7-7.恥ずかしがり屋のトイレの神様
拠点とダルガンイストと、拠点とトート森のトロットの町を結ぶ定期便ができた。
通称”勇者特急”。なんか、どこかで聞いたような名だ。
俺の世界では、特急と言うとデフォルトが鉄道だったが、ここには鉄道は無いので、馬車だ。
馬車の速度が速いわけではないのだが、停車駅が少ないから速い的な感じで、結果的に速く着く。
運行間隔だが、この星には、月……つまり、衛星は有るのだが、すごく小さくて、わかりやすい月の満ち欠けが無いので、月の単位がない。
月も満ち欠けが無いと、月の単位は存在しないのだ。
まあ、当然ではあるが。
地球みたいに、あんなでっかい月を持ってる方が特別だ。
地球の月は、惑星本体のサイズに対して、極端に巨大で軌道も近い衛星だ。
見上げれば、他の星とは明らかに異なる、一目でわかる巨大天体だ。
惑星本体である地球にも、潮の満ち引きなど、巨大な影響を与えている。
ここの月は“星にしちゃ、少しでかいかな“と思うくらい。
ただ、見える大きさの割には、あまり明るくない。
暗い金星って感じの見え方だ。気にして見ないとわからない。
なので、そんなものに注目した時間の単位も無い。
遠目は星に対しては効きが悪い気がする。
地球のように月の満ち欠けがあんなにはっきり見える星は滅多に無いはずだ。
誰かが故意に配置しないと、ああはならない。
日数の刻みは、指の数に合わせて、5日、10日の次は20日、50日という単位になることが多いが、この定期便は、俺的には1月、つまり30日間隔で来て次の日帰るようになっていた。
俺が乗ると、往復して戻ってくる。そして帰って行くので、便が増える。
乗らなければ30日ごとだ。
ダルガンイストは、まあ、リーディアの件で、わざわざ仲良しアピールが必要だからってことで、定期便はわかるんだが、トート森は単に張り合っているだけなのか。
なぜそんなものを準備してくれたのかがよくわからない。
しかも、行先は首都でもなく、その少し手前のトロットの町という中途半端さ。
意味不明だ。
俺はなるべく頻繁に、トロットで、“家の周りを回るだけの、簡単なお仕事“をしに行かないといけないので、あると便利ではある。
トロットは、沼地の拠点から歩きで行くにはものすごく遠い。
近頃はトート森に俺が行かないと、”神が居なくなった”と言って騒ぐ。
俺は“大鎧の遣いの竜“じゃねーのかよ! いつ神になったんだよ!
俺は放っておくと、どんどん神様になるのだ。意味が分からん。
トート森での拠点となる、オリアン神殿跡地の井戸も聖なる井戸になった。
元々水は澄んでいたのに、最近聖なる井戸になった。
意味が分からん。
俺は少し前まで、産廃みたいな扱いを受けていたのだ。
急に神様扱いされても、素直に受け入れる気にはなれない。
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定期便まで走るようになったし、拠点にちゃんとした家を建てることにした。
もう隠れる必要は無いので、トート森のオリアン神殿跡地に戻っても良いのだが、トート森に戻ると、ダルガンイスト側が怒るかもしれない。
なにかあると面倒なので、トート森ともダルガンイストとも距離のあるここは都合が良かった。
巨人標本のときの金貨がかなりあるので、思い切って家を建てることにしたのだ。
今まで住んでて、ぜんぜん気付かなかったが、神殿跡地に俺が居れば、そこはキラキラゾーンになるのだ。
ディアガルドのボス部屋見てて気付いたのだ。
神殿跡地があれば、同じことが起きる。
神殿跡地にある拠点でも、迷宮と同じことが起きた。
汚物がキラキラして消えるのだ。
俺はいつも、人間じゃないっぽいことが嫌だったのだが、竜っぽくて便利なことがあったのだ。
俺は、皆と住む拠点を作るなら、キラキラゾーンみたいなのがあると良いな……とずっと思っていたのだ。
トイレ的な意味で。
非常に切実な問題なのだ、俺的に。
非常に切実な問題なのだ、俺的に!!
※大事なことなので2度言いました
俺は、若い女の子、しかもファンタジー世界の住人は、う〇こしない派だ。
そんなものは存在しない。それが俺の正義だ。
キラキラゾーンに俺が居ればトイレは清潔に保たれるのだ。
俺のキラキラ効果範囲は半径10mくらいだ。
俺用のトイレに行くと、俺以外用のトイレも浄化される距離に配置する。
どう考えても、こんなの人間の仕業じゃない。
こんなトイレを人に見られたら大変なので、もう少し離れたところに、普通のトイレをダミーで設置する。
ここまでは、キラキラゾーンが届かないので、自動で奇麗になったりはしない。
こうしておけば、キラキラの機密も守られる。
「すげー、トイレすげー」
アイスが大喜びだ。
「神というのは凄いものだな」
「ほんと、神様みたい」
なんか、これで神様言われると凹む。
この世界では、う〇こ消えると神様なのか。
だから水洗トイレの話をすると神の国になるのか。
理屈は分からんが、俺はディアガルドと同じように、キラキラができる。
これは便利だ。
でも、それで神様言われるのは嫌なんだよ!!!
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今の拠点は、しばらく住めれば良いと思って作ったもので、急造の”隙間風が入る掘立小屋”だが、結局ここにずっと住んでるので、家を建てることにした。
今のところ、収入はけっこうある。
主食の大芋は、トート森でしか大きくならないと聞いていたが、俺が神殿跡地に住めば、その周辺では迷惑なほどよく育つ。
財産の大部分を使っても、今後すぐに困窮する可能性は低い。
このくらいの金があれば、皆が寝られる程度の普通の家は十分建てられる……と思って、家を建てたのだが、どう考えても資材の量がおかしい。職人も多すぎる。
……とは思っていたが、それにしても、予定よりはるかに大きな家が建った。
なんか、勝手に援助が出て、家というより屋敷って感じだ。
しかも、援助の陣営が分かれてるので、ダルガノード側提供部分と、トート森側提供部分と自前の真ん中という3ブロックに分かれてると言う微妙な仕様。
ダルガノード側はレンガ、トート森側はご神木みたいな太い木出してきて、無節操な家になった。
もちろん、トート森側は俺の出入り口と人間の出入り口は別になっている。
すげー不便だが、俺はちゃんと俺用の出入り口を使っている。
これ、たぶん何か意味があって、こうなってると思うのだ。
無節操に建てられたので、部屋の使われ方も意味不明で、何故か一番広い部屋にシングルのベッドが大量に並ぶと言う不自然な配置になった。病院かよと思うような風景になった。
これなら俺に何かあっても誰かが気付くし、抜け駆けが無いということでこうなった。
女たちにとっては、それは公平なのかもしれない。
だが、相変わらず俺に自由は無いんだなと思った。
一応狭い部屋を作ってもらい、寝る時間までは、そこで自由にしてて良いことになったのだが、寝転がることもできない。
しかも、下が開いてて足が見える。俺は罪人かよ!と思った。
部屋は余っているので、風呂を作ろうとしたら、やめた方が良いと言われた。
余程の散財と思われ、変な噂が立つと言うのだ。水ガンガン流せる場所だけ確保してもらった。
ただ、体洗うのに十分な水量を得るには、井戸を深くする必要があった。
井戸を更に深くした。周りが沼地なので水はすぐに出る。
ところが、ここは高台なので水位が低くて、水汲みがけっこう大変なのだ。
ポンプの作り方とか、知ってればよかったんだが。
「この部屋はトルテラ禁止」
俺の禁止部屋もあるらしい。
どうせ隠れて菓子食うか、酒飲んだり悪だくみする部屋だ。
「こっちはお茶会用」、「ここが倉庫」
お茶会用とか言ってる部屋は普通に食堂だ。
食事する回数の方が多いのに、呼び名はお茶会用の部屋。
このあたりは女の子仕様なのだろうか?
「この部屋は、軍関係者との打ち合わせに使わせてもらおう」
リーディア用にはダルガノードがはじめから執務室みたいなのを用意していて、皆の生活にかかわらず、軍関係の仕事をできるようになっていた。
従者用のベッドとかも置いてあるが、だいたい寝室のベッドで寝てる。
リーディアが寝室で寝るときは、従者も寝室で寝ている。
この従者、俺がリーディアと添い寝すると、呪いをかけるから同じ部屋で寝るの嫌なのだ。
呪いをかけるなら、俺にではなくリーディアにかけろよ!!と思うのだ。
まあ、コイツに言っても俺の言うことは聞かないのだが。
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定期便は、人とともに物資を運んでくる。
拠点周辺は家がそんなに多くないので、土地はある。
道の横に集積場が作られた。
と言うか、こっちの道がメインになった。すげー。物の流れが、こうも簡単に変わるのか。
元々隠れ家だったので、街道からは少し離れていた。
ところが、今では、ここを通るルートがデフォルトに変わっているのだ。
俺が若い頃は、街中を大通りが走っていて、通過したいだけなのに混雑して、何て無駄な構造をしているのだろうと思ったが、俺の親が子供の頃は車はあまり走っていなかったので、高速で通過したいだけの人達は多くなかった。
あんな時速100kmで走り続けられるような乗り物ができる以前は、街の近くに道を通す。
町と町を繋ぐ道を作る。
だから、新しい町ができれば、道はそこを経由するように変わっていくのだ。
なるほど。国交省とかの許可なく、人通りが多い方に勝手に道が変わっていくのだ。
俺の世界にも新宿という勝手にできた宿場町があった。あれは街道沿いに勝手にできた宿場町だが、町ができれば道ができるのだ。
ダルガンイストの軍関係者やら御用商人やら、トート森の見張り役やら何やらが住むようになって、高台に神殿跡地、周囲は城下町みたいになってきた。
だが、ここに人があまり住んでいないのには理由がある。
ここは沼地で大雨が降ると一面が大きな水溜りになるのだ。
しかも、場合によっては一日で一帯が水没する。
土地はあるけど、大雨で一帯が水没する話をしたら、堤防の建設合戦が始まってしまった。
まあ確かに堤防も効果はあるだろう。だが、堤防より排水路作らないと、結局水攻めになる。
堤防の内側が安全でも、外側が全部水たまりになってしまう。
通行不能になってしまうのだ。
そのせいで、この一帯はあまり人口が増えないのだ。
死ぬわけではない。ここに住みたがる人がいなかったのだ。
ところが拠点の近くがどんどん開拓されて人が集まってくる。
だいたい工事をしに来たり、荷物を運んでくるのだが、来る人より帰る人の方が少なくて、だんだん溜まり場みたいになっていくのだ。
俺が居ると盗賊が寄ってこないってのはあるが、これだけ人数増えたら俺居なくても自衛できる。
なのに、なんかどんどん、人が増えていくのだ。
別の場所に町作って自警団作れば足りると思うのだが。
そして、なんかお供え物みたいなのが毎日届く。
毒とか気にしなくて大丈夫なのか?とも思うのだが、イグニスが言うには、俺が神殿跡地に居る限りどんな強力な毒も意味がないそうで、味で選んで好きなもの食えば良いと言う。
本当かよ……と思ったが、どうも本当らしい。
あるとき、汗だらだら垂らして、お供え物持ってきたやつがいて、さすがにこれ毒入ってるだろと思って、そいつと半分こにして食べたら、青い顔して倒れたので毒にやられたか?と思ったが、俺は何ともない。
すると、そいつが起き上がって「奇跡だーーー!!!」とか騒いで、なんか俺の信者になった。
毒見させたんだし、普通に殺意抱けよ、それか逃げるとかあるだろ!!と俺は思うのだ。
よりによって、なんで信者になっちゃうんだよ!!!
俺は信者とか欲しくないのだ。
俺はもう一人で失踪したい気持ちでいっぱいになった。
なんで、俺がここに居るだけで、信者がどんどん増えちゃうんだよ!!!
俺は神様とか勇者とかそういうのは興味ないのに、どんどんそういうやつになってしまうのだ。
たぶん、ここで寝て屁こくだけでも、信者が増えるのだ。
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しばらくして、人が増えた割にはトイレで騒ぎが起きない。
人口の割にトイレ事情がまともすぎるな……とは思っていた。
下水を整備する技術のない世界では、清潔に過ごすには人口密度に限界がある。
もちろん、そんなものを整備するのには時間がかかるし、誰が金出すかで揉めるものだ。
リーディアが仕切って、そのあたり何とか解決したのかななどと暢気なことを考えていた。
でも、それにしても、変だとは感じていた。
ここは平地だ。だいたい平地はトイレ事情が酷いことになることが多い。
俺も多少は慣れたが、それにしても変だという違和感は持っていた。
……なんか変だとは思っていたが、キラキラトイレが増えてた。
俺のキラキラ範囲を狙って外側から穴が掘られてて、トイレが増設されてるのだ。
わざわざダミートイレ作って偽装してたのに、ぜんぜん秘密になってねぇ。
キラキラは竜の力なので、特にダルガンイスト側に知られるとまずいかと思っていたが、問題なかった。
水洗トイレと下水の話が中途半端に伝わっていて、キラキラは”神の業”になっていた。
元々清浄化とかは、神様の代表的な能力らしい。
俺の知っている神様は、そういうやつではないのだ。
でも、これで神様にされてしまうとすると……なんだよ、俺トイレの神様かよと思った。
トイレがきれいになると、信仰心が上がるのだ。
でも、その信仰心と反比例で俺の気力は萎えていく。
すると、キラキラゾーン有効半径が小さくなって、トイレがきれいにならなくなってしまうのだ。
すると、トイレで人々が騒がなくなって安心して暮らせるようになった。
俺の力が、思ったより弱かったので、信仰心が下がったのだ。きっと。
でも、しばらくすると、本当の理由がわかった。
騒がなくなったのは、信仰心が下がったのではなく、”ここの神様は恥ずかしがり屋だから”、だそうだ。
俺は、”恥ずかしがり屋のトイレの神様”になってしまった。
俺はもう駄目だと思ってへなっとしていたら、ちゃんとエスティアが発見して介抱してくれた。
エスティアは、実は優しい子なのだ。




