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7-13.トルテラ捕らわれの身となる(前編)

挿絵(By みてみん)


「うわあああああああああああ」


トルテラが、何かに引っ張られるように飛んでいくのが見えた。

リナはいつものことだと思った。


イグニスは、いつもああやって、トルテラを迷宮に連れて行くのだ。



トルテラに今日の予定を聞こうと思っていたのだが、迷宮へ行ってしまったので何をするか考える。


昔、エスティアと、トルテラとリナの3人で暮らしていた頃は、雑用が多く暇など無かった。

今では手伝いの娘が何人かいるので、家事、雑用の類はあまり無い。


楽するために手伝い雇ってるのも確かだが、別の意味の方が強かった。


雇用は地域への貢献……と言うのはトルテラの言葉だが、人を雇い、付き合いをしておいた方が、トラブルを防ぎやすいのは確かだ。

何しろ、トルテラは存在自体がトラブルの元なのだ。


旅道具の手入れでも……と、宿泊セットの虫干しでもしておくか……などと考えていた。


そこにアイスがやってきた。


「トルテラどこだ?」とアイスが聞くので、

「さっき飛んで行ったのを見た。イグニスと迷宮行ったんじゃない?」とリナが答える。


「そうか?わらわならさっき居間にいたけどな」とアイスが言う。

続けて「トルテラ探してウロウロしてたみたいだから、あのあとトルテラ見つけて連れ去ったのかな」と言った。


また温泉か……と二人は思うとともに、また自慢されるかと思うとイラっとした。

ボス部屋には温泉がある。イグニスはその温泉にトルテラと2人で入ったことを自慢するのだ。

一時期頻繁すぎるので、しばらくは行かないと約束したはずなのに……


「約束破りやがったな」とアイスが言った。

どうしてやろうか、などと相談していると、噂の本人がやってきた。


「トルテラはどこかの?」とイグニスは言う。

いつも通りだ。


「わらわと迷宮行ったみたいだぞ」とアイスは答える。


 ……本人を前にして


「妾ならここにおるぞ」とイグニスが答える。


「そんなの見りゃわかるよ」とアイスが答えた。


話が進まない。

2人はこんな感じなので、そこはスルーしてリナが話をする。


「さっきトルテラが迷宮に行くのを見た」

「どうやって行ったのじゃ?」

「イグニスと行く時と同じように」

すると、イグニスは少し考え込み、その後、なにやら踏ん張る。

「はて?」

踏ん張っては、「はて?」を何度か繰り返した。


しばらく挙動不審……いつも挙動不審ではあるが、いつも以上に挙動不審な行動を繰り返し、そのあと急に騒ぎ出す。


「これは由々しき事態じゃ。本体が造反しおった」と言った。


「はあ?」 リナは意味が分からない。


「しばらく戻らなかった故、妾の本体が勝手にトルテラを呼びおった。

 迷宮に向かおうと思ったが、本体に呼ばれんと妾は飛べぬ」とイグニスが言う。


リナは、何を言ってるのかわからなかった。


「急ぎ迷宮へ向かうのじゃ。性的な意味で食われてしまうのじゃ。早う、早う」


これはわかった。

理由は分からないが、トルテラがイグニスの本体であるディアガルドに攫われたのだ。


大急ぎで準備を進める。



まずは状況を再度確認して、方針を決める……が、リナは動揺していた。

この場に居るのは、リナの他には、イグニスとアイス。それにルル。

ルルはまともだが、留守番役で救出に関しては役に立たないし、イグニスとアイスは話し合いがまったくできないタイプの人たちだ。


それ以前に、イグニスは人ですらない。


エスティアとテーラは外に出ていて連絡がつかなかった。

手伝いの娘たちに声をかけて探してもらっている。


すると、リーディアがやってきた。

リーディアは日頃は残念だが、こういうときには役に立つ。

凄く心強く感じ、珍しく居てくれて良かったと思った。


「トルテラが迷宮に閉じ込められた可能性が高い」そう伝えると、少し考えて「2頭引き2台」と従者に指示を出す。

従者はささっと姿を消す。相変わらず動きが速い。


※いつでも(自称)妻軍団を連れて安全な場所まで逃げるための

 準備がしてあります。


時間のかかる馬車の手配を先にしておくと言うことだろう。

迷宮の場所もわかっているようだ。


どの迷宮かも教えてないのに場所が確定している。

いつの間に……と思ったが、話を進める。


「イグニス再度確認だが、トルテラは迷宮に居るんだな」


「それは確実じゃ。妾が迷宮に飛んで行けぬのが何よりの証拠。

 本体が妾を拒んでおるのじゃ。

 妾を除け者にして、トルテラを堪能しておるのじゃ。

 妾が戻らねば、本体がいくら堪能しようとも、

 妾にメリットが無いでは無いか。嘆かわしい」


いつものようにトルテラが飛んで行ったのに、一緒に行くはずのイグニスが残っていることに加え、イグニスのこの騒ぎっぷりと内容からして、トルテラが迷宮に居るのは確からしい。


トルテラなら一人でも戻ってくるのではないかと言う話が出たが、それは難しいとイグニスは言う。

ボス部屋の中を自由に動き回ることはできるが、出入り口が開けられないという。


「最深部の主の間は外からしか開けられぬ。

 本体はこの場所を知らぬ故、妾が居らねば送り返してくることもできぬ」


「イグニスは本体に戻れないのか?」


「ここでは無理じゃ。

 この体が失われれば勝手に戻るが、この体を失っては

 今後、お主等から妾の夫を守れぬではないか」


夫の部分はスルーした。

イグニスの場合、”見張れないなら連れ去る”をやりそうだから。


「本体と戦闘になる可能性は?」

と聞くと、イグニスは

「いきなり戦闘にはならぬ」と言い切った。


「お主らの力は妾の本体にとって脅威にはならない故。

 対処する必要など無いであろう。

 妾が行って交渉する。お主らは外で待っておれば良い」


ディアガルドにとって人間は脅威にならない。確かにその通りだ。


イグニスを行かせると、イグニスと本体とトルテラで閉じこもる可能性は?……と考えたが、今までいつでもできたことを、今さら我々が居る前で、あえてそれをする必要も無さそうだ。


それにディアガルド相手に、力ずくでトルテラ奪還はまず無理だ。

イグニスに説得してもらうしかない。


他に方法が無い。「わかった行こう」とリナが言うが、リーディアははじめからそのつもりだったようで、早くも計画を練っていた。


即出るつもりで馬車は用意させていたが、テーラとエスティアと連絡が取れていない。

イグニスが騒ぐ割には、ディアガルドは迷宮にトルテラを呼び寄せただけで、それ以上のことは考えていないことが分かった。

ならば、準備を整えてから出発した方が良い。リーディアはそう判断した。


テーラとエスティアは夕方前には戻ってきた。

薬の材料になる薬草を探しに行っていたのだ。

話を聞いて仰天していたが、急ぎ準備を進める。


必要な道具が1日で揃うはずも無く、あるものをかき集め、最低限必要なものに絞る。

トルテラが攫われたので、新鮮な超絶プラシーボ薬が無いのが痛い。

あれさえあれば、たいがいの怪我は治るのに……

超絶プラシーボ薬は鮮度が命なので、トルテラが持っている物が一番強力なのだ。


========


トルテラが攫われたことが知られるとまずいため、拠点から馬車で出ず、少し離れたところで馬車に乗る。

リーディアの用意した馬車で進み、馬車で進め無くなったら、そこから迷宮までは徒歩で進む。

迷宮前で1泊してから突入する予定だ。


それにしても、自称人間50歳という迷宮の主と共に、その迷宮を攻略する羽目になるとは……とリナは思った。


馬車が進めなくなると、リーディアの従者が手配していたロバに荷物を積み、歩きで迷宮を目指す。

ロバ一頭分だけでも、持てる荷物に多少は余裕ができるので助かった。

急な予定でも離れた場所のロバが手配できたことを考えると、リーディアには配下の者、或いは協力者が数多く居るのだろうとリナは思った。



「歩くと大変じゃのう」と歩き慣れないイグニスが言う。

※実は”人間はこんな速度でしか歩けないから大変だ”と言っています


「まだ2日目だぞ」とアイスが答えると、「いつもならぴゅーっとひと飛びなのじゃが」とイグニスがうるさい。


今回は休みも入れずに進むことになるので、どんどん疲れが溜まる。

イグニスはうんざりした様子だったが、ちゃんとペースにはついてきた。


夜幕営になるとエスティアは心配になってきた。

「だいじょうぶだよ。トルテラは」とテーラが言う。

「うん」エスティアが頷く。


テーラには特別な相手が生きていることを感じる能力がある。

実際には消えたことを確認したことが無いので、本当に感じてるかはわからないのだが、

テーラにはある程度自信があるようだ。


エスティアは思った。


トルテラはよく死にそうになるが、こうやって助けに行くのははじめてだ……と。


エスティアが「トルテラを助けに行くなんて、はじめてだね」と言うと

「はじめに拾っ……行き倒れたの助けたことならあるけどな」とリナが言った。


「助けないと」

今までトルテラがうっかり恋して死なないように頑張ってきたのに、竜に取られるなんてと思った。


「守るって約束したからな」とリナは言う。


そこに元残念騎士のリーディアが話に割り込む。

「無論だ。なぜなら、私は勇者にしてトルテラの騎士リーディアだからだ」

とか言いながら、変な決めポーズをした。


”ああ、もうなんかいろいろ台無しだ”


エスティアたちはやる気が萎えていくのを感じた……


リーディアの従者は、目を潤ませ、興奮して凄いことになっていた。

うわー、この娘、こういうのが好きなんだ……と皆の従者に対する評価が急降下した夜だった。

リーディアの評価は変わらなかった。

元からこういうウザキャラだとわかっていたからだ。




迷宮入りの前に1日休みを取った。

リーディアの従者はロバの世話と荷物の見張りで残る。

明日の夜までに誰も戻らなかったら1人でダルガンイストまで戻ることになっている。


迷宮には妙な生き物が出る。

とはいえ、トルテラは居ないものの、元残念騎士の現勇者リーディアがいる。

トルテラは大物には滅法強いが、並の敵は特別得意というわけではない。

リーディアは小物から大物まで満遍なく行ける。

残りのメンバーもそれなり強い。

テーラは戦闘は得意ではないが、治療の魔法が強い。

この迷宮の敵は問題なかった。


治療の魔法は治りが速くなる程度で、すぐに治ったりはしないのだが、テーラの治療はちょっとした怪我なら次の日には治ってると言うくらい効果が強い。

それに鮮度が落ちて効果が下がっているとはいえ超絶プラシーボ薬もある。


……が、イグニスはまったく何もしない。

イグニスは「この体で戦うのは面倒なのじゃ」と言った。


皆の気持ちが1つになった。


原因を作ったのはお前だろうが!

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