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3-8.匂い暴発ひっつき虫事件(前)

はじめての迷宮探索です。やっと、ありがちな展開になってきました。ちょっと安心しますね。でも安心できないのがこのお話の残念なところなのです。

挿絵(By みてみん)


今回長旅してきたのは、依頼された仕事のためだ。


”テンゲス迷宮”という迷宮に入り、封印の球を交換してくると言うのが、今回の依頼内容だ。

ゲームの中のように、迷宮というのがあるのだ。

実際見てみると、洞窟と要塞の合わせ技みたいなものだった。


天然っぽい部分と、人が作った部分が混在している。

元は自然の地形を利用して作られたものなのだろう。


封印の玉には寿命があって10年(20期)ごとに交換するらしい。

新しいのを付けて、古い方を持ち帰るのが仕事だ。

既に古い方の玉がなかったらどうするか聞いたが、新しいのを付けないと古い玉はとれないので問題ないらしい。


やっぱりゲームだと思った。


トート森から、かなり離れてる割には、大鎧信仰の管轄になってるようで、入り口に見張り小屋があって、依頼書見せると通してくれた。


慎重に様子を見ながら進み、危なくなる前に戻るようにと言われた。


見張りキャラは、説明がたどたどしい。正直あんまりうまくない。

そこが人間味を感じた。

あんまりスラスラ説明されると、ゲームの中みたいで嫌なのだ。


それはそうと、狭い小屋に8人も待機してる。

そんなに居るなら、この8人で行けば済む話だと思ったのだが、大鎧様の遣いじゃないとできないらしいから人数の問題じゃないのか。


できないのは、能力的な問題なのか、資格的な問題なのか。


迷宮は地図もあり、回り道しても最短で進むも自由。

なんか、凄い勢いで、試されてる感がある。


今気付いたが、地図にはテンゲスト迷宮と書いてあるように読める。

最後の”ト”は発音しないのか?


相変わらず、名前の発音が難しい。


迷宮内は、涼しくて湿っぽい。普通に洞窟だ。


迷宮の中は、見たことのない生き物が大量にいた。

初めの方はトート森と大差無い強さの敵が襲ってくる程度だったが、ある程度進むとトート森の野生動物とは比較にならないほど強い……と言うか、怪我しても逃げず、死ぬまで繰り返し攻撃してくるような捨て身の攻撃が増えてきた。


弱いのも捨て身だったが、大して気にならなかったのだが、少し強めのが捨て身の攻撃を仕掛けてくるのに違和感を持つ。


こいつらには、途中で逃げるという選択肢はないのか?

迷宮の中では、逃げ隠れできないから逃げないというのもわからなくは無いが、普通負けそうになったら逃げると思うのだ。


?? 妙だ。


俺は気付いたのだが、コイツらは普通の動物ではない。

生に対する執着とか、生活感とか何もないのだ。

そもそも何喰って生きてるんだよと思った。


やっぱり、雑魚倒しまくる迷宮があるなら、レベルとかあるのではないかと思った。

だとしたら、弱い順にメンバーに経験積ませないとまずいような気もした。


けど、面倒なので、俺が盾でバンバン殴って進んだ。どうせ、強い敵と戦う機会はないから。


盾でそのまま殴れば、防御と攻撃が同時にできて便利なのだ。

雑魚にもよく当たるし。

最近は両足が地面に着いてれば、重いものを振り回しても体が振られなくなったのだが、そのかわりに威力が高すぎて盾がすぐ壊れるのだ。


俺が逃した奴は、他のメンバーに駆除される。

ある程度逃がして様子を見る。

俺が倒れても、安全に撤退できるレベルで戻ろうと思ったのだ。


テーラが苦戦中だ。

話して説明したわけでは無いが、俺の意図が伝わっているようで、大きな危険が無い限り、苦戦してても見守るようにしているようだ。


小物相手は、身軽なエスティアとアイスが得意だ。

リナは寄ってくる相手には強いが、装備が重めで動き回ると疲労が激しい。

基本体力温存だ。


飛び道具や、長槍に対しては、盾の効果は大きく、剣同士で接近戦で盾は邪魔なことが多いので、今は背負っている。


テーラは迷宮内でも盾を持ったまま。この盾は、妙なもので、とても軽くて丈夫。

曲がりもしないという謎金属でできている。


オリハルコンとかある世界なのだろうか?

単に、テーラの盾と呼ばれていて、あまり特別扱いされていない不思議な盾だ。


で、その盾を持つテーラはと言うと、守りは固いが、攻撃の方はさっぱりで、なかなかまともに当たらない。

俺的には、怪我さえしなければ問題ないのだが。


「もう! 動き回らないで」


そりゃ、相手は嫌な動きをするわけで、そんなの言っても仕方ないのだが。

それでもなんとか倒したようだ。


エスティア達も、今は一般的な冒険者よりも強いらしい。

俺が来てから強くなったようなので、俺が倒してもパーティー全員に経験値が配られたりするんだろうか?と思った。


危なかったら引き返すつもりではあるが、成功報酬は中金貨1枚。

本物の銀貨すら手にできない庶民には、大きすぎる金額だ。何度か出直してでもクリアしたい。


本物じゃない銀貨というのは偽造品のことではなく、国内で銀貨の代わりに使える高額銅貨のことだ。

報酬が銀貨と書いてあっても、庶民には高額銅貨で支払われる。

銀貨は流通量が少ないのだろう。


しばらくは、進んでは戦い、進んでは戦いという感じだった。


「食い物見当たんないけど、コイツら何食ってんのかな?」とアイスが言う。

アイスでもそんな事気にするのか、と思った。

「共食い」とテーラが言った。

スペースに限りのある迷宮で共食いってのも変だと思って聞くと、だいぶ違った。


コイツら全部を一括りにするとそうなるが、実際は共食いではなく、生態系ができてるようだ。

迷宮からは小さな虫が無限に湧き出る。

それを餌にする小さな生き物がいて、それを食うもっと大きな奴という生態系ができてるのだと言う。

大き目のやつは奥からしか湧かないそうだ。

生態系ができてるはずの割には、底辺側の生き物をあまり見かけないのが不思議だ。

どこかに隠れてるのか?

とにかく、テーラには迷宮の知識があることは分かった。


ある程度進んだら、俺より背の高いやつが1匹だけ出てきたが、盾で殴ったら、そいつは死んだが俺の盾と相打ちになって盾が分解してしまった。

今まではなんとか形を保っていたのに。


さらに奥に進むと、人間の死体がゴロゴロしてて嫌だった。

さっきの背が高いやつにやられたのだろうか?

死人の装備から盾と剣を拾って使わせてもらった。

ただ、俺にはどれも小さすぎる。


迷宮は凄く広く感じたが、行き来してるうちにそんなに大きくないことがわかった。

子供用の迷路とかでも狭くても、けっこう長く感じるしなと思った。


地図にある、玉の取り付け場所まできた。


「あれじゃないか?」とリナが

「なんだよ、もう終わりかよ」とアイスが言った。

敵倒しても金にならないから、長くても嬉しくないんだがと俺は思った。


ゲームとかと違って、この世界では価値の無いものを倒しても、倒しただけではまったく金にならないし、売れもしない。

敵が出ても嬉しくないのだ。


結局、あの背が高いやつより強そうなのは出てこなかった。


玉は新しいのを付けたら、本当に古い方は外れた。

これで任務達成だ。



ただ、ここでちょっと困ったことが起きた。


玉の交換は終わったので、帰ろうとすると、アイスが「扉があるぞ」と言う。

地図は、ここで終わりなのだが、扉があるのだ。


そんなの発見しないで欲しかった。

「開けるな!」

フラグ的に、嫌な予感がするので、俺は帰ろうとしたが、アイスがいきなり扉に近付くので、慌てて止めた。


「何の扉だ?」

アイスは興味津々だ。


エスティアとリナは無言。


テーラが俺をじーっと見てる。何か意味があるのだ。

開けないとダメかと思い、慎重に開けてみる。


「開けるなら、俺が開けるよ」


罠とかあると怖いので、死ににくい俺が開けた方が良いと思ったのだ。

一応確認するが、わかる範囲では、特に罠とかは無さそうだ。

まあ、罠の有無なんて、俺にはわからないので、仕掛けがありそうには見えなかったという、ただそれだけの確認結果だった。


少し開けてみる。粉がボロボロ落ちてくる。かなり長い間、開けられたことの無い扉だと思う。


中には、かなり広い空間がある。いかにもゲームでよく見るボス部屋だった。

迷宮地図に載って無い部屋。

ここから先は、自分で探れってことかと思い、一応覗いてみるが、暗くてよくわからない。

「何か居るんじゃない?」

「あれが1つの生き物なのか?」


俺以外のメンバーで気配察知や夜目、遠目等、皆で技を駆使していろいろ調べまくると、やはり奥にボス的な何か凶悪な物が居そうなことがわかった。


「この扉はまずいと思う。引き返そう」

「あ、あれ、あそこ」


危険なので入るのはやめようと思ったのだが、テーラがそんなに離れてないところに凄い装備の遺体を見つけたようだ。


「大きな盾、凄く大きなやつ」と言った。


俺が今使っている盾はさっき死体から回収したやつで、小さすぎて使いにくい。

巨大な盾があるというので興味あったのだが、遺体から鎧や兜を回収するのは少し時間がかかる。

でも、手持ちの装備だけなら、盾と剣だけならすぐに取ってこれるか?とも思った。

でも、そこに遺体があるなら、ボス的な何かはそこまで来るか、遠距離攻撃ができるわけで。

なんとも悩ましい。


入るのは危険だと思いつつも、俺の楯は買ってもすぐ壊れるので、良い楯が欲しかったのだ。

俺が使っても壊れないような盾は、アホみたいに重いし目玉が飛び出るほど高価だ(しかも小さい)。


俺も、暗視と遠目で見てみることにした。

俺の暗視と遠目は、けっこうレベルが高いようで、ほかの子が見えないレベルまでよく見える。

魔法全般男の方が優れている傾向が強いので、普通と言えば普通なのかもしれない。


なぜさっさと暗視と遠目を使わないかと言うと、暗視も遠目もお決まりで、水浴びとか着替えとかそんなのばっかり見えるのだ。

念のため再度確認する。

今なら周りに全員揃ってるので、着替えたり水浴びしてるやつはいない。

この作業が終わるまでトイレ禁止。

ハダカダメ、ゼッタイ。念を押す。

こんなところに偶然別パーティーが居て、しかも何故か着替え中だったりする可能性も低いだろう。

ここはそんなに広くないし、そもそも、ついさっきまで危険生物が大量にいたのだ。

誰もいないだろう。


裸が見えて何が困るかと言うと、俺が倒れたり、弱体化するから危険なのだ。


気合いを入れて、暗視する、光源が無いので真っ暗だ、さらに集中して暗視を上げる。

遠目も加えると遠くに巨大な生き物らしきものが居た。

ボスは竜か何かだ。あの大きさのものと戦って勝てる見込みはまずない。大きさ=体重だ。

基本的には、体重の大きなものほど強い。


RPGで自分たちの100倍くらいありそうな竜と戦ったりするが、あんなの有り得ないわけで、走ってるダンプカーに金づちで挑んで走れないほど壊せるかっていうと無理だ。

だいたいそのくらいの無理さ加減だ。


だからあいつとは絶対に戦わない。

「いや、あの盾は諦めよう」と言ったのに、テーラが飛び出る。

確かにあの盾は魅力的だが、危ないのでやめとこうと言ったのに、テーラが取りに行ってしまった。

すぐに盾を掴んで戻ってくるのがわかった。


ボスが動き出すか確認した。


すると、暗視と遠目で白い人影が見えた。

まずいか、……と思ったときには遅く、美しい全裸の女体が見えた。

回りに誰も居ないからだろうが、まったく隠すことも無く歩いている。


いつものように鼓動が激しくなり胸が痛くなる。

遠目を解除したいが、こうなると解除も難しく、遠目の効果がさらに増し、さらにアップで見える……凄くきれいだ……


俺はその場にうずくまる。


なんとか遠目と暗視を解除する。暗く、遠かったためか、運良く倒れずに済んだ。


その姿を見て、誰かが慌てて扉を閉めた。

「大丈夫?」 俺の体を心配してくれるのはありがたいが、今はそれより緊急の問題がある!


まずい、凄くまずい、このタイミングで戦いたくない。良い匂いのうんこになってしまう!


急いで撤退の体制に移る。


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