1-13.テント密着地獄の巻
エスティアさんとリナさんの仕事に付いていくと、泊りでテントで寝ることがあります。
今回はテントで寝る話になります。
今回は密着したり屁が漏れたりしますが、今までが固すぎただけで、本作はむしろそんな感じの話なのです。
エスティア達に付いていくと、日帰りで終わらない仕事もある。
宿代なんて無いので、そんなときはテントで寝る。
テントと呼んでいるが、日本だとこれをテントと呼ぶかはわからない。
このテントは、俺から見ると子供2~3人用という感じで、凄く小さい。
日本でも登山用テントには、けっこう無茶な人数が書いてあったが、あれは一応その人数で使うことも可能な数字だった。
コイツは、どう見ても無理だ。
「俺は入れそうもない。外で寝るよ」
俺はそう言うが、2人の返事は少々無茶なものだった。
「見張りが居るから、寝るのは2人でしょ」
「2人なら入れる」
エスティアとリナだったら2人で寝られると思うが、俺は無理だ。
仮に入れたとしても、さすがに俺が一緒に寝るのは、まずいだろうと思い外で寝ようとしたが、見張りに1人出るから2人なら寝れると、中で寝るように言われる。
仕方なく入る。凄く緊張した。
テントは独特の臭いがあった。防水材か何かの臭いだろうか?
シンナー的な、俺的には石油化学製品的な臭いに感じる。
でも、たぶん、ここには石油化学製品は無いと思う。
テントは凄く狭い。
こんな狭い空間に若い女の子と2人きりというのは、かなり気まずい感じだ。
俺は座ると頭が天井に当たって、視界が狭くて仕方ないので、ほとんど寝転がることしかできない。
すぐ横に女の子が寝転がってるので凄く緊張する。
「足、外出ちゃうな」とリナが言った。
「俺、でかすぎだな。窮屈で悪い」と返した。
「そんなことないよ。十分寝られる」とリナは言う。
リナには、俺が居候していることをあまり良く思われてないと思っていたので意外に感じた。
俺は、見張りやらなくて良いのだろうか? と思っていると、見張りのエスティアが10分毎くらいにテントを見に来る。
見張る対象がテントなのではないかと思うくらいだ。
そして、しばらくするとエスティアが戻ってきて3人で寝ることになる。
2人でも接触しそうで困ってるのに、このテントに3人は無理だ。
たまらず出ようとする。
「今度は、俺が見張りに」と言いかけるが止められる。
「トルテラ見張りできないだろ」
俺が見張りに出ようとするが、俺は見張りにならんとか、そんな感じのことを言われて、なんだかんだで3人で寝ることになる。
ものすごい密着状態だ。
何泊かこんなことを繰り返していると、いつの間にかにはじめから3人で寝るようになった。
確かに、見張りは寒くて辛くなってきた。
俺が来たときは、初秋だったみたいで、寒くも暑くも無かったのだが、あれからだいぶ経って、結構寒くなってきた。
見えてなくても、周囲に何かがいるかどうかは、気配でわかるらしい。
元々、見張なんて必要なかったのではないだろうか?
俺は気配の存在がわかるようになったレベルで、どこにだれが居るかはわからない。
そのうちわかるようになるのだろうか?
テントは三角柱を横に倒したような形で、横から見ると真ん中だけが高くなっていて、その一番高い真ん中でも俺が起き上がるだけで頭が付く高さしかない。
俺は”でかくて温かいから”という理由で真ん中になった。
”こんなおっさんと一緒に寝てくれるなんて、なんていい子達なんだ”と思ったが、かなり密着状態で、寝返りうつと腹ドンみたいなのされて動けない。
横を見ると、2人ともこっち向いてて、なんでこっち向いて寝るんだよ!と思った。
ところが、背中合わせだと尻が当たることに気付いた。
こっち向きなのは、尻が当たるからだ。
そして、向かい合わせだと、胸は当たらないことに気付いた。
背中合わせで尻が当たるなら、向かい合わせなら胸が当たるかと思ったのだ。
出っ張ってるから。
ところが、当たるのは膝とか頭だった。
そりゃそうか。背筋を伸ばして寝るわけでは無いから。
ちょっと安心した。
でも、緊張して寝られない。
反対側が寝返り打った。
背中は弱点だった。
背中にくっつかれると当たるのだ。
背中に柔らかいものがちょっと当たる感触で、ドキドキを通り超えて、俺は気が遠くなって、そうなると、だいたい余計に密着してきて、俺はもう頭がクラクラしてきて気付くと朝なのだ。
寝たのではなく、気を失ったのだと思う。
女に慣れてないおっさんには刺激が強すぎるのだ。
朝、消耗して動けなかった。
緊張しすぎると翌朝疲労が激しく身動きできないのだ。
意味が分からないが、実際そうなので仕方がない。
テント撤収の手伝いもできず、俺は自分の役立たずっぷりに悲しくなった。
でも、そんな俺でも優しく許してくれるので、エスティアもリナも俺は天使かと思った。
----
エスティアとリナは、トルテラにくっつくと何か良い匂いがするな……と感じていた。
その匂いがすると、もっとその匂いを嗅ぎたくなって、少し強くくっついたりしていた。
========
そんなある日、エスティアが唐突に
「トルテラだけど……なんかいい匂いするのよね」と言った。
「え? エスティアもか、私もそう思ってたんだ。
匂い嗅ごうとすると、においがどんどん強くなるよな」とリナが返す。
エスティアは、思いがけず同意が得られたので嬉しくなった。
「やっぱり? 良かった。私だけじゃないんだ。
毎日洗ってるから、洗うとき何かしてるのかな?」とエスティアが言う。
「水浴びには特に何も持って無いみたいだけど」
「……そうだよね……」
やっぱり、たまにこっそり見てるんだ……と二人は思った。
自分だけだったら嫌だなと思っていたのだ。
二人の友情が深まった。
========
この世界では、冒険者は女なので、人が背負って運ぶようなテントは皆女用だ。
内装が可愛いとかではなく、ターゲットが身長140cm位なのだ。
俺には長さが足りないので、足袋と呼んでる延長部分が作ってある。
人間は寝たとき一番幅広いのは肩の部分になるのだが、はみ出るのが足だと、同じ方向に頭を向けると結局肩が当たる。
手を横に自然に下ろすと尻か太もものあたりにくる。
なので、”触ってません俺は無実!”みたいな感じで、自分の体の上に腕を置く。
そんなポーズで寝てると、なんか死人かミイラみたいな感じで固定されて苦しいのだ。
テントは、俺が背負うという条件なら、大きいのに買い替えても良い、というので楽しみにしていたのに、その話は無くなってしまった。
そのかわり三角テントを足袋ぶん延長してくれたので、長さは足りるようになったが、足りなくて困っていたのは横幅の方なのだ。横幅は簡単には広げられない。
いっぱい獲物を獲って、寝返り打っても腹ドンされないくらいの、少し大きなテントが欲しい。
そう思った。
……………………
あるとき、エスティアとリナから、離れて作業しているときに、夜寝てると、俺から何か臭いがするときがあるという話をしているのが聞こえた。
”汚い感じの臭いではないけど、男の人の臭いなのかな?”的なことを言っていたのでピンときた。
それは”加齢臭です!”
そうか、この世界では冒険者は大人の男と縁が無いし、父親は子持ちだから早死にしてる。
”加齢臭”を知らないのだ。
”加齢臭”を知らずに済むならそれで良いが、お父さんを早くに亡くしてしまうことは不憫に思った。
なんだか、エスティアとリナが、自分の娘のように思えてきた。
日本に居た時の、俺の同級生たちに多くは、このくらいの年の子供を持つ親になっているだろう。
そんな同級生たちのうち、娘を持ってる父親の多くは”お父さん、臭い”とか言われちゃって凹みまくってるに違いない。
年齢的に言って、エスティア達と俺は、だいたい同級生とその娘と同じくらいで、臭いが気になるお年頃。
つまり、”お父さん、臭い”こう言われてるのだ。
これは、お年頃の娘を持つ父親が受ける共通の大きな試練の1つ。乗り越えなければ!
でも、石鹸高くて俺には買えないんだよ----!!と心の中で叫んだ。
いや、石鹸がいくらで売られてるか、俺は、知らないのだが。
石鹸は無いけど、遠征中でも水場があるたび気合い入れて洗いまくってたら、俺は水浴び好きの奇麗好きということになっていた。
そうじゃない! 俺は、娘たちに”お父さん、臭い”って言われたくないからなんだが。




