行く。俺はそう決めたのだ。




