3-9.匂い暴発ひっつき虫事件(後)
撤退は初めから準備済みで、いつでも逃げれるようにはしてあった。
アイスに肩を借り、後ろから誰かに押してもらいつつ撤退するが、体の力が抜け、あまり速度が出ない。
何度も躓きながら離れる。
魔法も使えないので真っ暗で何も見えない。
そうこうするうちに扉の向こうが急に騒がしくなった。
扉の外には自分からは出てこられないようだ。
なんか、ゲームみたいだなと思った。
この世界自体は餓死しそうになるし、水浴びすると凍えるし、けっこうシビアでゲームの中って感じでもないのだが、この迷宮はいかにもゲームっぽい。
なんか違和感がある。
ボス部屋に全裸の女……いったい何だったんだ?
なんとか入口まで、戻ったものの、いつのまにかテーラとアイスが引っ付いて離れない。
なんでひっつき虫になってるんだよと思いつつも、剥がせなくて困っていると、リナがテーラを引っぺがしてくれた。
「まだ、アイスが……」
まだアイスが引っ付いているが、助けを求めても剥がしてくれない……アイスは力が強すぎて引っぺがせないのか……と思いつつ気を失った。
アイスに吸われ過ぎた。
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気付くと、俺だけ放置されてて、アイスは離れてた。
「トルテラ、まだだ、今はまだ離れてて」「ひっ付き虫になる」
皆が居る方に行こうとしたら、また引っ付き虫になるかもしれないから、離れててくれという。
フィーのときに気付いてたけど、ぷよんぷよんの胸とかに反応してしまうと、フィーが引っ付き虫になって離れなくなるのだ。
俺が反応すると、たぶん女にはわかるのだ。
この世界の人間はそういう風にできてるのだと思った。
今回は肩を貸してくれたアイスと後ろから押してくれてたテーラが引っ付き虫になった。
俺が、遠目と暗視で裸の女を見てしまったからだ。
アイスは力尽きるまで放置され、だいぶ弱ってから回収されたのでまだ倒れている。
リナが引っぺがそうとしてたのをテーラが止めたためだ。とにかく離れろと。
アイスは凄く幸せそうな表情で倒れている。
フィーは元から引っ付いて離れなかったが、ここに居る4人の女は、今までそんなことは無かった。あれはフィーの趣味とか性癖だとばかり思っていた。
実はリナとエスティアには思い当たることがあった。
「恋の匂いがすると女は離れられないって」とエスティアが言いかけたが、
テーラが、「たぶん違う、それはそういう意味ではないの」という。
テーラはトルテラを逃がすために後ろから押してたら、自分が引っ付き虫になっていたのだ。
引っ付いたら最後、自分からは離れられない。
それで、慌てて、リナを止めたのだ。
アイスを剥がすためにミイラ取りがミイラになってしまうのを恐れて。
その日は念のため、トルテラから離れて過ごした。
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見張り小屋の当番たちは、驚きの光景を目の当たりにしていた。
5人が玉交換のため迷宮入りするので、いつもより人数を大幅に増やして8人で見張りに当たっていた。
迷宮は普通10~15日かけて、少しずつ進んでいく。20日間ほど6人体制を維持できるシフトを組んでいた。
初日は入り口付近の危険生物が外に出てくることがあり、特に危険なので8人待機していたのだ。
今回の5人は、かなりの実力があるという話は事前に聞いていた。
朝、迷宮に入って、夕方前に慌てて出てきたので、危険な生き物に追われているかと思い、助けに入ろうとすると、危ないから近寄るなと言われた。
迎撃の準備をして待つが、迷宮から危険生物が出てくる気配はなかった。
ところが、迷宮からは何も出てこないのに、何故か男にくっついたり離れたり大騒ぎしていて、何をしているのか見当もつかなかった。
誰かが暴れてるわけでは無く、単に倒れてる男に近付けないのだと言う。
もっと驚いたのは、既に交換済みの古い球を持っていたのだ。
1日で行けるはずはないと思い、確認しに行ったが、迷宮内の謎の危険生物は、ほぼ壊滅していた。
前の玉が弱っていたはずなので、危険生物がかなり活性化してたはずだった。
玉の交換は20期(10年)に一度だが、危険生物が増えすぎるとまずいので、年に一度、前半部分の危険生物は減らしておくことになってるのだ。
そのときの生物の数と強さ、大きさで玉の残量が大凡わかるようになっている。前半の弱い敵なら慣れてれば1日で余裕だが、後半はかなり苦戦するはずだ。初挑戦で一日で玉を交換するなど聞いたことも無い。
その上、男にくっついたり離れたり。
いったい、何なんだこの連中は。
1日で交換できた理由には後で判明した。あの老人が、熊殺し、トート森の守り神テラ。
すなわちトルテラだと判明したからだ。ここはトート森から遠く、話がまだ伝わっていなかったのだ。
ここしばらくの間に、トルテラの名はトート森で拾われたテラから、トート森の守り神テラという解釈に変わっていた。
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次の日は、すぐに引っぺがせるように、一番力の弱いテーラが慎重にトルテラに近付いて確認する。大丈夫だった。匂いは残っているが、引っ付き虫になるほどではない。
安心して皆で朝食を食べた。
とりあえず玉は交換したので任務達成だ。
事前に、拾った物はすべてもらって良い、と言われてたので盾はもらって問題ない。
特大サイズの長方形の盾。
大きさの割に軽いが、異様に丈夫。
剣は折れてもこいつはなんともない。
俺はよく、岩とか木とかに剣が当たってしまって、すぐ折ってしまうのだ。
コイツは何度ぶつけても壊れないのだ。
テーラは、コイツを手に入れるために迷宮まで来させたのだろうか?
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帰りに寄った町で噂になっていた。竜が出たのだという。
恐ろしい大きさで、すぐ森に隠れてしまったと言う。
そんな大きなものが、森を通れるわけないと思うのだが。
大鎧は、竜が人間になったそうだし、行く先々で竜とか聞くと、俺が何かフラグを立てまくってる気がしてならないのだ。
もしかして、竜は俺に目撃されるために出てきてるとか?
フラグ回避しまくってる説も有り得るなと思った。
帰りも遠かったが、行くときにどこに水があるかわかったので、そのぶんだいぶ楽だった。
行きは12日かかったが帰りは9日で戻れた。
大鎧なんたらの屋敷まで終了報告のため戻ってきた。
今度は普通の建物の方に案内された。
1日で攻略した話は既に伝わっていて、往復に日数かけすぎだと言われた。
行きよりだいぶマシだと思うのだが、慣れればもっと効率的に移動できるのだろう。
とりあえず交換して戻ってきた方の玉を渡す。
「1日で攻略したと聞いたぞ。無理するでない」と言われた。
そもそも俺は、何日かけて攻略するのが良いかなんてアドバイスは聞いてないし、玉は交換したが奥のボスには手を出していないという話をしたが、ぜんぜん話が噛み合わない。
依頼主が言うには、ボスは俺より大きくて盾と心中したやつだったようだ。
攻略に関しては見張りが伝えることになっていたが、伝える前に攻略が終わってしまったらしい。
入るとき、危なくなる前に戻ってこいとは言ってた気がする。
ボスに関しては、なんかいろいろ納得いってない様子だが玉は本物なので中金貨1枚をゲットした。
日本とは物価のばらつきが大きく比較しにくいが、俺的には中金貨は大雑把に言って100万円くらいの価値だと思っている。
小判て感じの大きさで、厚みもある。金なので凄く重い。
これ、何グラムあるかはわからないが、たぶん、日本で売れば100万円は超えると思う。
これがあれば、パンツどころか、エスティア達に普通の服を買ってあげることもできそうだ。




