3-7.暗視と遠目とうなじとはだか
リナの悪戯癖とエスティアの嫉妬癖とアイスのおバカのせいで、トルテラが酷い目に遭う話です。びっくりするほどバカバカしいお話です。
俺には、まだ伸びしろがあるようで、魔法がだいぶうまく使えるようになってきた。
点火は相変わらず駄目だが。
気配察知は、熊だけ特別よくわかるが、熊以外は、並み以上くらい。
暗視と遠目はかなりのレベルになった。
治療は元の効果が微妙なのでどれだけ上がってるのかはよくわからない。
基本この世界では魔法は女より男の方がだいぶ強力なのだ。
ただ、俺の暗視と遠目には凄い欠点がある。見えると困るものばかり優先して見えるのだ。
特に水場の近くは要注意だ。
夜なんか、普通に暗視使って歩いてるわけで、使ってる状態が普通になっている。
昼間とは全く違う見え方なのだが、障害物避ける程度には十分で、けっこう良く見える。
遠目と言うのは見たい場所だけ切り出して大きく見える……と言っても、気配が良くわかると言うか、細かく見えるわけでは無いけど遠くで何か動いてるのが良くわかるとかそんな感じに見える……というか感じる。
暗視は日頃からよく使ってるので使うのが普通になってるし、遠目も、気になるものがあると無意識に使ってしまうのだ。
暗いところで白い肌と言うのは、凄く目立つ。
しかも動くので、遠目で見てしまうことが多い。
先に声をかけてからにしてくれと言ってあるのに、リナが水浴び……というか、裸で体拭いてたりするのだ。
そういうときは、髪を上げてるので、いつもは見えない首筋……うなじから肩のラインが見えて、妙に色っぽかったりするのだ。
そうすると、俺は動悸と眩暈がするので、魔法を解除したいのに、ますます目が離せなくなって、どんどんズームアップ、ズームアップみたいになって、うなじを拭く仕草がアップで見えて、もう駄目だと思って倒れてしまう。
倒れるところまで来て、やっと魔法が解除できる。
ちょっと刺激が強すぎて、動けずに膝付いて回復を待ってると、傍から見ると俺がリナの裸をずっと覗いてるように見えると思う。
動けずにいるとリナが来て、リナは状況を察してくれて、一緒にテントまで戻るのだが、俺が覗いたのがバレてて、エスティアにお説教されて、俺はとっても悲しくなってしまうのだ。
リナが声かけてくれれば済む話なのに、なんで俺が怒られるんだと思っていたたまれなくなってしまうのだ。
だから俺はもう暗視も、遠目も使いたくなくなってしまった。
それからしばらく暗視も遠目も使わないようにした。夜は真っ暗なのでトイレにも困るのだが仕方が無い。
実際は気配察知で周りに人が居ないのを確認してから、ちょっとだけ暗視使ってるのだが、そのくらいにして覗き事故が起きないように気を付けていたのだ。
すると、何日かして、問題が起きた。
エスティアが、だんだん元気なくなってきてしまったのだ。
俺は慰めたかったのだが、どうすれば良いのかよくわからず、ウロウロしてたらテントを追い出された。
しばらくどこか行ってろというので、暗い中一人で過ごして凄く寂しさを感じた。
よくよく考えてみれば、性別も違えば世代もまるで違うので、俺が居ても役に立たないどころか、話をするのに邪魔なこともあるのだろうと思った。
これからは少し、なるべく彼女たちから離れる時間を作ろうと思った。
しばらくするとテーラが呼びに来たので、テントに戻る途中で、「これからは少し皆と離れる時間を作るようにする」と言ったのだが、「それは違う」と言われた。
テーラは口数が少なくて、言ってることの意味が良くわからないことも多いのだ。
結局俺はどうするべきなのだろうか?
俺は心配事が増えて、ますます白髪が増えて老人扱いが加速してしまう……と思った。
この世界に白髪染めがあるかは知らないが、有っても俺が買えるような値段じゃないと思うのだ。
それに、何より先にパンツを買わなければならないのだ。
俺はどうすれば良いんだ!
……だが、あっさり解決した。
どういうわけか、今度は、エスティアの水浴びを覗かなくてはならなくなった。
水浴びしてるの分かってるんだから、暗視使わなければ済むのだが、エスティアが元気ないのは俺が倒れないからだと言うのだ。
俺は心の中で全力で”知るかボケーーーー!”と叫んだ。
倒れるのは義務みたいで、倒れるまでリナに見張られてるので仕方が無いのだ。
だから、仕方なく暗視使うのだが、見えてしまうと遠目が起動されてしまう。
すると俺は動悸と眩暈がするので、魔法を解除したいのに、ますます目が離せなくなって、どんどんズームアップ、ズームアップみたいになって、もう駄目だと思って倒れてしまう。
俺は、こないだのリナのうなじでも、回復するまでけっこう時間がかかったのだが、うなじでそんなレベルなので、それより下は駄目で気絶してしまうのだ。
しかも、わざわざ見えやすいところで水浴びしてるので、見ちゃダメだと思うところがズームされてしまって、俺は壊滅的な打撃を受けてしまう。
俺はこのとき、この世界の女性は脇の処理するのかが気になって、ズームアップされてしまったのだ。
処理されてるっぽくて安心したのだが、脇と言うのは胸に近い所にあってちらっと見えてしまったのだ。
するとスイッチが入って即遮断みたいに気絶してしまったのだ。
俺は倦怠感いっぱいで朝を迎えなきゃならなくて、本当に何もやる気が出ないのだ。
そうするとエスティアが元気いっぱいで”出発しよう”と言うので、俺は本当に辛くて辛くて、愛情一本みたいなやつがたくさん欲しいと思うのだ。
ゲームの世界の回復薬みたいな感じ、そう、PC98版のペルシャの王子様風に、ゴクッゴクッ、シャキーーーーンみたいに回復するやつが欲しいのだ。
それと、俺はとても心配なのだ。
俺が倒れると、ちゃんと回収されてテントに居るのだ。
俺がどこに居るのかは皆把握していて、俺が倒れるのを待ち構えているのだ。
しかも、見張り付きで無理やり倒れさせられたのに、エスティアが、「しょうがないわね、もう」とか言いながら俺を回収してることにちょっとだけ気付いてるのだけど、知らないことにしてるのだ。
俺が興奮しすぎて倒れた時は、テントは雨漏りしないし、晴れてる日もなんか快適らしくて、皆機嫌が良い。
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実は、リナの体拭きを見てトルテラが倒れてから、度々エスティアが水浴びする機会があったのに、トルテラが覗くそぶりを見せなかったのでエスティアはトルテラが自分に興味が無いのではないかと心配になってしまったのだ。
もちろんエスティアが怒ったから覗かないのは知ってるのだが、それでも心配になってしまったのだ。
リナは真面目に、そんなことないと言って慰めてたのだが、テーラは何も言わず、アイスは、トルテラはエスティアの体より”俺のパンツの方が好きなんだ”と思っていた。
そこで「せっかくだから、とにかく倒れるか試してみようぜ!」とアイスが言い出し、ああなってしまったのだった。
どのへんが、”せっかくだから”なのかはよくわからないが、何故か”とにかく倒れるか試してみる”ことになってしまったのだ。
皆の機嫌が良く見えたのは、テント内が良い匂いで満たされたから心配していたのに、トルテラがいつも通り起きてきたからだった。安心した顔が機嫌よく見えただけだった。
トルテラとアイスを除く3人は、診断結果でトルテラが恋する可能性を知っていたので、少し心配したのだ。
ところが、トルテラがいつも通り疲れ切った顔で起きたので安心したのだった。
その顔をトルテラが見たので皆機嫌が良かったように見えたのだ。
ちなみにアイスは、良い匂いがしたので喜んでただけだった。
いつも通り、「すげー、男スゲー」みたいなことを言っていた。
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今まで練習してきたが、ぜんぜんダメだった点火魔法がついに封印された。
せっかく集めた薪が一瞬にして白い灰になったから。
燃やせそうな木が少ないところだったので拾いながら歩いて、やっと集めた薪だったので、大変困る羽目になった。
キャンプなんかで売ってる薪を燃やすのにも少しコツが要るが、旅しながら手に入れた木を燃やすのと比べたら売ってる薪を燃やすなんて超入門レベルだった。
日頃家で使ってる薪は、時間をかけて乾燥させた燃料だ。
旅の途中で薪を集めるとなると、雨が降った後にはそういうレベルのものはまったく望めない。
枯れた枝ならいくらでも落ちているが、湿ってて燃えないか、細くてすぐ燃え尽きるかどっちかが多い。
乾きやすい細い木だと、大きく火が出てすぐ燃え尽きてしまう。太いのは湿ってることが多い。
※燃やすのに都合が良いものは、既に誰かが使ってしまっているので、残っているのはあまり良くない状態のものが多くなります。
晴れが続けば簡単に乾いた木が手に入るところでも、雨が降るとぜんぜん手に入らない。
結局旅は、食料、薪を拾いながら進み、水のある場所で無理せず野営。
普通に街道を歩き所々村に寄り補給しながら進む。
ゲームみたいに無人の地を延々冒険とか無理だった。
小さな村でも、旅人の拠点としての最低限の機能はあり、保存食と塩と、多少の雑貨が手に入ることが多い。この世界では塩は非常に高額で重要なものだ。
点火魔法だが、点火はできるのだ。点火したい物に点火できないだけで。
俺のは普通の点火じゃなくてレーザー砲になってしまうのだ。
でも使い道が無い。使うと火事になってしまうから。
火の魔法って、実在しても使えないと思うのだ。
俺の点火と同じで、火事になる。




