6-7.勇者の鎧(後編)
一人でダルガンイストまで向かい、なんとかリーディアを勇者鎧の迷宮まで連れてくることができましたが、なぜかトルテラのいつものメンバーが迷宮に来ていました。勇者鎧まで辿り着きますが、今度は何故かリーディアが鎧の受け取りを拒否します。残念なくせに女心……、どちらかと言うと漢心でしょうか、まあいろいろと難しいお年頃のようです。
リーディアに【勇者の鎧】を渡そうとすると、ちょっと困ったことになった。
当のリーディアが乗り気では無かった。
「今の私に、この鎧を受け取る資格は無い」
俺は、”じゃあ何のためにここまで来たんだよ!”と全力で叫んだ。心の中で。
今更そんなこと言われても……とは思ったものの、仕方が無いので、とりあえず持ち帰ろうとしたが、扉が開かない。
人間限定とかそう言うのでもなかった。俺以外でも開けられなかった。
本に書かれていた通り、その場で装備しないと持ち出せないのかもしれない。
俺はすげー困った。
リーディアが、今は受け取りたくないとか言っても、勇者とかフラグっぽいから、そんな危険なものをうちの子にも着せたくない。
軍はリーディア推しなので、うちの子が勇者になると結局暗殺フラグが立つ気がするのだ。
それに、ここで装備しないと持ち出せないって、なんか、後々、使用者変更できない気がするのだ。
仕方ないので、芝居を打ってみることにした。
たぶんリーディアなら釣れるだろう。何しろ残念なやつだから。
わざと仰々しく言い放つ。
「鎧を手に入れるところまでは、うまくいった、
しかし、今、この場で所有者を決めなければならないようだ!
だが、幸いにも、この【勇者の鎧】を装備するに相応しい人物が、
今、ここに居るではないか!
この風格に見合う人物とは誰か?
実力、知名度、そして洗練され威厳を感じさせる佇まい。
まさに、騎士リーディア、君にこそ、この勇者の鎧は相応しい。
この聖なる鎧は、騎士リーディアに託そうと思うが、皆、異存はないな」
もちろん異議無しだ。
意図が伝わったようで、うちの女たちが、ちゃんと声援送ってくれた。
真面目にやってるのは、エスティアとリナだけだが。
だが、リーディアの従者が超大喜びだった。
うちの女の10倍くらい頑張ってくれるので、従者をもっといっぱい連れてくれば良かったと思った。
ちょっと声援不足な気はしたが、そのまま続ける。
「さあ、受け取ってくれ、そして、装備してほしい」と言ってリーディアに勇者の鎧を渡した。
すると、リーディアが何故かまた号泣した。
何かがツボに嵌まってしまったようだ。
普通、泣くにしても、もうちょっとシクシクとかそんな感じで泣くだろ、なんで号泣するかな、と思った。
そこまで偉くなったんだから、持ち上げられる機会なんて、いくらでもあっただろうと思うのだが、この反応を見ると、むしろ逆なのかもしれないとも思える。
いろいろ厳しい世界で生きて来たから、うっかり決壊してしまったのかもしれない。
なんだかちょっと同情してしまった。
しばらく待たされたが、号泣が半泣きくらいまで収まったので、
「早くその勇者の鎧を装備した姿を見せてくれ」と言ってみた。
すると、超笑顔になり、ばばっと騎士隊正式軽装の革鎧を脱ぎ去り、勇者の鎧を着る。
お前は宝塚か!!と突っ込みを入れたいが、ここでは誰も宝塚歌劇団を知らない。
1動作ごとに、とめはねみたいなのがあって、やることが1つ1つなんか芝居がかってるんだよな。
ところが、鎧を装備すると、妙なエフェクトが。
シャキーーーン。気のせいではなく本当に輝いた。
やっぱ、なんか仕掛けがあるんだ!。
「おっ、すげー、光った!」アイスが大喜びだ。こういうのは好きらしい。
勇者鎧まとったら何故か急に凛々しくなった。
リーディアは元々見た目は良いので動かなければ凛々しいのに、動くと凄く残念なのだが、その残念な雰囲気がすっ飛んでしまった。
”あれ? なんか本当に神々しくないか?” この鎧には魅力上げる効果とかあるのだろうか?
やべー、残念騎士が本当にかっこよく見える。
「今ならこの扉が開けるはずだ」とかテキトーなこと言って、開けてもらうと普通に開いた。
やはり誰かが勇者鎧を装備した状態でないと出られないようだ。
任務達成したから、リーディアと別れて、さっさと帰ろう……と思ったら、
残念さんがキリっとした決め顔をして、いきなり片膝ついて、「トルテラさま」と言った。
え? さま? 様? 俺が混乱してると、
「私は、今からあなただけの騎士となる。身も心もすべてあなたのために」とか言い出して、
俺はどういう展開だよ、と思った。
後ろを見ると、エスティアの戦闘力がどんどん上がってスカウターが壊れそうだった。
そして、その横では、テーラが腕組みして涙どわーーーと流していた。
テーラの琴線が、俺にはまったく理解できない。
リナは首を振った。
とりあえず、説得を試みる。
「あ、いや、勇者鎧のことだったら、気にしなくていいよ。
だって、一番相応しいのリーディアだろ。
世間で勇者って言ったら、俺は死んだことになってるし、
俺以外ではリーディアじゃないか。
それに、どう見てもリーディアの体に合わせて作られてるだろ。それ。
元々リーディア用なんだよ」
俺は結構頑張って説得した。
「私は以前、あなたに命を救われた。そしてまた今度は心まで……
これからは私がトルテラさまを守る」
心までって、俺は知らぬ間に心も救ったのか? 駄目だ、ぜんぜん思い当たらない。
……………………
……………………
頑張って説得してみたが、この女、人の話聞かない。
「命に代えても必ず守ってみせる!」
俺を守る必要って、まったく無いと思うのだ。
いや、俺が行動不能になったときは有り得ないことも無いか。
なんか目がキラキラしてて、超必殺技ゲージ満開みたいになっていた。
もう何言っても無駄なので諦めた。
結局付いてくることになった。
そうしないと守れないからって。
勇者鎧なんてトラブルの元だから押し付けたのに、残念騎士ごと付いてきた。
余計トラブルの元が大きくなっただけだった。
勇者鎧は、必ず俺の手元に残るという仕様なら、はじめから俺が着られるようにしといてくれればいいのにと思った。
そういえば、巨人と相打ちで死んだ(ことになった)のって、こいつを庇ったせいなんだよな……
やっぱ、あの時のこと気にしてたのかもしれない。
それにしても、心救われたって何なんだろう?
大泣きと関係あるのだろうか?
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勇者鎧を装備した女が付いてきてしまったので、フラグ管理的にまずくなった。
勇者の伝承では、勇者は神によって勇者にされる。
大鎧の書でも勇者は神が選ぶ。
俺は神にされてしまうかもしれないと思って、とっても気力が萎えていた。
リーディアが謎の演説してるし。
「私は、とても誇らしく思っている。
何故なら、トルテラが私を選びこの鎧を賜ったからだ」
何故かリーディアは、勇者鎧は俺が与えたからと言って喜んでる。
”様付けは辞めれ”と言ってなんとか辞めさせたのだが、どういう訳か忠誠度100みたいになってて、いろいろ面倒な感じになってしまったのだ。
しかもわざわざ、いろいろ説明してくれるのだ。
「私には、勇者なんかどうでも良かった。
だが、あなたが勇者になれと言うなら、喜んでお受けしようと思ったのだ。
だから、そう言ったのだ」
言ったか?
「なに言ってるかよくわからなかったけど、
なんかそれっぽいこと言って泣いてたよ」とアイスが教えてくれた。
大泣きしてるとき、確かに何か言ってたかもしれないけど、気付かんかった。
「そして装備した姿を見せろと言った」
それは確かに言った。
”俺は知らぬ間にフラグ立てまくる駄目な子なんだ”と思うと目の前が真っ暗になって、くてっと倒れる。すると、リーディアが心配そうに駆け寄って、「どうした」と言いながら介抱してくれた。
すると、アイスが、
「トルテラは嬉しすぎると倒れるんだよ。俺のパンツ姿見て倒れるんだぜ」
とか余計なことを言いやがった。
またリーディアが大泣きして、涙だか鼻水だかわからない液体が降ってきた。
気力の萎えた今の俺のシールドでは、謎の液体が防げなかった。
パンツがどうとか言ってて、なんか不吉な予感がした。
もちろん、さらに後で、エスティアにお説教された。
俺は、もう1人でどこか遠くに逃亡したい気持ちでいっぱいだった。
でも、その気持ちはリナにバレてて、逃げる隙がまったく無かった。
なんなんだよ、コイツらの連携は!
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残念騎士が、軍に行ってくるというので、わざわざ報告しなくていいのにと思いつつ、普通に行かせた。
そもそも、リーディアは軍の人間なんだし、偉い人なんだし、俺と一緒に居ちゃまずいだろと、軽く考えていたが、これが大間違いだった。
このせいで、俺は再びひどい目に遭わされることになってしまうのだった。
残念騎士のアホめ!
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リーディアはというと、
「私は、先代勇者より勇者の鎧を賜り、勇者となることにした。
従って、軍は引退し、これより先代勇者と行動を共にする」
リーディアは、騎士隊でわざわざ勇者鎧見せびらかした上に、大演説かまして辞めてきた。
無駄にカリスマ高いので、もう大パニックに陥った。
……らしい。
俺のところに苦情が来た。
俺は猛烈な勢いで、”知るかボケーーーーーーー!”と思った。
普通は引継ぎとか用意してから辞めるだろ、おまえは、社会人失格だ!
てか、お前が軍辞めたら意味無いだろ!
軍から2代目を出したいからリーディアを勇者にしたのに!!!
俺はもう本当にガッカリして、心のエネルギーが枯渇してしまった。
ちゃんとエスティアが介抱してくれたので、俺のエスティアに対する忠誠度がちょっと上がった。
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”先代勇者から勇者の鎧賜った”って、
まあ嘘じゃないが、そういう言い方は人を誤解させることになると思うのだ。
先代勇者は死んでることになってるんだから、時間遡って貰ったことになるじゃないか。
残念騎士は勇者鎧まとっても、結局残念なのだ。
それはともかく、騎士って自己都合で辞めれるのか、と思っていた。
もちろん騎士は、そんなに簡単には辞められなかった。
騎士自体は、割と簡単に辞められるのだが、大隊長待遇(本来はまだ中隊長までしかなれない階級)まで昇進し、副団長。騎士団長内定済み、あとはどのタイミングで昇進させるか、というところまで来ていた。
そこまで昇進が早いのは、実力はもちろんだが、第二の勇者が必要だったことが大きかった。
リーディアは騎士隊の装備一式はもちろん、勲章まで全部置いて去った。
残された装備と手紙が見つかると大騒ぎになった。
リーディアを連れ戻すための捜索隊の準備と、連れ戻せない場合にどうするか会議が開かれていた。
リーディアは、拠点には一緒に住まないという話だったが、寝てる間護衛できないからと、拠点を拡張し、ドアの横にベッドを置いた。
俺は思ったのだ。住む気満々やんけ!!!
それはそうと、リーディアと俺が一緒に居たら、思いっきり軍の討伐対象になりそうな予感がヒシヒシと……だからリーディアが護衛したがってるんだろうけど、むしろ寄せ餌的な効果の方が大きいってことを理解してるんだろうか?こいつは。




