表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/126

5-4.勇者フラグを押し付けろ

勇者フラグを放置するとトルテラの身近な人間が勇者になってしまう可能性があることに気付きました。そうです、この男は何をしてもすぐフラグが立ちます。だから行動するのです。そうです、人に押し付けるのです!酷い男ですね。

挿絵(By みてみん)


「トルテラ、本当にごめん」「理由はちょっと話せないんだけど、重要なことなんだ」

「ちゃんと見張ってたから。そんなに酷いことされてなかったぞ」


なんか言い訳された。


そして、テーラがそっと手を取り、「理由は話せないけど、とても重要なことなの」と言った、いや、それ既に、アイスが同じこと言ったから、と思ったが言わなかった。

※言わなかった理由はもちろん紳士だからです。


よくわからないが、よほど重要なことなのだろう。

でも、俺の女達への忠誠度は40くらい下がった。


昨晩、俺は、女達に売られて、キャゼリアと助手と一緒に寝させられたのだ。

どのくらいの時間なのかは不明だった。

俺の意識があったのは2、3分だったような気がするが。


リナが言うには、ちゃんと見張ってたから、そんな酷いことされてなかったらしい。

つまり、ちょっと酷いことされてたのだ、きっと。


俺は、とても悲しい気持ちでいっぱいになった。


……………………


昨晩は酷い目に遭った。

おかげで助手さんが、当社比10倍の頑張りで、有難い反面とっても重たいのだ。


目が合うたびに、「うふふ」とか言って笑うのだ。

ごまかしてるのか愛想振りまいてるのか、素でそうなっちゃうだけなのだかは知らないが……

すげー乙女の目って感じだ。


まあ、昨日は迷宮で一瞬だけど、”二人で心中”みたいな命張った場面もあったので、

”この子はある程度報われても良いのかな”と思った。



今日は、勇者装備を重点的に調べなおして、勇者鎧の話をいろいろ教えてもらった。


何冊かの本で、迷宮で()()()()()()()()出たと書かれているそうだ。

書かれてる内容がどこまで正しいかはわからないが、再現しないと出られないかもしれないと思った。


巨人の話は、勇者本とは別に有るようだ。

あの巨人は、いずれ大きな迷宮に攻め込むらしいことがわかった。

巨人は迷宮内で成長する。

ある程度大きくなると、より大きな迷宮を目指すと書かれている。


それは攻め込んでるわけではなく、移住なのではないかと思った。


テンゲス迷宮の”自称竜の分身”さんは、勇者装備を持ってから来いと言っていた。


巨人は結果として、テンゲス迷宮にやってくるから、勇者を呼んでこいってことだろうか?

だったら、”勇者を連れてこい”って言うと思うのだ。

なんで、”勇者装備を取ってから来い”なのだろうか?


巨人と勇者装備は別イベントなのだろうか?


========


出発しようとすると、助手が見送りで、どこまでも付いてくる。泣きながら。


結局、ダルガンイストの検問のところまでついてきて、門を出ても、いつまでもハンカチ振ってた。


絶対町でまた、俺の悪評が広まってしまう予感でいっぱいになった。


でも、この世界だと、女が男を(もてあそ)んで捨てるのが普通で、逆はあんまり無さそうな気がするのだが。まあ、1つはっきりしていることがある。


それが、どんな形であろうとも、立つのはフラグと俺の悪評なのだ。


エスティアの機嫌が凄いことになっていて、また俺はわけのわからない反省会やらされるかと思って、心のエネルギーがどんどん減っていくのを感じた。


========


キャゼリアと助手のところは、落ち着かなくて(くつろ)げなかったので、ストーンサークルで早速おやつ休憩をとる。


すると、また、あの巨人の気配を感じた。


慌てて撤収して、ダルガンイストに逃げる準備をしつつ、遠目で巨人の動きを監視する。


今回は、皆見えてる。


「恐ろしくでかいな」「勇者になるとあれと戦うのか?」「スゲー、でけーどころの騒ぎじゃねーな」

とりあえず、意見は一致した。


この4人は勇者にはならない。あの巨人とは戦わない。

勇者フラグは、全力で折らなければならない。



ここで、良いことをを発見した。


巨人は、ストーンサークルのあたりをウロウロすると、しばらくすると去っていく。

何をしてたのか調べるためにストーンサークルに行くと、遠くでまたやつの気配がした。


俺がストーンサークルに行くと、巨人が来るのだ。


俺が来たら、やつが来た。前もそうだった。


しばらく隠れていると、ストーンサークルをウロウロして去っていく。


そして、俺が来ると……やつが来る。俺がストーンサークルに来るとわかるようだ。



”聖域化”?

俺は、オリアン神殿跡地や玉だけでなく、ここも浄化できるのではないだろうか。

やつは汚染しにくる。俺が白で塗ると、やつは黒を塗りにくる。

ただ、それだけのことなのかもしれない。


だったら、好きなタイミングを選んで、ここに誘導できる。


「巨人は何をしてるの?」とテーラが言う。

テーラは、竜関連には詳しいのだが、巨人には詳しくない。

「確かに、トルテラがストーンサークルに来ると、巨人が何かをしに来るようだ」とリナが、

「俺が来ると聖域化するから、それを壊しに来てるんじゃないかと思う」と答える。


「だから、陣取りみたいになってるのか」とリナが理解してくれた。

こういうのは、陣取りと言えば通じるようだ。


「あの大きいのが、敵じゃないってことはある?」とエスティアが言うので、

「俺、前に迷宮であれの2mくらいのやつと戦ったじゃないか」と答えた。

俺には、あれは敵にしか見えない。


「トルテラも、あれと戦うのは、やめてくれよ」とアイスが言う。

珍しく心配してくれてるのだ。

残念騎士に、俺を、けしかけるようなイケイケのアイスが、あの巨人だけはやめろと言うくらい、あれはやばい。


体重は俺の3倍とか4倍ありそうだ。

こつらとじゃさらに倍近い体重差がある。

まず勝負にならない。


========


いろいろ考えていて思い至ったのだが、もしかしたら、あの巨人は、竜の天敵なのかもしれない。

そして、勇者があの巨人の天敵だとすれば、勇者が必要な意味が出てくる。


体格差だけ考えれば、ボス部屋のボスが、あの程度の巨人に苦戦するとは思えないのだ。


今まで、”迷宮の竜が導く”と言う割に、勇者装備取ってから来いというのかが謎だった。

あの巨人が竜の苦手とするものだったら、納得がいく。


俺は、勇者にはなりたくない派だ。

若い頃ならともかく、この歳になると目立ちたいとか、そういう気持ちはあまり無くなる。

新しいことはやりたくないのだ。勇者って良いこと無いように思うのだ。

もちろん、神にもなりたくないが。


巨人と戦うのが勇者だが、あれは個人が戦って倒すものではないと思う。


俺はエスティア達に計画を話した。


はじめに「あの巨人は危険すぎる。残念騎士に勇者を押し付けて、軍に討伐してもらおう」と言う。

「どうやって?」とエスティアが聞く。


俺がストーンサークルに行けば巨人が現れる。

大軍で待ち伏せして倒してもらう。


「それより、どうやって勇者を押し付けるの?」と再度エスティアが。


「勇者鎧の洞窟に、俺と残念騎士で入る。たぶん、鎧は女用だと思う。

 少なくとも俺サイズではないと思う」と答えると、


「そうか? 勇者がトルテラだったらどうする? トルテラ用のサイズかもしれないだろ。

 あの騎士より、トルテラの方が強いんだぞ」とアイスが言う。


なんか、言ってることが、とてもまともで調子が狂う。


俺が、勇者鎧は俺用じゃないと思う理由は、とても簡単だ。

「俺サイズの伝説級の鎧はトート森に既にあるから……」


皆納得した。


「大鎧信仰のところの大鎧が偽物で、

 本物が勇者鎧の迷宮に有ったら終わりだけどな」と付け足した。

そんなことには、ならないで欲しいが。


「リーディア(残念騎士)をどうやって迷宮に連れて行くんだ?」とリナが聞く。


「普通に交渉しに行く」と答えると、「話通じる?」とテーラが言う。


俺は話が通じない相手だとは思わなかった。

「まあ、敵と言えば、敵同士だけど、

 あのときも砦にちゃんと話通してくれてたし、

 話せば通じない相手ではないと思う」と言うと、


「話通じなかったよ」とアイスが言う。


俺は猛烈な勢いで、お前のせいだ!!と思った。


「あれはアイスが挑発するからだ」と答えると、

「俺挑発なんかしてない」とか言ってた。まったく自覚無いのが恐ろしい。


アイスは、前に、残念騎士リーディアが”ここを通りたければ、私を倒してからにしろ”と言ったのに、アイスはそれに対して”通って良いって言ってるぞ”と言ったのだ。


だから残念騎士リーディアが、話通じなくなってしまっただけなのだ。

勝負後は、ちゃんと話はある程度通じた。

そう言えば、ある程度しか通じなかったな……とは思った。


「交渉に行ったらトルテラ捕まったりしないか?」とアイスが言うが、


「残念騎士はそういうことはしないと思う。

 あれは一騎打ちで勝ちたいタイプだから」と言うと一応納得したようだ。


あの時も、部下の加勢を止めて一騎打ちしたし。


ただ、他の軍関係者がやる可能性はある。

俺一人なら、兵士が束になってかかってきても、逃げるくらいはできると思うが、コイツらが心配だ。

でも、付いてくるんだろうな……エスティアは俺を自分の所有物だと思ってるし。


「なあ、危ないから、俺一人で行きたいんだけど」と言うと、

「そんなの駄目に決まってるでしょ」とエスティアが言う。リナとテーラも頷いた。


「俺、トルテラと一緒がいいよ」

アイスもいつもと同じだ。


コイツらを人質に……というのは残念騎士本人は好まないと思うが、軍人だから命令があれば別だろうしな……などと考えながらも、結局押し切られてしまう。


残念騎士との戦闘に備えて、染め直したまだらの服に着替える。

また血だらけになっても、精神的とか経済的ダメージが少なくて済むように。


……………………


騎士隊の兵舎に行く途中、兵士達が、「アレが例のリーディア様の」とか言ってるのが聞こえた。

やはり、敵認定されてるのだろう。



残念騎士は、俺が来るのを知ってたようで、派手に出迎えられた。


「トルテラ、久しぶりだな。

 私に会いに来てくれるとは、大変嬉しく思うぞ」何故か妙に親しげだ。

俺は、むしろ、険悪な仲だと思ってたのだが。


共闘の為に来たので、都合は良いが、エスティアとリナの戦闘力が上がりすぎて、スカウターが壊れるかと思った。いや、スカウター持って無いけど。

※スカウターは敵の戦闘力を調べる装置です。敵が凄いと自爆する機能が付いています。


今ちらっと嫌な言葉が聞こえた気がした。


兵士が”アレが例のリーディア様の夫”と言ってるのが聞こえたのだ。

しまった、そっちか!!!!


あの一騎打ちは、あれは、やっぱり勝っちゃいけないやつだったんだ!!


俺は、なんですぐフラグ立てちゃうんだよ!と思って、早くも即帰りたい気持ちでいっぱいになった。


(たぶん嫉妬的な意味で)物凄く険悪なムードの中、残念騎士だけは、とても嬉しそうだ。


空気の読めなさにびっくりする。


ただし、結果として良かったようで、なんとかもめずに話し合いの席に着くことができた。

なんだかんだで、統率力はあるようだ。


”なんであんな老いぼれと”とか言って泣き出す兵士も居て凹んだ。

いや、別に俺は嫁を確保しに来たわけじゃないし、残念さんはあんまり俺の好みではない。


女だからなのか、やたら泣く兵士が多い。なんで俺が来ると泣くんだよ!!!!!


俺はコイツ(残念騎士)に、血だらけにされただけで、何も悪いことしてないと思うのだ。

まあ、通っちゃいけないところを通ったのは俺たちなんだけど。

門を通してくれないから悪いのだ。


そんなことより、ここからが重要だ。

残念騎士に「巨人を倒すのを手伝って欲しい」と言うと、

「倒せるなら、こちらとしても歓迎だが、実現可能な手段があるんだろうな」と言う。


あの巨人は俺がストーンサークルに行くと、必ず来ることを話した。

「やつが来たところを、罠と待ち伏せで始末したい」

「なるほど」


「俺は、あいつを誘き出すことはできる。

 倒すには力が足りない。だから力を借りに来た」と言うと、

ニヤリと笑い「そうか。その言葉待っていたぞ」と言った。


なんか、1つ1つの動作が芝居がかってて残念なんだよな……と俺は思うのだが、それがコイツの魅力なのだろう。カリスマってやつだ。

それはそうと、勇者の伝承に、おっさんが巨人退治依頼する話なんかあったか?

なんで、”その言葉待ってた”なのだろう?と不思議に思う。


トルテラ達は、時折、見張りが居ることには気づいていたのだが、それはキャゼリアの手の者だと思っていた。

実際には見張らせていたのはリーディアで、ダルガンイスト入り以前から、トルテラ達がこちらに向かっている情報を掴んでいたのだ。


リーディアがどうしようかと思案していると、トルテラが自分からリーディアに会いに来たのだ。

しかも共闘を申し込みに来た。リーディアは、これは運命だと確信していた。


リーディアは「いつだ? 私は今すぐにでも出発できるよう支度をしてある」と言い出した。

今すぐ行こうみたいな勢いで、びっくりした。


いや、そうじゃなくて、勇者鎧取ってから巨人と戦ってほしいんですけど……と思い、勇者鎧の話をしようとしたのだが、会談は中止になった。


「なんだ、今重要な話をしているところ……」と言いつつも部下の報告を受け、わざわざキリっとした表情を作ってから、「トルテラ、早速出撃する。出たぞ巨人が」と言う。


言った後さわやかな笑顔を浮かべた。なんかイラっとした。


そうじゃねーよ、勇者鎧取ってから、罠仕掛けて準備して倒すんだよ!今じゃねーよと全力で思ったが、タイミングが悪すぎた。


こちらから共闘をお願いしたのだ。出ないわけにも行かない。


========


俺は、あの怪物の気配はわかる。かなり遠くからでもよくわかる。


「必勝法とか有るのか?」と残念騎士リーディアに確認すると、対巨人用の必勝法が有るという。

「もし、包囲陣まで誘導できるなら、きっとあの巨人も始末できる」と言う。


それならばと、その戦法に乗ることにした。


包囲陣まで誘導できれば勝てると聞いていたので、頑張って連れてきた。

コイツは、ある程度近付くと急に襲ってくるので、進む方向はコントロールできることが分かった。


包囲陣は、確かにできていた。かなりの大人数。あれだけいれば、勝てそうだ。

ある程度誘導すると、巨人は、包囲陣に向かっていく。


俺は、目立たないように逃げる。


予め打ち合わせていた通り、後方のダルガンイスト要塞線の少し東寄りのところに行く。

「トルテラ、こっちだ」

うちの女たちと、うまく、合流することができた……と思ったのに大問題が、

これで安心だと思ったのだが、なんと残念小隊(残念小隊が所属する大隊丸ごと)が、こっちにいる。


これじゃ、こいつに手柄を押しつけることができない。

なんて残念なやつ。


コイツらは主力に入ってねーのかよ!


リーディアは、俺と会談中で出遅れたのと、実は、軍内で派閥があって、残念大隊(リーディア達が所属する大隊)に手柄を立てさせたくないやつがいたのだ。


俺は、コイツに押し付けるために頑張ったのに、

これじゃ、何のために、巨人誘導したのかわからないじゃないか!


ところが、手柄の方は問題なかった。

てっきり巨人を討ち取るなり、撃退するなりしたものだと思っていたが、大敗の報が入った。


それはそれで困る。


なんだよ! 勝てるんじゃなかったのかよ!

俺が包囲陣まで誘導して、見事包囲には成功したが、そこで打ち取ることはできず、敗走中だそうだ。


これ以上が無いほど包囲が決まって、必勝の配置で挑んだが、決壊。

バラバラに退避して、まだ一割も帰還していないという。


俺は思った。アレって特別な敵で、勇者とか、そういうカリスマがいないと勝てない敵なんじゃないか?

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ