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5-7.勇者(故人)、巨人標本を運ぶ(前編)

テーラとルルの父ガスパールとシートが待ってた森に飛んでくる竜はどうやらトルテラだったようです。

ところが竜は普通見た目も竜なので、トルテラは普通の人間でも普通の竜でもない何かだったようです。

しかも勇者(故人)です。もうわけがわかりませんね。

挿絵(By みてみん)


シートと普通に夫婦みたいにお茶してたら、テーラとルルが帰ってきた。


この世界にも、一応速達郵便がある。

「皆無事です。帰ります」くらいのことしか書いてないような手紙が届いて2日で戻ってきた。


”ガチャ”っといきなりドアが開いたと思ったら、テーラとルルが帰って来た。


テーラは「ただいま」と言った後、俺を見ていきなり抱き着いてきた。

まあ、あんなことがあればな……と思ったら「良かった……(ひげ)」と言った。

「え? (ひげ)?」


シートが、”テーラに怒られるから、髭は剃らない”と言うので、髭をそのまま伸ばしていたのだ。

一番の心配事がそれかよ! と思ったが、そのあとふんふんにおって、「お母さんの匂いがする」と言った。


ええ? そんなのわかるのか!


テーラがシートに近寄ると、シートは「私は何もしてないわよ」と言った。


すると、今度は、シートをふんふんにおって「トルテラの匂いがする」と言った。


やめてー! 俺の匂いとか言わないでくれ……なんか、心のエネルギーがごっそり減った。


「2人で一緒に寝てたでしょ」

「一緒に寝るくらい良いじゃない。少しくらい役得があっても」

「ダメ。トルテラは私のなんだよ」


ちょっと意外だった。テーラって親子喧嘩するのか!

それはそうと、俺はあなたのモノでは無いですよ……と思った。


エスティアは、はじめに俺を引き取ったからだと思うが、俺を自分の所有物だと主張していて、リナは一生面倒見ると約束したから一生面倒見る気でいて、アイスは、とりあえず何でもいいから俺と一緒が良いと言っている。

テーラはいつもだいたい、俺がテーラのパンツが好きだと主張するだけで、”だから何だよ!”と思っていたが、やはり俺を所有してる気でいるのだ。


あれ? もしかして”トルテラは私のなんだよ”は”トルテラは私の(パンツが好き)なんだよ”の略なのか? まあ、とにかく、あれが”所有権の主張である可能性が高い”ことは分かった。


ルルが、なんか順番待ち的な感じで、もじもじしてた。

と思うと、駆け寄って抱き着いてきた。


驚いた。抱き着く感触が、ふわっとしてたのだ。


テーラも、ふわっとしてるのだが、ルルの方がもっとふわっとしてた。

見た目はテーラの方がふわふわしてそうなのに。


そうだよ!! 俺は前から思っていたのだ。


だいたい、この世界の女が抱き着いてくると、車と衝突したんじゃないかと思うほど凄い衝撃を受けるのだ。俺じゃ無ければ、吹っ飛んでるだろうと思うほど激しいタックルをかましてくる。


女の子ってのは、あんな感じで、イノシシか、水牛か、みたいなやつじゃなくて、こんな感じで、柔らかいと思うのだ。


俺は、ルルに対する評価が上がった。


ルルは、こっちを見て、「えへ」とか言った。

よくわからないが、褒めて褒めてアピールなんだろう。


「早かったな。テーラを連れ帰ってきてくれて助かったよ」と言うと、超嬉しそうだった。

基本素直な良い子なのだ。


そのあと「本当だ、お母さんの匂いがする」と言った。


そんなに匂いが移るものなのだろうか?

まあ毎日一緒に寝てたから、匂い移っても不思議はないが。


========


馬車でも使ったのか、ルルがシートの家を出てから20日ほどでテーラとルルが家に戻ってきた。

そしてすぐに、俺と共に怪物運びの旅に出ることになった。


エスティア達は、全員無事で元気だと言う。

巨人は、俺がここに連れてきたから、危険は無いだろうとは思ってたが、安心した。


それはそうと、俺が死んだと聞いて生ける屍みたいになってたキャゼリアのとこの助手が、俺が生きてることを知ったら、復活して棒を振り回してたと言う。何故に棒?


エスティア達は時間差で戻ってくる。

一度に戻ると、俺の生存が知られてしまう可能性があるからだ。

戻ってくると言っても、合流地点は森ではないが。


俺は巨人運びに出てしまうので、再会はだいぶ先になりそうだ。


ルルとテーラの話を聞いていると、俺は知らぬ間に勇者(故人)になっていた。

俺のために国葬してくれるのだと言う。

そして、大きな勇者像まで建てるのだと言う。


今の俺には”カタカム・ズシム”の気持ちがよくわかる。


”カタカム・ズシム”というのは、俺が小学生の頃やってた、青い閃光なんだか疾風なんだか、とりあえず主役メカが、青くて変形合体が変態的でハンドル操作……という、リアルロボット扱いするのは相当難しいものだったのだけれど、主役メカ以外は、かなりリアル度が高いという妙なちぐはぐ設定の(主人公メカ以外は)リアルロボットアニメに出てくる登場人物なのだが、単身突入して自爆攻撃で敵を撃破した結果、大袈裟に葬儀が行われて再登場できなくなってしまったキャラだ。


別に何も悪いことはしていないが、国葬されちゃうと、死んだことにしておきたくなる。

元々俺は、平和に何事もなく死にたい人なのだ。


国葬がどんなものか、俺は見てないが、俺の巨大な肖像画を背景に、偉い人が演説かましたりするのかもしれない。


国葬されて、大きな像建てたのに即生きてました……はいろいろ面倒なので、ほとぼりが冷めるまで、俺は死んだことにしておくことにしてくれたのだ。


なぜなら、今、”生きてます!”と言って名乗り出ると、”死人は死んでろ”的な感じになっても困るし、逆に”実は、勇者生きてました。英雄の凱旋です!”とかこのタイミングで発表されるのも困る。


俺は、尊敬のまなざしで見つめられると、身体が痒くなって死んでしまうかもしれない。


俺は目立つので、生存はいずれバレる。

が、しばらくすれば話題性が下がる。なので、それを待つことにした。


……………………


それはそうと、俺がシートの家にいるという話を聞いて、女達の一番の心配事は、シートが俺に手を出すことだったそうだ。


しかも、どうやら俺は無事だったらしい。


俺は、そもそもベッドに乱入して服がはだけたら、それはもう余裕で手を出したことになると思っていた。

手を出すって、具体的にはどんなのなんだよ!やっぱり気になる。


========


ルルとテーラが戻ってきた日、寝ようと思うと、シートとテーラが俺のベッドに来た。

いつもはエスティア達が居るが、エスティア達は今居ないから、この2人がベッドに来る。


普通だ……と思ったが、「え? 一緒に寝るの? トルテラと?」とルルが言った。

俺は驚いた。ルルは、なんてまともな子なんだ!

そうだよ、コイツらがおかしいんだ。正しいのはルルの方だ。


「俺もおかしいと思ってたんだよ。なんでギュウギュウに詰まって寝る必要があるんだ」と言うと、テーラが「そうだよ。トルテラは私のだから」と言った。


いや、そうじゃない! 俺はテーラのじゃねーから。


「3人なら丁度良いじゃない」とか言いながらシートが俺の横に寝た。反対側は既にテーラが寝てる。


するとルルが「ええ? 寝ていいなら私も一緒に寝たかったのに」と言った。

なんだよ、やっぱ一緒に寝るのかよ!と思った。


シートは「4人くらい行けるわよ」と言ったが「でも、それじゃ私トルテラの隣に寝れない」と言うと、テーラが、「お母さんは、昨日まで、ずっと2人で寝てたんだから、ルルに譲ってあげなよ」と言う。


「しょうがないわね」とか言いながらシートが出て行った。


すると、ルルがしばらくもじもじしてると、テーラが手招きして寝かせた。

ルルは横に居るけど、あんまり寄ってこない。

ルルは「トルテラ、ほんと大きいね」と言った。

コイツいつだか、俺のこと巨人言いやがったしな……と思ったけど何も言わなかった。

もちろん、俺は紳士だからだ。


「私、大人になってから男の人と一緒に寝るのはじめてだ」とルルが言うと、

テーラが「人じゃないよ」と言いながら、ルルの手足を引っ張って俺に乗せる。

そして、「こんな感じ?」と言った。


何故疑問形?


そのあと「こうすると良いんだよ」と言って、ルルの手を引っ張ってぎゅーっとくっついてきた。

ルルが「大きいし温かいし安心感あるね」とか言って喜んでいた。


温かい……って、俺は暑いわ!と思ったけど我慢した。


「髭、明日剃るから」と言ってテーラが指でジョリジョリしてた。


珍しく平和に寝られた。


夜中にシートが増えたのが分かったが、特に悪さしなかったので放っておいた。

朝起きると、テーラが「なんでお母さんが居るの」とか言って怒ってた。


ルルは一晩中ずっとしがみついてたので、疲れないのか? と思ったが、「男の人って凄いね、凄く安眠できる」とか言って喜んでた。


テーラが「人じゃないよ」とか言ってた。わざわざ言わなくていいから。


それはそうと、ルルは俺と寝ると安眠系なのか。

けっこう人によって差があるもんなんだなと思った。


すると、シートが、「そうね元気出るわよね」と言ったが、お前は俺から何か吸い取ってるだろ!と思ったけど言わなかった。

理由はもちろん”俺は紳士だから”だ。


========


遂に、伸びた無精髭を、剃るときが来た。


「テリシア(テーラ)が剃ってるんだ」とルルが言う。

「アイスも剃るよ」とテーラが言う。


「アイスってちょっと大きい子でしょ?」とルルが言うとテーラは頷く。

「そういうことするタイプに見えないけど」とルルが言った。


あんまり考えたこと無かったけど、確かに、アイスは髭剃りみたいな細かいことするタイプには見えないよな。


「アイスは髭が大好きだから、この髭見たら喜ぶよ」とテーラが言う。


「凄いよね。私が出発したときは、髭殆ど無かったんだよ」とルルが言った。

「なんか剃るのもったいないね」「そうだね」とか言いつつ、普通に剃り始めた。


伸びてると剃りにくいのか、けっこう苦戦してた。


ジョリ、ジョリ


ふんふん。におわない

におわない。


ジョリ、ジョリ


ぺた。


くっつかない。

くっつかない。

いつも通りなぜか復唱する。でも、凄く久しぶりに日常が戻ってきた感じがした。


「髭剃ると、顔が変わるね」

「髭が生えたから顔が変わったんだよ」

なんか2人で不思議な会話をしていた。


だいぶタイプが違うように思うのだが、まあ、姉妹と言えば姉妹って感じか?


ルルは髭好きなのでは無くて、男に慣れてないみたいだ。

冒険者は貧乏で男と暮らす機会が無いと聞いていたが、ルルでも慣れてないとしたら、お婿さん貰うまで男と接点無いんだろうと思った。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



この世界では、獲物の素材としての価値は日本に居た頃に近い。

価値は普通に”需要と供給の関係で決まる”ので、相手の強さで価値が変わったりはあまりしない。

そこがゲームとかと違うところだ。

もちろん、捕獲が難しいので価格が上がりやすいとか、旨くは無いけど縁起物で、ある時期だけ高値が付くとかそういうのはある。


ただ、強い獲物ほど高いとかそういうのは、全く無い。

熊なんか、市場価値は、ほぼ無いので持ち帰らない。


稀に報奨金の出る獲物もいる。


国によっては、熊でも報奨金が出るところもあるらしいので、その場合は持ち帰るかもしれないが、トート森周辺では賞金が出なかったので、俺は熊は死体を放置していた。


ところが、あの巨人には小金貨100枚の値が付いた。

大金貨1枚と同じ金額だが、俺的には概ね1000万円相当くらいの金額だ。

※小金貨100枚は、額面では大金貨1枚と同じですが、

 おっさんが入れるような格の店で、大金貨は使えません。

 なので、小金貨をたくさん出すことになります。


条件は、骨でも可、頭と胴、片手片足あれば全額。それ未満なら減額。

貴族同士や大規模商人なら、そういった金額の取引もいくらでもあるのだろうが、誰でも可の内容で小金貨100枚はなかなか無いだろう。


----


テーラが売ることを決め、運ぶことになった。

報奨金はもちろん魅力だが、金額以上に、あれが何なのか調べなければならないという理由があった。


シートは、夫であるガスパールに聞いていたのだ。ああいう怪物がいることを。

ところが、シートは怪物についての知識はあまりなかった。

シートには怪物に興味を持つ者に心当たりがあった、ルルの母親のキャゼリアだ。


そこで、キャゼリアに頼んで標本を買い取ってもらったのだ。

金額の桁が思ってたより1つ多くて驚いたが。


========


ロバと小さな荷車は1日ペラ銀1枚で借りれるが、ダルガンイストまで往復すると2か月以上かかりそうなので、そんな長期間は借りれなかった。


それにサイズ的にも厳しかったので、馬と小柄な荷馬車を、小金貨20枚ほどの金額で買った。


よくそんな金があるなと思ったが、これは、ルルがキャゼリアから持たされたものだった。

荷馬車は3か月程度であれば、買った値段と大差ない金額で売れると言う。


荷物は馬車に積めるので凄く楽なのだが、同行者がルルとテーラなので、冒険(野宿)に関しては、相当苦労した。


ルルは冒険者ではないので、野宿はせず、安宿を使って寝泊まりするので夜営はあまり経験無い。

テーラは、今まで一緒に行動することもあったので冒険の経験はけっこうあると思っていたが、実は冒険面はあまり得意では無かったので、結局、ダルガンイストまでに2か月と金貨2枚も使ってしまった。


俺は今まで宿屋に泊まったことが無かったので、これは新鮮だった。


宿凄い!

まず泊まれない! 宿泊拒否だ。


宿屋は、基本女専用だった。

男が居ると揉めるのでだいたい拒否される。


マントや、荷物のほとんどは、ダルガンイストに置いてきてしまったので、マント被って……も無駄だとは思うが、宿泊拒否されることが多かった。


男OKなところは、まあ、そういう宿で、凄く高い。

※旅で使う宿泊施設ではありません。


街道沿いの大きな町では、普通に男OKな普通の宿もある。

そういう宿は悪くないのだが、結局2泊しかしなかった。


中身見られるとまずいので、荷物を部屋に置くことになる。

巨人の死体と一緒の部屋で寝るのも嫌だし、そもそも、わざわざそんなものを、部屋に持ち込むのも目立つ。

アレは妙なことに腐りもせず、強い臭いが有るわけではないが、俺よりでかい棺桶を部屋に運ぶわけで、目立ちまくる。

まあ、あまりにも大きいので棺桶には見えないのが救いだが。


あまり人の目に着くのはまずいと言うことで、ほとんどはテント生活になった。

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