7-5.家に帰るまでが家出です
帰りの馬車で、延々と続くガールズトーク聞いてて思ったが、こいつら仲良い。
テーラとアイスだけだと、会話があんまり無いのだが、そこにリーディアが入ると一気に加速する。
ついこないだまで、リーディアは他の女と無駄話しなかったのだ。
それが急にこれだ。なんなんだ、いったい。
「なんでそんなに詳しいんだよ」と聞いてみると、
「こう見えても、部下には気つかっていたのだ。
日ごろからケアしておかねば、いざと言うとき動かん」
とリーディアが答えた。
「すげー、リーディア指揮官だもんな」
アイスはそう言って感心していたが、いや、絶対嘘だ。
コイツ無駄に菓子に詳しい。
部下のケアとか言ってるが、話の内容が、どれがどううまいとかまずいとか、その日に食わないと味が落ちるとか、うまいけど日持ちがとかそんなんで、絶対コイツ食いまくってると思った。
そんな高い菓子よく食えるな……と思ったら、ちょうど良いタイミングでアイスが「そんな高い菓子よく買えるなー」と言ってくれた。
すると、リーディアは「私は一応貴族だからな」と答えた。
あ? ちょっと待て、
「リーディア、お前、貴族なのか?」
「軍ではそれなりの立場だったからな。
貴族でないとなれないポストというのがあるのだ」とリーディアが答えた。
なんだよ、貴族って、そんなの初耳だぞ。
「すげー、リーディア貴族だったのかよ。
じゃあ美味い菓子いっぱい知ってるのも納得だよな」
それはともかく、だったら金に関しては納得だ。
たぶん自分の領地からの税収があるのだろう……と思った。
……が、だったら、貴族の嬢ちゃんがこんなとこ居てまずくないか?
「貴族が余所の領に定住してて良いのか?」と言うと、
リーディアは「私は領地持ちではない」と言った。
さらに、「もともと平民だからな。世襲できる身分は持っていない」と付け足した。
だからって、貴族だったら自分が所属する国に住んで、国のために働かないとまずいだろうと思うのだが、あんまり気にしてる様子がない。
それに、領地も無いなら貴族だからって、金持ってないかもしれないと思ったので
「領地無いのに金入ってくるのか?」と聞くと、
「貴族としては額は少ないが、領地無しには交際費が出る」と返ってきた。
なるほど。交際費という名目で金が入ってくるのだそうだ。
リーディアは、勇者になる過程で、手柄あげまくったことになっていて、その領地なしの貴族になったのだそうだ。
ある程度以上の役職には、貴族でないと着けないので、名前だけの貴族にしておこうと言うことらしい。
このいい加減な世界でも、やっぱりそういう制限は存在するのだ。
「交際費って言うなら、いろいろ集まりに参加しないとまずいんじゃないか?」
「無論、集まりには出ねばならん。そのための交際費だ」
「出てるのか?」
「出てない」
「良いのか?」
「構わん。私は、定期的に軍に顔を出せば十分だ。
兵たちが、勇者が自陣営に居ると思う程度で十分な働きだ」
まあ、そうだろうな……とは思う。
名前だけだから、別に貴族らしいことしなくて良いのかと思ったが、本当はパーティーみたいなやつに出ないとダメらしい。
リーディアは、軍を抜けるときに、勲章全部置いてきたので、手柄も無しで貴族じゃなくなっていたのだが、軍と友好回復で貴族に復帰したのだそうだ。
交際費が支給されるので、平民には買えないようなものも余裕で買えるのだそうだ。
交際費って言うから、贅沢に暮らせるようなものじゃないと思ったのだが、庶民の感覚とは別らしい。
「貴族の扱う金の単位はそういうものではない」
「こないだのでかいベッド、あれを用意するのにいくらかかったかわかるか?」
ダルガノードのデカベッドの手配料がびっくりするほど高かった!!そんな金あるなら、拠点に家建ててくれよ!!!俺の思考は一瞬で紐モードに切り替わった。いや、そうじゃない。
俺が「そんな下らんことに大金使うな」と言うと、リーディアは「あれより大事なことが他にあるとでも?」と言った。
まあ、確かに大事なことではある。
でも、ちょっと前まで娘にパンツも買ってやれなかった俺から見ると、ものすごい無駄遣いに見えるのだ。
よく考えたら、心配になってきた。
どうしよう。そんなに金かかってるって知らなくて、俺何もお返しできない……借金の方に子供作って俺は幸せに死んでしまうのかもしれないと心配していると、「心配無用。報酬は体で払ってもらった」と言った。いつもの決め顔で。もちろんイラっとした。
それはそうと、あの謎の衰弱は、コイツに何かやられたのか!もしかして、既にコイツ子供出来てたり?と思ったが、「でかくて強い男は良いものだ。寝心地は悪いが元気が出る」とか言ってた。
吸われてたのは元気で、子種とかじゃ無さそうだ。
俺は未だに、この世界の人間が、どうやって子作りするのか知らないのだ。
添い寝すると夫婦という世界なので、多分些細なことで子供ができるのだ。
そういや、貴族……ってことは、戦争起こったときとかまずいんじゃないか?
「例えば、トート森とダルガンイストが戦争して、俺がトート森側に付いたらどうするんだ?」と聞いてみると、「私はあなた個人に忠誠を誓っている。無論、どこの国であろうと付いていく」と答えた。もちろん、ウザい顔で。
その顔やめれば、俺的に評価は上がりまくるんだが。
でも、そうすると、また誰かが暗黒面かバーサクモードに入るから、このままで良いのか。
そんなことをしているうちに、ついに到着してしまった。俺たちの拠点に。
俺が家出してから9日目に戻ってきた。
一応リーディアに10日で帰るって伝えてもらってるから、無断ではない……が、怒ってるだろう。きっと。
凄く緊張する。
「心の準備してるから、ちょっと待ってくれ」
と言って、少し待ってもらおうと思ってるのにリーディアが無視して行ってしまった。
正直、俺は何を言えばいいのか迷っていた。
家出自体は良くない。
だが、俺が家出したのは、あんまりにも理不尽なことされたからで、それに関しては悪いと思ってない。
でも、俺が謝んないとダメなのかな……
と思っていたら、エスティアとリナが出てきた。怒ってる風では無い。
喜んでるんだか困ってるんだか、なんか微妙な表情で雰囲気が変だった。
「おかえりなさい」
「た、ただいま」
なんか、微妙な、お互い良く知らない相手と会話してる、ような感じになってしまった。
ちょっと間が空いてから、エスティアが「トルテラ、ごめんね」と言った。
「私も悪かった」とリナが言う……あれ?どうなってるんだ?
俺はエスティアとリナに、どんな酷い仕打ちを受けるかと思って恐れていたのだが、いきなり謝られた。
予想外の反応に対応できず、「い、いや、黙って出て行って悪かった」と答えた。
それで終わった。
え? これで終わり? 呆然としてる俺を置いて、女たちはぞろぞろと家に入ると、何事もなかったかのようにお茶会を始めた。
リーディアが菓子を大量購入していたのだ。
お茶と言うが、茶ではなく、シナモンかミントか雑草風味の謎の飲み物だ。
コレ、匂いだけで、味は無いのではないか?と思うような味だった。
美味しいのか?
戦いにならずに済んだのは良かったが、俺は何が起こったのかわからなかった。
リーディアはいったい何をしたのだ?
バーサクモードだったはずのエスティアとリナに謝られた。
こいつはいったいどんなマジックを使ったんだ!
大量の菓子を広げて、”これが美味しい”、”こっちも美味しい”……つまり”全部美味い”って言ってるだけだった。
あんまり凝ったもの食べないので、あんまり味に関する表現が無いようだ。
俺だけ干しエビだ。
確かに、甘いものよりこっちが良いとは言ったけど、俺は干しエビだけかよ!!と思ったけど、とりあえず放置しておいた。
大量のお菓子でキャッキャウフフしてる姿を見て、なんでお前らそんな仲良しになってんだよ!!と思う。
でも、よく考えると、この菓子、たぶんこいつらが食えるような値段のものじゃないんだよ。
つまり、あれか?買収ってやつか?
その菓子代は、また俺がリーディアに体で払わされるのか?と思って恐怖したが、5日間連続でエスティアとリナと寝ることになっていた。しかも何故か、密着ゾーンにベッドが設置されてた。
わかった。リーディアの従者だ。
あいつがいろいろ動き回ってあっという間に掌握されたのか。
とりあえず、俺の知らない間になんかいろいろ話があって、菓子とベッドと5連続で寝る権利で話が付いたのだろう。
夜はきつかった。
エスティアもリナも、無言でベッドに寝転がって、なんかもぞもぞしてると思ったら、リナが泣いてた。
「どこにも行かないでって言ったのに」俺はそれを言われるとちょっと弱いのだ。
事故とはいえ、俺が急に消えてしまったことがあって、それからリナは寝るときいつも”どこにも行かないで”と言うのだ。
エスティアも釣られて泣いて、泣く女に挟まれて寝ていると、なんか俺が罪悪感を感じてきてしまった。
で、ベッドはやっぱり真ん中がよく凹む……というか、はじめから少し凹んでる感じで両側から女が重力に引かれて落ちてくる感じになってて、やっぱり当たるのだ。
いや、わざと当ててるだろと思ったが、両側からムニョムニョされてるうちに、動悸が激しくなって気を失ってしまった。
俺が気を失うと、女たちの機嫌が良くなるのだが、3日目には、エスティアにやっぱり意味の分からないお説教された。
「フカフカのベッドでリーディアを布団にして寝たんですって?」
誰だ、余計なこと喋ったの……と思ったら、アイスが横向いた。
くそ、アイスが漏らしやがった。リーディアにちゃんと口止めされてたのに。
このことバレると絶対エスティアが発狂するから話さないようにと言ってあったのに……
「大きいと良いわよね。柔らかくて。トルテラは大きいおっぱい大好きだもんね」
違うんだよ、それは俺が酷い目に遭わされてる図であって、喜んでる図じゃないんだよ!!!と全力で叫んだ。心の中で。
いつもだったら死にたくなるけど、今回は、罪悪感が晴れて、なんか救われた気がした。
リナはまた俺が家出するのを心配してか、止めようとしてくれてるようだが、エスティアの怒りが収まらない。
なんで俺がリーディアに酷い目に遭わされて、さらにエスティアに酷い目に遭わされるんだよ!とだんだん悲しくなってきた。
すると、テーラが近付いてきたので、またどうせトドメに酷いことを言うのだろうと思ったら、エスティアの肩をバンバン叩くと、「トルテラは、小さいおっぱいが好きなの」と言った。
なんか、すごいドヤ顔で。
そして、「だいじょうぶだよ。トルテラは中くらいのおっぱいも好き」と言って、俺の手をエスティアの胸に押し付けた。無駄に柔らけぇ。
なんなんだよ、この無駄に柔らかくて暖かい物体は!と思ったら、一瞬遅れて腕から脳天に電気が走った。
即リミット超えて俺は倒れてしまった。”ぐふぅ”
「もう、しょうがないわねぇ。今回はこれで許してあげる」とか言って、俺が倒れると満足して介抱してくれるのだが、このへんがよくわからない。
倒れないように、倒れる前に優しくしてくれよ!!!と思うのだが、動悸と眩暈で絶対安静な感じで、何も話せなかった。
その日から、エスティアは優しくなった。
珍しく、テーラに助けられた……のかな?




