3-5.お布施と山賊と飛び道具
前回はとびきりでっかいフラグが立ちましたが、今回もフラグ立ちまくりです。もはや何をやってもフラグが立ちます。ミカンとか食ってる場合じゃないのです。
今日も、町まで仕事探しに来ている。
どうせ俺の意見なんか聞かないんだし、仕事探すだけなら、毎回俺が同伴する必要無いと思うのだが、エスティアはどうも、俺を自分の所有物だと思ってるようなのだ。
今日はお布施で、”でかいみかんみたいなやつ”を貰った。
これはけっこう美味いのだが、皮が厚くて剥くとびっくりするほど中身が小さいのだ。
種が邪魔なのだが、俺は結構好きだ。
すぐ腐るようなものでもないので、あとで食べようと思って大事にとっておくと、だいたいアイスに食われてしまうのだ。
アイスにはミカンセンサーが付いていて、俺がミカンを持ち帰ると気付くのだ。
しかも俺に黙って食うのだ。だから、帰る途中で俺が食う。
すると、アイスは俺がミカン食ったことにも気付くのだ!!
いや、これは単に匂いで気付くだけだと思うが。
皮が厚いので頑張って皮むく。
皮むく時力入れるので、かなり汁が飛んで、俺の服が柑橘類の香りでいっぱいになってしまうのだ。
凄いことに、柑橘類だ!!と思うような凄い匂いで、見た目も夏ミカンの出来損ないみたいで、これが日本に有っても驚かないくらい日本の柑橘類と似ている。
ただし、味は当たり外れが凄い。
3個貰ったので、帰りに俺が1個食って、家でアイスと1個ずつ食べようと思ったのに、持って帰ったやつ、2個とも食われた。
今度からは3個貰ったら帰りに俺が2個食って1個だけ持ち帰ることにする。
この”でかいみかんみたいなやつ”は、俺とアイスは好物で取り合いになるのに、エスティアもリナもテーラもシートもあまり好きではないと言う。
嫌がらせのように甘いイチジクみたいなやつを貰うこともあるのだが、これは反対に、俺とアイスはあまり好きではなく、残り4人の好物なのだ。
元は、ちょっと苦い果実なのだが加工して干すと、嫌がらせのように甘くなる。
渋柿から干し柿作るのと似たようなものなのだと思う。
渋柿は、本当は甘いのだけれど、甘さより先に渋味を感じてしまう。
干し柿にすると渋みがガードされて、渋味を舌で感じなくなるらしい。
そして、干すので水分が飛んで嫌がらせのような甘さになる。
たぶん、だいたい同じ仕組みなのだと思う。
色は黄土色って感じで、干し柿同様おいしそうな見た目ではない。
贈答品っぽくて、よくお布施で貰うのだ。
お布施くれる人はだいたい決まっていて、家に招かれるのだが、さすがにそれはと言うことでお断りしている。
招かれるのが、俺一人だけなのでそれは無理だ。
俺は保護者が居ないと、よその家にお呼ばれすることもできないのだ。
お招きをお断りすると、それなら家の周りを1周回ってほしいと頼まれるようになった。
まあ、そのくらいならと思い、家の周りを1周する。
魔除けだか縁起が良いだかわからないが、そういう風習みたいだ。
入口を起点に1周回って入口まで戻るだけで大喜びされる。
熊殺しは単なる俺の趣味でやってることなのに、守り神とか言ってこんなに喜ばれると、ちょっと後ろめたい気持ちになるのだ。
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冒険者組合でも、だいぶ有名になったので、適度な仕事を紹介してもらえることが多くなっていた。
冒険者と言いつつ雑用なので、どのあたりが冒険者なのかわからなかったが、俺が横浜に居た頃の、悪い意味での冒険そのものって感じだ。”そこは冒険するところじゃないだろ”……とか言うときの冒険だ。
選択肢が他にあるなら、わざわざそんな仕事選ぶなよという感じの仕事だが、
それしか選べずにやってる人たち、不利な選択肢しかないって感じの意味での冒険だ。
ボトムズ。底辺野郎みたいな意味合いだ。
冒険者が特別低い最底辺と言うわけではなく、定職を持たない人全般貧乏人扱いだ。
翻訳がバグってるのかもしれない。
俺は冒険者と言うのは、危ないのはともかくとして、もうちょっと、戦ったりとかするものかと思ったのだ。
ところが、有ったのだ。俺の思う冒険っぽい仕事が!
いくつか出された中に、違和感のあるものがあった。
エスティアが受付の人に聞く。
「荷物配達なのに3人以上って、どういうこと?」
「そこは、村人が通ると、山賊に襲われることがあるんだよ」と受付の人が答えた。
つまり、山賊が出て危ないルートを通らないといけないところに、届け物をする仕事だ。
「山賊が出るかも。その割には安いよね」とエスティアがリナに言ったのだが、
受付の人は「山賊は冒険者なんか襲わないよ」と言った。
武装した貧乏人なんか襲っても、デメリットばかりでメリットが少ないという意味だ。
もうちょっと言葉を濁して、説明したりとか、できないものなのだろうか……と思ったが、アイスのように人の話を曲解しまくる人も居るから、この方がトラブル少ないのか……とも思った。
襲われないのであれば、荷物届ける簡単なお仕事の割には報酬も良く、他に良いのも無いのでこれを受けた。
簡単なお仕事のつもりで、ついでに薬草でも取って来ようとお出かけしたのだが、そういうのはフラグ立てになってしまうのだ。
薬草も、例年と時期がずれてるのか、他の人が採った後なのか、あまり見つからず、そのかわり、なんか、変な女が出た。
「持ち物全部置いて行け」
見ると、山賊らしい。
俺は、賊というと、モヒカン頭で、トゲトゲ付きの革ジャンに、チェーンをジャラジャラしているようなのを思い浮かべてしまうので、インパクトの薄さに、ちょっと違和感を持つ。
余計な持ち物は持ってこなかったから、取られても無一文にはならないが、
今持ってる物を盗られたら、仕事が続けられないし、お届け物もあるから、全部は無理だ。
渋っていると、何かが飛んできて、地面に刺さった。
「うわっ」
それは脅しの矢で、撃った方も当てる気は無かったのだが、矢が飛んできたので驚いたのだ。
動物相手だと、飛び道具は無いので、矢を打たれたのは、はじめてだったのだ。
「冒険者は襲わないんじゃないのかよ」とアイスが言うと、
山賊の一人が「うるさい」と答えた。
アイスは、なんで意味のない会話するかなと思った。
それは受付の人が言ったことで、山賊の人が言ったことではない。
山賊は8人くらいだった。
目の前に5人だが3人くらい、隠れて狙ってそうなのが分かった。
目の前の5人のうちの2人と、隠れてる3人は弓だと思うので、同時に5本飛んでくる可能性がある。
俺は、矢が何本か刺さった程度で、死にはしないと思うが、エスティア達はそうは行かない。
「矢に気を付けて、とにかく当たるな」と言うと、
「隠れてるのも居るぞ」とリナが言った。
隠れている方にも、ちゃんと気付いていてくれていることがわかったので安心した。
俺達が、おとなしく従う気が無いとわかると、今度は避けなきゃ当たる矢が飛んできた。
”カン”
矢が飛んでくるとき、反射的に剣で払うと、剣に当たった。
”カキッ”
偶然にしちゃおかしい。
この世界では、矢は剣で落とせるものなのだろうか?
俺が的になろうと思ったのだが、当たらなかった。
そんな馬鹿なと思うのだが、どういうわけか飛んでくる矢を剣で払ったり、狙って盾で受けたりできるのだ。
近距離から矢が飛んでくるので、直線で来る。だから盾ならできそうな気もする。
だが、剣で払うのは無理があると思うのだが、目で見て落としてるのではなく、何故か剣でも払える。
「すげー!かっけぇ!」
アイスの声がする。真面目に戦えよ!!と思う。
山賊も命を奪う気は無かったらしく、はじめの3本くらいは急所は狙ってこなかったが、それ以降は真面目に狙ってきた。
「なんだ、このじじい!」 山賊の一人が、俺を”じじい”言いやがった。
矢は連射できない。装填時間がある。
……と思ったが、俺が想像してたのと、時間の単位が違った。
1発目を撃ち切れば、前の2人は剣に持ち替えるかと思ったが、散開しながら2発目を用意し、思ったよりも2発目が早く、俺の攻撃が届く位置まで寄り切れなかった。
こういう速さで2発目が装填されるとは思わなかった。
2発目の準備ができたタイミングで、弓持ちに囲まれてしまった。
山賊はたぶん、この時点で勝ったと思ったのではないかと思う。
同時に別の方向から撃たれると、全部は避けきれないと思うが、俺は少々の怪我で死にはしない。
治るのが早いので、少々の矢は気にする必要がない。当たっても構わないのだ。
そのまま剣持ちの3人に近寄ると、矢が飛んできたが、横から2本飛んできただけだった。
仲間が射線に入って撃てなかったのだと思う。
残りの矢はリナたちに放たれたようだ。
手前の2人を、盾ですくって放り投げて立ち止まると、去れば命を奪う気は無いというのが伝わったようで、山賊はすぐ逃げて行った。
「うわあ! こんなの割に合わねぇ」
そりゃそうだ。俺が山賊だったとしたら、矢を薙ぎ払う巨人と戦いたくない。
冒険者なので、そんなに大したもの持って無いはずで、まるで割に合わない。
「だいじょうぶか?」
そう言って振り返るが、見てすぐわかる。皆無事だった。
山賊の1人はエスティアの矢が当たって負傷したようだが、死にはしないだろう。
リナとテーラは、体の割に大きな盾を持ってるので前面からの矢に当たることはまずない。
一応矢を打たれても怪我しないように練習はしてたのだ。
でも、エスティアの撃った矢はあっさり敵に当たるのだ。
どういう仕組みなのだろう?
俺がこの世界に来たばかりの頃、エスティアとリナが”特に強い冒険者”という話は聞いたことが無かった。
体感する方法が無いだけで、熊殺すと凄い勢いで経験値が入ってパーティーメンバー全員レベルが上がる仕組みとか実装されてるのではないかと思った。
それはそうと、今回驚いたのは、矢は剣で防げるところだ。
俺の感覚では、そういうのは無理だと思っていた。
この世界では、矢は剣ではらえるのだ。
「矢って、剣で弾けるのか。知らなかったよ」そう言うと、
「そんなの、できるわけないでしょ!!」 とエスティアが言う。
「トルテラ、スゲーな!」 アイスは大喜びだ。
山賊を追い払った後に話を聞いたら、剣で矢を払えるのは俺だけで、エスティア達は避けるならともかく、剣で払ったりはできないようだ。
エスティアとアイスは盾無しなので、今後は相手が飛び道具持ってるときは、リナとテーラに守ってもらって俺が出ることにした。
山賊と戦ってる最中、アイスが「スゲーな、男スゲー、俺も矢払いてぇ」とか言ってたのだが、意外にも帰ってから真面目に剣で矢を払う技を練習してた。
しかも、飛んでくるのがわかっていれば、半分くらい払うのだ。
アイスは実はけっこう強い子なのだ。
でも、アイスでこれだと、普通の人は実戦で払うのはまず無理だと思った。
あと、アイスはすぐ男スゲーと言うが、男だから矢を払えるわけでも無いと思うのだ。たぶん。
「もう指に力が入らない。終わりにしましょ。それだけ払えれば立派なものじゃない」
「えー。もうちょっとで、行けそうなんだけどな。じゃあ、明日」
「ええ?明日?」
アイスはもっと練習したがってたのだが、エスティアが矢を打つのに疲れて、練習はそこで終わりになった。
それはそうと、トート森一帯から山賊が消えてしまった。
俺の噂は広まるのが早いので、他の山賊の耳にも入ったのだろう……が、1つ大きな間違いがある。
こないだのは、俺達が直接襲われたから追い払っただけで、襲ってこなければ、特に何もする気は無かったのだ。
俺は趣味で熊を殺すだけで、森を守ってるわけでは無いのだ。
そのあたりが、どうも正しく伝わっていないと思うのだ。




