5-1.再調査テンゲス迷宮
大鎧の書に”迷宮の竜が導く”の文字が追加されたため、またあのボス部屋まで行くことになります。再び冒険の日々が始まります。
俺は、"先代領主さま"の話を思い返しながら、頭の中を整理していた。
転移した竜は、再びこの世界に戻ってこないと言うが、ならばどこに行くのだろう?
”転移する竜”が、”一番大きな竜”を探しに行って、
その結果、現れたのが俺だとすると、俺が”一番大きな竜”なのだろうか?
確かに、俺は、この世界では相当でかいが、竜には見えないよな。
「なにか考え事?」
珍しくテーラから話しかけられた。
「ああ……昨日の話だ。”大鎧の書”に書いてあった”一番大きな竜”を探しに行ったのが、
”転移する竜”らしいんだ」
と言うと、テーラがこちらを見る。
「俺は一番大きな竜なのか?」と聞くと、
テーラは俺を見て言う。
「その大きさなら、普通の竜よりずっと小さい」
まあ、そうだよな……迷宮の奥のやつ、凄くでかかったしな。
「でも」
「でも?」
「転移する竜が探しに行ったのは、トルテラかもしれない」
「俺を?」
俺に、何か”大きな竜”の要素があるのだろうか?
するとテーラは「竜が探しに行って、扉を開ける者が現れた」と言い、続けて
「待ってたんだよ。領主様も、大鎧信仰の人たちも。それに私とお母さんたちも」
と言うと去って行った。
言い逃げだ。
ふと思ったのだが、どうして、シートの家に竜が来ると思うのだろう?
テーラのお父さんは、竜が通るから、あの家に住んでいたと言っていた。
そして、今も、テーラとシートの母娘は竜を待っているようだ。
神殿跡地の上に家を建てたのだろうか?
テーラは教えてくれなさそうだから、次にシートに会ったときにでも聞いてみよう。
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迷宮行きだが、先代領主さまが”竜との約束は絶対”と言うくらいなので、
行かないと言う選択は相当難しい。
それに、金の問題もある。
俺の冒険者服だが、新しいの買わないと、替えのやつ持っておかないと、洗濯で困るのだ。
今、持ってる予備は、残念騎士にやられたときの血の染みで、凄くやばい感じなのだ。
マント着てごまかしたりしてたが、マントは動くと暑いし動きにくい。
迷宮行きは、報酬もでかいが、旅費が大幅増額で、赤字どころか十分黒字になる金額に上がったのだ。
結局、金目当てで行くことになってしまう。貧乏人は悲しいのだ。
冒険者は、冒険が仕事では無い。こんな仕事を選ぶと言う冒険をしなければならない人のことだ。
要するに底辺の意味だ。
新しい仕事着を買うために、危険な仕事を受けなきゃならないという、底辺感に、思わずむせる。
ただ、冒険者服は気に入っている。
単なる作業着なのだが、俺の初期装備の、謎の服は普通の村民向けのもので、強度が低かった。
肌触りは、冒険者服と比べれば、遥かにマシだったが。生地が酷いのだ。
新しい冒険者服は出来上がりに2週間ほどかかった。
俺のは普通サイズの冒険者服の2.5倍も高かった。そう簡単には買い換えられないのだ。
そういう面では、”大鎧の遣いの竜”というよくわからないものに格上げになって良かった。
前の血まみれの冒険者服は、少し濃い色で染めてみたらどうかと言うので、染めに出したら、こんなものマダラになると言われた。
それでもかまわないということで、そのまま染めてもらうと、マダラはあるけどだいぶマシになった……気がする。
安く染められるのは灰色だけ。
「なんか、凄い模様になったな」とリナが言う。
「血の跡に見えなければいいよ」と返す。
他の女達の反応も微妙だが、これは予備の予備だから良いのだ。
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……………………
俺は、迷宮には1人で行くつもりでいた。誰か犠牲者が出たら困る。
それを伝えると、
「なんで、そういう大事なこと、一人で決めちゃうの」
「最後まで面倒見るって言っただろ」
「俺、トルテラと一緒がいいよ」「私も」
俺は特別な人間で……人間であるかすら怪しいくらい丈夫だが、コイツらは別だ。
※よくわかってますね
「あぶないだろ。俺は、死ににくいから、一人の方が安心だから」
散々、俺一人で行くと言ったのだが、皆ついてくるという。
まあ、迷宮の手前までは、一緒に行っても、かまわないのだ。
もしかしたら、これでお別れになってしまうかもしれない。
最後の旅になるかもしれない……
だから、このときを大切にしたい。
そんな気持ちが、伝わったのか、快眠ゾーンが閉鎖され、残った半面に5人で圧縮されて寝る羽目になった。
しかも、寝間着がはだけたりして、俺は”迷宮に行く前に、昇天するかと思ったわボケー!”
新しい冒険者服を待ってる間に、準備はできていたので、次の日出発した。
テントはいつも通りだ。
正直、家より安心できる。
あの迷宮、前に来た時は、いろいろあった。
トップレスのアイスに、”せめてタンクトップで隠せ”と言ったのに隙間から見えてしまってエスティアにお説教されたり、
リナが、俺に言わずに体拭きするから、事故で見えてしまって、エスティアにお説教されたり、
エスティアが体拭いてるのに、俺が覗かないから、無理やり倒れさせられたり……
凄く碌なことが無かった。
だが、俺は、学習したのだ。
”事故は起こるのだ!” あの、気持ち悪い顔のついた機関車も言ってた。
事故はー起こるもーのーさー♪
何故か、薪割りしてると、体を拭く女に囲まれていたり、何故か、俺が来るまで延々着替え続ける女が続出したり、迷宮攻略しに行くのに、ひらひら付いた踊りの衣装持ってきてたりとか、そんなのはよくあることだ。
その程度で、慌てちゃいけない。
”んなわけあるかボケーーーーー!!!”と俺は全力で叫んだ、心の中で。
なんとかうまく躱していたが、慌ててテントに逃げ込んだらテーラが着替え中で、お尻がぷりんと見えてしまった。
不意打ち食らって、よろけつつも「ごめん」と言い、テントから出ると体拭く女が諦めて戻ってくるところだった。
後ろから「おしり見た?」と声がして、さっきのおしりが脳内再生されてしまい動悸がして動けなくなってしまった。
テーラはあんまりボリューム感無いはずなのだが、白くて丸みを帯びて、ぷりんとしていた。
凄く柔らかそうだったのだ。
ぐふっ。俺が、そんなものに耐えられるとでも思ったか!!
事故は起こるもーのーさー♪ ほーらー♪
顔のついた機関車が目玉ぐるぐる回してるシーンが頭に浮かんだ。
(気になる方は"じこはおこるさ"で検索)
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この世界では、50歳近い俺のような男は、死にぞこないの老人、産廃扱いされるのだが、俺はトート森周辺では、産廃扱いされなくなった。
逆に、神様扱いされることはあるが。
このあたりはトート森から少し離れているが、街道沿いの村では、俺は割と有名人だ。
そのため、産廃扱いされることは、あまりないのだが、同行人が増える傾向がある。
家に寄ってけ、とかお誘いも受ける。
ずっと前は、同行人は冒険者が多かったが、今は村人が多い。
ここいらは、山賊も出ないので、村人も冒険者達と同行する必要は無いのだが、興味本位で付いてくるのだ。
菓子が貰えると、女達が同行を引き受けてしまうためだ。
ちなみに、菓子はダルガノードの方が美味い。
ここいらは魚介類が適度に獲れて、泥臭くもないので、俺は魚介類の加工品が欲しいのだが。
村人と話す機会が増えたのだが、前にキノセ村の若年寄の男に聞いていた、この世界の男の話はけっこう偏っていた。
確かに”うちのジョージ”と言えば、うちの旦那と言う意味になる。
旦那と言うより宿六の意味で使うが、割と自慢の意味が入っている。
村人の場合、夫がいる時点で自慢できるレベルなのだ。
男の本名が皆オスカルは嘘だ。
俺が聞いた範囲だと、スコットとかゴードンばっかりだった。
オスカルは多くない。
”うちのジョージ”の由来は、しばらく前、男の名前はほとんどジョージだった時期があったからだそうだ。
今はジョージという本名の男はあまり居ないらしい。
まあ納得できる話ではある。
そういうのは、流行があるだろうから。
この世界では、男を見かける機会は少ないのだが、居るところには居る。
日頃、冒険者との関わりが多いので見かけないが、中層という感じの家では20歳過ぎくらいの女にはだいたい子供が居る。
男もいる。経済力と、子供の数は、中層ではだいたい比例している。
冒険者やその他下層の者たちが、子供産まなくても人口減らないのだから、そりゃ、他の層が子供を産んでいることになる。
それが中層の人たちなのだ。財産なり定職があってそこそこ裕福な層だ。
まあ、その方が子供にとっては幸せだろう。
エスティア達は、何の疑問も感じていないようだが、俺は何とかしてやりたいと思っている。
まあ、迷宮から、無事帰ることができればの話だが。
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そろそろ、迷宮も近くなってきた。
迷宮の竜は、たぶん、用があるのは俺一人だ。
わざわざ、用もないのに危険なところにあいつらを連れて行くことはできない。
夕食のとき、俺は意を決して話してみた。
「迷宮には1人で入ろうと思う。もし出てこなくても、探しにこないでほしい」
「何言ってるの、今までずっと一緒に来たのに」
「一人じゃ、何かあったとき、対処できないだろ」
「俺だって、十分強いだろ。足手まといにはならないよ」
確かにアイスはそこそこ強い。が、俺と比べたら大した強さではない。
その俺が、絶対に勝てない敵だ。女たちを連れていくことはできない。
「相手は竜だ。
俺が手に負えない相手だったら、お前らが束になってかかっても、どうにもならない」
まだゴニョゴニョ言ってたが、反論は止まった。
ところが、そのタイミングでテーラが口を開く。
「大丈夫。竜はあなたに用があるの」
それは言われなくてもわかっている。
いや、だから戦闘にはならないと言っているのか?
「また事故が起こったら、一人じゃ逃げれないだろ」とリナが言った。
おお! そうか、そっちは考えていなかった。
事故と言うのは、女の裸とかそっち系のことだ。
「私が引き取ったんだから、見届ける権利はあります!」とエスティアが主張してたが、それは無いと思う。
「トルテラは、まだ竜に捕まったり、殺されることはないから」とテーラが言う。
”まだ”かよ!! 何か知っていることがあるのだ。
「じゃあ、ボス部屋には入らないから」
なんか、値引き交渉みたいな感じで、徐々に削られ、やはり押し切られてしまう。
「とにかく、何かが起きたら、俺を無視して、とにかく逃げてくれ。
俺は簡単には死なないから、多分何とかなる」
いざという時のために、コイツら逃がすくらいの時間稼ぎができる装備が必要だと思った。
盾は丈夫だが、剣は迷宮内で振り回すと壁に当たって折れてしまう。
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迷宮まで来ると、久しぶりに護衛に会った。
今日は6人で、前に帰りに護衛だか見張りでついてきた3人も居る。
腕の立つのがこの3人らしい。
「さあて、今度は何が起きるかな」
お前はルパン一作目のナレーションか!!
頭の中にアレがこだまする(ルパンザサー ルパンザサー ルパンザサー)
今度は何が起こるか楽しみだという。
俺が死ぬかも、とか、コイツらどうやって守るか心配してるのに、なんてお気楽なやつだ。
なるべく体力に余裕のある状態で挑みたい。
時間的に余裕はあるが、一日休んで翌日突入することにした。
寝るとき、リナが泣いてた。
一番クールに見えるのに、一番よく泣くんだな。
あまりよく寝れなかった。
俺はここで死んでも良いように、迷宮の護衛一人一人に礼を言う。
「今日は遂に、奥の部屋に入る。ダルガノードからの護衛のときは、ありがとう。
何か起きたら、なるべく安全に逃げてくれ」
そして、エスティア達にも念を押す。
「とにかく、ボス部屋に入るのは俺だけ。これだけは絶対に守ってくれ。
そして、何かあったらすぐ逃げる」
みな頷いたので、迷宮に入った。




