4-14.竜の護る国、領主と竜の約束(前)
4章のラストです。
今回はパンツが出ません。竜とか出てきて、もうパンツ見て倒れてる場合じゃありません!
……いえ、次章以降もパンツ見て倒れます。そうです。本作はとても残念なお話なのですから。
領主様に会うために、俺は、”大鎧様の遣いの竜”と言うか、”神殿の主”と言うか、そういうのに合わせて、俺用の偉そうな服を作って貰った。
俺は金持って無いし、俺のような老人が金を得られる仕事は無いから、仕方が無いのだ。
領主様には、こちらから挨拶しに行くことにしたのだ。
とりあえず、いつもの全員でぞろぞろ歩く。
食事は全員分用意するので、”迷宮に行った全員で”行くよう言われたのだ。
エスティア達は、”大鎧なんたらの館”で、変な服を借りてきた。
なので、珍しく、今日は冒険者スタイルではない。
あの服以外の服を、着てるところをはじめて見た。
冒険者スタイルで、お屋敷に入るのは失礼だが、他に着る服持って無いのだ……
そう、女達は皆、”お屋敷に行く服持って無い状態”なのだ。
俺は、うちの女達が、お屋敷に行く服を持ってなくても、かまわないのだが、普段着くらいは持ってて欲しいと思うのだ。
俺の世界では、RPGで布の服とか、超安いものだったが、ここでは違う。
おっさんの小遣いでは買えない、超高価な品だ。
テーラ以外は、仕事着しか持ってないのだ。貧乏人は辛い……
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さすがに、領主さまの屋敷は、でかかった。
応接室みたいなところに通されたが、ずいぶん待たされる。
アイスは「スゲー、家でけぇ、スゲー」と言いつつ、イマイチ興味は薄そうだ。
「中はこんな風になってたのね」「中から見た方が広く見えるな」
俺は、はじめて見たが、アイス以外は、外からは見たことがあったという。
エスティアに「相手は領主様なんだから、余計なこと言わないでよ」とか釘を刺された。
リナは苦笑いだ。
余計なこと言う以前に、俺は、偉い人と会うのは苦手なのだ。
アイスは食事が気になって、仕方が無いようだ。さっきから、良い匂いしてるから。
案内の若い子が来て、俺だけ呼ばれるのかと思ったら、全員呼ばれた。
女達は食事だけで、会うのは俺一人だと思ってたのだ。
ちょっとだけ、謁見の間的な部屋に入る。
俺は、ここの礼儀とかわからないので、酷く困っていたが、特に跪いたりとか、特別なことは必要は無さそうで安心した。
トート森一帯の領主、ルオール候が3代揃っていた。
現領主のルオール候は、偉そうではあるけれど、良いとこの御婦人という感じで、思ったより普通の人っぽかった。
まあ、人口少ない世界だし、こんなもんかと思った。
先代がお年寄り、現領主はキャゼリアと同じくらい。
その娘は20歳くらいだろうか。エスティア達よりは上だ。
挨拶が終わると現領主は去り、先代と姫だけ残った。
挨拶だけで、女達は、話は聞かされないのかと思ったが、そのまま残された。
ちょっと偉そうな従者が「遣い本人と、その遣いが選んだ者たちには聞く義務がある」と言った。
選んだのかな? 俺は一人も選んでないと思うのだが。
「竜の遣いと約束した私が、直々に話しましょう」と先代が言う。
なんで、先代領主の話を聞くのかと思ったら、この人が竜の遣いと約束したからだ。
約束の話を、聞かせてくれるようだ。
「死ぬ前に竜の遣いを探し出すことができて安心しました。竜との約束は絶対ですから」
ずいぶんと丁寧な言い方だが、重みのある言葉だった。
やっぱり領主なんだなと思った。先代だけど。
話の内容は、キャゼリアに聞いた話とだいたい同じだった。
”竜の遣い”というのがいて、約束をした。
竜との約束の内容は、より具体的に教えてもらえた。
簡単にまとめると、こんな感じだった。
まず、遣いを探せ。
遣いを見つけたら、テンゲス迷宮に向かわせろ。
大鎧の書に変化があればそれに従え。
もし、扉を開けるものが居れば、タンガレアのストーンサークルに向かわせろ。
先代領主様に、直接迷宮に行けとは言われなかったが、大鎧の書に”迷宮の竜が導く”というのが出ちゃったから、俺が行かないわけには、いかないようだ。
約束というのは、先代領主と竜の遣いの間で交わされたものだという。
竜は長生きだが、人はすぐ死ぬので1体の竜と人間の家系との約束となり、約束した本人が亡くなっても、代々約束を守る必要がある。
この世界でも、竜は長生きなのだ。
竜は人と話せないので、代理人がやってくる。それが”竜の遣い”だそうだ。
遣いって使いっぱしりのことではないだろうか?
でも、おかしいな、大鎧なんたらの婆さんは、洞窟で待つ竜は確か人と話せると言っていたが?
実際に約束した、先代領主さまの言うことの方が正しいか?
直接話ができないから、”竜の遣い”を使う必要があるとして、俺も竜とは話せないと思うが、竜の代理で何かをやらされるのだろうか?
「竜は本来、竜の世界に住んでいます。
しかし、その気になれば人間を滅ぼせるほどの竜が、こちらに来ることもできるのです。
でもそれは有り得ません。竜にメリットがないからです。
竜は基本、人と関わらないのです。
ところが稀に、人間に関わるものが居ます。
今も”迷宮の竜”が、この世界に残り、この国を守っているのです。
待ち人を探すために。もう100年待っているのです」
竜は侵略してきたりは、しないらしい。
メリットが無いから。
なのに竜が100年待ってる話を俺にするなよ!!!
もちろん、続きは想像通りだ。
「その待ち人が、あなたです」
うわぁ……俺が喜ぶとでも、思ったのだろうか?
「既に確定してるのですか?」と聞いてみたが、答えは無かった。
エスティアとリナは、思いっきり固まってる。
テーラはいつもどおり。まあ、たぶん知ってたのだろう。
アイスは微妙な感じだ。あまり興味無いのだ。
「調べさせてもらいました。
あなたがキノセ村で保護されたとき、この世界で暮らした記憶が無く、
他の世界の記憶を持っていたそうですね。外の世界から連れてこられたのでしょう。
”転移する竜”によって
今までも、竜の遣いの候補は、何人か居ました。
が、森の守り神と呼ばれ、迷宮の扉を開け、そして神殿跡地に住む竜でもある。
そのような者は居ませんでした。トルテラと言うその名も、ここで付けられたと聞いています」
外から来た者には、伝説ではなく仕組みを説明しろと言われているのです。
竜はこの地を守る守り神。くれぐれも頼みますよ」
「はあ」
こんな返事しかできなかった。
”迷宮の竜”は俺を待ってるのだ。
説明が終わって解放された。
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エスティアとリナは、気持ち的には受け入れ難かったが、一方で納得もしていた。
はじめてトルテラを森で見つけたとき、女なのに冒険者やってるのが珍しいとか言い出したり、キューキューとかケーサツとか訳の分からないことを言っていて、この世界のことは何も知らなかった。
魔法も知らず、男が恋すると寿命が減ることさえ知らなかったのだ。
いきなり、どこか別の世界から、やってきたと考えれば辻褄が合う。
もともとトルテラ本人が、そう言っていたのだが、信じることができなかったのだ。
でも、”外の世界から連れてくることができる存在が居る”と言うのであれば話は別だ。
普通の人間ではないことは、わかっていた。今まで見てきたとおりだ。
「ごめん。正直今まで信じてなかった」とリナが言った。
「何を?竜の遣いのことか?」と返すと、
「どこか別の世界から来た話」とリナが答える。
「私も、嘘だと思ってたわけじゃないんだけど」とエスティアが
「テーラは?」と聞いてみる。
「私は信じてた」と答えた。
「俺は、気付いたらトート森に居たんだ。その前は、他の世界で普通に暮らしてた。
なんで来たのかまったくわからなかったけど、用があって呼ばれたみたいだな。
竜が待ってるなら」
テーラが「私も待ってたよ。お母さんも。お父さんも」と言った。
すると、エスティアが、「私だって待ってた。男と一緒に暮らすの夢だったから」と言う、
「そんなんだったら俺だって待ってたよ。それにトルテラ先に拾ったの俺だぞ」とアイスが対抗する。
「トルテラは、どんなとこから来たんだ?」とアイスが訊く。
細かいこと言っても興味無いと思うので、食べ物の話をしておく。
「美味いものがいくらでもあった。食料品売り場だけでこの屋敷より広いような店もいっぱいあったぞ」
が、あまりピンときてないようだったので、言い方を変える。
「1件の店に何万種類も食べ物が売ってるんだよ」と言うと、
「そんなにあっても腐っちゃうよ」と言った。
なるほど、確かにそう思うか。
喜ぶかと思って話したのだが、外してしまった。
「腐りにくく保存する道具があるし、人口が1000倍くらい多いから、そのくらい売れるから問題ないんだよ」と言うと、アイスだけでなく、エスティアもリナも「1000倍って何人だ?」とか言い始めた。
「人が多いと、何でも売ってて何でも買えるけど、どこ行っても人だらけで狭苦しいぞ」
と言うと、なんとなく納得したようだった。




