4-6.ピーチ姫とピーチ太郎
今回も前回に引き続き、いろいろとわかってきます。謎が判明したりさらに増えたりしていきます。
普通の”町民A”みたいな服を貰ったので、本を調べてみることにした。
町中に町民向けの図書館があるのだ。
ただし、入館料が高い。
キャゼリアに貰った紙を見せるとタダで入れた。
関係者特典、関係者特権というやつなのだろう。
書物庫の本は、俺には難しくて、ほとんどテーラに読んでもらったが、自分で読めるようになるために、簡単な本から読んでいく。
俺はこの世界の文字自体は読めるのだが、文章になると、文法が独特で読みにくいのだ。
俺がしばらく前まで住んでいた国でも、文言一致は比較的最近の話で、書き言葉と話し言葉は一致していなかった。俺の国では、教科書も話し言葉も日本語という自国語だったが、世界的に見ると、自国語で勉強できる国の方が少ないのではないかと思う程度だったと思う。
まあ、人口が多い国は中等教育くらいまでは自国語でできるだろうが。
俺の世界では、恐ろしい数の独自言語が存在していて、国ごとに言葉が異なるのが普通だった。
俺の国は日本という国で、外国から持ち込んだ文字を使用していた。
表意文字なので読みが分からなくても意味が分かる。
俺の国の場合は、別の言語を使用する国から文字を持ち込んだので、文言不一致になるのは仕方がないと思うが、ここの文字は表音文字なので元から文言一致しているように思うのだが、妙なことに一致しない。
凄く読みにくい。
庶民向けの物語は、文字の本とは別に絵本のようなものもある。
1ページごとに挿絵が付いた小説なのかもしれない。絵は少し小さい。
これは、文法とか関係なく読める。
5語文くらいしか使われていないので、文法とかほとんど気にせず読める。
表音文字なので、元から言語と互換がある。
文字数が少なければ簡単に読むことが出来る。
ただし内容が飛びすぎ。
悪を倒しました。結婚しました。みたいな感じで1ページで凄く話が飛ぶ。
でも、日本でも、絵本はこんなものだったかもしれない。
大人向けの絵本もある。むしろ、ほとんどが大人向けだ。
たぶん価格の問題だと思うが。
全ての人が流暢に文字を読めるわけでは無いので、内容は大人向きなんだけど絵本。
内容も文章も一気に難易度が上がる。
何冊も読んだが、だいたい夫ができて、子供が生まれて夫が死ぬ。
文字数、ページ数の都合で、内容的に込み入った話が書けないのと、階層的な理由でそうなってしまうのだろう。
この本をギリギリ買って読むことができる階層の人にとって、夫と子供を持つのが夢ということなんだと思った。
内容自体は面白味が無いのに、同じような内容の本が何冊もあるのだ。
そこに絞った需要があると考えるのが自然だ。
絵本は今の俺でも読めることがわかったので、文字の本を読んでいく。
もちろん簡単なのは読める。対象年齢でどんどん話の内容が変わっていく。
少しずつ対象年齢上げていくと、お年頃の女の子向けの話になると、幼馴染の男の子が攫われたりする話になる。
大雑把には、日本の時と男女入れ替わった話になってるだけだった。
攫われるのはピーチ姫ではなくピーチ太郎なのだ。
もっと年齢層を上げると、男女関係の話になって、まだこれは純愛ものって感じで読める。
普通にハッピーエンドとか、逆に、好きな男がどんどん老けて結ばれない話とか。
登場人物少ないし、言いたいこともわかる。
文章は、文法自体がフリーダムな感じで、かなりテキトーに意訳が必要な感じだ。
さらに年齢層が上がって大人向けになると、男女関係が難しくて混乱する話が多くなる。
1人の男に3人の妻が居て、その男が死んだあと次の男にも3人の妻が居てとかそんな話なので、俺は途中で誰が誰だかわからなくなるのだ。
しかも、男がどんどん老けてすぐ死ぬ。
その上、何が言いたいのかもよくわからない。
これのどこがおもしろいのかちっともわからない。
でも、似たような内容のものが何冊もあるんだから人気があるのだろう。
いや、大事なのはそれじゃない。
俺は、【勇者本】を読むために来たのだ。
たぶん、【勇者本】を、俺に読ませるという目的があるのだ。
誰かの意向が。テーラかキャゼリアか、または両方かもしれない。
勇者本は、対象となるターゲットの年齢層も幅広く、種類がかなり多いが、テンプレというのか、元の話が同じなのか話の大筋は大体同じだったりする。
巨人と戦う話になっている。
これが大鎧なのだろうと思ったのだが、俺が見た2.5mくらいありそうなやつだったら、あれは大鎧ではないと思う。
あれは、テンゲス迷宮に居たやつのでかい版だ。
本には、巨人が何者なのかは明記されてない。最強の敵として突如出てくる。
勇者伝承の、新旧が混同されてる感じだ。
おそらく、預言書の内容がこうなっているのではないかと思う。
気になったのは、どの話でも勇者専用の鎧が出てくること。
普通は剣だろ……と思うのだが、この世界では剣より鎧の方が優先なのかもしれない。
この鎧は大鎧の鎧とは別で、勇者が装備する鎧だ。
この鎧は竜の体の一部とかではなく、神の国で作られたものだという。
勇者専用の装備なのに、何故か巨人と戦うために迷宮に鎧を取りに行く。
RPGとかでもそうだが、なんで伝説の勇者の装備をわざわざ迷宮に取りに行くのだろう?
大鎧みたいに屋敷に置いておけばいいのに……と思った。
大雑把な話としては、美人で若い勇者のねーちゃんが勇者の鎧を取りに行って、巨人と戦う話だ。
この話をわざわざ俺に読ませたかったのか?
特にピンとくるものはない。
何か俺が見落としてる要素でもあるのだろうか?
勇者の鎧は取ったらその場で即装備する……のはともかく、装備すると光る……のは単なる演出だよな?
一番の見せ場らしく、多くの勇者本で、この場面で光ってカッコイイポーズ取ってる挿絵がある。
3日通って、だいぶ文章に慣れたので、実用書に目を通すが、内容の薄さにびっくりした。
文章的にも読みにくい。
たぶん、文章が難解な一番の理由は、そもそも、文章の読み書きに慣れている人が少ないからで、著者ごとの揺れが大きいからではないかと思う。
今となっては、だいぶ現実感が無くなってしまったが、俺は元々別の世界に住んでいた。
……という記憶がある。
その記憶にある世界のことを、俺は元の世界……いや、だいたい横浜とか地球とか呼んでいることが多いか? まあ、その世界の日本と言う国に住んでいた。
そこでは物は安く人は高かった。
たった1時間働いた金で本が買えるほどだ。
勝ち組とは言い難い俺でも、本くらい簡単に買えた。
まあ、どんどん電子化されて、紙の本読む機会は減りつつあったが、電子化された本が何冊か買えた。
何万冊読み放題で月額いくらの、月額が払えるほどだ。
それと比べて今いるこの世界では、物は高く人は安い。
本は高く、庶民が気軽に買えるような価格ではなく、物語はまだマシだが、実用書は高い割に絶望的に内容の薄い物が多い。
正直、あまり役に立たないと思った。
人口も少なく、安価な紙や印刷技術の発展していない世界では、本より師弟制の方が効率が良いのだろう。
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再び書物庫に行く。
今回はキャゼリアが居ないが、かわりに担当付けてもらう。
テーラと一緒に。
前回書物庫に行ったときは、大鎧と勇者と竜しか調べなかった。
”覗きの魔法”とか調べるの忘れてしまったのだ。それと、金属についても知りたかったのだ。
金属については前から疑問に思っていた。
この世界で鉄と言われている金属は、俺の知ってる鉄とは別のものに思えるのだ。
血は赤いし、鉄の味がするから、鉄は食べ物にも含まれているのだと思う。
鉄で無く銅だと青い血になる。
焚火やろうそくの火の色は、赤系に見えるので、色と温度の関係はおそらく一致している。
ただ、この世界での鉄の剣や、鉄製品は鉄の臭いしない。
小学校で鉄棒したあと手が鉄臭くなる、あれが無いのだ。
それに、鉄製品濡らして放置しても、赤錆が出ない。
そこらに長期間放置してても赤錆で朽ち果てない。
ここで鉄と呼ばれている金属は、長期放置すると表面が黒くなったり白くなったり錆びるには錆びるようだが、赤さびでボロボロになったりしないのだ。
ステンレスとかなんだろうか?
俺が……俺の世界で俗にステンレスと呼ばれていた金属は”ステンレス鋼”のことで、鋼は金属の種類としては鉄だ。
ステンレス鋼というのは錆びない鉄の意味だ。鉄の合金の一種だ。
略して”ステン”と呼ぶ人がけっこう多いが、それは”錆びない鉄”のうちの”錆び”の部分だけなので、意味としては逆になっている。
なぜわざわざステンレスなどと呼ばれる鉄系の合金があるかと言えば、鉄があまりにも錆びやすいからだ。俺の常識では鉄は錆びる。
この世界の鉄はなぜ錆びないのだろうか?
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金属について調べるが、金属ごとの性質や産地は書いてあるが、精錬方法がまったく書かれていない。
製造方法が不明なのだ。
特に鉄は謎だ。
仮にこの世界の鉄と呼ばれる金属がステンレス鋼だとしても、大量に製鉄されてるはずなのに、国内に製鉄所も無さそうなのだ。
輸入なら輸入で、どこどこから輸入してるとか、話がありそうなものだがまったく見当たらない。
極秘の国家プロジェクトか何かなのだろうか?
その割には鉄製品が多いので非常に違和感が大きい。
錆びない鉄なら常時大量に製鉄しなくても再利用できるからなのだろうか?
魔法の本は有ったが、覗きの魔法っぽいのは無かった。
少なくとも、多くの人が使える魔法に関して書かれた本には出てこない。
あれが魔法では無いとしたら、”覗きスキル”みたいなものがあるのだろうか?
せっかく書物庫の本を閲覧できる機会が得られたのに、結局、予め選別しておいてくれる専門家でもいない限り、目的の情報は手に入らないようだ。
そういう世界なのだ。




